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勉強の発想方法の話。

以前、Twitterでこんなご質問を頂きました。

発想と学習意欲の方法。とてもいい質問だと思いました。

僕は直接メールアドレスを見つけて実名でコンタクトしてくれる人か、オープンな場で議論してくださる人とコミュニケーションを取るのがストレスが無いので、DMは開放していません。勿論、アカウント名すら匿名の質問箱もやりません。

そんな中、かぶさんをはじめ、リプライ欄で正面から対峙してくださる方には、尊敬の念を抱きます。しかも固定ツイートなので多くの人に見られるため、変なことは聞けないなと、僕なら尻込みしてしまいます。ですから、こういう投稿はとても嬉しいですので、しっかり考えて僕も返信しようと心がけています。

そんな僕の返信はこちら

月並みな返信ですが、今でも答えは変わりません。やはり、誰かとの会話の中で糸口を見つけることが多いように感じます。

例えば、先のLOCアンテナの件も、訓練生時代から仲良い先輩が「4000m RWYのLOCって幅シャープやね」とか言ってたんです。
丁度その頃、FD通りではない効率的なLOCのインターセプト方法考えろと教官に言われていたので、脳のシナプスに火花が散るという感覚で、思いつきました。

このリプライを考えた時と前提条件が変わっているのは、コロナ禍で飲み会に行くのが最高の発想方法ではなくなっていることです。

そこで、一人で出来る発想力について考察してみたいと思います。

フライトの勉強の発想力

発想術の本は世の中に溢れているので具体的な方法はそれらに譲りますが、そういう本には、当たり前ですが、具体的なパイロットの勉強方法までは書いてありません。

せっかくなので僕の発想術、というか、よくやっている方法を書きたいと思います。
かぶさんはじめ、訓練生の方々や現役の方々の参考になれば幸いです。

キーワードは「その日あった事の深掘りをする」です。

ざっくりすぎるので、具体的に書くと、先日の3月中旬です。
前線を伴った低気圧が、関東地方を通過していてダイバートも多数の日。
当日苦労したであろうパイロット達と同様、僕も新月の真っ暗な夜に、CB(積乱雲)に遭遇して苦労していました。
操縦を担当させて頂いてたので、100NMほど前にあるどデカい雷雲を見て、どうしようか考えていました。
正確には、パイロットはその場で選択肢を考えるのではなく、持ってきた選択肢の中から、対峙している状況に応じ、どれを採用するか、を判断する仕事です。

事前に持ってきた手札は具体的にはこんなところです。
・エリア的には土曜の夜で自衛隊もほぼほぼ演習していないので空域は空いているはず。帯状に高いCBが並んでいたら大きくHDGをもらうつもり。そのための燃料は予備で搭載していた。
・性能上の上限高度は予め調べ済み。
・どうしても雲の中を通過するならCBの下のエネルギーが少ない高度まで下げる。下げるならMEAは予め調べ済み。
・どうしても通過が無理ならダイバートもあり。行ける空港はどこか。(日本は沢山空港があるものの、夜だと24時間空港が少ないので判断が難しいです。)
簡単に書くとこんな手札を持っていました。
(実際にはどのポイントまでにダイバートを決断しないといけないとか、燃料の兼ね合いもあって細かくプランニングは必要です。「細かく計画、決断は大胆に、信念を持って。」って昔言われたな。。)

当日の僕の選択は、性能上も上に行った方が良かったので、風も考慮した最良効率の高度まで上がりました。
巡航行動に達しても、稲妻が走るたびに目を凝らして雲に引っかからないか、レーダーも参考に、慎重に外を見ていました。稲妻で一瞬明るくなった時に雲の隙間や高いところを見つけようとしていました。
新月の夜は目視が非常に重要です。積乱雲の上の方は、たとえ雲の中のエネルギーが比較的少ない夜でも、片翼にでも引っ掛けたら大きく揺れてお客様に不快な思いをさせてしまいます。
目視を重視しているのは、降水がなければ航空機のレーダーに映らないからで、積乱雲の頂上付近は降水現象が少ないです。

ところが、近づけど近づけど、全然雲が見えてきません。30000ft中盤だったのですが、FL400に上げなくても余裕そうです。稲妻はすごいのに。

無事到着してから、ステイ先についてこんなことを調べました。

「雷雲 雲頂高度」で調べると数秒でそれについて書かれた記事関係論文が出てきます。

<夏の雷と冬の雷の違いは?>
起こるメカニズムに違いはないが、冬に発生する雷は雲の高さ(雲頂高度)が低い。理由:雷が発生する際の雲頂高度は-20~-40℃くらい。夏は気温が高いので雲頂がこの気温に達するにはかなり上の方まで(上空約1万メートル)いかないとならないが、冬はもともと気温が低いので、それほど上に行かなくても(約5000メートルで)この気温に達してしまう。
<冬の雷で気をつけることは?>
夏の雷のように雲の中でピカピカ光らない。雲の中にエネルギーを溜め込んで、一気に「ド~ン!」と光りを放つため「一発雷」とも呼ばれている。急に光り、落雷するので注意が必要。
雷雲の雲頂高度は4-6kmと夏の1/2~1/3位

みたいな記事がステイ先でも見れる訳です。本来は自宅で書籍を漁りたいですが、ステイ先にはありません。

真贋の分からない記事だけでも
・6km=20000ft位。それで意外に低かったのか。TOD近いのに念の為とはいえ上げなくても良かったかな。燃料は節約になったけど。ピッチ変化はお客様にとっては不快。
・-40度の雲頂高度ってどれくらいだろう。当時の高度、FL330くらいでマイナス55度だったし、データ上-40度だったのはFL270位か。冬だから雲頂はまあ下かな。

という風に、冬の雷雲の傾向と、先程の自分の経験は概ね一致します。勿論、雲頂にかからずとも、空の上では落雷ではなく「被雷」というように、下から雷が上がってきますので雲の上を抜けれるからと言って、近付き過ぎには要注意です。仮に雲頂がFL270でもFL290位だとさぞかし居心地が悪いでしょう。

さらに深掘りするにはマインドマップが有効です。
「積乱雲」と真ん中に書いて

      ・距離
・高度    「積乱雲」 ・避雷後
      ・温度

という感じに書きます。
・距離→被雷する雲との距離は?
・高度→避雷しやすい高度は?雲底高度はどうやって決まる?
・温度もあったよな確か0度〜-10度とかじゃなかったっけ。見直そう。
・避雷後→避雷した時の報告書の内容に必要な事項は?時間、場所、高度以外には?避雷した後、整備士に報告事項とかあったっけ。会社無線には予め言っといた方がいいよな。
という風に、どんどん派生させていきます。

今はiPadの中を全検索もできるので「積乱雲」で調べれば、
・レーダーの使い方
・積乱雲時のアナウンスの仕方

といったように、いくらでも派生させることができます。「避雷」なんかも、いいキーワードかもしれません。結局、身につくのはこういった自発的に調べた事柄なので、この作業はめんどくさいですが重要です。

最後にコラム的な話です。

アイデアの思いつき方

以上が、パイロットの仕事における勉強方法の一つです。上に書いた派生方法は一般人でもできる「バカの壁」的な、しらみ潰し方法です。何となく振り返るより、効果は確実にあるので是非試してみて下さい。ミスをメモるだけの振り返りだと、あまり想像力が無く、成長が少ないです。

というか、ミスは標準からのマイナスの差分なのでイメージでいうと、マイナスがゼロになった位なのではないでしょうか。

成長するというからには、何か自分で負荷をかける必要があり、マインドマップのようなもので、深掘りしていくことがマストです。ミスしないように教示データを咀嚼していくのはロボットでもできますが、「創造」あるいは「発想」というのは人間の特権なので、ぜひ人としての付加価値を上げていけたらと思います。

一方、それを発信したら有益かな、とアイデアを思いつくのは僕独自なのではないかと自負しています。パイロットの世界には、多分僕よりももっと分析が上手く、思考が深い人はいくらでもいます。しかし、発信している人は、職人だからなのかは分かりませんが極めて少ないです。
勉強関連で言えば「翼の友」の著者である小嶋さんぐらいでしょうか。

僕は後輩にはより楽に、先輩を踏み台にして0ベースではなく、更に踏み台をより高く積み上げていってもらいたいので駄文ながらもこうして発信することに一定の公共の利はあるのではないかと信じて書いてます。

また、こうした話を発信したら役にたつかな?と思いつくのは、いつでもリラックス状態の時です。お風呂とか。

僕は、どうでもいい時に限って色々な記事のアイデアが出てきますから、メモとしての携帯は手放せません。
そしていくつもメモはあるんですが3日も経てば何のことか分からないものも多いのです。
しかし天才ではないので、取り敢えず数を出してみるというのは大切です。ボツ記事も多いので大体書き切るのは3個に1個くらいでしょうか。

また、アイデア出しにメモは重要で、ヴァージングループ会長のリチャード・ブランソンはその昔、咄嗟にメモ用紙がない時にはパスポートにメモを取ったことがあるという逸話がありますが、それくらいアイデアは一期一会で価値の高いものです。ヴァージングループの様に何兆円もの価値がそのメモにはあるかも知れません。

アイデアはお金では買えません。

ちなみに発想方法に関してリラックスはやはりキーワードです。

参考文献はDaigoさんの「超 発想力」です。

お酒=思考の拡散=リーキーアテンション=リラックスして発想力アップ。
40人の男性での実験では血中アルコール濃度0.07(結構多い)グループの方が16%ほど良いアイデアを思いついた。といった面白い具体例が色々載っています。

朝シャワーや、高い天井の方がいい、などエビデンスを添えてエッセンスが詰まっているので僕も実践できるところはしています。

最後に

では質問の後半、学習意欲はどこから来ているのか?
うっかり答えそびれていましたが、ズバリこれに関しては、一般論ですが、自己成長。そして僕に関してはアウトプットする時の反応が面白いからだと思います。

例えば先日の記事はTwitterだと35,000インプレッション、2000エンゲージメント、850人の記事訪問がありました。それだけの多くの方にリーチできるなら、業界の人だけでなく航空ファンの方にもマニアックながら逆にそれを楽しんでもらえてるかもな、と思うと、ワクワクします。

もちろん実際の運航で、その知識が上手く活かせた時の快感は最高なのは言うまでもありません。

人間の創造力とモチベーションは深く関わってると言いますが、まさにその通り。

昨日までの自分より、今日の自分が成長していることは、大きな喜びです。

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