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FOの仕事って結局何か?という話

職務について考えてみた

すっかり時間が出来てしまったおかげで、自分やキャリアと向き合う時間が出来、思考の整理をする時間が出来ました。

そろそろ中堅となってきたので、この数年で考えたFO(副操縦士)の仕事とはなんぞやというのを書きたいと思います。

FOの語源はFirst Officerなので船の世界では一等航海士を指す言葉です。

艦長が「主舵一杯」とか言ったらそれを操舵する。そんなイメージです。

一方、飛行機の世界はというと、基本の型があるとすれば

機長:操縦
副操縦士:無線通信とその他補佐

という業務です。究極的には補佐。そして機長に何かあった時のバックアップ。

補佐とは

現在の飛行機は、その業務範囲を完全に分担しているのですが、機長とFOできっぱり分かれている訳ではなく、そのフライト毎、あるいはフェーズ毎で

"You have control " "I have control "と言い合って操縦する人間がその都度変ります。テレビドラマなんかでも見たことありますよね、このセリフ。

恐らく船の世界では、今日は艦長が操舵、FOが指揮、ということは無いと思われます。

飛行機の世界ではFOも操縦します。
もちろん機長はそれを監視する義務があります。
そのSHIPの最終責任は機長にあり、FOが操縦していても決定権は機長にあります。

逆に、機長が操縦している時、機長の操作を監視するのは誰でしょう。
もちろんFOです。

監視することも補佐です。
となると、思考は常に飛行機が進むより先にある必要があります。
先読みしていないと、機長の操作を監視しつつ、「ちょっと高くなりそうですね」の様な助言は出来ません。

機長の責任とは言え、二人で安全を守るためにFOも監視義務があり、正直なところ、機長に任せとけば何とかなる、という考えは少し飛び始めれば自分を守れるのは自分だけだと訓練生でも気づく事でしょう。だから僕らは知識や技量を自ら磨くんです。

と、ここまでは大体FOに昇格するのに必要な事柄です。

「METAR取って」と言われた中堅FO

さて、中堅になってくると機長に「METAR(空港気象情報)取って」

と言われて、晴れてる日なら別に良いですが、天気が悪いのに、ACARS(無線)で最新の天気を取るだけでは無能扱いされることは間違いないでしょう。
天気の良い日はどうにでもなります。
別に上空でエンジン一個止まっても日本は空港が結構沢山あるのでなんとでも出来ます。しかし、悪天時は違います。

例えば
・雪で滑りやすく横風制限オーバーだなという日
・レインエコーが近づいていて、他機がダイバートしている空港に向かっている日
・windshearがあり、ウィンドシアー警報が鳴ればGo Aroundしそうな日

こういう日に、とりあえずMETARを取って
「風はリミットギリですね」ぐらいの感じだと機長は一緒に飛んでいる気がしないでしょう。

なぜなら、それでは機長の秘書としてACARSを操作するだけの手足になっているだけだからです。

大切なのは
METARひとつとっても、その事実を元に、補佐としてのFOの仮説を加えること。
そして。その仮説に基づき、想像力を持って自分の意図を加えて機長に伝える。

上の様な状態だと、国内線であれば、時間の余裕がある前提だと

カンパニー無線を使って「状況聞いときますね」と言って「よろしく」だけ言われたら 
・除雪の状態
(滑走路の路面状況で、横風制限値が変化するため)
・現在のタワーwind
(METARは空港の代表風でしかない)
・Rain Echoの動き
(TAFよりも現在のレーダーの方が正確に予想出来て、ピークと重なるなら、わざわざ突っ込む必要もなく20分くらいHOLDINGもあり)
・他社も含めたGo Aroundの有無
(同型式が降りれて無いなら降りれない可能性は高い)

くらいは聞いて、他社がダイバートしている日であれば

・近隣空港のダイバート先の到着ゲートの空き状況
(地方空港のキャパシティは少ない)
・ダイバート先の天気とアプローチ状況
(ダイバートが近隣だと似た様な天気になりやすい)
・ダイバートに加えてさらに代替飛行場の第2代替空港として可能な空港の天気も見る
・更に、上記を考慮した燃料計算で、最初の目的地で何分粘るれるかざっくり計算して機長に
「何ポンドくらい残して待ちますか?」

と、最終的にどこまで粘るかの判断を機長に仰ぎます。自分の中でも勿論、案は持った状態です。

「状況聞いときますね」と言って「◯◯をよろしく」
と言われたらやり過ぎることはありません。言われた事以上をしようとすると基本的に時間的制約がある国内線の中では無駄が発生する可能性があります。そのため、僕は国内線のマネージメントの方が難しいなと感じることが多いです。

国際線だと時間はまだありますが、法律や規定が厄介になってきて、
・着陸してから◯◯分以内にドアを開けて乗客の自由を確保しなくてはならない(国毎に法律で決まってる)、とか、
・地上ハンドリングの提携先の無い空港に行くと放置され、結果的に上の法律に引っかかる可能性があり、滑走路長的には降りられるんだけど、その後の再就航に大きく影響のあるダイバート先の空港がその時々の契約が変わっている。とか。(これは準備で調べとくしかないです)
・ダイバートしてから勤務時間が大幅にオーバーする場合の疲労と安全の兼ね合い

等、の調整を英語で行う必要があったりなど、様々なことを考慮しなくてはなりません。

そして代替飛行場に行く場合は、機長も海外だと初めての空港だったりするので「現在のアプローチの方式で代替飛行場のCDU準備しときましょうか」くらい言えると尚親切だと思います。日本だと行ったことがある空港が殆どですが、中国でダイバートとか想像しただけで大変そうです。

そして、マーフィーの法則よろしく、準備しておけば大体ダイバートすることはありません

補佐とは

ここまで偉そうに書いておきながら、自分でもこんな概要で必要十分かはまだ模索中です。大体3ヶ月に1回くらいは脳に汗をかく瞬間があって、補佐としてのFOの技量を試される場面があります。

METARひとつとっても、その事実を元に、補佐としてのFOの仮説を加えること。
そしてその仮説に基づき、想像力を持って自分の意図を加えて機長に伝える。

もっとこういう事を提案出来た方が良かったなとか、規程の理解が曖昧だったなぁとか、こういうメモを作っとかないと時間が無いときは頭が回らないなぁとか、毎回勉強させられる日々です。

結局補佐する自分を補佐する知識や勘、経験のエキスを抽出した準備が必要だというのが全てだと思います。

特に、我々は「待っていれば誰かが助けてくれる」という受動的スタンスをとって時間が解決してくれる仕事では無いですので。「失敗しても命までは取られない」という数々のビジネス書とは違います。「失敗は許されない」その中で安全もマージンを状況によってコントロールしていくのが仕事ですので、No GOならそれなりの理由も必要です。それには思いつきで対応出来ないので、せっかく出来た時間ですので同期とZOOM会議して想定訓練でもしようかなと思った次第です。

Stay Home。今月まだ一回も飛んでません。

皆様有意義な人生の1日をお過ごし下さい。

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