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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

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プラトンの『イデア論』~超概略

「イデア」とは?プラトン(紀元前427ー紀元前347~古代ギリシア・哲学者) ソクラテスの弟子。弟子のアリストレスとともにアカデメイアという名で学校を開き、西洋哲学の大きな礎となった。主著「ソクラテスの弁明」「国家」「饗宴」等。

情熱の結晶に触れる -名作小説『若きウェルテルの悩み』の面白さ

    【水曜日は文学の日】   物語には、作品の内容を超えて、ある種の象徴・神話になっている作品があります。ソフォクレスの『オイディプス王』、ナボコフ『ロリータ』等。   ドイツの文豪ゲーテの名作『若きウェルテルの悩み』もそんな作品の一つ。若者の自殺についての名称になるくらい名高い結末は、最早あらゆる神話と同様、ある意味配慮をする必要のない作品でもあります。   しかし今読み返すと、色々な問題点も含めて、大変興味深い作品であり、その意味でも神話と同様の力を持っています。

空の彼方で煌めいて -サン・テグジュペリ『人間の大地』の魅力

    【水曜日は文学の日】      フランス文学の中でも、『星の王子様』の作者、サン・テグジュペリは、一般的な知名度が高い文学者の一人でしょう。   飛行士でもあったこと、そしてその悲劇的な最期も併せて、他にはなかなかいない作家であり、『人間の大地』は、そんな彼の特徴が良く表れた秀作です。 作品は全8章からなり、一貫して飛行機、そして空を飛ぶことに関する自伝的エッセイというか、独白のような形式になっています。   郵便物を運ぶための飛行機会社に入社したころの霧の中に迷い

♡今日のひと言♡ウォルト・ホイットマン(改訂)

ウォルト・ホイットマン(1819–1892~アメリカ・詩人、随筆家) 19世紀アメリカを代表するホイットマンの長編詩「草の葉」(1855)は、後世のケルアックらビート文学に至るまで、大きな影響を与えてきました。 日本には夏目漱石によって紹介されています。 伝統を打破したその壮大な世界では、自由なスタイルで人間性が称えられています。

過去の呼び声で振り返る -小説『終わりの感覚』の面白さ

  【水曜日は文学の日】     年齢を重ねるにつれ、どれ程楽天的な人であっても、悔恨することが増えてきます。   イギリスの小説家、ジュリアン・バーンズによる2011年の小説『終わりの感覚』は、そんな老年の悔恨のありようをアイロニーにくるんで切れ味よく描いた傑作です。イギリス最高の文学賞、ブッカー賞を受賞しています。   引退した生活を送る平凡な老人トニーに、見知らぬ弁護士から連絡が来ます。   ある女性の遺言で、ある人物の日記を寄贈したいとのこと。その女性はトニーの昔の

大地のざわめきを聴く -T・S・エリオット『荒地』の面白さ

  【水曜日は文学の日】   私はある統一された禁欲的なトーンの作品も好きですが、ざわめきや様々な色彩で溢れかえった、ごった煮の作品も大好きです。   詩人T・S・エリオットが1922年に発表した長編詩『荒地』は、あらゆる時代、場所の要素を溶かし込んだ記念碑的大作であり、今もってユニークな作品と言えます。 五部構成からなるこの長編詩。第一部『死者の埋葬』は、有名な詩句から始まります。     しかし、この荘重な始まりからすぐ、ドイツのリゾート地でのとりとめのない回想に移り

♡今日のひと言♡エラ・ウィーラー・ウィルコックス(改訂)

エラ・ ウィーラー・ウィルコックス(1850-1919~アメリカ・作家、詩人) 平明な文章で韻を踏ませた、軽快で楽観的な表現・作風で知られている。代表作は“Poems of Passion”(情熱の詩~19 c 末頃)や“Solitude”(孤独~1883)など。

ハン・ガンの邦訳作品をすべて読む(全8冊それぞれの短いレビュー)

ノーベル文学賞に、韓国の作家ハン・ガンが選ばれた。アジア人女性がノーベル文学賞を受賞するのははじめてのこと。——報せを聞いて、どうしてかわたしは動揺した。部屋に林立する本棚は溢れかえり、つねに混乱をきわめているけれど、ハン・ガンの一連の著作がどこにあるのかおよそ思い出すことができる。調べてみると、邦訳された本はすべてもっていて、そのほとんどを既に読んでおり、一部はくりかえし読んでいた。そうなると、受賞の報に、喜ばしいだけとは少し異なる新たな戸惑いが生じてくる。 そういった動

♡今日のひと言♡ミシェル・ド・モンテーニュ(改訂)

ミシェル・ド・モンテーニュ(1533- 1592~フランス・哲学者) 16世紀ルネサンス期を代表する人文主義者です。 16世紀以降のフランスは、「モラリスト」と称される思想家を輩出しました。 彼らは人間性を鋭く観察し、「人間とは何か」「人はいかに生きるべきか」を短い箴言や散文で表しました。 その一人モンテーニュは「エセー」(1580)の著者として知られています。 「随筆」というジャンルを創始し、シェークスピアや後のパスカルらにも影響を与えたと言われています。  

ざわめきのリズムを感じて -ヘミングウェイ『日はまた昇る』の魅力

    【水曜日は文学の日】     一般的に流布されているイメージと、読んでみた感想が違う文学は結構あったりします。   ヘミングウェイの初期の小説『日はまた昇る』は、マッチョとしばしばいわれるこの作家の作品の中でも、都会と旅の魅力に満ちた、煌めきに溢れる作品のように思えます。その鮮やかな描写は、また、「マッチョ」とは別の魅力に感じるのです。 新聞記者のジェイクは、第一次大戦の戦場で受けた傷で性的不能になり、パリでその日暮らしをしています。   元看護婦のブレットとジェイ

2024年おすすめ本⑤

「人間の絆」サマセット・モーム 〈あらすじ〉 イギリスに戻ったフィリップの前に、傲慢な美女ミルドレッドが現れる。冷たい仕打ちにあいながらも青年は虜になるが、美女は別の男に気を移してフィリップを翻弄する。追い打ちをかけられるように戦争と投機の失敗で全財産を失い、食べるものにも事欠くことになった時、フィリップの心に去来したのは絶望か、希望か。モームが結末で用意した答えに感動が止まらない20世紀最大の傑作長編。 (Amazon概要より) 〈感想〉 人生のバイブルとして手元に置き

きらめきと抒情の記録 -チェーホフの短編の美しさ

  【水曜日は文学の日】     短編には長篇にはない良さがあります。短いからこそ、人生を圧縮して集中して味わうことができる。   『桜の園』等の戯曲でも名高いロシアの作家、チェーホフの短編は、そんな短編小説の醍醐味を堪能できる逸品ぞろいです。 アントン・パーヴロヴィッチ・チェーホフは、1860年ロシア生まれ。モスクワ大学で医学を学びながら、雑誌に短編を発表して生計を立てます。大学を卒業後、医師として働きつつ、本格的な戯曲も書いて、旺盛な文学活動を広げています。   『決

世界の熱に触れる旅 -小説『蒸気で動く家』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     ある作品が、その作り手の中で例外的な存在でありながら、それ故に美しく感じられることがあります。   『八十日間世界一周』や『海底二万哩』といった空想科学小説で知られるジュール・ヴェルヌが1880年に発表した冒険小説『蒸気で動く家』は、彼の特徴が出ながらも、彼の作品群からやや逸脱した面白さのある作品です。   インスクリプトから「ジュール・ヴェルヌ 驚異の旅 コレクション」の一冊として翻訳出版されており、原作の優れた挿絵を全てつけて、冒険に

♡今日のひと言♡バーナード・ショー

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家) ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。 代表作「ピグマリオン」(1912)は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

♡今日のひと言♡ブレーズ・パスカル(改訂)

パスカルは数学者、自然科学者として早くから「パスカルの三角形」「パスカルの原理」「パスカルの定理」などの発見で功績を残しました。 その一方で彼は、ルネサンスを経た「科学・理性の時代」にあって「キリスト教を信仰すべき」と人々に説得することを使命としたのでした。 それを著書にまとめる前に、パスカルは39才の若さで病死してしまいます。 「パンセ」(1670)は、その準備段階として思いついた事を書き留めた数多くの断片的な記述を、遺族らが編纂し刊行したものです。 第一部では、人

青春の熱気を叫ぶ -シュルレアリスム文学の面白さ

  【水曜日は文学の日】   イメージというのは、それが何に基づいているかが重要に思えます。   20世紀初頭の、いわゆるシュルレアリスム運動によって生まれた文学や絵画は、強烈なイメージを持ちつつ、その来歴を考えさせてくれる作品群です。 シュルレアリスムの運動自体は、同時多発的に色々と起きているのですが、きっかけは第一次大戦であり、そのメインストリームは、大戦中に始まったダダの活動から始まっていると考えていいでしょう。   特に重要なのは「チューリヒ・ダダ」。スイスのチュ

見えないものを語るために -名作短編『ねじの回転』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     古今東西、物語にはジャンルという名の、ある種の「型」があります。 イギリスの小説家、ヘンリー・ジェイムズが1898年に発表した短編『ねじの回転』は、作者の技量と、そんな物語の型がうまくはまって深みを増した名作短編です。 クリスマスイブの夜、古い屋敷に集まった人々で怪談話をするところから始まります。ダグラスという初老の男性が、自分より10歳上の女家庭教師の書いた文章があるという。それを朗読したダグラスの原稿を作者が貰ったという設定で、女

こんなに素敵な物語だったとは…◇秘密の花園

 小学生のころから存在を知っていた名作ですが、じつは、いまになってはじめて読みました。  F.H.バーネット『秘密の花園』。  複数の出版社からいろいろな翻訳本が出版されている中で、今回私が読んだのは、2024年3月に教文館から出たばかりのハードカバー(訳:脇明子)です。常体(だ・である調)で訳されていて、大人も読みやすく、ジェリー・ウィリアムズの挿絵も素晴らしい!  そもそも、長年読まずにいた名作をなぜいま手に取ったかといえば、「教文館が出している?」と興味を持ったから。

輝く季節を旅する -フォークナーの小説『八月の光』の美しさ

    【水曜日は文学の日】     光あるところに影があるように、物事には、二つの対照的な側面があります。   しかし、例えば一つの小説の中で全く対照的な物語を進めることは、案外困難で、少ないように感じます。 アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの1932年の長篇『八月の光』は、二つの異なった物語を合わせた傑作であり、しかも、驚くべき後味のよさを持つ作品です。 物語は、リーナ・グローブという少女の話から始まります。身重の身の彼女は、お腹の子供の父親であるルーカス・バ

第二アドベント

 今日は2024年のアドベント第二主日。  アドベントクランツの2本目のキャンドルに光が灯される日です。  平和を強く祈ります。  わたし自身のまわりは平穏で、静かに、心安らかに暮らすことができていますから、それには喜びと感謝でいっぱいです。  ただ、世界のあちこちでは争いが続いています。  どうか、わたしたち人類が平和を選んでいけますようにと祈らずにはいられません。  いま読んでいる、デイヴィッド・アーモンド『火を喰う者たち』に、こんな記述がありました。  時代と

「闇の奥」" Heart of Darkness "J.コンラッド(改訂)~映画「地獄の黙示録」

今回は「モダニズム文学」の簡単な説明と、その先駆の一例として、コンラッド作「闇の奥」を取り上げます。 また、同小説から翻案された映画「地獄の黙示録 "Apocalypse Now"」にも、最後に少し触れておきます。 Apocalypse Now「地獄の黙示録」 監督・脚本 F.F.コッポラ(1979アメリカ) 「読みづらさ」で名を残す奇書「闇の奥」は、ポーランド出身のイギリス作家ジョセフ・コンラッドによる中編小説です。 この作品は、今日でも、「英語で書かれた名作ランキ

日記:11/2(土)☔️ ・11月になっても過去最大レベルの大雨を記録していて複雑な心境🫢 →スペインの洪水や台湾の台風など異常気象が多すぎるような💦 ・睡眠の量を増やせば、食事をするための時間も減るのか? →食べ過ぎ注意⚠️ ・10日の試験本番に向けてあとはひたすら音声学習📼

【おすすめ本】運命は、子どもが石を蹴るように(コルタサル/石蹴り遊び)

今回紹介する本はとにかく変わった一冊。まずは書き出しをどうぞ。物語のふくらみが見事な、大好きな書き出しです。 アルゼンチンの作家フリオ・コルタサル(1914-1984)の「石蹴り遊び」。とにかく変わった構成のせいで、テーマが話される機会が珍しいほど。一言でいうと、これは二つの読み方がある一冊の本なのです。 今回は本書を「読み方」と「テーマ」に分けてご紹介します。長いけど(約3,000字)、文章がすごく良いので、引用部分だけでもぜひ。 ▼▼今回の本▼▼ 1. 読み方につ

色彩が未来を導いてくれる

スコットランドのグラスゴーのサッカーチーム、『セルティック』は中村俊輔選手が所属していたこともあり現在も古橋亨梧選手ら日本人選手が多く活躍していますがカトリック教徒が多い、というのは知らなかったです。プロテスタント教徒が多いのが、『レンジャーズ』でこの2つのチームのファンの間では対立が激しいようです。 グラスゴー大学は、『ハリー・ポッター』のホグワーツのモデルといわれていて、ニッカウヰスキーの竹鶴政孝さんが留学していたところでもあります。 グラスゴー効果(Glasgow

ハックルベリーが会いに来る(小説をめぐる冒険)

小学6年のとき、朝の読書の時間が終わって『トム・ソーヤーの冒険』を片づけていると、女子に話しかけられた。 「子供っぽいやつ読んどるんじゃね」 おせっかい焼きの島田さんだった。「それ終わったら、これも読んでみんさい」と本を渡された。 「ハックルベリー・フィンの冒険……?」 私がたどたどしく書名を読みあげると、「『トム・ソーヤー』の続編なんよ」と島田さん。「こっちは大人向けじゃけえ」 5年生のとき、島田さんと同じ図書係で『星の王子さま』をすすめられたことがあった。私が小

♡今日のひと言♡フョードル・ドストエフスキー(改訂)

お時間ございましたら、ぜひ、こちら(ドストエフスキー早わかり)をご一読下さい ⇓⇓⇓ フョードル・ドストエフスキー(1821-1881~ロシア・小説家、思想家) 19世紀後半のロシアを代表する文豪の一人。代表作に『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』など。キリスト教の立場から、人間存在の根本問題を追究した重厚な名作群を残した。

カート・ヴォネガットに届いた、ある少年からの手紙(頭木弘樹さまの記事を中心に)

『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)をはじめとする、多くの著書で知られる「文学紹介者」頭木弘樹さんによる記事の紹介です。 ある日、作家カート・ヴォネガットの愛読者である14才の少年から一通の手紙が送られて来ました。そこに書かれていた上掲の言葉に、ヴォネガットは大きな感銘を受けたと言われています。 以下は、このエピソードをはじめとした、頭木さんの「愛」にまつわる記事です。自分は目から鱗が落ちました。 5分で通読できますので、この名文をぜひ。 ―――――――――――――

自分は何者か…それを選ぶのは自分自身◇夜の庭師

 ジョナサン・オージエ『夜の庭師』は、ディズニーで映画化が決定したというゴーストストーリー。  面白くてどんどん先が知りたくなり、寝不足になりそうになりながら読みました。  アイルランドからイングランドにわたってきたモリーとキップの姉弟は、差別にあいながらも、なんとか使用人として雇ってくれる屋敷を見つけます。でもそこは、巨木に取り込まれたかのような不気味な屋敷で、夜中に謎の男が徘徊し、住人はみな悪夢にうなされるという、なんともあやしい場所だったのです――。  もちろんエ

波の中の失われた愛 -デュラス『アガタ』の魅惑

    映像と言葉とは、本来別のものです。   私たちは映像に言葉を載せて一致させる、「映画」を何の疑いもなく享受しているけど映像と言葉が切り離されたらそこに何が生まれるのか。   フランスの小説家マルグリット・デュラスが監督した一連の映画は、そうした部分を探究する大変興味深い映画です。   そして、私が好きな1981年の『アガタ』は、原作の戯曲もデュラスが監督した映画も、言葉と映像が、魅惑的な関係を結んでいます。キーワードは「愛が失われること」です。 マルグリット・デュラ

書いて私を発見する -ジッドの小説『狭き門』の魅力

    【水曜日は文学の日】     なぜ私たちは書くのか。勿論、人によって様々な理由があります。 しかし、書くという行為には、根本的に「信仰告白」のようなところがあって、自分が生きて信じているものを、何かの形にしたいという欲望が込められているのは、間違いありません。   フランスの小説家、アンドレ・ジッドの小説『狭き門』は、そうした信仰告白を、捻れた形で凝縮して小説にした名作であり、書かれている事柄は古くても、今とてもアクチュアルに読める作品に思えます。 語り手のジェロ

力と欲望を味わう -バルザックの小説の面白さ

      【水曜日は文学の日】     今は2024年、21世紀の前半。ということは、私のように、20世紀生まれの人間がそれなりに生きているということです。   世紀で区切ることはできても、実際のところは、それをまたがって生きる人間がいるわけで、そこですっぱりと時代が変わるわけではない。実のところ、20世紀後半に生まれた人間は、19世紀の影響もまた残っていると思っています。   バルザックは、そんな19世紀のある種の特徴を、広範に捉えることができた小説家です。   そして

敬体小説を求めて(散文について・04)

「敬体・常体、口語体・文語体(散文について・03)」の続編です。 *敬体と常体  あれは「です・ます調」で書かれていた、とはっきり記憶している小説があります。童話や昔話を除いての話です。  どんな文体だったかを覚えている小説はそんなには多くないのですが、敬体で書かれた小説として、それがとくに印象に残っているのは、お手本にしたからなのです。  私はエッセイのたぐいはだいたい「です・ます体」で書いていますが、一編の文章をすべて敬体で通しているかというとぜんぜんそうではなく、

希望を探すなら、闇の中に手をのばして◇ヘヴンアイズ

 ほんの少しグロテスクで、圧倒的に美しい物語でした。  デイヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』。  孤児院を抜け出した少女と少年の3人組は、自作の筏で川を下り、ブラック・ミドゥンと呼ばれる泥の中で座礁します。そこで助けてくれたのは、手と足に水かきがある少女ヘヴンアイズと、老いた大男。「宝物」や「聖者」を探して泥を掘りつづける大男と、天使のように無邪気なヘヴンアイズと触れ合ううちに、3人はそれぞれの悲しみと向き合い、心を変化させていくのです。  希望の光は、真っ黒い泥の

(新訳版)哀しいカフェのバラード/カーソン・マッカラーズ (著)、村上春樹 (翻訳)、 山本容子 (イラスト) 刊行記念:山本容子銅版画展

カーソン・マッカラーズ (著)、村上春樹 (翻訳)、 山本容子 (イラスト)による単行本の出版記念版画展。 本に収められた挿絵の元となった版画が展示されていた。 会場にはモノトーン(薄い黒乃至赤色)の版画が並び、その下にはフレーズが日本語と英語で書かれている。 展示作品の一覧 丸善丸の内本店  フィクション2位 物語がひらかれる 江國香織  小説が絵と共に存在するとき、文字のみの場合とこんなに空気が変るものかと驚く。こわいほど風通しがよくなって、物語が目の前にひ

失った煌めきを求める、物語。

題名も作者名もあらすじさえも知っているのに、読んだことのない小説。 ふだんの読書では、国内の作品を読むことが多いので、海外文学の、いわゆる"古典"と呼ばれる作品の中には、そんな小説がたくさんあります。 フィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」も、その中のひとつだったのですが、myさんの記事を読んで心を惹かれ、手に取りました。 myさんの記事にコメントを送った後で思い出したのですが、わたしも二十代の頃に読もうとして、一度挫折しているのですよね。 翻訳された作品を読むと

耽美主義文学の入口「ナイチンゲールとばら」~オスカー・ワイルド(改訂、ネタバレ有)

オスカー・ワイルドは、「耽美派」の筆頭として挙げられる作家です。   耽美(唯美)主義とは、19世紀後半に西洋で発達した芸術思潮の一つで、その時代の主流であった写実主義に反して「美しさ」に最高の価値を置くものです。   それは「美に耽(ふけ)る」の文字通り、常識にとらわれず美しさをとことん追求する姿勢ですので、一線を超えて非道徳的になったり残酷になることが多く、そこが魅力でもあります。 その特徴が顕著な「サロメ」などで知られるワイルドですが、「幸福な王子」(1888)をはじ

甘いノスタルジア -小説『お菓子とビール』の魅力

    【水曜日は文学の日】     文字は書かれた瞬間に過去になるのですから、全ての小説は、回想だとも言える。   私が好きな回想は、プルーストの『失われた時を求めて』のように、一人の語り手が、ゆったりとした語り口で過去を紐解くように語る小説です。   もっとも、プルーストの小説は、単なる回想とは言い難い、「語り手の知りえないこと」を含む、かなり複雑で曖昧な語り口です。 それが魅力的でもあるのですが、時折その長さと相まって、読むのに疲れてしまうこともあります。   その点

読書記録「ティファニーで朝食を」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、トルーマン・カポーティ 村上春樹訳「ティファニーで朝食を」新潮社 (2008) です! ・あらすじ 彼女の消息を知ったのは、バーテンに見せられた一枚の写真だった。アフリカの集落にて、彼女の顔そっくりの木彫を見つけたと。 作家希望の「僕」にとって、彼女、ホリー・ゴライトリーとの共通点は、同じアパートに住む住民だけであった。 彼女は駆け出しの女優だった。気まぐれで、可憐、そして自由奔放に生きてきたように見える。 男

2024年11月読書記録

 11月の読了本は、3冊だけ。文フリの準備が忙しかったので。小説書くのと読書は並行してできるのですが、お品書きや名刺といったごく単純なものでも、デザインを考えなければならないと、無限に時間がかかってしまう…。デザインというか、ただ文字を適当に並べてるだけなんですけど、それでも大変です。中学生の時に映画『あゝ野麦峠』を観て、「明治時代に生まれていたら、手先が不器用すぎて、諏訪湖で入水自殺するしかなかっただろうな」と思ったものです。それに比べれば、読書時間を削られるぐらいはまだマ

中世フランス、冬の終わりの恋物語「オーカッサンとニコレット」~作者不詳(改訂)

恋の歌人たち、宮廷詩人「トルバドゥール」 1000年に及ぶ「暗黒時代」とも呼ばれた中世ヨーロッパですが、その終盤には徐々にルネサンスの曙光がさしてきます。   12世紀ごろになると、南フランスで「宮廷文学」が流行しました。 それは、宮廷に雇用された騎士の中で、才能のある者が詩をつくり、王侯貴族の前で披露したものでした。 彼らは「トルバドゥール」(宮廷詩人)と呼ばれていました。 騎士道精神にのっとり、女性を高貴な存在として崇め、その人にとこしえの愛を捧げる・・・彼らはそのよ

♡今日のひと言♡マルセル・プルースト

マルセル・プルースト(1871- 1922~フランス・小説家) 19世紀末から第一次世界大戦勃発までの頃の、パリが繁栄した華やかな時代をパノラマ的に描いた大作「失われた時を求めて」(1913~1927)で有名。「意識の流れ」の手法により、同作品は当時の「前衛」である「モダニズム文学」の代表作として、後世の文学に大きな影響を与えた。

このいかんともしがたい『星の王子さま』蒐集欲(副題:さすが火の国だよねオレのハートにまた火をつけてくれやがったよ)

我ながら酔狂なことをしているよなと常々思いつつも、ここ数年はまっているのが、世界の様々な言語に翻訳された『星の王子さま』の蒐集である。原題はフランス語でLe Petit Prince, 英語だとThe Little Princeで、フランス語原題の頭文字をとってLPPと略されることもある。筆者自身、noteでこのLPP蒐集活動についてはたびたび言及してきたので、これが実益も期待したうえでの筆者の趣味であることをご存知の読者も多いのではないかと思う。 なんせ、LPPを題材にし

祝!ノーベル文学賞受賞!韓国文学の最前線ハン・ガンさんの作品紹介エピソードたち

2024年10月10日、韓国の作家ハン・ガンさんが53歳という若さでノーベル文学賞を受賞しました。アジア人女性としては初、また韓国では初のノーベル文学賞受賞者となりました。日本の文学界隈、特に海外文学界隈では祝福の嵐でした。 文学ラジオ空飛び猫たちのダイチもミエも、ハン・ガンさんは大好きで推しの作家です。文学ラジオの第1回の配信では『ギリシャ語の時間』を紹介し、以降もハン・ガンさんの作品を紹介してきて、現在まで『菜食主義者』以外の邦訳単著はラジオで紹介しています。 この記

つぶやき|日記

 先週後半からなんだか落ち着かなくて、そわそわしたような、沈み切ったような数日を過ごしていました。  心の中で、ことばの海が完全に凪いでいる・・・というか、透明な何かで密閉されたような感じ?  その始まりははっきりしていて、谷川俊太郎さんが亡くなったニュースを聞いた時から。  でもね、このつぶやきは、ひとり谷川さんのみを追悼するものではないのです。それも踏まえて、よろしければ、しばしお付き合い下さいませ。 🧸🧸  谷川さんといえば、同時代の文士のなかで3冊(詩集です

♡今日のひと言♡ヘルマン・ヘッセ

ヘルマン・ヘッセ(1877- 1962 ドイツ・小説家、詩人) 様々な職に就きながら著述活動を行い、穏やかな人間の生き方を描いた作品を数多く残した。代表作は他に「車輪の下」(1906)「デミアン」(1919) 「シッダールタ」(1922)「荒野のおおかみ」(1927)など。1946年にノーベル文学賞を受賞。

【おすすめ本】正反対の似た者どうし(J・オースティン/高慢と偏見)

今週もこんにちは。日本は涼しくなってきたと聞いています。秋でしょうか🌰 今週の一冊はジェーン・オースティン(1775-1817)の「高慢と偏見」。人間心理を深く洞察し、様々な登場人物を描き分けたイギリス文学の名作。原題はPride and Prejudiceで「自負と偏見」、「誇りと偏見」と訳されることも。 ▼▼今回の本▼▼ 舞台は東イングランドのハートフォードシャー。ベネット家の5人姉妹の家族模様とラブロマンスが描かれます。軸になるのは、皮肉屋で負けん気の強い次女エリ

映画化されたら素敵◇『肩胛骨は翼のなごり』

 美しい物語を読みました。  デイヴィッド・アーモンド『肩胛骨は翼のなごり』  主人公の少年の目をとおして、命と世界の不思議さを一緒に感じていけるよう。とてもきれいな世界観です。  映画化されたら素敵だなと思いました。  同じ作者の短編集『星を数えて』も好き。  作家自身の子どものころの思い出にまつわる短編を集めたものです。物語というよりエッセイみたいな感じもして、どの作品も澄んだ余韻が残ります。せつなかったり、愛おしかったり。一編ずつ、読み終えたあとの余韻を静かに味

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

 小説にあって物語にはないものがあります。今回は、誰が見ても明らかなもの、誰の目にでも付くものを挙げてみます。  空白と黒いページです。  読んでいて不意に現れる白い部分、真っ黒なページですから、目に付くはずです。  こうしたものは、物語にはありませんでした。あり得なかったというべきでしょう。  ここで言う物語とは、もとが口頭で語られ、長い間口頭で伝えられていたものです。口承文学とも呼ばれています。それが写本や版画の類いを経て、現在は印刷物として文字(活字)になった形

いま借りている本。デイヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』『秘密の心臓』、ギャレット・フレイマン=ウェア『涙のタトゥー』、ジョナサン・オージエ『夜の庭師』、ジェラルディン・マコックラン『世界のはての少年』、F.H.バーネット『秘密の花園』、キース・グレイ『家出の日』。どれも楽しみ

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】 ジョージ・ソーンダーズは今、 アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。 本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。 そんなことを知らずに読みはじめたがとにかく変わった文体でした。 文章自体は決して硬いものではないのですが(むしろ下品な