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リノリウムの床、アメリカの夜。

ロサンゼルスからデンバーを目指していた。冬のコロラドを選んだのは、マイナーな地方都市がクールだと思っていたから。

とにかく急ぎ足だった。旅におけるあらゆる予定には、やるべきタイミングというものが存在する。物理的にも、気持ち的にも。それなのに旅の始まりの数日間を、決定的にぼんやりと過ごしていたのだった。

夜までレンタカーを走らせて、見たことのあるチェーンホテルの看板を探す。プレスコットは、そんな感じで偶然立ち寄った街だった。

アリゾナ特有のひんやりとした冬の空気の中で、夕方から夜になる前の一瞬のグラデーションのずっと奥に、古いシアターのリノリウムの床みたいにつやつやと輝くきれいな星空が広がっていた。

僕はこの街を好きになった。
それだけのこと。

ひとりじゃ抱えきれないほどたくさんの「誰かのお気に入り」で埋め尽くされた世界で、自分が本当に好きな場所を見つけたいと思うのなら、無意識さと矛盾を孕んだ足取り、それと、息をのむような風景との出会いがすべてなんだ。

「またこの場所に来るだろう」。
そんな風にそれとなく毎日を過ごしていたら、やっぱりその通りになった。

そうやって旅は循環しているのだ。

(anna magazineより )

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