見出し画像

日本人が知らないアーモンドミルク台頭の真相

by エムケイコンサルティング 秋月

アーモンドミルクはどうして日本で売れなかったのか?

米国のブルーダイヤモンドグロワーズと日本のマルサンアイとのライセンス契約によって2013年9月から日本市場で4アイテムのアーモンドブリーズ(写真下)のロールアウトが始まりました。

▽2013年5月発売前のパッケージ

画像10

案の定、日本の消費者の反応は鈍く数年間需要を喚起できませんでした。

原因は明確で、発売当時の日本にはアーモンドミルクに対する潜在需要はまったくなかったので潜在市場が形成されていませんでした。

戦後から一貫して「総合栄養食品牛乳」「骨を丈夫にする牛乳」「子供から老人まで牛乳は毎日飲む健康飲料」という嘘を家で親から、学校で先生から、テレビでタレントから、毎日毎日刷り込まれ続けた戦後の日本人にとって、牛乳より高くて不味い調整アーモンドミルクを買うという購買動機がなかったのはあたりまえです。

しかし、牛乳より高くて不味いアーモンドミルクもどきが2008年から米国で販売された理由が「骨を丈夫にするはずの牛乳を飲むから骨粗しょう症になり牛乳を飲むから癌になるのが分かったから」だとしたらどうでしょうか。

そのことをアメリカ人は知っていたからアーモンドミルクの潜在需要がありました。

そのことを日本人は知らなかったから潜在需要がありませんでした。

ということです。

今回は高くて不味いアーモンドミルクが米国で発売されるに至った裏話をお話しします。

マクガバンレポート

1960年代に入り米国では、糖尿病・癌・心血管疾患の患者数が毎年増え続けていました。

1968年7月、米国政府は、国の医療支出膨大化の原因を調査する目的で、ジョージマクガバンを委員長とする『Select Committee on Nutrition and Human Needs』と名付けた米国上院特別委員会を設置しました。

委員会は、アメリカ人の食品摂取量と発病との因果関係を明らかにするため、栄養食品と必要摂取量についての調査研究に必要な科学者を世界中から委員会に招集しました。

約9年間の膨大な調査研究を重ねた委員会は、1977年2月、『Dietary Goal for the United States』と題する報告書を発表しました。

これが有名なマクガバンレポートです。

このマクガバンレポートが米国における食品摂取と病気発症の因果関係についての一大論争を起こすことになりました。

報告書の中で、『米国人の肉や牛乳などの乳製品をはじめとした動物性食品の日常的摂取が体に著しく有害である』という報告が大量の証拠とともに提出されました。

本来の米国であれば、この種の問題が提起されたらディベートが始まり、やがて結論、克服に至るのですが、マクガバンレポートは当時の畜産業既得権益者集団によって闇に葬られました。

当時から世界の食情報に疎かった日本人は、そんな出来事を知る術もなく40年以上過ぎた現在でも肉や牛乳などの乳製品をはじめとした動物性食品が癌や心血管疾患の主要原因であることを軽視する傾向があります。最多の癌が大腸癌という事実から推して知るべしです。

その結果、日本は米国を抜き今や世界で一番癌患者の多い国になったのはご存じのとおりです。

報告書の中で、健康体を維持するには、一汁一菜に魚を加えたほどの戦前の日本食を日常摂取するのがよいと報告されたのが切っ掛けで、その頃から現在に至る欧米の日本食ブームが始まりました。

キャンベルレポート

1977年のマクガバンレポートが闇へ消されてから5年後の1982年、肥大化が止まらない国の医療支出に頭を抱えた米国政府の依頼を受けたコリンキャンベル博士は、『食習慣と健康に関する研究レポート』( 米国科学アカデミーレポート「食物・栄養と癌」 )を発表しました。博士は、報告書の中で、乳製品等の動物性食品の日常的摂取が癌の大きな原因になることを改めて明確にしましたが、それも畜産業既得権益者集団によって再び闇に葬られました。この騒動については博士の著書「葬られた第二のマクガバン報告」に詳しく書かれています。

代替えミルク潜在市場形成

既得権益集団が闇に葬ろうがどうしようと、米国の消費者はマクガバンレポートやキャンベルレポートの情報を共有し合いながら肉や牛乳などの乳製品をはじめとした動物性食品の代替え食品を求めて潜在市場を形成してゆきました。

図をご覧ください。アーリーマジョリティ層までの潜在市場が形成されるとメーカーは全国販売を展開します。

米国市場では、1980年代後半から90年代にかけて、牛乳に代わる代替えミルク(alternative milk)に対する潜在需要が急増しました。様々な植物ミルク(plant milk)が発売されましたが、牛乳に比べると、どれも不味く、すでに形成された潜在市場があるにもかかわらず売り上げは伸びませんでした。

シルクブランド大豆乳

2000年に入り、ホワイトウェーブフード社のシルクブランド大豆乳が、スーパーの冷蔵品コーナーの牛乳と一緒に並べられてから全てが変わりました。

豆乳特有の汚ない色、カビ臭く焦げたような臭い、飲んだ後の豆臭や嫌な苦味などが不評で売れなかった豆乳は、牛乳のように白くてミルキーで臭くない飲みやすいミルクに大変身しました。

画像3

潜在需要を喚起したシルクブランド大豆乳の売上高はどんどん跳ね上がりました。2001年には600億円、2005年には1000億円に達しました。

ところが、豆乳をはじめ非醗酵大豆製品の深刻な健康被害がマスコミによって消費者に伝わり2005年をピークに売上は停滞。

2008年のアーモンドブリーズの発売をきっかけに、2009年からは牛乳や豆乳の代替ミルクとしてアーモンドミルクの需要が急増し消費者の豆乳離れが急速に進行しました。

市場規模縮小推計値 CONSULTANCY M&K INC. 2012 

画像4

アーモンドブリーズの登場

1998年にグロワーズ社が常温保存商品(shelf-stable version)を発売した頃からアーモンドミルクはヘルスフードコーナーの主要商品でしたが、冷蔵保存商品として(refrigerated version)アーモンドブリーズを製造し2008年にロールアウトを始め2009年全国展開を開始してから売上が急伸しました。

画像6

更に、牛乳健康被害の周知にともなって牛乳代替品に対する需要が増え、シルクブランド大豆乳を年間200億円以上売っていたホワイトウェーブフーズ社(現ディーンフーズ社子会社)が、近年の植物性エストロゲン問題など大豆乳健康被害問題の影響で、豆乳の売上高が減少したため、グロワーズ社を追うように2010年から冷蔵シルクピュアアーモンドの販売を開始。

画像7

 両社の激しい市場シェア争奪戦が火ぶたを切り、2010年以降の急激なアーモンドミルク市場拡大に奏功しアーモンドミルク市場規模は2010年、2011年、2012年の3年間で2倍になりました。(2012年の売上高はアーモンドブリーズ114億円、シルク111億円。)

 こうして、動物性食品の代替え食品を求める市場の潜在需要に応じて、牛乳・豆乳の代替えミルクとして登場したのがアーモンドミルクだったということです。

画像7

2012年 米国市場における牛乳代替えミルクの市場規模(単位;100万ドル)

画像8
画像9

世界の2大アーモンド生産国は米国とスペインです。グロワーズ社が在るカリフォルニアはアーモンドの一大主要生産地です。

電気冷蔵庫がなかった時代、アメリカ人は栄養豊富で保存しやすいアーモンドを潰して絞ったミルクを菓子作りや料理に使っていました。アメリカ人にとってアーモンドミルクは昔から馴染んだ食品だったので牛乳や豆乳の代替えミルクとしてアーモンドミルクを使うのは自然の成り行きだったと思います。

とは言え、あれはダメこれもダメではなく、牛乳も、豆乳やアーモンドミルクなどのプラントミルクも、偏らず嗜好食品としてバランスよく楽しめばいいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

おいしいアーモンドミルクの作り方です。参考にしてください。

エムケイコンサルティング米国 秋月