DSM-IVにおける「発達障害が治る」問題

日本の発達障害支援の現場では「脳機能障害だから治ることはない」と言われて来たが,「DSM-5の原書を読むとそうは書いていない」との声が聞こえて来た.私の手元にある『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版』(医学書院,2002年)を確認したところ,以下に引用するように,「俗に言う発達障害」でも一般的な日本語で「治った」といえる状態になる可能性がある事が記述されていた.(因みに,DSM-IVは状態像で疾患を分類していて,病因は示されていない)

本人や親の「治る」「改善する」「発達する」かもしれないという希望を否定せず,彼らを応援するような社会であることを祈ります.


以下,引用.()内は医学書院版のページ番号と私のコメント.太字強調は私.

1 通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害
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精神遅滞」の診断的特徴
「より安定した特性として持続する傾向のある認知性IQに比べ,適応上の問題は,治療的努力により改善しやすい.」 
(p. 57,知能検査のIQは変わらなくても,実際の日常生活に関しては努力する意義はある.)

317「軽度精神遅滞」
「適切な援助があれば,軽度精神遅滞の者は,通常地域社会の中で独立して,または監督された状況でうまく生活することができる
(p. 58,人によっては独立できないのかもしれないが,それへ向けての訓練の意義はある.)

318.2「最重度精神遅滞」
「非常によく監督され保護された状況で単純作業を行うことができる者もいる.」
(p. 59,可能性はゼロでは無く程々にはある.)

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学習障害(以前は学習能力障害)」
診断的特徴
「学習障害は成人期まで持続することがある.
(p. 64,つまり,成人になったら治ってしまう方が多い.留年が恥ではない社会であって欲しい.大人になってからでも学べる社会であって欲しい.)

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299.00 「自閉性障害
経過
「自閉性障害は持続性の経過をたどるが,学齢期の子どもや青年では,ある分野において発達がみられることはよくある(例:(略)).青年期の間に行動面で悪化する者もいるし,改善する者もいる.
(p. 85,伸ばせる分野はあるだろう.そして,状態は常に変化する.)

299.80「アスペルガー症候群
経過
「予後研究によると,多くの者は成人すると賃金の得られる仕事につき,自給自足が可能であることが示唆されている.」
(p. 93,知見不足だが,金銭的に自立できる見通しがある.)

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注意欠陥/多動性障害
経過
ほとんどの者では,症状(特に運動面の多動性)は青年期後期から成人期に減弱するが,少数の者で成人期中期まで注意欠陥/多動性障害の症状を全て満たすことがある.
(p. 101,年齢とともに改善するのが普通.辛い状態が持続する人もいる.)

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