疾病・障害と怪しげなサプリに関して

故あって,「起立性調節障害」について調べる機会がありました.

いつもの事ですが,ネット上には怪しい情報が沢山ありますよね.試しに「起立性調節障害 サプリ」で検索してみましょう.すると,「不登校向けサプリ」「起立性調節障害だった私が」「起立性調節は治ります」「学校に行く時間に起きれない」「朝が辛いお子様へ…」「学校を休まなくなりました(個人の感想)」など,サプリ通販サイトがたくさん出てきます.それで困っている人を食い物にするかのようなサイトがね…

さて,怪しいことが沢山起きると,当然のことながら関連学会が声明を出さねばならなくなります.現在は日本小児心身医学会が中心となっている様でして,2018年1月にサプリメントの効果についての声明,2018年5月に整骨や整体などの代替療法の効果についての声明を出しています.この問題に関連する必要最低限の引用をしたのが以下の文章です.

(略)現時点(2018年1月)で、(略)を改善するサプリメントは存在しないと考える。その理由は、(略)患者団体から懸念の声が多数寄せられているため、ここに警鐘を鳴らす。
(略)等による過去の文献検索を行ったところ、現時点(2018年5月)で、整骨や整体などの代替療法が(略)を改善するとした科学的根拠(エビデンス)はなかった。(略)患者団体から懸念の声が多数寄せられているため、ここに再度、警鐘を鳴らす。

「現時点」と断った上で,「と考える」という慎重な表現ですね(引用元

ところで,「怪しい」サプリの料金設定がなかなか絶妙.1ヶ月分が定価1万円くらいのところ,特定のネット申込で5千円になるそうです.正直,これくらいの価格なら駄目元で試すのが親心だったりしませんか?しかし,9ヶ月コースの定価は6万円超.安くは無いです.うーむ.

違法ドラッグなら怪しい工場で作るので有毒で危険な成分も混じるでしょう.しかし,怪しいとはいえ,日が当たる表側の商業ラインに乗っているサプリですから,まあ,有毒なものは入っていないと思いませんか?何らかの成分の過剰摂取に関する恐れはありますが,それはどんなサプリだって,どんな食べ物にだってある事かと思われます.(人生初の食べ物であれば,とにかく少量から,自身の体調を確認しながら,アナフィラキシーショックなどが起きても誰かが対応できる状況で試しましょう)


こんな微妙な状況なのですが,僕は以下の様に思っています.

「本人がチャレンジしてみる気持ちになっているなら,まずは1ヶ月で試してみてもいいと思います.その気持ちにに対して5千円.絶大な効果があるなら病院で処方される成分になってると思うので,効いたらラッキーくらいの感じで.」

僕は,積極的に勧めるつもりはありませんが,親と本人が何とかしようと思って決断する行動については,傍目からは悪あがきに見えたとしても,犯罪行為でもない限り尊重したいです.

教育心理学におけるモチベーションの理論,フランスの哲学者メーヌ・ド・ビランの主張,幼児教育や子育てにおける様々な実践,高専の教壇に立っている自身の経験,民俗学で研究されている子供への昔話の伝えられ方,様々な方面の知見を自分なりに総合して,僕は,現状を打ち破ろうとする本人の意志が人を発達させると信じています.田舎の物理教師の独り言では説得力が無いと言うならば,20世紀を代表する哲学者の一人であるサルトルも『実存主義とは何か』の中で以下のように述べています.

実存主義は最初に何をおこなうか?一人ひとりの人間があるがままの自分を把握し、自らの実存について全責任を負うようにさせる

さて,少しは説得力が増したでしょうか?


最後におまけとして,物理を専門として学んだ僕が思う科学的な姿勢を示すセリフをお伝えしておきたいと思います.この文章を書くきっかけが,「発達障害が治るわけがない」と頑なに信じている人達と,「いや,治るよ」と言う人達のすれ違いでしたからね.

「現時点において,明確な科学的根拠を示す研究報告を,私は知りません」

先に示した日本小児心身医学会の声明も,これに従った表現になっています.「私は知りません」なんて,よほどの初学者か相当学んだものでなければ発する事ができない言葉ですね.だから,人は学び続けなければなりません.学問の経験が浅ければ「絶対的能力者(神)が決定した正解がある」と思いたくなるのが人の性でしょう.しかし,「人間が自然とやりとりをした結果を踏まえて,人間集団としてどの様に解釈するか?」を整理したものが「人間の営みとしての科学」なので,不可能なのは承知の上で完全な真実を希求する姿勢を示すことしかできません.それが科学です.カント辺りからの哲学者が相当に悩んだ難問らしいので,気になった方は頑張って哲学を学んでみてください.

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