自宅でピアノを弾くこと

昨年の秋ごろにピアノを再開してからほぼほぼ毎日ピアノを弾いています。どんなに忙しくても何かしら1曲だけ弾くということを続けているのは、それは単純にやっと動くようになった指が戻ってしまったら怖いという思いがあるから。素人なので1~2日くらいじゃそうでもないことも分かっているけれども、十数年のブランクで動かなくなった指が1曲弾けるようになるまで動かすというのはなかなかの精神的なパワーが必要なんです。

楽器の演奏経験がない方はイメージしにくいかもしれませんが、それほどピアノを弾けない状態の人間のピアノの練習は結構悲惨です。音の大きさがバラバラで、つっかえつっかえ同じところを繰り返し弾きます。1~4小節位にわけて練習するのだけれど、何度も間違えるので弾いている私も苦行のようだし、聞いている方はもっと苦行かもしれない。

復帰したばかりなので、過去に弾いたことのあるクラシックなり、難易度の低いものを選ぶほうがスムーズだったかもしれませんし、たぶん誰かに進めるなら難易度が低いものを勧めます。だけど私はJ-POP、しかも難易度高い楽譜を選択しました。どうしてもどうしてもその曲が弾きたくて、どうしてもどうしてもその楽譜が弾きたかった。だから難しすぎて苦しいのは自業自得。そして絶対に弾けるようになりたかったので、逃げ道を断つためにピアノのレッスンに通うことにしたので耐えるしかありません。

朝起きて就業前の30分くらいハノンとチェルニーを弾く
お昼休憩に20分~30分譜読みをする
定時の後は30分~1時間弾けたらラッキー

在宅勤務になったので、移動時間とお昼休憩の一部を練習に充てられる。仕事は残業もそこそこあるので終わった頃は21時近くて練習ができないということもあるのがちょっと厳しい。まとまった時間はとれないので細切れで練習をします。(私が持っているのはアップライトピアノなので、夜間はさすがに練習できません)

そんなこんながありながらリスターターなりのプライドでムキになってピアノを練習する時間を捻出し弾いていたわけなのですが、それを一番喜んでいたのは私ではなく私の母でした。

母も小さいころにピアノを習っていましたが、自営業で忙しい家庭でピアノを習うために渡船というものにのって川を越えなければならないということで幼い母1人で通うことができなかったことからある日祖母が勝手に退会手続きしてしまったそうです。しかも、やめさせられたことを知ったのはピアノレッスンの日に準備をしてさあ行くぞ!と祖母に声をかけた時だそうです。「もうやめたよ」って一言だったので激怒したそうです。母にとってはそれがずっと心残りだったようです。祖母にしてみれば仕事が忙しく母をピアノ教室に連れて行くのがとても大変だったのだと思います。

だからとても強い思い入れがあって私にピアノを習わせたのです。母的には「何か弾きたいなと思ったときにピアノ弾けたらいいじゃない?」と言います。そんな私が高校卒業後、だんだんとピアノを弾かなくなったので、たぶんガッカリしたんだろうなぁと思います。最上級のアップライトピアノを購入してくれたし、毎年欠かさず調律をしてくれていました。毎年欠かさず。それだけピアノに対する並々ならぬ思いがあったのでしょう。

そんな中、ある日突然ピアノを再開した私。そして時間があるときにひたすらピアノを弾いていた私にこう言いました。

「もっと強弱つけたほうがいいんじゃない?」

「お前が弾けよ」と反射的に言ってしまいました。最低な娘ですね。でもこれが私と母の新しいコミュニケーションの1つになりました。

「最初は酷かったのに随分弾けるようになったね」
「気持ちよく聞いていると、間違えるから転びそうになるよね」

とか。

私も在宅勤務で一日家にいますが、母も自宅警備で一日家にいます。私のピアノ再開後からずっと聞き続けているのは母親なんですよね。そして今書きながら気がついたのですが、私がピアノをはじめたときからピアノを弾かなくなるまでの間に私のピアノを聞いていたのも母親なんですよね。私のピアノの一番のリスナーって母親だったんだなぁ……。

母は私のピアノを聴くのが楽しいようで、ちょこちょこアドバイスが来ます。あなたピアノ弾けないじゃない、簡単そうに言うけどどれだけ難しいかあなたわかってるん?なんて思ったりもするけれど、そういったやり取りが楽しいと言葉にしなくてもわかるのが母娘の不思議な関係だと思います。

私がことあるごとにLemonを弾いていたのでメロディが頭に焼き付いて離れないそうです。そして曲を聴いているうちに好きになったそうです。

私も30代半ばで母親ももうそれなりの年齢です。あとどのくらいの時間を一緒に過ごせるかはわかりませんが、ピアノのコミュニケーションをできるとこまで続けられたらいいなぁと思っています。

少し前にピアノをはじめたというnoteを書いたので、お時間あれば読んでみてください。

毎週金曜日は、noteを読んで気になったテーマのエッセイを書いています。

#日経COMEMO #やさしい時間

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