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流れ星、ポゥポゥ

流れ星をみた。

長野県のキャンプ場での夜のこと。
満天の星空に目をやると、たまたまその瞬間にひとつ、スゥッと流れてきえた。

出来事としてはただそれだけの一瞬のことだけれど、それからというもの、わたしの中で星の燃えかすのようなものがポゥポゥと光っている。


— 湿った草のにおい。足元からもわもわと立ち昇ってくる地熱。うるさいくらいの虫たちの合唱。近くの沢の流れる水音。葉っぱたちのざわめき。夜、残飯を食べにきた狸。灯りに集まってくる虫たちの羽音。焚き火のはぜる音と揺らぐ炎。空には、無数の星が瞬いている。

そして、ひとつの流れ星 —


— その瞬間『わたし』がシュルシュルと小さくなっていき、自分の身体ぴったりの大きさまで戻り、ひとつに重なったような、そんな気がした。


日常、知らず知らずのうちに『わたし』は肥大化していたようだ。東京という都市でインターネットとテクノロジーの中で暮らしている。身体をおざなりにして、脳や心はフルスロットルで忙しない。『わたし』は身体から分離し、遠く離れたところをふわふわと漂っている。

流れ星を見た夜はというと。
影響を及ぼす、及ぼされる範囲はシンプルに「からだのおおきさ」。五感で感じられる、触れることのできるものだけがそこにある。地球に間借りしているちいさな生きもの。

当たり前のことを当たり前と実感することはむずかしいし、こうして体験が身体性をもつ瞬間は得難く、尊い。
日常に戻れば、そちらの環境での当たり前にシフトしていくことは想像に容易い。自分の心がけ次第なのかもしれないけれど、人は多かれ少なかれ環境に順応していくため、慣れたり忘れたりするようだ。

それよりも視点を変えるには「場所の移動」というのが手っ取り早いのかもしれない。
更には自然の中に身を置くと“一部”にもどることで心と身体が一致するのだな、と感じた夜。

おかえり。と、ポゥポゥ光る身体を撫でながら流れ星の余韻を味わっていた。



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