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仲良しグループで終わらせない。「強い」チームを目指すリーダーの掟。

『タックマンモデル』を用いた組織論シリーズの第2弾です。

タックマンモデルとは
「チームの発達段階」として、1965年にアメリカの社会学者『ブルース・W・タックマン』が提唱したモデル。大きな成果を創出するチームをつくるためには、「フォーミング(形成期)」→「ストーミング(混乱期)」→「ノーミング(規範期)」→「パフォーミング(実行期)」の4つのステージを段階的に移行していく必要があるとした。

第1弾では、タックマンモデルの第1フェーズである「フォーミング(形成期)」について、その特徴やリーダーの役割についてまとめました。

フォーミングを抜ける(=心理的安全性が担保されており、一人ひとりが自分の役割を何となく理解している状態になる)と、チームは次のステージに進みます。今回は、第2ステージの「ストーミング」についてまとめてみたいと思います。

第2ステージ:ストーミングとは

まずはじめに、ストーミングの概要と特徴について整理します。

◆ストーミング
(概要)メンバーそれぞれが自らの役割に慣れてき始め、徐々に意見を主張するようになる。これにより、メンバー間で対立や衝突が頻繁に発生する状態。

(特徴)対立によりモヤモヤすることが増え、チームの生産性は低下する。良くも悪くもメンバーの性格や性質がはっきりと出てくるので、相互理解は進む一方、この状態が長時間継続するとチームは崩壊の一途をたどる。

ストーミングは、チームづくりにおいてもっとも難しいステージです。なぜなら、チームの発達と成果が反比例する時期が存在するから。ちょっとわかりづらいですね。ストーミングには、チームの成長が進むことで、パフォーマンスが一時的に下がってしまうフェーズがあるんですね。これを「ストーミングの谷」といいます。

第1フェーズであるフォーミングをうまく立ち回り、チームは徐々に成果が出せるようになってきました。ストーミング期においてリーダーは、その上昇したパフォーマンスを一時的に低下することも辞さない覚悟を持たなければいけません。「仲良しグループ」から「困難を乗り越えていける強いチーム」へと変貌するために避けては通れないいばらの道。それがストーミングです。

チームが結成されて初期のフェーズは、メンバーそれぞれの役割がはっきりしておらず、リーダーからの指示に従う人の集まりでした。牽引力のあるリーダーのもとでひとつひとつタスクをこなしていき、少しずつ自分自身の役割を実感値として理解するようになっていきます。「わたしはこれをする人なんだ」という認識が生まれていくわけですね。すると、一人ひとりのなかで「優先したい仕事」が発生していきます。ただし、それはときにほかのメンバーのものと異なっているため、やがて意見の対立に発展していきます。「わたしはこれがやりたいです」「そのタスクはわたしの担当ではありません」といった発言が出てきて、それがぶつかり合うのです。

また指示系統はリーダーからのトップダウンのみから、現場同士による横方向の指示(特に声が大きい人の意見)が自然発生的に追加されます。声の大きい人(=自己確信の高い人、自信満々に見える人)が、自分のアイデアを試したい気持ちから周囲をコントロールしようとしたり、ときに指示されていない内容のことにまで手を出すようになるということです。意見を主張する人が増えると、対立が生まれるのはほとんど避けられません。個人同士の対立もあれば、ミニ派閥によるものもあります。権力争い見たいな大きいものもあれば、小さな小競り合いもあります。

なかでも一番厄介なのが、無言の対立です。不平不満が耳に届いているうちはたいしたことはありません。それに対応していけばいいだけなので。一方、水面下での対立はなかなかめんどうです。解決しなければいけない問題を、それとして認識するまでに時間がかかるし、長い間沈黙していた分、爆発したときの火力は凄まじかったりします。

声の小さい人(=自己肯定感の低い人、自分の意見を主張するのが苦手な人)も、何も考えていないわけではありません。声の小さい人にも優先したいことがあり、「こうだったらいいな」をもっています。それに気づかないまま、あるいは見て見ぬフリをして、声が大きいからという理由のみで正しい意見と認められてしまう雰囲気は危険です。リーダーはそうならないように十分すぎるほど注意しましょう。

これがややこしいのは、声が小さい人あるいは声が大きい人、どちらにとっても不満足が膨張してしまうところです。声が小さい人は一方通行の意見に従わされてモヤモヤしたなかで仕事をすることになり、声が大きい人はモヤモヤしながら仕事をする人を見て物足りない感情を抱いてしまうので。

目に見える対立と見えない対立。それぞれによってすこしずつストレスが蓄積されていき、チームを蝕んでいきます。

ストーミングにおけるリーダーの役割

そんなストーミングにおいて、リーダーはどのように振る舞えばよいのでしょうか。このときのリーダーの役割は以下の3つだと思っています。

・一人ひとりの「強み」を整理する
・「対話」の文化をつくる
・自分たちが「何屋」であるかを示し、定期的に立ち返らせる

ストーミングの特徴は「対立」です。リーダーは、まずはじめに組織のなかで対立が起こることを歓迎するマインドを持ちましょう。なぜなら、対立の発生にはメンバーが仕事に対して自分なりの意見を持っていることが必要で、それは仕事を「自分ゴト化」していることの証明でもあるからです。そして、その意思がことばや態度として表に出ていることは、本音で話せる環境になってきていることを意味します。ですから、リーダーは、メンバー同士の対立を怖がらず、むしろニヤニヤしながらそれを眺めているくらいでちょうどいいのです。そのことを知っていると、ストーミングを乗り越えるのがずいぶんラクになると思います。

ここからリーダーの3つの役割について詳しくみていきます。

一人ひとりの「強み」を整理する

ひとつめは、一人ひとりの「強み」を整理することです。これはつまり、チームのメンバーが何が得意で何は苦手なのかを把握し、チームで共有しましょうということを意味しています。なぜこれを必要なのか。目的は3つあります。

ひとつは、「他人は自分とは違う人間である」というあたり前を再認識させるためです。これ、ものすごく大事です。人は自分勝手な生き物です。自分のものさしで価値を推しはかり、オリジナルの色眼鏡で世界を見ています。同じ映画を見ても、感想はひとそれぞれ違うように。「自分は自分、他人は他人」。そのあたり前を忘れないようにするためにはやはり、自分と他人の違いを客観的に知っておくことが重要ですね。これがない状態で議論をすると、自分の意見を理解してくれない他者に不満を抱き、最終的には自分の意見に服従させることに躍起になってしまいます。これを避けるために、他人は自分とは違うという前提条件の了承が絶対に必要なのです。

次に、それを理解した上で「人には人のやり方がある」ことを認め、自分のやり方がすべてではないことを知るためです。ぼくが人の強みについて話をするとき、よく例に出すのが「山登り」です。日本一の山といえば富士山ですよね。登ったことがある人はご存知かもしれませんが、富士山には代表的な登山ルートが4つあります。最もポピュラーな「吉田ルート」のほかに、「富士宮ルート」「須走ルート」「御殿場ルート」があり、どのルートを選ぶかによって登山距離や高山病リスクが変わってきます。何が言いたいかというと、同じ山を登るとしても、その登り方はいくつかの種類があっていいよね、ということです。目標は同じでも、それを達成するやり方は一つじゃなくていい。もっとビジネスライクかつ斜に構えた感じでいうなら、KGIは共通でも、KPIの置きかたは複数パターンあるよね、みたいな感じでしょうか。あんまりカッコよくなかった。さておき、これも大事な前提です。議論が盛り上がってくると、「それ、どっちでもよくね」みたいな些細な点で何時間も議論してしまったりします。これを避けるために、山の登り方は一つじゃないことを知っておくのは大切です。

最後に、強みを掛け合わせたほうがお得であることを知るためです。野球も4番バッターの寄せ集めが強いわけではないのと似たような話です。1番バッターには、長打力はそこそこなかわりに走力と選球眼が優れている選手を起用したほうが全体を最適化できる、みたいな。適材適所ってやつです。営業なら、リストをつくるのが得意な人もいれば、商談が得意な人もいる。みんなで同じ作業をするのもいいけど、リストが得意な人にはリスト作成を頑張ってもらって、商談が得意な人は顧客とのコミュニケーションに集中してもらうほうが、チームの成果は大きくしやすい。これをやるためには、誰が、何を得意として(=強みにしていて)、何を苦手なとしているのかを知っておく必要があります。リーダーは各メンバーの強みを整理して、その強みが発揮されるように役割と業務を采配しなければいけません。

では、どうやって強みを把握すればいいのか。1on1ミーティングなどで地道にやるのもいいですが、オススメはみんなで性格診断テストを受けるのが公平性がありかつ手っ取り早くていいと思います。ぼくのチームでは、全員にストレングスファインダー(有料)を受講してもらいましたが、まずは手軽に無料のものから試してもらえればと思います。

▪️性格診断テスト
ストレングスファインダー(一部無料)
16Parsonalities(無料)
mgram(無料)

テストを受講したら、それをチームのみんなで共有しましょう。お互いの診断結果を見るだけでも、「こんなに違うんだ」と発見が得られると思います。もしストレングスファインダーを受講するのなら、以下のようなストレングスグリットをつくってみると、チーム全体の傾向が把握しやすくていいですよ。

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「対話」の文化をつくる

リーダーの役割の2つめが、対話の文化をつくることです。

前回の記事で、フォーミングではトップダウンの指示で、早く忠実に仕事をこなすマネジメントがうまくいきやすいと言いました。ただし、いつまでもこの方法で組織を運営していては、不確実性の高い時代を乗り越えていくのは難しい。どこかのタイミングで、ボトムアップあるいはミドルアップ・ダウンの組織へ転換していかなければいけません。それには、対話(ダイアローグ)する文化が必要不可欠です。

さて。対話とは何か。しばしば「会話」との違いとあわせて議論されますが、これについては前回の記事でもおすすめ書籍とした紹介した長尾彰さんの著書『今いる仲間でうまくいくチームの話』のなかにとても素敵な定義がありますので、ありがたく引用させていただきます。

「会話」とは、たとえば「おはよう」と言われたら「おはよう」と返す、関係性をつくるためのやりとりです。
(中略)
そして「対話」は、「私も正しく、あなたも正しい」という前提に立って、相手の話を聞くことを通じて自分の考えを見直すこと。(中略)必要なのは、あなたの正解や正論ではなく、相手の考えを理解しようとする姿勢です。

(「今いる仲間でうまくいくチームの話」|長尾彰 より)

チームあるいは一対一で話をしているとき、いましているのが「会話」か「対話」かわからなくなるときがあります。そのとき判断材料としてもらいたい問いがあります。それは、「私はいま、何かを言いたいのか、それとも何かを聞きたいのか」です。何かを言いたいのであれば、それは会話であることが多いです。もちろんすべてがそうではありませんが。一方、相手の話を聞きたいというマインドの方が強く感じられるのであれば、それは対話の姿勢ができていると言えるんじゃないかなと思います。

また対話をするときの注意事項としては、日本総合研究所が出しているコラムが有益かと思いますので、こちらも参考にしてみてください。

対話の心構え
自分の意見を主張する:まずは自分の考えを言わないと対話が始まらない。他人の立場をあれこれ指摘する前に、自分の考えや、そう考える背景を、皆に発信する
他人の意見を尊重する:自分の意見を言うと同時に、他人の意見とその背景も聴いて、理解しようとする。「そういう考え方もあるか」と共感して他人の意見を受け止める
判断を保留する:「自分が正しくて他の人が間違っている」という考えから離れる。相手の意見の欠点や弱点を探したり、自分の立場や見解に固執したりしない
探求プロセスであることを意識する:結論を急がず、手っ取り早い結論に飛びつかず、問いかけ続ける。また、時折訪れる沈黙を恐れない。自分たちの中にある思い込み、常識、暗黙の了解を疑い、自説が変化することを容認する

(「対話(ダイアログ)をもっと広めよう」|株式会社日本総合研究所 より)

「対話」とは何か、そして、それをやる上での注意事項もわかりましたね。あとは、実践あるのみです。と言いたいところなのですが、実はここで一つ知っておかなければいけない落とし穴があります。それは、「最初は仕事内容については対話するな」です。思いきり矛盾しているように思いますね。どういうことかと言いますと、最初のうちはアジェンダとして仕事の話は採用しないほうがベターだということです。

特にベテランと新人が混在している組織でよくある話なのですが、仕事の話で対話をしようとすると、どうしてもベテランの意見が正しいという雰囲気になってしまってうまく対話が進みません。経験の少ない新人の立場に立ってみると意見を出しにくい気持ちもわかりますよね。あるいはベテランが舐められてはいけない、と勘違いしてやや高圧的になったりしてしまう可能性もあります。ですから、まだ対話慣れしていない組織は、たとえば時事問題とか最近見た映画やYouTubeの感想をテーマに設定するのがオススメです。できるだけ正解のない話題を選ぶのがコツです。否定や批判が生まれにくい環境づくりを心がけましょう。

ぼくのチームでは、最初はYouTube講演家の鴨頭さんのYouTubeや植松さんTED「思うは招く」の動画などを一緒に見るところからはじめました。そのほかには読書交流会もやりましたね。チームの誰かに「自分の好きな本」あるいは「この人に読んで見てほしい本」を贈って、1ヶ月後にその本の感想を発表しあう会です。感想5分+質問2分の計7分が一人当たりの持ち時間。これを人数分繰り返します。当時は9人のチームだったのでだいたい1時間強くらい。日本酒を片手に語っていると毎回延長してしまうのですが。。そこから、「会社にほしい福利厚生」とか「もしオフィスを移転するならどんなところが理想?」のようにちょっとずつ会社に関連する話題にシフトしていく。遠回りのようですが、個人的にはこっちの方が近道なんじゃないかなって思います。

文化づくりは時間がかかります。焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう。

自分たちが「何屋」であるかを示し、定期的に立ち返らせる

リーダーの役割の3つめは、自分たちが「何屋か」を示すことです。

少し話を戻します。「強み」の整理については山登りを例にその重要性について説明しましたが、ここでもう一つ大事なことがあります。それは、自分たちが「何者」としてその山を登っているのか、です。チームの全員にそれを聞いたら、皆同じ回答が返ってくる状態をつくりましょう。自分たちは「何屋」なのかを全員が理解し、それを忘れていないか。リーダーは、これを定期的に確認する必要があります。

近年、ビジョンやミッション、バリューやコンピテンシーを設定している会社が増えています。これのチーム版をつくるのがわかりやすいんじゃないかな。「この組織で世の中を(会社を)どうしたいのか」「何を達成するのか」「提供する付加価値は何か」などから考えて、最終的に「私たちは〇〇である」というかたちにまで落とし込んでみましょう。リーダーが決めてもいいですが、個人的にはメンバー全員で、ホワイトボードにポストイットをペタペタ貼りながらブレストするのがオススメです。

「自分たちは何屋か」の浸透。抽象的で定性的なこの指標について、それがどこまで進んでいるのかを推し量る着眼点が一つあります。それは「主語が何か」です。メンバーの話が「ぼく/わたしは...」から始まりがちなら、まだまだ道半ばだと思ってください。チームが成熟していくと、発言の主語が、チームや会社に変わってきます。英語でいうと「I → We」に変化します。「私はこれがやりたいです」といった話し方から「会社としてこれをやっていくべきです」「ぼくらこういうチームでしょ」みたいな話し方になっていきます。

それから「何屋」の部分は、社内外の環境変化によって柔軟に変えてしまって良いです。むしろ半年に一回くらいのペースで見直すのが理想的だと思います。このスパンはチーム環境の変化のスピードによって多少変わります。これをリーダーが指示せずとも、現場や中間管理職が主体となって日頃から議論されている状態になれば、このチームはストーミングを乗り越えたと判断して差し支えないでしょう。

ストーミングのまとめ

タックマンモデルの第二ステージ、ストーミングについてまとめます。

◆ストーミングの概要
メンバーそれぞれが自らの役割に慣れてき始め、徐々に意見を主張するようになる。これにより、メンバー間で対立や衝突が頻繁に発生する状態。

◆ストーミングでのリーダーの役割とは、
・一人ひとりの「強み」を整理する
・「対話」の文化をつくる
・自分たちが「何屋」であるかを示し、定期的に立ち返らせる

◆ストーミングで重要なことは、
 「対立」を恐れずに「対話」すること

◆「対話」とは
「私も正しく、あなたも正しい」という前提に立って、相手の話を聞くことを通じて自分の考えを見直すこと

何度も言いますが、ストーミングでは一次的にチームのパフォーマンスは下がります。それが正常な成長過程だと思ってください。徐々に機能しはじめてきた組織を意図的に破壊して、再構築する必要があります。トップダウン体制を破壊して、ボトムアップとまでは言わずとも、ボトムでディスカッションが行われる程度には組織の体制をつくりかえなければいけません。牽引力があるリーダーからすると、正直めちゃくちゃめんどくさいです。自分でやってしまったほうが早いし、対話文化へのアテンドの仕方を間違えると退職などのリスクも上昇するので。

ただ、これを恐れていては、いつまで経ってもリーダーはリーダーを辞めることができません。昔読んだビジネス書に「経営者の仕事は、辞めること」と書いてありました。ぼくはこの言葉がけっこう好きです。一生懸命つくって、それが壊れないように強くして、最終的には自分がいなくても持続的に成長していける状況にして身を引く。現場のリーダーも同じだと思います。自分がいなくても組織として成長し続けられるエコシステムをつくらなければいけない。そして、そのためにはこのストーミングからは絶対に逃げてはいけないんです。

逆に一度ストーミングを経験し、それを乗り越えたチームはけっこう強いです。それを目指して頑張りましょう。

次回は、第三ステージ:ノーミングについてまとめたいと思います。


【参考】


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