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【エアコミティア応援】空想のまちアンソロジー『ぼくたちのみたそらは きっとつながっている』感想(※再録)

2020年5月17日に開催のオンライン同人誌通販企画エアコミティアの応援で、以前したためた感想を再掲載しています。状況の変化等に合わせて一部加筆修正など行っておりますのでご了承ください。



 人々が、己の生まれた《まち》で生涯を過ごすことを定められた世界を舞台に、それぞれの《まち》の物語が綴られたアンソロジー。
 ささやかながら、私も参加させて頂きました!

 幻想的なテーマもとに、各執筆者様がそれぞれの個性を発揮され、魅力的な物語がたっぷりと詰め込まれています! そのたっぷりさ加減と言ったら、がっつり厚みに表れています…これ青年誌のコミックスくらいあるね、うん…。

 なのにすごく読みやすくて、一週間ほどであっという間に読み終えてしまいました。本編は勿論、可愛らしい装丁など、主催者・くまっこ様のあたたかな気持ちが随所にこもった一冊です。

 拙いながら、それぞれの《まち》の物語について感想をしたためました。お気に入りの《まち》に出会える、その一助になりましたなら幸いです。


『楢の香り、楓の音』まりも様
 演奏家や楽器職人の町、《音町》に生きる女性職人・エレンの半生の物語。運び人を介して《酒町》の青年から依頼を受ける彼女が、成長し、ときに葛藤し、それでも自身の仕事に打ち込む姿にのっけっから涙腺が決壊しました…。《まち》の間を行き来することができない、という前提を生かし、だからこそ育まれる絆のあたたかさに胸が打たれます。


『蛍町の祭日』青波 零也様
 夜に覆われ、蛍の光に照らされた《蛍町》のランプ職人・コウと、不思議な瞳を持つ少女・ミツの物語。正統派ボーイ・ミーツ・ガールの筋に、味わい深い独特な世界観が堪りません(ジブリファンは絶対すき、この感じ)。なんのために生きるのか、どうしてこの場所なのか――ふたりの決意が柔らかな宵闇の空気感とともに、心地よく胸を打ちます。


『箪笥町』南野風 文太様
 すべての住民が箪笥づくりに携わる、《箪笥町》の秘密にまつわる物語。古風な和の香り漂う文章に誘われながらページをめくると、なにやら謎めいた秘密の存在が仄めかされ…。短い中にも、父と息子、伝統をを渡す者と受け継ぐ者の関係性が、しっかりと描き出された一作でした。


『砂の町』マンノン様
 一面が砂に覆われた《砂町》、その中にあるオアシスの傍らでレストランを営む兄弟の物語。肌に感じるジリジリとした暑さを感じながら、夕方から開店するレストランの一日を追いかけていくと、こちらまで旅人の気分になってほっと一息ついてしまいます。マスターの話を聞きながら、コーヒーと料理に舌鼓をうちたいです。


『本の町の見習い司書さん』なな 様
 本を愛する人の町、《本町》の図書館で、憧れの司書見習いになったリーゼの物語。四苦八苦しながら、懸命に努力するリーゼに心打たれます。あるきっかけで「本当に自分は心から司書になりたいのか?」と迷う彼女が、ある事実を知って決心する姿には、本当に応援したくなりました。こんな司書さんがいる図書館、行ってみたいです。


『始まりを見に行こう』巫 夏希様
 かつて神の怒りを買ったために永久に夜が明けない――とされる《夜町》の物語。希望に溢れた表題とは裏腹に、全編に漂うダークな緊迫感はスリリングです。社会から見放された浮浪児の少年・少女たちが、《まち》を出て“始まり”を見に行く冒険譚の、その結末…どうなったかは、読んでみてのお楽しみです。


『Deep Water』久地 加夜子様
 降りしきる雨に浸されていく《雨町》の、終末までの物語。《まち》の外から来る運び屋・叢雲の視点から描かれる町の情景は、徐々に狂気と絶望を増していきながら、それでもひたすらにしずかで、うつくしかったです。謎の多くは明かされませんが、それがまたかえって味わい深く、透き通るように綺麗で切ない結末を彩っています。


『星は叶えてくれない』青山 凪紗様
星がよく見える高級リゾート地、《星見町》の少年が、自称・旅人との出会いにより自身の《まち》に疑問を抱く物語。アンソロジーの共通テーマを逆手にとった結末は、他の作品とは一風変わったものです。やはりこの自分の男の子は、そういうこと考えちゃうよねぇ…というしみじみとした感慨にふけるなど。


『旅の始まり』猫春 様 
 切り立った崖に沿うようにしてある《宙町》。崖の対岸に隔てられた《まち》の西と東をつなぐポーターグライダー、彼らの使うエンジンを作る女性技師・福原が、自身の“旅の始まり”を見つけるまでの物語。エンジンを作ることにのみ注力していた彼女がようやく掴んだ目標に、エールを送りたくなる結末です。


『町長選挙』わたりさえこ様
 良質な温泉がたくさんある《湯町》の物語。町を騒がせる町長選挙の騒動について、銭湯屋の福さんと常連の富澤さんが話し合うのですが、青年でも高齢者でもなく、“中年”である彼らの悲哀が人情味をもってコミカルに描かれます。富澤さんの熱弁にはこちらまで「おお!」と思わされました。福さんの温泉まんじゅう食べたいです…。


『刻刻と』日野裕太郎様
 成人が祝いに入れ墨を彫る《墨町》で、彫師見習いをしている寧子の物語。芽が出ない歯がゆさ、自身の無力さへの苛立ちなど、淡々とした文章運びの中にも寧子の葛藤が滲むように顕されています。それでも、ある姉弟との出会いを通じて再び前に歩き出す彼女と、それを迎え入れる師匠の最後に、自分も頑張らなければ、と思わされました。


『幡町』宇佐 卯楽々様
 今はもうなき《幡町》に想いを馳せる物語。謎めいた構成で、短い中でもいろいろ想像させられる作品でした。《雪町》の博物館で《幡町》について色々触れた視点者の彼は、もしかしたら《幡町》に行ったことがあったのかしら…だとすると、彼は何者なんだろうか…とか、悶々と考え込んでしまいます。


『世界地図』くまっこ様
 測量と地図の作成が中心となる《地理町》で、《まち》の外に出ずひとり世界地図作りに挑む少年の物語。ここまで読んできた《まち》のことがあっちこっちにちりばめられていて、最後に相応しい一作になっています。少年・サニアと亡くなってしまった師匠の絆、そして師匠に負けない自分自身の世界地図作りをしようという彼の決意が、心にこみ上げてきます。


 心惹かれる《まち》はありましたでしょうか?
 ちなみに私は星の光で野菜を作る《星町》の物語を書きました。いつものおねショタです。こんな《まち》に行ってみたい! そんな一作をぜひ見つけてくださいね。

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