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【エアコミティア応援】『ワスレナウタ』感想(※再録)


2020年5月17日に開催のオンライン同人誌通販企画エアコミティアの応援で、以前したためた感想を再掲載しています。状況の変化等に合わせて一部加筆修正など行っておりますのでご了承ください。


 長いから要約すると百合スキーの諸氏は読もうな。抉ってきて最高だぞ。


『解放弦』

 天性の歌姫・レシカと、かつて彼女と歌姫の座を競った侍女・ジラ。ジラの視点から描かれる物語は、レシカへの清濁織り交ざる激情に満ちていて、なのにひたすら美しいです。

 圧倒的に流麗な文章表現、それが決して浮世離れしておらず。ジラの内に秘めたレシカへの凄まじい想いをありありと映し出しているのがただすごいの一言です。歌姫がコンセプトの物語ということで、歌唱表現も半端ない。舞台である閉鎖都市・アンジェリカで、賞賛される“天使”と忘却された“人魚”を顕した歌詞もピタリとマッチしています。だけど賛美されるものへのシニカルな視点も覗き、地に足がついた気持ちにさせてくれます。

 本当にヤンデレてるのは実はレシカ嬢ではないかしら…とニヤニヤしつつ、丁度いいところで区切られるので続きが楽しみです。今作で描かれた少女の美しさが、女性になったときどのように変容するのか…。


『女の愛と生涯』

 ふたりの歌姫を巡るワスレナウタシリーズを、もうひとつの視点から描いた番外編。これはぜひ本編を読んで頂いてから、お手に付けて頂きたい……本編では敵役で、憎らしいような、でもどこか進んで道化役を買って出るような、哀愁漂う彼が本作の主人公です。その切ない心情と確かにあった歓びから紡がれる物語に涙します。

 本編を読んでも思いましたが、人を愛するというには無数の方法があって、結婚する、子どもを育む、ということだ唯一絶対解でないのだ、ということを本作を読んで改めて思いました(勿論、それらもひとつの幸せな解であることは言うまでもありませんが)。彼女が求める最善解の、その隣にいられるのが自分じゃないと悟ったうえで、それを導くために自らの役割を全うしようとする彼が、本当に愛おしいです。本編読んだ時からそういう奴だよな、アルノルトって……って妄想して勝手に泣いてましたが、それを本家様が遥かに凌駕するクオリティで書き下ろしてくださったこの幸福よ。


『ワスレナウタ』

 歌姫の座を巡ってかつて対峙したふたりの少女、その軌跡を描いた最終章。前二作でも際立っていた文章表現、心情描写の繊細さはさらに磨き抜かれ、フィナーレに相応しい輝きで作中を彩ります。最後までモチーフである“歌”の織り込まれ方が絶妙で、正しく《歌姫》物語。

 束の間の逃避行、別離、身を焦がすほどの未練に、突き付けられる終止符。その末にジラが辿りついた結論――これはもはや物語どころではない、と思いました。この三冊の本の中にジラという人間が、確かに実在している。文章を追っているうちに、彼女の感じた絶望が、希望が、切望が、自分の身の内にありありと流れ込んでくるのを感じました。体温を持つ人間の、清濁が常にうつろうあの生々しさが、一語一語から伝わってくるのです。

 だけど醜悪であるはずの感情すら目を離せないのは、作者様の筆力と、なによりジラという人間が切実に生きようともがいているのがわかるから。だけど、それゆえに、(それはもしかしたら作者様の意図しているところとは違うのかもしれないけど、それでも)私は、彼女がレシカに「ありがとう」を言えるようになる、そこまでを見てみたかった、と思ってしまった。それをしたらあまりにも出来過ぎな、ただのありふれた物語に堕してしまうのかもしれないけれど、それでも。

 前作『愛の歌』を読んだ時からなんですけどやっぱりアルノルト様がすきで、それは彼はレシカを“レシカ”として愛していたんじゃないかな、と思えるからなんだろうな…お針子のノーマも…。ジラは嫌悪していたけど、あの申し出はレシカのことを愛していたからこそ、彼が心を振り絞って出した結論に思えて仕方ないんだよ…ええ、すきなキャラひいきですよ…。

 あとミルクロク、天使過ぎか。エドヴィ様、魔王過ぎか。最終章で気になるキャラがわっと出てきたので、ぜひね、スピンオフを、ね?(チラッチラッ
レシカについては…ただ一言、さいごのあの一言だけが、彼女の真実のような、そんな気がする。山ほど書いた手紙より、なにより、あの一言だけが。だって彼女と一緒に歌えるのは、あなただけだったんだよ、ジラ。

 とりとめもなく、感想が次から次に湧き出てくる。圧倒される三部作でした。


+++

 余談ですが、あずみ先生の文章に出会ったときの衝撃がすごくて、一語一語を宝石のように繊細に切って磨いてされて紡がれた物語にガクンと膝をつきました。どうやったらあのレベルにたどり着けるんだろう、と試行錯誤を続けて、未だ答に巡り合えません。読むだけでオキシトシンが分泌される文章ってすごいな……。先生の作品の真髄は百合にあるけど、商業で書いてらっしゃるTL(男女カプ)も上品だけどめちゃえっちでオススメだぞ!

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