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「好き」が怖くなったからこそ、「好き」を大事にしたいと思えた話

”スポーツ”が当たり前にある人生を、僕は歩み続けている。

テニスに12年間打ち込み、
大学ではスポーツビジネスを専攻し、
スポーツイベント会社で働く経験も積み、
フレスコボールというスポーツの日本代表選手としても活動した。

「スポーツが当たり前にある人生を歩みたい」と強く意識しているわけではないが、自然とそうなっている。不思議なものだ。

様々なスポーツとの関わり方をしてきているが、もっともスポーツに時間を費やしていたのは、きっと高校生のテニス部での活動だろう。



僕は小学5年生からテニスをはじめて、ラケットを握らない日に違和感を感じるほど、テニスが大好きな存在だった。「テニスが恋人なんだね。」と、ラブレターをくれた女の子に言われるほど大好きだった。

そんなテニスを極めるために、いわゆる強豪校へ進学した。

インターハイと全国選抜大会という、高校生テニスプレーヤーの頂点を決める大会があるのだけど、それらの優勝候補という化け物のように強い高校のテニス部の一員となった。当時の僕は、とにかくワクワクとキラキラで胸がいっぱいだったように思う。

入学した僕を待っていたのは、今思い出しても厳しい練習環境だった。365日中360日はテニスをしていたし、雨や雪が降っても走り続けていたし、今では確実にアウトになるような指導を受けることもあった。

ちなみに通信制の高校だったため、授業の時間はほとんどなく、朝から夜までテニス漬けの日々である。

そんな環境で踏ん張り続けていた高校1年生の冬。団体戦のレギュラー選手に選ばれ、テニス部を代表するひとりとして戦うことになった。

日々の積み重ねが結果に繋がり、高校1年生ながらに喜んだ。

レギュラーになるとさらに練習は厳しくなり、毎日ボロボロになるまでボールを追い続けた。誰かと遊ぶ時間もなく、ただひたすらにテニスに打ち込んだ。

そんな日々はとても充実していたし、大好きなテニスにここまで真正面から向き合える環境に感謝もしていた。「好きなことだけを考えてればいいなんて、本当に幸せだな」そんなことを考える瞬間があったけど、それほど満足をしていたんだと思う。



レギュラーとして選ばれた団体戦の県予選。

そこで待っていたのは、「勝つのが当たり前というプレッシャー」との戦いだった。

チームメイト、親、先生、その他関係者。あらゆるところから向けられる期待の視線。高校名にまとわりつくブランドが、僕の体の節々を固まらせた。

思うように体が動かなくてサーブが入らないし、ミスをしても頭が回らない。息をするのすらしんどいし、体が重い。あんなに大好きなテニスが、はじめて苦しいと感じた瞬間だったのかもしれない。

そんな中でも、仲間のフォローを受けながらチームは勝ち続け、期待に応える形で県予選は無事優勝した。

そのまま進んだ全国大会では、予選のプレッシャーから解き放たれたようにのびのびとプレーをさせてもらい、実力以上のものが発揮できた記憶が強い。チームの勝利にも貢献できて、自分テニス史に残る経験となった。

とはいえ全国大会。
準々決勝で、強豪校に力の差を見せつけられて、ベスト8で敗退となった。

負けた悔しさがあり。初の全国大会でベスト8という結果を出せたことに、満たされた何かを感じたり。上には上がいることに、絶望もした。



全国大会が終了すると、次のシーズンへ向けてすぐにチームは準備へと走り出す。

そんな時だ。
僕が試合に出ることを怖がるようになったのは。

テニスは個人戦がメインになるため、試合数は他のスポーツと比較して多いように思う。

それがテニスの楽しいところのひとつでもあったのだけど、急に僕は試合に出たくなくなった。

好きで好きで、テニスだけをし続けたいと思っていたのに、急にラケットを握りたくなくなったのだ。

練習試合をしても、まったく勝ちたいという意欲が湧いてこず、勝負の空間からは少しでも早く逃げたいと思ってしまう。

自分でも驚いた。
いや、もはや恐怖すら感じていた。

全国大会での貴重な経験を経て、さらに成長していこうとワクワクしていた自分がいたのに、その根源にある気持ちが刈り取られたようになくなってしまっていたのだから。

闘争心、勝利の飢え、向上心、それらがすべて「無」なのである。

その状況の理解が自分の頭では追いつかず、携帯で調べてみるといわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」と呼ばれる症状と似ていることがわかった。



誰にも言えず自分のなかで押し殺していた事実なので、ちゃんと病院にいったわけではないけど、こうなってしまった理由はなんとなくわかる。

過度なプレッシャーに疲弊し、
勝っても勝っても上がいて、
どこまで勝ち続けていけばいいかわからなくなって、
競争することに疲れてしまったのだろう。

トップアスリートからしたら当たり前のことなのだろうけど、当時の僕にはそれを受け止めきれるキャパシティがなかったのだと思う。長田少年は繊細だったのかもしれない。改めてトップアスリートの凄さを思い知った出来事となった。

そんなことを考えていた時、僕は自分が「燃え尽き症候群」になったという事実よりも、好きなものを遠ざけなくてはいけない状況に対して恐怖を感じていた。

あんなに夢中になって、日々の時間のほとんどを捧げていたテニス。一生かけて付き合っていくことすら考えていたのに。一時期、「プロ選手にもなりたい」と夢を抱いていたこともあったのに。

思っていた以上に「好き」という感情が脆いことを、このとき初めて知った。



「好き」は、小さい頃から最も向き合ってきた感情だと思う。大事な意思決定ほど「好き」を尊重したし、他者が持つ「好き」を知ることも好きだったし、自分が「好き」のなかで過ごす時間がなによりも楽しかった。

大切に育んできた感情だからこそ、このテニスでの経験は僕にとって大きなインパクトとなった。気持ちが整理できず、だけどあまりそれを表情には出さず、静かに落ち込んだ。”情けない”と思われたくなくて、誰にも「燃え尽き症候群」のことは話せなかった。

そんな状況のなか、思ったことがある。

「好き」はいつか離れてしまう感情なのであれば、その瞬間の「好き」を大切にしていかなければいけない、と。

「好き」という気持ちには賞味期限がある。
それも、僕らが思っている以上に長いものではない。

であれば、「今この瞬間自分自身は何が”好き”だと感じるのか?」「今の自分の好奇心はどこに向いているのか?」ということに自覚的であり続けていく必要がある。

でないと、きっと僕らは見逃してしまう。
偶然自分のもとに訪れてくれた「好き」という感情を育むことなく、それは自然と離れていってしまう。



自覚的になれることで、様々な場面で「好き」を視野に入れて考えることができる。

その中でも特に、「意思決定」において「好き」を大切にできたことはとても良かったように思う。

今思い返すと、僕が人生ではじめて自発的に「やりたい!」と言い出して始めたのがテニスだった。その結果、とても豊かな時間を過ごすことができたのは間違いない。

燃え尽き症候群の話も、ネガティブに捉えているわけではなく、むしろ多くの学びを僕に与えてくれた。そう思えるのも「好き」を大切にして、自発的な意思決定をできていたからだと思う。

それから、僕は必ず「好き」という気持ちと向き合って意思決定をしてきている。そのおかげか、”後悔”という感情を持ったことは、生きている中で記憶にない。

テニスに打ち込んでいた高校生の頃と比べると、仕事のことやプライベートのことや家族のことなど、考えなくてはいけないことが増えた社会人。

でも、それらを言い訳に「好き」を無視してしまうことはしたくない。と、これまで思ってきたし、これからも心に刻んでおきたいことだ。

「好き」を大切に、納得感のある意思決定を積み重ねることで、豊かな人生が歩めることを、僕は感覚的に理解しているのだから。



ちなみに、テニスとの関わりは、大学3年生でテニス以上に興味があることと出会ったのを機に引退した。

でも、スポーツからは離れられず、今はフレスコボールというスポーツに打ち込んでいる。冒頭にも書いたが、日本代表選手経験もあるぐらいビシバシやっている。

競争に疲れたという経験があったからこそ、”協力し合う”という特性を持ったフレスコボールに惹かれていったのだと思う。(フレスコボールについてはこちら

高校生の当時は落ち込んだし、苦しい時間を過ごしたけど、それがあったからこそ今のスポーツライフが送れている。

きっと、これからもスポーツとの関わり方は変化していくのだろうけど、そこに執着をせず、「好き」を大切に一歩一歩歩んでいきたい。

「好き」との向き合い方や豊かな時間の過ごし方を、僕はスポーツから教わったのだから。



※このnoteは、パナソニック株式会社が主催する連載「#スポーツがくれたもの」のプロモーションとして主催者の依頼により書いたものです。

▼以下主催者より
スポーツをする人、見る人、支える人なら必ずある記憶に残るストーリー。
そこには間違いなくチカラがある。情熱がある。そのチカラ・情熱は伝搬し、この時代を歩んでいく糧になるはず。

「#スポーツがくれたもの」はそんな一人ひとりのストーリーを共有する連載企画です。積み重ねてきたもの(過去)、コロナ禍において変化した価値観(現在)、そしてこれからの想い(未来)を、取材や寄稿を通して発信していきます。

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