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それは、人生を変えた仕事。【ビブ人名鑑#12:瀬部貴行さん】

ビブリオバトル普及委員会で活躍中の方へのインタビュー企画、「ビブ人名鑑」。

今回のゲストは、2010年から2018年まで紀伊國屋書店でビブリオバトルの運営・司会進行を担当し、ビブリオバトル普及の強力なエンジンとなっていた瀬部貴行さん。
営利企業でビブリオバトルのイベントをするというのはどういうことなのか?
そして現在の思いをお聞きしました。

瀬部 貴行(せべ たかゆき)さん
ビブリオバトル普及委員会関東地区地区代表。出版社勤務。2018年まで、紀伊國屋書店で、ビブリオバトルの運営・司会進行を行い、多くの大学や図書館での開催を支援するなど、関東地域のビブリオバトル普及を推進している。お酒を飲みながらのビブリオバトルを愛する泥酔系ビブリオバトラー。

たまたま話を聞いたら大会の担当に

ー 瀬部さんは現在どのようにビブリオバトルと関わっているんですか?

書店勤めの頃は、仕事として長らく司会業をしていたんですが、転職した今は一人のプレイヤーとして活動することが増えましたね。
書店でのビブリオバトルに出場したり、友人と居酒屋でビブリオバトルをしたりといった機会が多くなりました。

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また、ときどき講師としてビブリオバトル開催のお手伝いをすることもあります。

ー 瀬部さんがビブリオバトルと出会ったきっかけを教えてください。

東京の紀伊國屋書店で働いていたんですが、東京に転勤する前は大阪で勤務していました。
2010年、たまたま大阪に帰った時、大阪時代の同僚が、大阪大学のScienthrough(サイエンスルー)というサークルと、紀伊國屋書店本町店でビブリオバトルというイベントを行ったと教えてくれたんです。

「面白いから東京でもやってみなよ」と勧められたのがビブリオバトルとの出会いですね。

編者注:Scienthroughは、ビブリオバトル普及委員会理事の飯島玲生さんが代表を務めていた学生サークルです。飯島さんの目線で見た紀伊國屋書店本町店でのビブリオバトルについて、詳しくは上のインタビュー記事からどうぞ。

ー 紀伊國屋書店本町店のお話って、おそらく初めてビブリオバトルが書店でイベントとして行われた開催ですよね。まだ全然普及していないとき…!

そうですね。
そうこうしていたら、読売新聞社さんから、

「今度東京都主催で大学生の大会を行うので、協力してくれないか」

というお話が紀伊國屋書店に来たんです。
それで誰が担当するんだ?という話になり、

「どうやら瀬部が大阪でビブリオバトルの話を聞いてきたらしい。じゃあお前がやれよ」

とお鉢が回ってきました。

ー えっ、瀬部さんも話を聞いただけで、まだ見たことも参加したこともない状態ですよね。そんな中で大会を担当することになったんですか!

そうなんですよ(笑)
ただ、大会をすることになる前か後かは思い出せないんですが、一度大阪でビブリオバトル考案者の谷口忠大さんとお話しして、勉強させてもらう機会はありました。

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そして2010年の10月16日に、紀伊國屋書店の横浜みなとみらい店と新宿南店で大学生大会の予選が開かれ、私と谷口さんで司会を担当しました。
みなとみらい店で2ゲームした後、新宿南店で8ゲーム行うという怒涛のスケジュールだったんです。

大変でしたがイベントとしてとても盛況で、成功だったと言えると思います。

世界で一番ビブリオバトルの司会をしていた

ー 最初とは思えないハードさ…!司会をされてみてどう感じましたか?

なんというか、すごく熱を感じました。

ビブリオバトルなんて聞いたこともない、という方が大多数の状況で、6〜7時間かかるイベントだったんですが、たくさんの方に会場に残っていただけたんですよね。
それは、ビブリオバトルが面白い!と思った方が多かったからだと思います。

ゲームが終わっても、会場には高揚感というか、ランナーズハイのような空気が残っていたことを強く覚えています。

ー すごい。なぜそんなに盛り上がったんでしょう?

書店のイベントで、こんなにお客様と一体感を感じたことってそれまでなかったんですよ。
あんなに熱が生まれたのは、講演やサイン会、握手会とは違い、書店の利用者一人ひとりが主役になれるからではないでしょうか。

大阪の本町店でのビブリオバトルが盛り上がったのも、初めて理解できましたね。

ー その後、紀伊國屋書店でのビブリオバトルの定期開催が始まったと思うんですが、瀬部さん自身もやっていきたいと思われていたんですか?

はい。
大学生大会の予選が成功したことを受け、社内でもこれから定期イベントとして続けていこう、と決まりました。
その運営と司会を、そのまま担当することになりました。

でも、そもそもこういう店舗でのイベントって、私自身の本業とは関係なかったんですよ。
洋書の仕入れを主に担当していたので。
それでもビブリオバトルはやっていきたいと思いましたね。

ー そうして紀伊國屋書店でのビブリオバトルが始まったんですね。どれくらい開催されたんですか?

2011年の2月から、1〜2ヶ月に一度の頻度で行っていました。
私自身は2018年の3月に退職したんですが、その間はずっと私が担当していましたね。

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紀伊國屋書店のビブリオバトル担当として、大学や図書館でのビブリオバトル開催支援やワークショップ、講演をしに行くといった仕事もしていました。

自分が発表するよりも司会をすることの方がはるかに多く、おそらくですが、一時は世界で一番ビブリオバトルの司会をしている人間だったんじゃないかと思います(笑)

ー おそらくそうでしょうね!多くの方が、紀伊國屋書店の開催スタイルを参考にしていると伺っています。特に関東のビブリオバトル普及にとって、瀬部さんが果たしてきた役割はとても大きいと思います。

ありがとうございます(笑)

たしかに、紀伊國屋書店のビブリオバトルは、関東での普及にとって推進力になっていたと思います。
ただ、私の感覚でいうと、偶然が重なった結果なんですよね。
ビブリオバトルが関西で拡がりを見せ、そこに紀伊國屋書店本町店が参加したこと、読売新聞や東京都が大きなイベントを開催したこと、東京の紀伊國屋書店でも定期開催が始まり、同時に多くの大学や図書館でも興味を示す人が増えていったこと、こうしたいくつもの大きな流れがあって、たまたまそれらが交わる場所に、私がいたんだな、と思っています。
その流れに、私は乗っかっただけなんですよ。

ー 瀬部さんでないと乗りこなせない流れだったんじゃないかと思いますが…!

私としては、多くの方にとってのサードプレイス(自宅や職場とは隔離された、心地のよい第3の居場所)を提供できた、ということが大きいです。
主催者である私も、仕事ではありましたが、運営の中で友達ができていって、いつしか自分自身のサードプレイスになっていましたね。

司会業の集大成

開催の中で悩んだことや困ったことはありましたか?

書店という、一営利企業が行うイベントで、しかも参加されるのがお客様なので、特にクレームやトラブルが生まれないことに気を使っていました。
ビブリオバトルは店内で行っていたので、全く関係なく本を選びに来ているお客様のご迷惑にならないように、ということや、発表者の方が公の場所としては不適切な発言をされた場合はどうしよう、というのは、難しい問題でした。

ただ運営しながら常に感じていたのは、参加するお客様に作り上げていただいているイベントだったということです。

例えば、批判的な質問などルールを逸脱するような行為があった際、運営側からするとその方もお客様なので注意するのが難しい、と感じることも正直ありました。
でもそういった場合、発表者や他の参加者の皆さんが、悪くなった空気をすぐに良いものに変えてくださるということが何回もありました。

自身の運営能力の不足が原因で申し訳ありませんでしたという話なのですが、参加者の皆さんには本当に今でも感謝しています。

ー 瀬部さんにとって、特に印象に残っているビブリオバトルはありますか?

二つあって、一つは、普及委員会会員でもあり、紀伊國屋書店で私と同じくビブリオバトルを担当していたスガタカシさんの結婚式です。
この式は、神前式ではなくビブリオバトルをするという、「人前ビブリオバトル結婚式」でした。

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もう一つは、紀伊國屋書店のビブリオバトルに参加いただいたのがきっかけで友人になった安村正也さんのことが綴られた、『夢の猫本屋ができるまで』の刊行記念で、トークショーと共に行ったビブリオバトルです。

どちらも私が司会をさせてもらうことになったのですが、お二人の人生の記念になるようなイベントでビブリオバトルを行われたこと、そしてその司会を任せてくれたことは、8年間紀伊國屋書店で取り組んできたことの集大成のように思えて、改めて積み上げたものの大きさを感じました。

プロのビブリオバトルの司会として

ー 瀬部さんは、これからビブリオバトルを通してやってみたいことはありますか?

まずは、司会業を引退したので、一人のプレイヤーとして、ファンとして、ビブリオバトルを楽しみたいという気持ちが強いですね。

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もう一つ挙げるとすれば、司会業を誰かに継承したいな、という思いもあります。
営利企業がお客様に参加してもらうビブリオバトルの司会は、独特の工夫があるんです。
私も、「プロのビブリオバトルの司会」として、発表中の自身の立ち位置を一歩単位で考えるなど、ノウハウを積み重ねてきました。
こうしたスキルを、まだ誰にも引き継げていない気がしているんですよね。

ー 瀬部さんにとって、ビブリオバトルとはなんでしょうか?

人生を変えた仕事、です。

ビブリオバトルに仕事として関われて、その中で多くの親友ができて、その人たちの人生が変わっていく様子が見れたことは、とても幸せなことだと感じています。

ー ありがとうございました!

ありがとうございました。


「ビブ人名鑑」シリーズでは、ビブリオバトル普及委員会で活躍されている方々のインタビュー記事を不定期に掲載していきます。

どうぞお楽しみに!

お読みいただきありがとうございました。

インタビュー・執筆:益井博史
取材日・場所:2020年10月1日(木)Zoomにて

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