止まっても大丈夫。

止まっても大丈夫
理由もわからないまま走る必要はないんだ
夢がなくても大丈夫 
少しでも幸せを感じる瞬間があるなら   
("paradise (楽園)” by BTS)

BTSのこの歌詞を聞いた時、私は高校三年生だった。受験も終わり、ほっと一息ついた頃だった。私のそれまでの「夢」はイギリスの大学に留学することで、それ以外のことはほとんど考えずに高校三年間を過ごした。私とBTSとの出会いは私が高校生の頃、毎日勉強する中で癒しとなっていた存在だった。

BTSはデビュー曲 "No more dream (もう夢はない)" から始まり今に至るまで、「夢」について多くを語ってきたアーティストだ

はかなく過ぎていく青春と若さ、そして夢が永遠に続くことを願う気持ちを切なくも爽やかに歌った曲、"Young forever (花様年華、永遠に若く)"など、「夢」を多面的に描いてきたのだ。

彼ら自身、歌手としての夢に向かってひたむきに進んできた。そんな彼らを見ていると、私も夢を持つこと、そしてそれに向かって走り続ける勇気をもらった

だが、大学受験を走りぬき、走り続けることに疲れていたことも確かだ。

目標とは?夢とはなんなのか、と考えることが多い時期でもあった。

そんな時に、「止まっても大丈夫」「理由もわからないまま走る必要はないんだ」と語りかけてくれたBTSの音楽に救われ、涙した

夢に向かって走り続けてきたBTSだからこそ、その言葉は意味を持っているのだ。

夢を見るのが、夢を掴むのが、息をつくのが時には怖いんだ
世界は悪口を言う資格なんてないよ、
夢を見る方法がなんなのか教えてもらったこともないから。
 ("paradise (楽園)" by BTS)

最初の引用と同曲からの引用だ。この歌詞に共感する人も多いのではないだろうか

夢と同様、自分の進むべき道に迷うことがよくある。

こんなにも多いなんて知らなかった、
進めない道や 選べない道が。
こんな風に感じたことなかった
大人になろうとしてるのかな?
僕には難しすぎるんだ この道が正解なのかなんて
頭がこんがらがる
僕一人を残していかないでよ
信じられないけど それでも信じてるんだ
道を失うってことは、その道を探す方法だから
("Lost" by BTS)

若い世代の将来に対する悩みと葛藤を、これらの単純で素直な言葉でまっすぐ歌詞にするところがBTSの良さである。

悩みの9割はお前が作り上げた自分の想像の沼だ
悩むより進むんだ、叫んでみろ
so what what what (だからなんだ)
(“So what” by BTS)

そして、上の歌詞のような言葉を通じて、BTSは悩んでいる自分を爽快に解放する。

大人に成長していく過程で、誰しも思い悩み、自分を責めることがある。そんな自分を癒してくれる一曲が "Love myself" だ。

どうしてずっと隠そうとしてばかりなの
君の仮面の中へと
自分の間違いでできた傷痕まで全てが僕の星座なのに
もしかしたら他の誰かを愛することより難しいのが自分自身を愛することだよな
正直に認めるものは認めよう
君が下した判断の目安は君にとってより厳しいものなんだよ
昨日の自分、今日の自分、明日の自分
I’m learning how to love myself
一つも抜かすことなく、余すことなく全て僕だ。
(“Love myself” (自分自身を愛そう) by BTS)

なんとなく寂しさを感じたことはあるだろうか?心に小さな隙間風がひゅうひゅうと入ってくる感覚だ。そんな気持ちを代弁し、BTS、そして他のファンと繋がりを感じさせるところもBTSの魅力の一つではないだろうか

ねぇ、なんで神はやたらと僕らを心細くさせるんだろう
傷だらけだったとしても
笑えるんだ、一緒なら
(“A supplementary story: You never walk alone (君は一人じゃない)” by BTS)

また、BTSの世界観は「物事の多面性」を語る。作曲メンバーの一人、リーダーのRMは様々な曲に物事の矛盾や多面性とその狭間にいる自分の葛藤を、機知に富んだ言葉選びで話しかける。

俺は俺を諦められない
俺が知る俺は
俺を放してやれない
俺の頭の中の俺は
こんなにも 欠けてなんてないのに、完全なのに。
‘ずれる(어긋)’っていうのは とても痛く辛いもの
経験してみないと分からないものだ
俺の理想と現実
あまりに遠くて遠い
それでも橋を渡って、自分に触れたい
本当の自分に
(“uh good 어긋” in “mono”, by RM)

英語の曲名はuh good, 韓国語名は어긋である。

어긋は、韓国語で思い通りにならない、行き違う、ズレるなどの意味を持つ(正確にはRMが어긋나다を変形して作った造語)。韓国語で発音した時の音が英語のuh goodに似ている。

自分が思い描く理想と、現実の差に愕然とし、がっかりする事は多々ある。そんな自分の気持ちを代弁するような歌詞で、その先にある「自分」をもっと知りたい、理解したいという思いも込められている。

もしかすると、自分自身と言うものが、一番理解しづらい存在なのかもしれない。自分のこととなると、色々なものが思い浮かんでしまって、そしてそれらが矛盾しあってしまい、どんどん「自分」は池の中深くに沈んでいってしまう

自分とは何か、自分がしたい事は何か、自分は何に情熱が湧くのか、

これらを探し中の人の心に寄り添うのがBTSである。


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