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COLLECTIVE 〜一都六県『関東』エリア〜

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47都道府県の ZINE を公募し展示販売するエキシビジョン COLLECTIVE。一都六県『関東』エリアから参加してくださった方たちの ZINE の紹介ならびに、様々な活動の紹… もっと読む
運営しているクリエイター

#PARKGALLERY

ヤグチリコ 『アサクサジン』 (東京都台東区)

とにかく本とお酒、それと音楽が好きな彼女が指定する待ち合わせ場所は、いつだってお酒が飲めるお店で、遅刻癖のあるぼくに罪悪感を感じさせないよう本を読んで待っている。メールで「遅れる」というと、「もっと遅れて」と返ってくる。 その日は浅草。指定された待ち合わせ場所は昭和の風情漂う喫茶店。指を挟んだ吉行淳之介の文庫本(エッセイ)をそっとポーチにしまいながら、「冷房が効きすぎのくせに瓶ビールはぬるい」と小さな声で文句を言った。その後、今日1日のデートの内容が明かされる。仲見世通りを

星野佑奈 『in a water.』 (東京都杉並区)

一冊の本に綴じられたとき、そこには「一つに綴じられるだけの何かがあった」と感じる。それはコンセプトと呼ばれたりテーマと呼ばれたりして、「私」と「あなた」の接点がない場合には特にそれは重要な意味を持つ。 「私」と「あなた」の間にはなにひとつ共通言語がないから、互いの共通言語となりえるポジションを設定することは大事になるんだと思う。ZINE の場合もそれは同じはずだが、比較的その共通言語が未成熟なものが多く、それが許されているともいえる。 そういうものと触れ合うと、「わかんな

福田 真也 『FLOPS & LINES - 10 stories about "Good Life" -』 (東京都世田谷区)

一度レビューは置いておいて(ついにレビューを置いた!) 今回の COLLECTIVE 。『ZINE』のあり方について大いに語る時間も機会もたくさんたくさんもらえたし、それを理論的に構築する相手も、感情的に隆起させる相手も幸いいて、でもまだまだ輪郭が掴めずにいる。エキシビジョンも終わったばかりでとてもじゃないけれど整理されていないので、語弊なく言えたらいいけれど、輪郭が掴めない要素を少しだけ分解していく。 例えば、ZINE というメディアのイメージが安価であること(具体例:

saorin 『旅と山と、』 (東京都台東区)

羨ましい。 今回並んだ ZINE を見た時に、もしくは今回並んだ ZINE の制作のプロセスをひとつひとつ見た時に『羨ましい』=『嫉妬』に似た感覚を覚えたのはこの1冊に尽きると言える。デザイン、写真のクオリティはもちろん、ストイックなようでやわらかな雰囲気も残っていて、遊び心やロマンチックな要素も忘れていない。自分が作るんだったらこういう ZINE だったなあと頭をかく。 saorin『旅と山と、』vol.1 この ZINE は、<物語のある旅と山の写真案内サイト『畔の

hatopan 『hatopan FIRST BOOK 2018』(神奈川県横浜市)

21歳の頃、自分が何をしたいのか、何を表現をしたいのかまったくわからずひたすら写ルンですを片手に街に出てみたり、とにかくスケッチブックを買ってきて絵を描いてみたり、原稿用紙を買ってきて文章を書いてみたりするのだけれどどれもこれも途中で終了。最後まで完成させたものなど、ない。 『表現したい』 という漠然とした感覚を抱きながら、『表現なんて別にしたいと思っていない』ひとたちと自分の間に線だけ引いて鼻で笑うだけ笑うのだけれど、表現したくてしていないひとと、別に表現したくないひと

東地 雄一郎 『A=A A≠A(moutain)』(東京都武蔵野市)

繰り返し行われることについて少し考えてみる。毎日寝て起きる。ごはんを食べる。歯を磨く。シャワーを浴びる。息をする。これらはまぁよくも飽きずに毎日毎日という感じではあるけれど、『必要』に駈られているわけで、かつこれらの行為には常に『選択肢』が与えられているのでまぁなかなか飽きない。そして毎日同じようでほんとうは毎日少しずつ違う。逆に言うと昨日とまったく同じというのは不可能。 工場の機械も、永遠に反復活動をするかと言ったらそうはいかない。時々メンテナンスをしてあげなければいけな

佐藤鮎生 『ἀνάμνησις』 (群馬県高崎市)

断ち落とし目一杯、余白なしに写されたディテールの世界が64ページ続いていくのを見ていると、徐々にそれが何であるかわからなくなる眩暈のような陶酔感がやってくる。 『ἀνάμνησις』(アナムネーシス)は、平面のテクスチャーや染み、被写体の表面のディテールを収めたフォト・ジンだ。 原始世界で暗い洞窟のなか、壁の凹凸によって作られた影や染みに生き物の姿を見た人間は、その壁画にしなかった部分においても無数の、無限のイメージを見たはずだ。それは彼にとって洞窟の壁をそれ以前とは全く

増田智泰 『SCRAP』 (東京都調布市)

街中に潜む寂れたり朽ちた風景が、上品で構築的なある美しさをまとって僕らの前に蘇ってくる。むしろそれはフレッシュだとすら感じる。 『SCRAP』は、フリーカメラマン 増田智泰 の2017年の個展「SCRAP」に制作された PHOTO ZINE 。都内のほか、愛知や静岡、長野など日本の各地で撮られたスナップ写真が収録されている。 人の手で操作されたモノたちによる風景が、時間の経過とともにその意図を少しだけ逸れて自立していく姿を、写真は見事に掬い上げている。 写真によって断片

豊田玉之介 『煩悩マガジン』 (群馬県高崎市)

<煩悩マガジン> は四コマ漫画的なコマ割りにショートストーリーやドローイングを纏めた ZINE 。 表紙の鈍い赤やざらっとした再生紙が、不条理で悶々とした内容を、効果的に不気味に強化している。 大学時代に何気なく制作しました。 ー 豊田玉之介 すごく、それ分かる気がする。 あの頃のなんだかわからない焦燥感やモラトリアム、その悶々としちゃって周りが見えてない感じ。ハタチを過ぎた吹き出物感というか。僕にもあったなーこの感じ、ってちょっと恥ずかしい気持ちになりました。読んで

HANGER HOLIC 『HANGER STRIKE』 (神奈川県鎌倉市)

鎌倉に行くとある場所に訪れるのが毎年の恒例行事になっている。20歳くらいから17年か。立ち入り禁止なのだけれど(内緒です)。 10代のころ何もない山形の田舎町で毎日のように映画を見ていた。レンタルビデオ、深夜のテレビ、試写会の抽選うんぬん。勉強もせずに同じ映画を何度も見た。まるで『中毒』。 鈴木清順の映画に出会ったのがその頃。タイトルは『ツィゴイネルワイゼン』。鈴木清順『陽炎座』『夢二』と並ぶ『大正浪漫三部作』スペインの作曲家サラサーテの楽曲を題した映画。主演は原田芳雄・

Mayumi Suzuki 『EXIT』 (茨城県城里町)

『EXIT』は、写真家 Mayumi Suzuki が ”EXIT" というテーマで撮影した写真を収録したフォト・ジン。 午前中のまだひんやりとした空気を含んだような、呼吸が楽で心地いい一冊。ふうっとしばらく見つめていたくなる。 鰐(わに)の背中っていいよね。いつ見ても「あれ、こんなだったっけ」と思わせてくれる。そんなに何枚もある訳じゃないんだけど、この <水に浸かっている> って状態が、読後、とても記憶に残る。多用される靄(もや)がかった質感も、幻想的というよりも、この

近藤学 『至極のブツブツ。夏。』 (東京都江東区)

東京に上京してくるまでは、東京の西と東でこんなに文化(雰囲気)が違うということ知らなかった。ここでいう西は、新宿・渋谷・恵比寿・代官山・中目黒・下北沢・三軒茶屋・吉祥寺・高円寺などの町、いわゆるカルチャーの中心『東京』というイメージかと思う。世田谷という響きも忘れてはいけない(もっと西の東京もあるのですがそれはまた別の話)。 そして銀座や日本橋(あるいは皇居)あたりを境に『東の東京』が広がり始める。東と西の雰囲気を大きく分けるのは『下町』というキーワードだろう。東京特有のこ

2.7次元 (でんでん&なっちゅん) 『初めまして。2.7次元です。』(東京都目黒区中目黒)

やっぱりさ、PARK GALLERY が『秋葉原 DEAR STAGE』から近いからか相沢梨紗(でんぱ組inc.)の「2.5次元伝説!」って自己紹介を思い出してしまう。2.5次元ってワードを耳にするようになったのは、いつからだろう? と思って調べてみるといろんなパターンがあるみたいですね。知らなかったなあ。 この ZINE は、2人の女の子がセーラームーン的キラキラ EYE をフェイスペイントした女子高生に扮して街中でポートレートを撮った一冊。2次元的なイメージの3次元への

春山拓思 『NAT SOUND 4 NOON』(千葉県浦安市)

千葉からのエントリーはなんと彼1人。どうした千葉!ファイト!ファイト!ちば!(©️ジャガー)と言えど、PARK GALLERY の知名度の低さを嘆くしかないわけですけれども、春山さんの参加は COLLECTIVE の順調な走り出しの意。納品はもちろん設営にまで手伝いに来てくれた春山さん。たぶんあの日、山積みの ZINE の前、あのタイミングで作家さんと握手しなければ、こんな風に参加者のみなさんに手紙みたいなレビューを書こうとか、会期中にひとの集まれるイベントをやろうとかそうい