わたしたちの秋はまだ終わらない
朝起きたら、急に空気が冷たくなっていた。空間が硬く感じられるほど、部屋の中がひんやりと冴えていた。
「やばいよ、冬が来たかも!」
長女が叫ぶ。気づけば彼女は「やばい」という言葉をさらりとつかうようになっている。親としてなんとなく避けてきた表現であったのに。
うーん、冬っぽい感じがするねえ、とか言いながら、わたしは床暖房のスイッチを入れた。全館床暖房の我が家に、暖房器具は非常用のものしかない。床暖房のスイッチを入れたら、来年、春が来るまでそれのみで過ごすことになる。
ああ、床暖房の季節がやってきてしまった。このスイッチを入れたが最後、家の中が冬の気配で満ちてしまう。じんわりとあたたかく、しかしとんでもなく空気が乾燥する。加湿器の出番だ。
今年は11月になっても気温の高い日が続き、秋らしい風情を楽しめる機会が少なかった。つい昨日まで、ポンチ素材のジャケットをはおるだけで済んでいたのだ。
娘たちとの秋のお出かけも、思ったよりできなかった。何度かのピクニックと某テーマパーク、ときどき大型公園くらいだろうか。
彼女たちはお稽古や地域のイベントに行くことが多く、わたしと夫は送り迎えだけを担当する。小学生になると子どもと親がセットであることを求められるシチュエーションが減るという説はほんとうだった。
物足りない。彼女たちとべったり過ごし足りない。
「ま、小学生になるとそんなもんでしょ」と悟ったふうを装っていたけれど、やはり寂しいものは寂しい。この秋は不完全燃焼なんじゃないだろうか。
彼女たちともう少したくさん思い出をつくりたい。
冬の気配が漂うようになってやっと、わたしは秋を惜しみはじめた。
飲み干したタピオカミルクティーの底に残った黒いつぶつぶを、「人前だから」と諦めたときの気持ちに似ている。あれ、食べたかったんだけど。あのもちっとした食感が楽しいんだけど。
よし、今週末は娘たちとべったりしつつ出かけよう。味わいそびれた秋を回収するのだ。