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ロビイング ちょっと社会を変えてみる方法 :入門編

こんにちは!認定NPO法人フローレンスの前田晃平です。

みなさん、日常生活でのちょっとした困りごとってありませんか。私はあります😢

例えば、妻が妊娠出産した時に想定以上にお金がかかってしまったこととか、保活とか… これからもたくさん出てきそうな予感しかしません。

こういった問題を解決するひとつの手段は、政治です。政治っていうと、ワイドショーとかで出てくるロクでもないもんだと思ってしまいがちですが、実は私たちの生活をより良くするためのナイスな手段です。

そして、この政治に関わる方法はたくさんあります。代表的には選挙に行くことですが、その他にもロビイングという方法があります。

「こんな社会問題で困っている!」ということを政治家に伝えて、実際に変えてもらう活動のことです。私はNPOで働いていて日々政治家と話をする機会があるのですが、これはとても大切なことだと感じています。

政治家といっても、知らないことがたくさんあるからです。

例えば、医療的ケア児に関わったことがない政治家には、当事者が日々直面する苦労なんて想像しようもありません。私たちが適切に伝えることで初めて問題を認知し、解決しようと動いてくれるようになります。

社会をより良くするために、ロビイングはとっても大切なのです❗️

とはいっても、いきなり政治家にコンタクトをとるのはかなりハードルが高いですよね。っていうか、誰に連絡すればいいの?なにを話せばいいの?😨

そこで、当記事では誰でもロビイングができるようになるノウハウを共有しちゃいます❗️

今回は入門編です。活動を始めるにあたり押させておきたい基礎知識をご紹介します📝


🤔 ボトルネックを見極めよう

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突然ですが、問題です(ジャジャン!)

お住まいのまちで待機児童問題が深刻だったとします。子どもを保育園に入れたいあなたは、認可保育園を増やしてほしいと思っています。では、どこにアプローチすれば良いでしょう?国?都道府県?市区町村?


チチチチチチ…… ⏰


正解は、お住まいの市区町村(※)です❗️

※ : ただし、基礎自治体が計画を立てますが、最終的な認可は都道府県です。なお、政令指定市、中核市、及び権限移譲市は、認可をそれぞれの市で行っています


だから、もしこの問題を県議会議員や国会議員に訴えても「まずはお住まいの市にお問合せください…」とかって言われてしまうかもしれません。

この他、例えば「うちのまちにも児童相談所を設置したい」なら都道府県(か、政令制定都市、中核市、特別区)ですし、先日実際にあった「多胎児のママが、ベビーカーと一緒に都バスに乗ろうとしたら乗車拒否された!」なら東京都です。

私たちが解決したい社会問題は、トピックごとに管轄している行政のレイヤーが異なります。

まずはここを押さえましょう。ネットで調べればすぐに出てきます。


😏 最小限の変化で最高の結果を得よう

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どこにアプローチするかわかったら、次に知りたいのは「何を変えればいいのか」です。例えば、先ほどの問題で出た「認可保育園を増やしたい」はどうしたら解決するでしょう。

法律を変えますか?それとも条例でしょうか?(※)

※ : 社会にはルールがあり、その強さは「 憲法 > 法律 > 条例 」です。憲法と法律は国会で、条例は地方自治体でつくられます。条例は法律に違反しない範囲でしかつくれません。


実は、どちらも変える必要はありません。この場合は自治体の予算です。

「予算増やして保育園を設置して!」という要望になります。

保育園の設置は児童福祉法という法律が根拠になっていますが、自治体が設置する数について具体的な言及はありません。つまり、そこは自治体の裁量にゆだねられています。

そして、詳しくは後ほど説明しますが、自治体の予算は行政が「やります!」と意思決定してくれれば済む話なので、ロビイングの難易度は相対的に高くないのです。

でも、こんな意見もあるかも。

「児童福祉法を改正して、待機児童ゼロを自治体に義務付ければいいじゃん」

まったく正論です。確かにこれが根本的な解決方法。これができれば日本全国の待機児童問題が永久に消滅することになります。

でも、これ超絶難しいんですよね。

法律を変えるってことは、国会議員の過半数に賛成してもらう必要があります。そして、現在の与党はやろうと思えばできるのにあえてやっていないわけですから、やりたくない理由があるのです。それを説得しなければなりません。

本章の冒頭にあった図でいうと、左下にいくほどロビイングの難易度が上がります。

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はっきり言って、法律を変えるレベルのロビイングは、ワンピースで言えば四皇を倒すくらい難しいです。

ロビイングはあくまで私たちの生活を改善することが目的ですから、実現可能性を考えることも大切だと私は思います。


😎 政治を動かす力学を知ろう

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「どこに、何を」変えにいくのかわかったところで、次はいよいよ「誰に」アプローチするべきか考えてみましょう ✊

今回は、私たちにとって身近な地方自治体についてみてみます。

まず地方政治で最強のパワーを持っているのは誰かと言えば、そう、首長(※)ですよね。市長とか、知事のことです。

※ : 一般的には「しゅちょう」と読みます。でもどういうわけか政治業界にいる人ほど「くびちょう」っていってる率が高い気がしますw


首長の持っている権力はまさにケタ外れ。まず、次年度の予算を編成することができるのは首長です。行政のお金を一手に握っているわけですね。すごい。

さらに、首長は議会を通過した条例があったとしても、拒否する権利があるのです。「ヤダ」って言えちゃう。過半数の議員が賛成しててもです。

極め付けは「専決処分」です。

本来なら議会の決定を経なければならない事柄が、議員の反対などで決まらないとき、首長はそれを一存で押し通すことができてしまうのです。

内閣総理大臣と比べるとこんな感じです。

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地域のロビイング活動において、首長の本気の賛同を得ることができたなら、成功確率はめちゃくちゃあがるということですね。

しかし、いうまでもないことですが市長はめちゃくちゃ多忙な上に、たったひとりしかいません。アプローチする難易度も高いです。そこにいくと、地方議員はたくさんいます。

その上、地域住民の困りごとを聞くのは議員の仕事そのものです。電話なりメールなりで丁寧に連絡すればだいたい会ってくれます。

議員は議会で過半数の勢力があれば条例の改廃ができますし、議員ひとりでも予算のチェックや行政の各種執行事務の監視や調査ができます。

行政サービスの内容などに「ちょっとそれおかしいんじゃないの?」と注文をつけることができるんですね。それに対して行政が「確かに。直します🙆‍♂️」と意思決定してくれれば問題は解決。頼もしい!

議員へのアプローチは、与党議員の方が優先順位は高いです。まずはネットで議会の勢力を調べてみましょう。与党が国会と同じとは限らないので要注意です。

ただし❗️

地方政治に特有のポイントとして、首長と近い政党がどこかも知っておく必要があります。これはとても重要です。

国会では、行政のトップである内閣総理大臣は国会議員が選ぶので「議会勢力で過半数を持っている与党 総理の所属する政党」です。

ところが、地方議会ではそうとは限りません。首長も議員もそれぞれ住民が直接選挙で選ぶからです。そして、地方政治において首長の権力は絶大。首長の出身(関係が深い)政党の議員は首長とつながってる可能性が高いわけですから、こっちも押させておく必要があります。

なお、じゃあ無所属などの野党議員は役立たずなのかっていうとそんなことはありません。繰り返しますが議員はひとりでも予算のチェックや行政の各種執行事務の監視や調査ができます。

野党議員が熱心に行政に訴えてくれれば、変えられることはたくさんあります。例えば、こんな感じです ↓

私たちが解決したい社会問題、それは何を変えれば解決するのか、それはどの議員だったら本気でやってくれそうか(議員のHPやSNSをみれば本気で関心のあるテーマはだいたいわかります)、そしてその実行力はあるか、などの要素を総合的に加味してアプローチする議員を決めたいですね。


😳 予算や条例ができるプロセスを知ろう

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いよいよ最後のポイントです。

ここまでで、どこの自治体に、何を変えに、誰に会いにいくのか、わかりました。残すは「いつ」いくのかです。これを考えるには、条例や予算ができるプロセスを知る必要があります。

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地方議会は上図の通り、年に4回の定例会が実施されていて、ここで条例や予算が決まります。期間は約ひと月です。そしてこの定例会には、行政も議員もしっかり準備をして臨みます。つまり、定例会が始まってからロビイングをかけては遅いのです。

私たちも計画的に活動する必要があるんですね!

なお、この定例会の中身は本会議委員会によって構成されています。超ざっくりいうと、本会議とは市長が「今回はこんなことについて話したい」と大きな方針について説明し、質疑、採決をする場所です。議員も全員参加。

でも、本会議ではおおまかなことしか話せません。

行政の扱う議案は私たちの生活のあらゆることに及んでいるので、全部ここでやってたら時間が足りないからです。

そこで、本会議でおおまかな議論の方向が決まったら、細かい議論は委員会に任されます。委員会は、分野ごとに設置されています。例えば文教委員会とか保健福祉委員会とか建設環境委員会、とかです(自治体によって名称は異なります)

議員は、必ずいずれかの委員会に所属しています。

先ほどの「誰に」アプローチするかの話にもなりますが、ロビイングをするにあたって、自分が解決したい社会問題が扱われている委員会に所属している議員をおさえておくのはとても重要です。

これは各自治体のHPで公開されていますので、必ずチェックしましょう 📝


そして最後に、とっても大事な予算について 💰💰💰

年度の予算を決定するのは、3月の定例会です。ここで徹底的に議論されます。でも、やっぱりこのタイミングであれこれ要望しても遅いんです。

予算の大枠を決定するのは市長ですが、実は前年の夏頃から諸々検討を始めているんですね。

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3月の議会でその予算の可否について喧々諤々の議論がなされるとはいえ、この段階ではすでに役所の中で様々な調整を終えています。

つまり、ここから大きな予算変更をすることは至難の技と言わねばなりません。大きな仕掛けをするときは、じっくり時間をかける必要があります。

でも、この3月で決定する年度予算に要望を組み込めなかったとしても、まだ諦める必要はありません。補正予算があるからです。

ただ補正予算は災害などの緊急事態だったり、基本的には想定外のことが発生した時のためのものです。恒常的な予算にはなりづらいです。

ロビイングは、一朝一夕で成果が出るものではありません。時間をかけて、粘り強く、小さな機会を捉えて進めていきましょう 💨💨💨


💡


長くなってしまいましたが、以上になります!

今回はロビイングを始めるにあたっておさえておきたい基本的な知識を紹介させてもらいました。

実践編とか応用編は、別記事で書きたいと思ってます(ニーズがあれば…)


ただ、別にロビイングはこういう知識がないとできないものでは決してありません。いつだって、誰だってできることです。

今回ご紹介したような知識は、成功確率をほんの少しアップさせるだけのものに過ぎません(自分でせっせと書いておいてあれですが😅)

実際、私の同僚のいっちーはこんなことほとんど知らないまま活動を始めて、地元のまちや東京都、そして国までも動かして、社会を変えてしまいました。

私自身も、完全に手探りで国会議員や官僚、そして専門家やメディア各位と連携してソーシャルアクションに取り組んでいます。


私たちの社会は、どっかのエライ人が勝手に良くしてるものではありません。黙ってたら何も変わらないんです。

「ロビイング」なんて大層な言い方してますけども、この活動って要は自分たちの社会を自分たちで良くしていこうよってだけの、極めてアタリマエのことなんですよね。

民主主義っていうのは、そういうものだと思うんです。


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