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【コピーは、コーヒー牛乳飲みながら。1~5】

先日のコピーライター奥村明彦さんに取材した31杯目、ありがたいことに多くの方からシェアをいただくことができました。本当に感謝します。

その中で現在は公開が終了している過去の記事も閲覧したいとのリクエストも頂きまして、その第一弾として一杯目から五杯目を再編集・再公開することにしました。当時はまだ自分語りのブログ形式中心で、いかにコピーライターになったかまでが描かれています。(当時のペンネームはダイゴロでした、懐かしい…)最後までご覧頂ければ幸いです!ぐいっ。

一杯目は、固めに(2017.8.4)

(む…俺のコピー、固いな…)

初めまして、コピーライターのダイゴロといいます。

今回こちらで「コピーライターの日常」を連載することになりました。まずは自己紹介ということになり「コピーライターだし、今までのコピーでも紹介しよう」と、過去の自作をチェックしていた訳です。

が…が…全体的にコピーが…固い…! そもそもコピーライターは、クライアントが喜ぶものを書く仕事。ゆえに固いコピーを書くことも多いんですが、読者的にはどうなんだろう…。

という訳で過去に書いたコピーを3つほど。

1.「乗るたびに、高揚感。」「はかどる、爽快感。」「思い描いた、満足感。」

某トラクターのコピー。製品を使うことで、農家の人に誇りを持って仕事をしてほしいというコピーで、個人的にすごくやりがいのある仕事でした。でも、1個目にしては固いな…。

2.「さあ、贅沢な旅の始まりです。」

高級感あるサービスを表現した、某航空サービスのコピー。ワクワク感とシズルがあるコピーと自分では思ってるんですが、これもやや固いかも…!

3.「最低な電気です、料金が。」

あ、これは固くないはず。最近、某広告賞で最終審査一歩手前までいった、某地方の電気会社のコピーです(初回から「某」の多さはご容赦ください)。その値段の安さを訴求したコピーで、クライアントをきっちりPRしたつもり。が、SNSで発表したら「なんて最低なコピーなんだ!」と言われました。悪かったな!

こんな感じで、いろんなコピーを書いてます。やっぱり大事なのはクライアントが喜ぶことを書くことでそれがすごく好きなんですが、たまーに砕けたものも書きたくなるんですよね…ああ、初回から固い。肩の力を抜いて書くつもりだったのに。よし、コーヒー牛乳でも飲んでリラックスするか。あ、手元にBOS◯しかないや。では皆様、よろしければ次回もお付き合いください。ぐいっ。


二杯目は、異国のホテルから(2017.8.18)

第二回目は、お盆休みに訪れた海外からお送りします。この国も日本と同じく、様々な観光用の広告に溢れています。ああ、そういえば自分がコピーライターになったきっかけも観光広告だったな。ホテルの窓から外を見ながら、ふと思い出しました。

実は広告の仕事をする前の職場は、地方のホテル。出身地からだいぶ離れた温泉地で社会人デビューしました。

チェックインの手続きをしたり、客室案内に食堂の手伝い、さらには大浴場の大掃除。慣れない環境下での勤務に右往左往したのを覚えています。一番大変だったのは夜勤。夕方4時から深夜ぶっ通しで働き、チェックアウトが終わる翌朝10時までの仕事は、もともと徹夜が苦手だった自分には当時かなりキツかったものです。

そんなある日、ふと街の観光ポスターが目に入りました。

「人が澄む街」

へえ、「住む」を「澄む」にしたんだ。なかなか素敵なキャッチコピーだなー。……どこがだよ! 澄むどころか疲労で濁ってるぞ、住んでる俺が。怒りでポスターを引きちぎりそうになるのを必死にこらえました。しかしその後、自分の中で変化がありました。

美しい自然の中で、季節ごとにこの温泉地は姿を変えます。春は少し遅めに咲く桜が見所で、夏は高山植物を楽しむ登山客でにぎわいます。秋は紅葉や黄金色の稲畑に心を癒され、長い冬は深々と降る雪を眺めながら湯に浸かる。

このコピーを見てしばらく経ってから、この町の魅力に少しずつだけれど気がつくようになりました。言葉によって人の心が動かされる。「キャッチコピーの力ってすごい……」。この体験がのちにコピーライターを志すきっかけになるとはこのときは……。

と、ここで異国のホテルの部屋のドアが叩かれました。ああ、そうだ、この国のビールをフロントに注文していたんだ。というわけで、コピーライターになったきっかけはここまで。次回もお付き合いください。異国より乾杯! ぐいっ。


三杯目は、夏の渋谷をさまよいながら(2017.09.01)

第三回目は、8月末の渋谷からお送りします。夕暮れですが、気温は36度。冷房の効いたカフェを探しているんですが、どこも満席。ですよね〜と、ふと宮益坂が目に入りました。確か、この坂の上にあったんです、コピーの教室が。

6年前、観光ポスターの衝撃体験を経て、コピーライターへの転職を決意。上京し、青山・こどもの城(現在は閉館)で行われている養成講座に通いだしました。週2回、有名クリエイターが講師を務め、コピーやCM案の課題を150人近い受講生に出す。トップ10に入ると優秀賞として与えられる「金の鉛筆」を競い合う半年間のプログラムでした。ここで講師に気に入られ、そのまま就職!と思っていましたが、現実は全くダメでした。

何がすごいって、受講生がストイック。ある人は、誰よりもアピールするために10個コピーを書けと言われたら100個書く。ある人は、想像だけでは作れないコピーを書くために商品の売り場に通い、店員に何度も取材をする。いいコピーのために何でもやっていました。それに対し自分は講師に褒められることばかり考え、かっこつけて中身のないコピーを連発し惨敗。見事にスベっていました……(今スベってないとはいわない)。

やがて半年が過ぎ。卒業記念展をしようという話になり、そのコピーをみんなで競うことになりました。負けすぎてカッコつける気も失せ「せめて一緒に頑張った仲間にお礼を伝えよう……」と考えたのがこちら。

「一人では、一行も踏み出せませんでした。」

意外なことに第二位に選ばれました。今思えば、飾らない素直な感謝をコピーにしたのが良かったのだと思います。そして、仲間からこんな一言をもらいました。

「この半年間がリアルに思い出せるなあ」

そうか、自分のコピーによって、半年間一生懸命書いてきた光景がみんなの目に浮かんだんだ。想像力や記憶を刺激して映像を見せるのがコピーなんだ。気づくの遅!と当時の自分に突っ込みたいのですが、その2つの気づきを今でも大切にしています。

……って、満席カフェがもう7軒目。暑くて死にそうです。もういい、自動販売機だ! コーヒーより夏は冷たいポ○リだ! というわけで、養成講座時代の話はここまで。次回もお付き合いください。ぐいっ。


四杯目は、取材を終えたデスクにて(2017.09.01)

第四回目は、電話取材が終わり、一息ついたデスクからお送りします。クライアントの地方自治体に色々質問し、これからコピーを書き起こすわけでして。コピーライターは突然文章がひらめく……なんてことは全くありません。資料を読み整理し、熟考を重ね、ようやく人の心をつかむコピーが完成するのです!

………はい、ワタクシ、あんまりできていません。

資料を勘違いしたり、考えすぎて変な文章になったり。正直、情報分析って苦手でして……。それでも自分の頭だけで考えず、情報に耳を傾ける姿勢を保つこと。その大切さを教えてくれたのが、かつて言われたある言葉でした。

「君のコピーは4畳半のコピーだね」

前回書いたコピー講座を卒業後、さらにハイレベルな講座を受講していた当時。少しずつコピーを褒められるようになり、クラスのベスト3に残ることも何度かありました。「才能開花キター!(当時から調子こいてました)」そんなある日、授業で、ある著名なコピーライターの先生が一人一人に講評を述べる中、この言葉を静かに自分に告げたのです。あの頃は「?」状態だったのですが、その意味を今ではなんとなく理解しています。

君は、自分の頭だけで考えるクセがある。もっと多くの情報を集め、吟味しなさい。他人の言葉に耳を傾け、君自身の言葉の幅を広げなさい。でなければ君のコピーは、その脳みそという名の小さなアパートの一室でしか通用しないよ?

こういうことだったんですね、先生。この言葉、ずっと胸に刻んでますよ。……さて、今コピーが書き上がりました。うん、六畳くらいかな! ……いい加減、アパートの扉突き破れよ! 引きこもりかよ! あと、文章が相変わらずバカっぽいよ! (同じサイト内の)塩田さんの「気ままに公募ママ」のような、知的で落ち着いた言葉を見習いなさい!(先日はご紹介ありがとうございます)。精進を込め、デスク横に置いたエビ○ンをわし掴みました。次回もお付き合いください。ぐいっ。


五杯目は、試乗会の風に吹かれて(2017.09.15)

第5回は、都内で行われた最新電動自転車の試乗会から、お送りします。おお、スゴいスピード。坂とか全然楽で変な声上げそう。ああ、最高の日曜日だ。

……これ、遊びだけど遊びじゃありません。宣伝会議賞の課題である、この自転車の情報収集に来たのです。

宣伝会議賞。様々な企業の課題に対してキャッチコピーやCMを応募し、グランプリ・100万円を競う一年に一度の祭り。毎年50万点も応募がある、公募ガイドも注目の巨大コンペです。

かくゆう自分も応募しており……今年7年目。9〜10月の応募期間に毎年1000本以上出しています。過去の受賞作を研究し、60日間スマホやノートにコピーを書き殴る、書き殴る。3年前に「今年で最後」と宣言し2000本を出したのですが受賞できず、「じゃあ延長戦」「終わらなかったからPK」と言い続け、今年は「諦めたら試合終了だよ」と開き直り参加しております。往生際悪い!

ここまでハマったのは、全国にライバルがいるから。SNSや飲み会を通じてコピーライターだけでなく、主婦、絵本作家、葬儀屋さんまでこの賞に全力を傾ける仲間たちと知り合いました。受賞作を10年分言える人もいれば、2カ月丸々休暇をとって書く人も。「この人、何十本一次審査通過してるんだ!?」「その視点、思いつかないよ」「受賞おめでとう!……あ、違う人にLINEしてた」結果発表までの間、毎年彼らとこんなふうに盛り上がります。そして、グランプリ決定の瞬間、悔しがりながら互いの健闘を讃える……不思議な関係の彼らがいるから、本気で勝ちたい。

「子どもが苦手なものは一度揚げてみる。」

昨年のグランプリの方とは面識がありませんが、このコピーを見た瞬間負けた、と思いました。家族のため厨房に立つ主婦の眼差し。俺は、これ以上のコピーを今年書けるだろうか。

さて、試乗会も終了。この気持ちよさ、購入しても……む、予想以上の値段。グランプリ獲ってからだな! 妄想に走る頭を冷やすため、おーい、お○(96円)を飲み干すのでした。ぐいっ。


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