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クリスマス・スコーン

「スコーンが食べたい・・・」

スタバのショーケースに鎮座するスコーンに
私はそうつぶやいた。

「ふーん。じゃあ作ろっか?」

嫁が即座に応える。

「えっ、作ってくれるの?“あの”スコーン!」

「ぬっふっふ。いいチョコが手に入ったのよ」

かくしてクリスマス・イブに我が家では
最強のスコーンが焼きあがったのだった。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「スコーン?別に好きじゃないなぁ」

私はスコーンが苦手だった。
もさもさするし、生地のカケラが落ちるし
口の中の水分がもっていかれてしまうしで
ハッキリ言って食べなくても問題ない菓子。

クッキーやフィナンシェなどの焼き菓子と
比べてしまうと、どうしても劣ってしまう。
私のスコーンの位置づけはその程度だった。

しかし数年前のある日のこと。
嫁が気まぐれで焼いたスコーンを食べると

!?

「はあああああ!?なにこれ?美味すぎる」

スコーンの順位は他の焼き菓子を押しのけ
一躍ぶっちぎりのトップにおどり出たのだ。

そのスコーンはタイトル画像のもの。
もさもさするし、生地のカケラは落ちるし
口の中の水分がもっていかれてしまうのは
あいかわらずなんだけども、美味しすぎる

熱せられたバターと生地が融け合う香りで
脳がやられてしまう。早く食べろと急かす。
カリカリに焼かれたそれは挑発するように
チョコレートの塊を覗かせて誘いをかける。

歯にかかる心地よい固さ、くだける面白さ
噛むたびに広がる味覚の幸福感。うっとり。

余韻を珈琲で流すことにより味が変化する。
あぁやばい。なにもかもが美味しい。ギルティ

「たしかにこれ美味しいね。作って良かった」

聞けば某芸能人がYouTubeで公開したレシピを
元にして作ってみたのだとか。
こんなにも美味しいものが家庭でできるとは。

「食べてるときになんだけどさ、また作ってよ」

私はもう次のスコーンの催促をしていた。
そのくらい感動したし食べたいと思ったのだ。

「そうだね。また作ってみるね」

しかしその“また”は叶えられなかった。
このスコーンにおける超重要ポイントである
チョコレートが見つからないのである。

嫁は安価で美味しいものを作るのに拘りがあり
それはこのスコーンにも色濃く反映されていた。

全体的に安い材料で作れるスコーンなのだけど
チョコレートがどうにも売っていない。
焼き菓子用で、大きめで、安価なチョコが
めったに見つからないだ。

ことあるごとに
「あのスコーン食べたい」とせがむ私だが
「チョコが見つかったらね」とかわされる。

やがて時は流れて忘れかけていたところに
クリスマス・イブの奇跡である。
ちょっと最高すぎじゃないか。

どうやら今年も最高のクリスマス。
サンタクロースは隣にいたのだ。


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