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【短編小説】黄昏、そして、きらめき(1)

濱田真理は、戦後の復興期、オリンピックの頃に生まれ、令和の時代を生きる女性。これは、彼女の思い出を振り返りつつ、時代の変化を見ていく物語である。
 
 真理の両親は健在である。しかしながら、父親は今年春の転倒をきっかけとして、現在車椅子生活を余儀なくされている。時々、実家に帰る真理は、ある日、新しい年に向けて日記帳を買いたいという父に付き添い近所の大型スーパーに行くことになった。たまには、母に介護から離れた、つかの間の自由を。という想いもある。
 
 年末で込み合っているスーパーの中、車いすで進んでいく。エレベーターでは、最初に乗り込んだが、あとから沢山の子供を連れた若い女性が2名、乗ってきた。真理は思った。「車いすが真ん中を陣取ってしまったけれど、みんな乗れるかな?でも、この車いす、電動だから動かすの無理だな。切り返しが難しそう。」口に出ていた言葉は、「真ん中陣取ってしまってすみません。」かえってきた反応は、真理の予想に反して、あたたかいものだった。「大丈夫ですよ。」明るい笑顔。そして、子供たちが、わいわいと、車いすを取り囲む。父もにこにこと、子供たちに話しかけている。暖かい空気が、エレベーターの中に満ちる。

 真理はふと思い出す。子供時代に見たドラマを。それは、「男たちの旅路」という名前で、毎回違うテーマでドラマが組み立てられていた。その中のひとつに、車いす生活を余儀なくされた若い男性が、階段のある店で門前払いを食わされ、悔しい想いをするというお話があった。当時は、現在のようなバリアフリーという概念からは程遠く、身体の不自由な人の外出がままならない時代だった。電車に乗ろうとすれば迷惑がられる。そんな時代だった。子供心にも、なんとかならないものだろうか。と思ったことを、真理は思い出していた。

 真理は思う。時代が変わってよかった。どうやって変わったのだろうか。マスコミの力も大きいかもしれないと思った。パラリンピックがここまで大きく取り上げられる日がくることは想像していなかった。けれど、世の中を動かしたのはきっと、この世に住んでいる一人一人の思いなのだろう。と、真理は令和の冬の空を見ながら感じていた。

(つづく)

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