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【LIVE】2021/4/25 GRAPEVINE LIVE AT HIBIYA PARK

東京都を含む4都府県に緊急事態宣言が発令され、その初日である4月25日、私は日比谷野外大音楽堂を訪れた。「ライブを観に行くことに躊躇いがなかったのか?」と聞かれてしまえば、ぶっちゃけYESである。でも、ライブが始まり1曲目の「FLY」のイントロが流れ出すと「おぉ、これや」と何か手応えを感じたかのような笑みを田中さんが溢した。思うようにライブ活動ができなくなった彼らが約5ヶ月ぶりのステージに立つ心境を想うと、自分が今ここ(野音)にいることへの迷いは消えた。

* * *

昨年の秋に開催されたFALL TOURでは、バンドとファンが約1年ぶりに一堂に会することで、各々にある”GRAPEVINE”を確かめ合うような時間になった。しかし、今回の野音のライブには、彼らがそこから更に新しいステージへと突き抜けた感があった。その重要なファクターが、5月26日に発売されるアルバム『新しい果実』からの新曲を4曲も初披露するという大盤振る舞いである。オーディエンスの反応を気にする素振りを見せずに、いつになく前のめりに攻めるパフォーマンスは、観ていてとにかく気持ちが良い。

もちろん既存曲からのセレクトも素晴らしかった。ブルージーなアコースティックギターと軽やかな歌メロに胸が弾む「Darlin’ from hell」、サイケデリックで重たいロックサウンドに思わず拳を振り上げた「MISOGI」、ファンキー&ソウルフルな「JIVE」などなど。「風待ち」や「アルファビル」といったしっとり系も良いのだけど、バンドとしてのグルーヴを堪能できるバインのライブはやはり最高である。

また、野音でライブをするのが6年ぶりということもあって、バンドはどんどん開放的になっていくし、彼らに呼応するよう立ち上がってライブを楽しむオーディエンスが多いこと!マスク必須で声が出せない状態とは言え(まぁコロナ前からバインのライブでは、コール&レスポンスやシンガロングは皆無だけど)、いつかのライブハウスの光景が、私の頭の中でフラッシュバックする。「あぁバインはロックバンドなのだなぁ…」と、久しぶりの感触を確かめられたことが、個人的にすごく嬉しかった。

先述した新曲のうちの1曲「Gifted」は3月17日に配信リリース済みだが、ライブで披露されるのはこの日が初。天気予報では雨だったにに、一度も降られることなくすがすがしい晴れ間が広がっていたが、徐々にグレーに染まり始めた空の下。そこで放たれる不穏なバンドサウンドに思わず息を吞んだ。

《神様が匙投げた 華やかなふりをした世界で》
《おまえの価値をくれないか 舞台は例のノリで虚構を演じている そこでさ おまえの出番を待っていたんだ》

騒々しい東京の街で聴くと、ますますリアリティが湧いてしまうこの歌詞は、田中さん曰く、コロナ禍を意識して書いたわけではないようだ。しかし「こんな酷な世界、何とかしておくれよ!」と、怒りをぶつけるかのように天賦の才(=「Gifted」)を乞う歌に聴こえるのは、きっと私だけではないと思う。そして、諦めのようなファルセットの《さよなら》が夜空に吸い込まれしまうと、ライブ本編最後の曲として届けられたのは、1999年にリリースの彼らの代表曲「光について」。

正直言うと「あ、またこの曲か…」と選曲に飽き飽きしている自分がいた。ところが、そらで歌える歌詞を聴いていくうちに、飽きている場合ではないことに気が付く。そして、《何もかも全て受け止められるなら 何を見ていられた?》と、聴き馴染みのあるフレーズを耳にした途端、私はハッと我に返った。バンドはライブを思うようにできなくなり、ファンはライブを観に行きづらくなった。昨年2月末から始まったこの状況は進歩と退行を繰り返すばかりで、音楽を愛する者にとっての厳しい季節はもうしばらく続くのだと思う。でも、だからこそ彼らは《僕らはまだここにあるさ》と、自分たちがこうして”ここ”に存在する意義を確かめたかったのではないだろうか。

あらゆる光について歌ってきた彼らは、人間の闇をさらす残酷なものとして光を歌うときがある。しかし、野音で放った「光について」は、確かに希望として受け取れるタフでやさしい光だった。

…と書いておきながら、あくまでもこのテキストは野音のライブを観ていたひとり客である私の自分勝手な解釈であって、バイン側にしてみたら思い違いである可能性は大いにある。彼らはリスナーに向けて救いの言葉を差し出さないし、答えを指し示すこともしない(ちなみに、私はそれを冷たいとは思っていない)。でも《明日の朝 また目が覚めれば こんな気持ちは消えてしまう 今のうちに話とくこと》と諭してくれたのだ(と思った)から、私はこうして自分の言葉で綴ってみた。6年ぶりの野音でのライブ、アンコールのラストに演奏された曲が「smalltown,superhero」だったことには、まるで自分たちを「小さな街の小さなヒーロー」なのだと、控えめに宣言しているように感じたけれど、果たして「彼らが小さな街の小さなヒーローなのだろうか?」と聞かれたら、私はハッキリと否定する。

来月には新しいアルバムがリリースされ、6月には待望の全国ツアーが始まる予定である。私は、メンバーのいないあたたかな余韻に包まれた野音のステージを見つめながら、何事もなく無事ツアーが開催されるようにと静かに願う。そして会場を後にした。







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