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人事の仕事⑤実際に現場で行われる機能別の人事業務1

以前のコラムで、人事の役割とは「事業計画を実現するために、経営資源である人と組織を最大限活用すること」であり、そのために、経営視点から見た人事の機能や人事が柱とすべきKPIをお伝えしました。

また、実際に施策として展開していこうとすると、時代の変化、その企業の歴史や風土・経営者の考え方・業績・組織規模・組織形態・業種・職種などに応じた制度や採用、教育の仕方を練り上げる必要があることもお伝えしました。つまり、採用や教育、制度といった人事業務に関する「解」は一つではなく、本当に「無数に存在する」ことになります。人事は難しいといわれる所以はここにあります。

よく研修やセミナーで、「先生、ジラさないで早く人事の正解を教えてくださいよ。」などと言われる方がいらっしゃいますが、そんなものがあれば、私たちが知りたいくらいです。また、「これが正解」などと言う業者やコンサルタントが居るのならば、それは大手であろうが何であろうが、怪しいと見て間違いありません。ベターなやり方はあっても、ベストなどというものはこの世界にはないのです。

ただし、そうはいっても理論理屈(いわゆるロジック)や判断基準が無いと仕組みは作りようがありませんので、核となる考え方や手法、判断基準をベースとして、経営トップの考え方に近いものを選択するようにします。ある意味、本当にきちんとやろうとすると、「アートと科学」「客観と主観」「国語と数学」「人情と非情」といったものを融合させる必要があるのが人事業務であり、正直な話、非常に高難易度な仕事だといえます。

さて、これから人事業務の機能を挙げていくにあたり、一般的には入社から配置、退職までの人材フローから述べられるケース、採用や教育、制度などの企画と運用から述べられるケース、さらには経営サイドと現場サイドから述べられるケースがありますが、ここでは現場で機能別に担当として切り分けられている人事業務の単位として7つに分けて説明をしていきます。

①人事政策、人事戦略に関する業務
②採用、配属に関する業務
③教育研修に関する業務
④人事制度に関する業務
⑤入退社処理、勤怠・給与計算、福利厚生に関する業務
⑥労働法令対応、労務管理、安全衛生に関する業務
⑦部署マネジメント、エンゲージメントに関する業務

このパートに関しては、これから人事担当者としてスタートを切る方や、切ったばかりでどこを向いて仕事をしていくべきか定まっていない方が読むと良い内容となります。人事部門としての全般的な知識や深い経験、実績がある方でも、改めて確認することで自身を客観視できて良いでしょう。

①人事政策、人事戦略に関する業務

外部コンサルタントに依頼したり、社内においては経営企画室的な部署が担うことの多い人事政策・人事戦略に関する業務。時代の変化や市場の流れといった社外環境や、社内における業務・組織の経営課題を踏まえて、中長期的な会社の未来を描いていく、というものです。

経営課題分析に用いる主な手法として、売上高成長率、売上高人件費率、労働分配率、一人当たり売上高、総額人件費推移、従業員年齢別ピラミッドグラフ、昇給率推移、離職率、などを見比べる定量的な分析手法と、経営トップや現場の想い・要望などをそれぞれテーマ別・課題別にまとめていく定性的な分析手法があります。

また、現状の組織形態、意思決定(権限や職務分掌)の在り方、組織階層を跨いだコミュニケーションの取り方、会社の風土、社内の雰囲気なども同時に考えていくことが重要になります。

政策の大きな方向性としては、
「人材一人ひとりを徹底的に価値観・知識・スキルを磨いてプロフェッショナルを作っていく」
「共通のプラットフォームに乗せてゼネラリストとして育て、付加価値部分を伸ばしていく」
「相当な部分をシステム化・ロボット化し、誰でもできる化を進めて個人に依存しないようにする」

といった違いがあります。

例えば、5~10年後を見据えて、次世代の経営者や管理者を何名研修センターで育成していく、そのために3年後にはその卵を何名他流試合で育成していく、そのために新卒採用や中途採用でそうした資質を持つ人材を採用する、そのために向こう一年で共通のプラットフォームを作る、などの未来の組織図と人員計画、政策を決めていきます。作りたい組織によっては、こうした中長期的な戦略に基づいて、現在の組織や権限・責任の所在を見直す必要も出てくるでしょう。これらの計画は一度決めたらもう変えないというものではなく、2~3年おきに見直していく性質のものです。

同業他社や業界トップを走る企業をベンチマークする企業もありますが、こと人事政策、人事戦略は経営トップの人柄や社風、ビジネスモデル、過去の歴史からにじみ出る文化的側面があるため、やはり経営トップの「どんな会社にしたいか?」というメッセージに拠るところが大きいといえます。

ここで、言うことがコロコロと変わるなど経営ビジョンにブレがある、人事に対してあまり関心がない、または意思決定を行いたがらない場合はその後の各種人事政策の進展が怪しいものとなります。そうした場合は、タイミングを見て問いかけたり、外部コンサルタントに話をさせる、経営セミナーに参加してもらうなどして問題意識を持たせる動きを行うところから始めるとよいでしょう。

②採用、配属に関する業務

中小企業における「人事」とは多くの場合、新卒採用や中途採用を主に行う担当者を指すことが多いといえそうです。従業員が毎月または四半期でそれなりの人数退職していくため、それを補充するための中途採用や新卒採用を専門に行う担当者が必要になるのです。これは戦略的に行っているというよりはやむにやまれず行っているというほうが正しいのかもしれません。

本来は、中期の事業計画の中で業績目標が上向いているようであれば、売上や利益の伸びに対して必要な人員を採用し、欠員補充すべき人員を別途採用する、という形になります。また、IPOを目指すような場合は企業ブランディングや管理部門(内部統制)のエキスパートが必要になるため、そうした特殊な人材を外部から採用するという採用計画が組まれることになります。

こうした採用計画がない企業においては通常、退職見込み人員を都度中途採用する、または毎年新卒採用する形となります。

採用業務は、
「募集媒体の選択」→
「応募者の受付」→
「面接の設定・実施」→
「採否の通知・社内調整」→
「入社書類の発送・受入れ準備」

という一連の業務がどの企業においても変わりなく、提供されるサービスも一般化しているうえに見た目が華やかです。そのため、人事の入り口としては業務的に入りやすく、また「自分が入社者を判断している」という手ごたえも感じやすいために人気が高い花形分野となっています。

企業によっては採用人数を目標として設定しているところもありますが、こうした目標設定は採用担当者が目先の目標達成にとらわれがちになります。
そのため、コストパフォーマンスとしての一人当たり募集費を意識できなくなったり、目標達成のためにトラブル人材を現場の反対を押し切って強引に入社させたり、入社者が定着することに関心を払わなくなったりする、などの弊害もありますので、十分に気をつける必要があります。

また、採用業務に取り組む前に、既に採用した従業員が想定以上に早期に離職しているような場合は、まず定着率をどうやって上げていくのか、について先に手を打ったほうが余計な募集費をかけなくて良い(=利益を残すことができる)、ということになります。こうしたことに気を配って業務が遂行できるようになれば、安心して採用を任せることができるレベルといえます。

更に、経営側から見て、
  「どのような人材を採用するか」
  「新卒採用をメインとするか、中途採用をメインとするか」
  「部門や職種ごとに人材像を変えるべきか」
等も重要なテーマとなります。どのような人材が社内に流入するかによって、企業の雰囲気も大きく変わってくるからです。

話は変わって、従業員をどの部門へ配属するかも企業にとっては重要なテーマです。日本は外国と比べて未経験の業務へと配置転換させることが多いのですが、経営トップとしてはこうしたジョブ・ローテーションを「幹部育成の通過点」としてとらえている向きが強いといえます。

配置転換は、従業員の適性や能力、また本人の希望も含めて判断すべきであり、企業の無形資産であるその従業員の「キャリア」を、全く相乗効果をもたらさない異分野に配置するというのは、もったいないでしょう。知識やスキル、経験を活かせる配置を行い、本人に対しては「どういうねらいであなたにこれをお願いしたいか?」「いつまでにどんなミッションをクリアしてほしいか?」といったことを明確に伝えて納得させることが非常に重要です。

配属については、人事制度において「転勤有り/無し」「他部門への異動有り/無し」などを明確にする、半年に一度は身上調書を取るなどして経営側の意向とすり合わせる材料を収集することも良いことです。

ただし、注意しなければならないのは、従業員がいたずらに権利意識ばかり助長させてしまうケースはしっかり潰してください。たとえば、「こんな業務をするために入社したわけじゃありません」と堂々と言ってのける若手もいますから、人事担当者として「いやいや、あなたは現場の業務でさえまともにできておらず、そこで実績も出さず、改善や企画提案もしていないのに、商品企画や開発なんてできるわけないですよね。せめて、担当業務で周囲以上に実績上げて、自ら希望する分野の専門知識やスキルを自主的に身につけてプレゼンさせてほしい、くらい言わないと。甘い、甘い。そんなに世間は甘くない。」くらいは言えるようになっておくことは大切です。

③教育研修に関する業務

中小企業において教育研修は多くの場合、現場でのOJTを指すことが多いように思われます。必要性を感じてはいるものの、正直なところ組織として意図的に人材を作りこむ、というところまで考えが及ばなかったり、考えがあってもそこまで手が回らなかったり、投資する予算が無かったりするケースが多いのではないでしょうか。

従業員に外部セミナーを受講するよう促す、または講師を招いて社内で勉強会を開催するといった、教育に関心の高い企業もあります。

こういった、従業員に何らか自己研鑽を積んで欲しいと願い、業務の優先順位を下げてもその機会を与えてくれる会社に対して、感謝を感じる従業員もいれば、面倒と感じる従業員もいます。
しかし、従業員がどう感じようが、そんなことは別にどちらでも良いのです。会社としては、時間とコストを投資して実施するわけですから、その分のリターンを会社にもたらしてくれないと意味がありません。むしろ、その時間、売上を伸ばせたはず…の機会損失にしかなりませんから。

ですので、研修後に「いつ、受講者が、誰に、何をどうする」ということを決めて、日々実践させ、現地やオンラインでチェックし、評価と処遇につなげることが何より重要です。受講者が「満足した/してない」とか「やりたい/やりたくない」とか「できる/できない」とかは本来全く関係ないのです。経営者として「実践させて、チェックして、徹底的に改善させる」ことさえ行えば、研修は効果を発揮するのです。

そう考えると、ほとんどの会社は研修や人材育成に対して「甘い考えをしている」と言えます。

階層別またはテーマ別で経営トップや幹部社員が、従業員に対して「弱点だな」と感じている点について従業員をうまく巻き込みながら教育を施し、徹底して全体の底上げを図っていくのが教育の在り方です。

例えば、会社を挙げて「マナーの向上」「5Sの向上」に努めます。毎日のように経営トップから各現場まで総出で業績の報告と共にマナーや5Sについて実践報告を提出させ、シチュエーションに合わせた優良取組み事例をテキストにして個人名まで掲載します。そのように実践させることで、人によって品質がバラバラになるのではなく、組織として均一な品質を保つことができるようになり、外部から見た時に「すごい会社ですね」となって、当の従業員にとっても誇らしく組織が活性化することに繋がります。

人事担当者が教育研修を企画・実施するうえで注意を払うべきことは、まず経営トップが教育研修に対して何を思っているのか、つまり「どんな人材になってほしいのか?」ということの確認です。

これは、業務遂行能力そのものを指すこともありますが、多くの場合は「他社に転職しても恥ずかしくないように」や「うちの会社らしく明るく笑顔であってほしい」などのふんわりとした経営メッセージの表れとして出てくるでしょう。そうしたメッセージと人事が目指す業績指標とを結びつけて、教育研修で何を大切にするのかを掲げるとブレが少なくて済みそうです。

そして、実務面で重要なことは、従業員個々人の到達業務レベルがある程度明確になっていて、どのような投資を企業として行い、従業員がどのくらい努力をして業務レベルが上がったかを測定できるようにしておくことです。教育研修は、無形資産である従業員の「キャリア」を高める行為なので、どのくらいの時間でどのくらいの投資効果が得られるかを考えて行うべきです。

そのため、作業ごとに修得目安を設けて、育成計画として今月はこれとこれ、といった具合に確実に作業ができるように仕上げていくようにしてください。
修得目安を大幅に短縮する場合は優秀ですし、大幅に遅れを取る場合は劣等ということになります。劣等である場合は、他に活躍できるフィールドがあれば配置転換し、それがない場合は、できるだけ早めに社外に放出すべきです。昭和と違って現代は時間=金ですから、従業員本人の人生という時間をいたずらに奪うのではなく、職務の適性はなかったと判断して本人としっかり話し合い、本人がより活躍できるフィールドへさっさと旅立たせることが重要です。

教育研修には、
「一定の作業ができるレベル」
「一定のやり方がわかるレベル」
「一定の考え方がわかるレベル」

と大きく3つの分類があり、対投資効果が上がりやすいのは前者の2つと言われています。
営業やサービスなどのトレーニングプログラムが多いのはこうしたことからですが、現場においてはこうしたトレーニングを重点的に実施し、人事は経営者や部門トップと共に理念教育や階層別教育を行って社としての共通認識を得られるよう、棲み分けをしていくと企業の活性化につながっていきます。

次回は、後半の④人事制度以降をお伝えしていきます。

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