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「いつか、が出逢えた日/大宮ヒソミネライブレポ 12.17 」


どこかで鳴らされる音と、どこかで耳を傾けている文字だけの誰か。配信でしか会ったことのない人々がひとつの空間で同じ時間を共にする。
2022年12月17日、埼玉県のライブハウス 大宮ヒソミネでそんな奇跡がありました。


主催のイラストで描かれた整理番号の画面を片手に皆一様に入場し、席はゆっくりと埋まっていく。最前はもう手を伸ばせば届きそうなほどの距離。薄闇の中、照明は鮮やかにステージへ滲んでわくわく‎を掻き立てる。


れっど

れっど

今回が初ライブのれっどさん。
少し不安そうに腰掛ける姿は客席まで緊張が伝わってきて。ギターが鳴るまでの瞬間、誰かの息を呑む音が聞こえるような気すらして。
だけど曲が始まれば、歌声が花のように咲いた。
そんな姿に応えるように会場には自然と手拍子が鳴り‎ ‎、彼女の口端にも笑みがこぼれていった。

2曲目、堪えきれず涙を流しながら歌う姿は、歌詞も相まって見ている人の心を揺らした。
自らの弱さに抗うれっどさんは、どうしようもなく美しくて、人はこんなにも綺麗なのかと、心ごと奪われる。彼女のその弱さはきっと多くの人を救うのだろう。悩みながらゆっくりと前に進む姿を見守ることが出来たのなら、どんなに幸せだろうか。

今回は2曲という短い時間だったものの、吸い込まれる歌声と演奏だった。



 


逢歌

逢歌
りん×ピノピノ ギターと歌、キーボードとコーラス‎のユニット‎。

合わせた衣装を纏った2人は緊張を無理に押し込まず、そのまま抱えながら強かに音を鳴らしていく。曲を重ねていく毎に、どんどん込められていく感情は客席の涙腺に触れる。

『  Dear.Mr「F」』 / ずっと真夜中でいいのに。
くるおしい程の想いがやわらかに胸を突き刺していく。
ギターを置いて歌に集中する様は、曲の中の主人公のように見えた。りんさんの泣きそうな声がキーボードと混ざり合う。

降り積もる雪に大事に足跡をつけるような逢歌の音。
曲の最後はマイクを置き、肩を並べて鍵盤に手を滑らせた。綺麗な旋律はもちろんだけれど、見た目にも観客を飽きさせることがない。

りん
ピノピノ

春から遠くで暮らす2人。最初で最後の逢歌での出演とのことだけれど、今後も2人での活動を‎‎追いたいと思わせた。




藍昧


藍昧
ボーカルのあさひ×ギターの黒川春×サポートパーカッションのタクオ

今回のライブでは珍しい3人構成の藍昧。その心地よすぎるアンサンブルに、思わず身体は揺れる。
普段弾き語りをしているあさひさん。ギターを持たずとも芯のある歌声で、ギターとパーカッションを味方にフロアの空気を飲み込んでいく。 

あっけらかんとしていて明るいあさひさんと、気持ち良い突っ込みを入れつつフォローする黒川春さん。あさひさんを少し茶化しながらも、2人を笑顔で見守るタクオさん。
1人ずつマイクを持って自己紹介をする様子は仲の良さが伝わってきて、ヒソミネの中を温かな笑顔で包んだ。

黒川春

『 藍に泣く 』

ーー明日の天気予報はどうせみなくてもわかってるんだ
ーー暗闇の中でギターを弾いて 誰か見つけて雨の物語

藍昧のテーマソングになればと作った曲、と口にしてアルペジオで始まったオリジナル曲。
静かに始まった筈のそれは、じっくりと芽生えていった熱が激しさを増して音の中に滴る。圧倒される。雨の色になった照明がより一層、藍昧の深みに連れていく。

あさひ


技巧たっぷりのギターと気持ち良いリズムを鳴らすパーカッション。パワーたっぷりで、それでいて繊細‎な音を鳴らす3人が今日初めて会ったというのは、信じられないくらいだった。

藍昧の魅力は更に増して行きそうで、これからまた姿を変えていく気配もあって。ライブ映えするアーティストなので、是非ライブに足を運んで欲しい。




ぱす

ぱす

ーー今日もまたこうして終わっていく
終わりから始まっていく世界。転換の時間で和やかに緩んだフロアは、彼の一息でぴん、と張り詰めた。
ギターだけを抱えたその存在の小さな仕草さえも見逃さないように目で追う。 

拍手の時間をも与えず続く演奏は40分という限られた時間の中、届けという想いがぴりぴりと肌へ伝わってきた。
強かで、それでいてどこか優しい歌声とギターは真っ直ぐこころへ飛んでくる。会場にはすすり泣く声が楽曲の間に微かに響いていた。

『 ルシフェリン 』
ギターをエフェクターで録音しバスドラムにして規則的に繰り返される低音は、会場とそしてそこにいる人々の爪先から心臓に鈍く沈んでいく。

ーーかすれた声で叫び続けて 僕らはここで生きてる
ーー君の輝き見逃さぬよう 強く心に刻んで

曲中ギターが更に録音されていき色が増す。彼自身も曲の世界に入り込んでいるけれど、観客も彼の世界に溺れていった。

「音楽とか、こうやって過ごす時間とか、こころとか。目には見えないものを大切にしようと思って書いた曲をあと2曲歌って、今日はお別れです」

時間よ止まれと願いながらも、終わりゆくことは知っていて。だからこそ、1曲1曲に想いを乗せて叫ぶ。その想いは、痛い程こころを打った。

 



早木雅人

早木雅人

恒例の準備体操‎の後に軽やかに始まる演奏。
すぐに手拍子と、そして笑顔が‎伝染していく。安定感のあるギターと耳心地の良い歌は、フロアを丸ごと巻き込み繰り広げられていった。
人懐っこい豊かな表情に気持ちがほぐれる。


遠目から見ても滴る汗は全力で歌っているのが伝わってきた。息も絶え絶えにしながらのMC。
「大学生の頃、音源のひとつも作らんでからライブばっかしよったですよ」
「なんですけどね。大学の卒業試験を控えとうということで、休止することになった時に音楽生活を振り返って作った曲をやりたいと思います」

『 シンガーソングライター 』
苦しみながらも歌いたい想いを、歌詞の一音まで大事に大事に歌う。宝物のようにギターを奏でていく。

ーー誰もが救われる歌はない でも誰も救わない歌なんてないのさ
ーー命を燃やして歌うよ シンガーソングライター

自身の中の魂を全力で燃やして、音に乗せて放つ。
なんのフィルターも通さずにありのままの歌詞が、表現が、胸を打つ。

お客さんを大事に思ってるのが視線からも伝わってきた。ひとりひとりの顔を見て、配信のカメラにも視線を送り曲を届けていく。

余談ですが、全部飲みきっちゃうの?っていう水の飲み方なのに、そんなに量が減ってないのが面白過ぎました。

楽しませることに突出しているのだけれど、本人が1番楽しく演奏しているようだった。だから聴いている方も心が踊り共鳴していくのだろう。
ありがとうーーっ!!と掲げて鳴らすギター。ライブが終わっても物語はまだまだまだまだ、続いていく。



かぼちゃ。

かぼちゃ。

すこぅし低い温度の音はすっと身体に染み込んでいった。無理にではなく、自然に風に乗って運ばれる感情。かぼちゃ。さんの奏でる音はずっとここにいたいと、聴いていたいと思わせた。
巻いた弦と嵌めた指輪が光に反射して、彼女の雰囲気を引き立てる。

『 大丈夫 』

声の入っていき方が美しい、聴いているうちに気持ちの置き所が決まっていく。
言い聞かせるように、安心させるように歌う声はじっくりと体に澄み渡り、心を穏やかにさせる。

ーー雫を掬って 錆びた心も救えるように 大丈夫 大丈夫
ーー無理に上を向かなくとも 踏まずに済んだ花もあるから

ゆっくり奏でられるギターの音は、耳に優しく響いた。


「今日に向けて出演者さんも聴きに来てくれる人も、この日に向けて体調管理気をつけようとか。厳しいけど予定頑張って空けよう、っていう人も沢山いたと思うんだけど」
「空けようとしてくれたり、来てくれようとしてくれてありがとうって思いました。おかげで今日会えたし、嬉しいです」

歌ってる時のフロアに向けられる微笑みの中の色気と、軽快なMCの無邪気さのギャップにとらわれる。フレンドリーな笑顔とやっほーと手を振る仕草がとてもかわいらしかった。

気持ちよさそうに歌う。ギターに歌声が馴染む。どこまでも遠く響いていく声に惹かれる。伸びがたまらなく綺麗で、かぼちゃ。さんしか見えなくなる。小さな音も見逃したくない。





夢中になってるのも束の間、容赦なく終わりの時間が近付いていった。名残惜しさを胸にフロアにはアンコールを求める拍手が響く。

「アンコールは私かぼちゃ。1人ではなく、一緒にやる方々に出て来て貰いましょう」

かぼちゃ。さんに呼ばれてれっどさん、ぱすさん、早木雅人さんが歓声と共にステージに現れた。
それぞれ対照的な色の衣装を纏って左右に並んで腰掛ける。セッティングの間、流石の早木雅人さん、ギターと表情でフロアと配信のリスナーさんを楽しませることを忘れない。

「かぼちゃんのアンコールの場所を借りさせて貰います」
「僕ら今回4人で1枚のCDを作ろうっていうプロジェクトをしてまして。今日僕らだけのライブじゃないんですけど、僭越ながら1曲させて貰ってもいいでしょうか」

『 ネオン 』

4人それぞれ違う音を持ち、違う世界を持っているけれど各々の光をのせて気持ちよく合わさっていく声とギターの音色。
ぱすさんと早木雅人さんがギターを弾き、れっどさんとかぼちゃ。さんがひとつの譜面を共に見て歌う。声が交差していき涼しい風が吹いたような気がした。


ラストは出演者全員がステージに集まり、スピッツの『 チェリー 』を歌った。

伴奏は3本のギターが使われ、マイクは3本を代わる代わる渡しながら歌っていく。豪華なエンディングにフロアも一緒になってリズムをとる。
そうして穏やかな空気で「いつか誰かの耳元に~繋ぐVol.2~」は幕を閉じた。



こぼれ落ちていかないように、大切に胸にしまっておきたい気持ち、あの時感じた音も、匂いも、気温も、受け取った想いさえも何一つ忘れたくない。
でも記憶の容量はたぶん、決まっていて。少しずつこぼれてしまう。

だからこそ、人は歌や写真や絵や文章を残すのかもしれません。
このnoteがあの日のライブに思いを馳せるきっかけになれば、と思います。


オープニングアクトのあさがた。さん含め出演者の方々、ご来場のみなさん、配信で一緒に聴いてくれていた視聴者さん、ヒソミネのスタッフさん、ありがとうございました。これから先も逢える機会を作っていくので、またいつか。





写真 : -haru-
主催 : はっ
動画 : みう
執筆 : 蓮根じゅーす

晴-haru-


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