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3月のライオン「うつ病九段」先崎学著 臨床心理士への随録 心理学

将棋をモチーフにした人間成長物語「3月のライオン」(読むといつも泣いてしまう…)を監修するプロ棋士さんが経験した重度のうつ病体験記です。書かれている状態や気分は、私の知るうつ病と印象が違いました。入院が必要なレベルってこれなんだ、と。自殺とうつ病の関係は、数多の精神病や障害の中において特に有意であると云われます。その所以が窺い知れます。

「うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間」先崎学著

得体の知れない猛烈な不安、体が鉛のようになること、何事も悪いほうにとること、決断ができなくなること、何も考えることができなくなること、すこしずつ、本当にすこしずつよくなってゆくこと……。
うつ病とは死にたがる病である。頭の中に死のイメージが駆け巡る。死に吸い込まれそうな感覚がある。
(少し回復した状態)頭の中にコールタールが詰まっている感じから、どこまでも深い霧が覆っている感じへ。
うつ状態のときは、まず目に出る。妻によると目の奥の精気がまったくなくなるのだそうだ。そして顔全体の表情が消え、能面のようになり決して笑うことがない。自分では笑っているつもりでも他人にはそう見えないのだ。
うつの人間は自分なんて誰にも愛されていないのだと思うので、みんなあなたが好きなんだというようなことをいわれるのが、たまらなく嬉しいのである。あとはできれば小さな声ではなし、暗い人間を元気づけようと明るいことをはなさないようにすれば完璧である。
医者や薬は助けてくれるだけなんだ。自分自身がうつを治すんだ。(散歩で)風の音や花の香り、色、そういった大自然こそうつを治す力で、足で一歩一歩それらのエネルギーを取り込むんだ。
うつ病は脳の病気である。将棋を指すことによって、脳の中の回路がすこしつながったのだろう。
うつの回復期には、何かちょっとしただけで疲れるということだ。
うつは孤独である。誰も苦しさをわかってくれない。私には家族がいて、専門家の兄がいるという最強の布陣だったが、それでも常に孤独だった。
うつ病は必ず治る病気なんだ。必ず治る。人間は不思議なことに誰でもうつ病になるけど、不思議なことにそれを治す自然治癒力を誰でも持っている。だから絶対に自殺だけはいけない。死んでしまったらすべて終わりなんだ。
本物のうつ病のことをきちんと書いた本というのは実は少ないんだ。うつっぽい、とか軽いうつの人が書いたものは多い。でも、本物のうつ病というのは、まったく違うものなんだ。ごっちゃになっている。
うつ病のうつは体の中からだるさや疲れがきて、人としてのパワーががくんと落ちる。それに比べてうつっぽいというのは、表面的に暗いだけなのである。


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