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世界ゲーム業界の「闇将軍」 Tencent Gamesが投資した会社たち


中国大手IT企業のテンセントは(以下、Tencent)は世界最大規模のゲーム会社として知られています。2019年の決算資料を見ると、ゲーム関連の売上は約1.8兆円もありました。それを聞いて驚く人もたくさんいると思います。なぜかというと、任天堂やソニーと違って、Tencentのゲームは中国国外の存在感が薄いと感じられているからです。確かに、Tencentの自社開発ゲームはアメリカや日本ではあまり発売されていないのは事実です。しかし、海外ゲーム領域において、Tencentの大きな動きがないわけではありません。ネットで公開された資料をじっくり探せば、Tencentの海外ゲーム会社への投資活動が驚くほど積極的であることが分かりました。実は、世界のいくつかの有名なゲーム会社は既にTencentの投資先になり、その中でTencentの子会社にまでなった会社もあります。今回の記事では、企業決算資料やネット記事を参考にし、いくつかのTencentが投資した有名な海外ゲーム会社をピックアップし、投資に至る経緯と投資後のパートナーシップを説明します。

Epic Games

Fortnite(フォートナイト)という超人気ゲームはご存知でしょうか。人類史で最も人気を集めた高いゲームの一つと言われるFortniteは、2017年に発売され、今年4月に同時接続ユーザー数が1230万人を超えました。このゲームの開発会社は1992年にアメリカノースカロライナ州で設立された老舗のゲーム会社Epic Gamesです。このEpic Gamesの筆頭株主は創業者兼CEOのTim Sweeney氏(50%以上)ですが、二番目に大きな株主はTencent(約40%)だそうです。

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当時の報道によれば、Tencentは2012年6月に約340億円でEpic Gamesの株の40%を購入しました。それに伴い、Tencentの幹部二人を社外取締役として任命することもできました。当時、「Epic GamesはこれからTencentにコントロールされるのではないか」というゲーム業界からの懸念に対して、Sweeney氏は「当社の取締役会は当社の予算や資金計画面の決定をしますが、ゲームのデザインや開発に関わりません。そのため、TencentはEpic Gamesのゲーム作りにほぼ影響力がない」と説明しました。

では、Epic GamesはなぜTencentの投資を受けたのでしょうか。次世代のゲームを作りたいからだとSweeney氏が言いました。実は、2012年にアメリカのゲーム業界は分岐点に立っていました。それまでやってきた「売切型」(お客さんは一回お金を払えば永遠にあるゲームをプレイできるモデル)を続けるか、それとも、台頭し始めた「フリー・トゥ・プレイ型」(無料で永遠にゲームをプレイできるが、ゲーム内の特別なものが欲しければ追加で課金をする必要がある)モデルに切り替わるかという選択でした。Epic Gamesを立ち上げ、長年ゲーム業界の浮き沈みを見てきたSweeney氏は後者を選びました。新しい領域にチャレンジするために、もちろんそれなりの資金が必要でした。それでTencentから資金調達をしたわけです。

Epic GamesはTencentから得た資金を使い、「Paragon」、「Unreal Tournament」、そして「Fortnite」という三つのフリー・トゥ・プレイ型のゲームを作りました。その中で、「Paragon」と「Unreal Tournament」は大失敗を喫しましたが、Fortniteはご存知の通り、大ヒットしました。Sensortowerの統計によれば、Fortniteは2017年に配信されてから3年の間に、5000億円以上の売上を達成したそうです。比較のために取り上げますが、1986年発売された任天堂の人気ゲームシリーズのゼルダの伝説は2020年まで約4000億円の売上をあげたとされています。業界のアナリストによれば、FortniteのおかげでEpic Gamesの時価総額は2020年6月時点で18,000億円を超えています。この数字が正しければ、Tencentが2012年に投資した340億円も、21倍の7,200億円にまでなりました。Sweeney氏の資産ももちろん膨らみました。

結果的には、Sweeney氏が2012年にTencentから投資を受けて、そのお金を使ってフリー・トゥ・プレイ型のゲームに賭けたことは正解でした。しかし、当時、看板ゲームデザイナーやゲームディレクターを含め、一部のEpic Games社員はこの方向性に反対し、会社を辞めました。

Riot Games

同じアメリカゲームの会社であるRiot Gamesは、2006年にロサンゼルス市の大学に通っていたRyze Beck氏とTryndamere Merrill氏が立ち上げた会社で、2009年に人気ゲーム「League of Legends (リーグ・オブ・レジェンド)」を配信しました。日本では知る人ぞ知るオンライン対戦型ゲームですが、欧米や韓国、中国、東南アジアなどでは絶大な人気を誇っています。配信してから10年も経ったにも関わらず、2019年の売上が1500億円に達したと報道されました。それだけではなく、eSportsの一般社会への普及に最も貢献したゲームの一つとされています。

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そのRiot Gamesは実は、Tencentの100%子会社です。当時の報道によれば、Tencentは2011年に約400億円でRiot Gamesの株の93%を取得しました。その後、残った7%も徐々に取得し、完全子会社にしました。Riot Gamesへ出資した理由は言うまでもなく、2011年時点で既に1100万人のアクティブユーザーを有していたLeague of Legendsのポテンシャルを信じたからです。出資した後に、Tencentはそのゲームの中国での代理人になり、中国での展開に力を入れてきました。2018年にLeague of Legendsの月間アクティブユーザー数は1.1億人にまで上り、その中の重要な一部が中国人ユーザーだとされています。

一見して双方にとって大成功したパートナーシップですが、その経緯を見るとずっと順風満帆ではなかったことが分かりました。実は、Riot GamesとTencentの間で一時期大きな軋轢が生じたことを複数のメディアが報じました。どういうことかというと、2015年にLeague of Legendsの成功を踏まえ、Tencentはこのゲームのモバイル版を作ることをRiot Gamesに提案しました。しかし、当時のRiot Gamesは何らかの理由でその提案を却下しました。それを受けて、Tencentは自らLeague of Legendsのゲームプレイに極めて似ているモバイルゲームを作り、「King of Honors(王者栄耀)」という名前で配信しました。そのKing of Honorsは大成功し、調査会社Sensortowerの数字によれば、2015年発売してから今まで既に5000億円の売上を達成し、2018年1年間だけでも2000億円を稼いだそうです。

Tencentが開発したKing of Honorsというスマホゲームの遊び方の面も、キャラクター設計の面も、子会社のRiot Gamesが開発したLeague of Legendsとの類似性は否定しようとしても否定できるほど鮮明です。もし他の会社がそのようなゲームを作ったら、Riot Gamesが訴訟を起こすでしょうが、さすかに自分の親会社を訴えることはおかしいので、どんなに不満があっても受け入れるしかありませんでした。それが原因で、Riot GamesとTencentの間に軋轢が生じたのではないかと多くの業界の人が推測していました。しかし、最近、Reuters新聞社の報道によれば、昨年からその関係が改善され、両社は現在、League of Legendsのモバイル版を共同開発しているようです。

Ubisoft

今まで述べてきたEpic GamesもRiot Gamesも、Tencentはかなり高い持株比率で、取締役を派遣し、事業面で全面的にかなり深く提携している様子です。しかし、Tencentは全ての投資先のゲーム会社でそこまでの大株主になったわけではありません。その一つの例としてはAssassin’s Creedなどの人気ゲームを創出した老舗大手フランスゲーム会社のUbisoftのケースです。

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Ubisoftは2015年から2018年まで、フランス大手メディア企業Vivendiから敵対的企業買収(企業の経営権を奪うために、企業経営陣の賛同を得ずに企業の株を購入すること)を受けました。一時期、VivendiはUbisoftの株の30%弱を保有しました。「これからより多くの株を購入することでUbisoftの経営権を奪うのではないか」と当時多くの新聞社が報道しました。その苦境を受け、Ubisoftの創業者兼CEOのGuillemot氏はどうしてもVivendiにコントロールされることを避けようとしました。

そこでTencentが登場しました。Tencentと他の数社の投資家はVivendiが保有していたUbisoftの株を市場価格より高い値段でVivendiから直接購入し、Vivendiの代わりにUbisoftの株主になりました。しかし、一社の投資家がVivendiの株の全てを購入するのではなく、それぞれ1%から5%までの株を購入するというスキームでした。つまり、どの投資家もUbisoftの大株主になれませんでした。それによって、Ubisoftはしばらく誰かに経営権を奪われる危機から解放されることになりました。Tencentの複数の投資家の中で、最も多くの株を購入した会社でした。それでも5%ぐらいに止まり、取締役派遣なしという条件も認めました。

日本における活動

公開された資料によれば、Tencentは今まで日本で3社のゲーム会社に出資したことが分かりました。1社目は2014年に投資したAimingという日本の上場ゲーム会社です。資本関係を締結してから、事業面の提携もありました。AimingはTencentが開発したゲーム「空と大地のクロスノア」を日本で代理人として配信しました。しかし、実績が芳しくなく、配信後間もなくサービス停止になりました。それ以来、両社に事業提携がないようですが、2020年6月時点でTencentがまだ当初の8%の株を持っています。

2014年にAimingに投資してから2020年年始まで、Tencentは5年間日本ゲーム会社への投資がありませんでした。しかし、2020年に入ると、この静けさが急に破られました。2020年1月に「ベヨネッタ」シリーズに手掛けたPlatinum Gamesへの出資が発表され、5月に「牧場物語」シリーズを生み出したMarvelous社への投資が発表されました。この短い間の迅速な動きは日本ゲーム業界に衝撃を与えました。一部の関係者が「Tencentがこれから日本のゲーム業界を牛耳っていくつもりではないか」と危惧の声も上げました。Tencentの内心は分かりませんが、少なくとも上記のPlatinum Gamesの神谷社長はTwitterでこう説明しました。

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参考資料:

'https://www.pcgamer.com/every-game-company-that-tencent-has-invested-in/'

'https://en.wikipedia.org/wiki/Riot_Games'

'https://www.reuters.com/article/us-tencent-holdings-videogames/exclusive-tencent-and-riot-games-developing-mobile-version-of-league-of-legends-sources-idUSKCN1SS0ZJ'

'https://en.wikipedia.org/wiki/Epic_Games'

'https://variety.com/2018/gaming/news/fortnite-epic-games-billion-dollar-decision-1202884194/'

'https://www.polygon.com/2013/3/21/4131702/tencents-epic-games-stock-acquisition'

'https://en.wikipedia.org/wiki/Tim_Sweeney_(game_developer)'

'https://www.polygon.com/2018/3/29/17172326/tencent-ubisoft-explained'

'https://www.gamesindustry.biz/articles/2018-03-22-for-ubisoft-its-goodbye-vivendi-hello-tencent'

'https://www.scmp.com/tech/enterprises/article/2138432/vivendi-selling-ubisoft-stake-us245b-investors-led-chinas-tencent'

'https://aiming-inc.com/ja/news/corporate/2014/1211-tencent/'

'https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-05-25/tencent-to-become-largest-shareholder-in-japan-s-marvelous'

'https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-06-09/tencent-targets-japan-anime-manga-to-jump-start-global-growth'

'https://twitter.com/pg_kamiya/status/1235813810809659392?s=21'


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