見出し画像

またここで会えたらいいね

友達以上恋人未満な男友達と久々に2人で飲む機会があった。大学生の頃だ。
確か就職活動の真っ只中にいたのを記憶している。

私たちが入った居酒屋は〝きがる〟という名前の日本酒と鉄板焼きが有名なお店で、オープンキッチンのような様式の内装だった。
コの字型に大きな鉄板を囲むように座り、店主の焼きパフォーマンスを楽しみながら酒を飲むのだ。

その店には私が前から行きたい!と強く懇願していたこともあり、実際に訪れたことのある友人を引き連れてやってきたというわけだ。

雰囲気のとてもいいお店だった。店主や店員とお客の距離がとても近い。仲良しだなと見ているだけで分かる。アットホームな空気感が漂っていた。

早速席について注文するのだが、日本酒は冷蔵庫から自分で選ぶスタイル。面白い。
ここが福岡県だからなのか、九州のお酒が多い気がする。でも福岡のお酒をチョイスした。

「就職は東京に出るん?」

地方勢あるあるな会話ではないだろうか。
結果、お互い上京しているのだけれど、やはり福岡を離れるのは惜しいとも思っていたわけで、よく心境の探りを入れる会話が展開されるのだ。

「んー分からんけど、選考中のところ本社が東京やけんねぇ」

私の受けている企業はほとんどが東京本社のところばかりだった。
ほぼ確定状態で東京行きが決まっていたが、この頃はまだ内定を持っていなかった。

「お互い早く就活終わりてぇよな」

友人は呟くように言うと、クイッとお酒を煽る。たまにはお酒も飲まないとやってられないとはこのことなのだと実感する。

適当に注文したお料理がどんどん机の上に運ばれて、話していないで食べないといけない状態になった。それからは酒を飲みつつ、料理を食べることに集中した。

その時に隣の中年女性2人の楽しげな笑い声が耳に刺さるように入ってきた。
常連の方らしく、店主とも楽しげに会話をしながらぐいぐいお酒を飲んでいた。

すると友人に対して、その女性が声をかけてきた。

「君いくつ?私の息子と歳が近そうだわ」

友人はおばさまに好かれるタイプの人間だったことを思い出す。

「え、あ、浪人してて今23です」

戸惑いつつも返事をする友人に女性はにっこりと微笑みながら、肩を叩いた。

「あら〜!就活生かぁ!うちの息子は25でもう働いているの。」

そこから女性の息子さんの話を2人で聞いた。
大学が私たちと同じなこと。就職活動は上手くいかなかったけど、ゼミの教授のコネクションでなんとか就職できたこと(よくある話だ)。女性自身は東京で働いていた経験があること。

ペラペラとノンストップで話すものだから、お酒の肴にちょうど良かった。
その女性の人柄もあってか、ずっと聴いていられた。

居酒屋での出会いって運命的なものを感じてとても好き。

「東京に行ったら焼きとんでも食べなさい!新橋に美味しいところがあるの」

自分たちの今の境遇の話も軽くすると、東京おすすめのお店を教えてくれた。
じゃあ今度就活で東京に行くタイミングが被ったら一緒に行こうかという話をした。

福岡にはやきとん屋さんは本当にない。東京に出るまでは、生まれてこの方焼鳥屋さんしかないと思って生きてきたくらいだ。

「そして、ここのお酒、これは飲んだ?」

女性がずっと飲んでいるお酒もおすすめされた。
JALのファーストクラスで提供されている日本酒だという。
勿論2人して、注文した。

あまりお酒に強くない私でもスイスイ飲めてしまうほど、軽い口当たりのお酒だった。私は人生で初めて人にお酒を勧められて飲んだ。こんなに気持ちよく美味しく飲めるのかお酒って。

程なくして、その女性たちは帰っていった。
「就活頑張ってね、またここで会えたらいいね」

まるで公園でたまたま出会って遊んだ子供たちがさよならを言うかのようだった。小さい頃はそんな出会いがたくさんあったけど、歳を重ねるごとに無くなっていったなぁ。

素敵なお酒と人との出会いだった。
3年ほど経った今でも鮮明に思い出せるほど、いい思い出になっている。

あの日すすめられたお酒の味は忘れない。
また会えたらいいなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?