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【猫噺#16】奥深き三毛猫の謎

 朝のニュース番組で、『三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子の解明』に関するクラウドファンディングが、話題に取り上げられていました。
 現時点(2023.1.29)で、すでに目標額を大きく上回る金額が寄せられているようです。
 これほど多くの人が、三毛猫に興味をもっているとは意外(?)。
 実は謎多き三毛猫の秘密に、舌(知識)足らずながら迫ってみたいと思います。

三毛猫やサビ猫ってどんな猫?

 猫には血統の呼称以外にも、通称として毛色で呼ぶ名まえがある。三毛猫は白、黒、茶(赤)の3色の毛色を持っている日本猫のこと。
 系統では雑種(ミックス)になる。

 近年、長崎県にある弥生時代の遺跡から猫の骨が出土して、その頃からイエネコがいた可能性が示唆された。
 しかし飼い猫としての日本猫は、奈良時代に遣隋使、遣唐使に付随して経典などを鼠害から守るために、中国から持ち込まれたのが起源とされている。

 しかし猫飼いさんは知っているだろうが、猫はネズミなど獲ったりしない。大事な経典を、ティッシュのように掻き出して遊んだりしただろう。
 真相はこうだ。
 遠く離れた異国の空の下、日本のことを思うとホームシックにかられて、枕を涙に濡らす若き遣隋使。そんな夜、ふと気づくと涙を舐めるざらざらの舌。
 こはいかに? と思うや、暖かい生き物が懐に入ってくる。

 やれ日本に帰れるという船出の日。ただひとつ心残りは、孤独の日々を慰めてくれた生き物のこと。
 生物多様性のことを思えばいけないと知りつつ、つい懐に猫を忍ばせ密輸を決行する。帰国の際の税関では賄賂を渡し、京の自邸へ持ち込み愛でる日々。それがいつしか雅な平安貴族のならいになった。
 これがワシントン条約に背いて、中国由来の猫が日本に密輸され帰化したいきさつだ、と私は信じている。

 さらに個性的なのが、ぞうきん猫の愛称でも知られるサビ猫。
 黒と茶(赤)の二色が、錆びた風合いをもつ猫たちだ。
 往年のヒーロー、キカイダーのように顔が真っ二つに黒と茶に別れたヴィーナスちゃんは、動画サイトで世界的に有名になった。
 さらに彼女はオッドアイ(左右の目の色がちがう)で、ブルーとブラウンの神秘的な瞳をしている。

 蛇足ながら通称としての日本猫と、血統名としてのジャパニーズ・ボブテイル(Mikeとも呼ばれる)は異なり、系統としては日本の猫をベースに洋猫を掛け合わせたもの。
 お団子しっぽが、日本猫の特徴とされる。
 大和撫子と呼ばれるしとやかな女性が絶滅したように、奈良平安時代に定着した特徴をもつ日本猫は、洋猫との交雑により希少になったようだ。

実は珍しく貴重な三毛猫

 三毛猫は日本ではよく知られているが、海外では珍しくキャリコ(calico=更紗染め)と呼ばれる。フランス風に言えば、トリコロール。
 またサビ猫は、トーテッシェル(Tortoiseshell)もしくは短縮してトーティで「べっこう」の意味。「ぞうきん」からかなり格上げされた。

 日本のように四季のある国に暮らしてきた猫には、アンダーコートという下地の毛がある。冬になると猫はもふもふし、暖かくなると抜け毛が増えて掃除が大変! なのは、気温の変化にあわせて被毛の構成が変わってくるから。

 パステル三毛、もしくはウス三毛と呼ばれる毛色の猫は、文字通り色がくっきりしてなくて、ぼんやりしている。
 これは希釈(ダイリュート)と呼ばれる、色合いを決める遺伝子の作用。毛色の発現には、さらに「スポット」のように点状になる遺伝子など、複雑な組み合わせがあるが、ここでは単純化して話を進める。

 オスの三毛猫を乗せると船が遭難しない、との言い伝えがあるため珍重されるように、オス三毛は極めて珍しい。
 染色体構成が理由で三毛のオスが生まれる確率は、3万分の1と言われ、健康に成長する確率はもっと低い。

ミケ、サビはメスばかりの謎

 三毛猫やサビ猫がメスばかりなのは、毛色を決める遺伝子の一部が性染色体上にあるから。
 猫の染色体は38本。そのうち2本が性を決定する遺伝子で、XYがオス。XXがメス。

 茶色と黒の毛色を決める遺伝子は、X染色体にある。オスはX染色体が1本しかないので、毛色はベースの白に黒か茶の二択しかない。
 いっぽう、メスはXを2本もつ。このXが茶になる場合と黒になる場合があるので、メスは三色使い分けてメイクすることができる。

 メス化を決めるXは大きな染色体であり、いっぽうYはちっこい染色体。当然遺伝子の量は、XとYで大きくちがう。
 だから男女の雇用機会均等法により、XXと大きな情報量をもつメス細胞では、どちらか一方の遺伝子が不活性化される。これが細胞ごとランダムに行われるので、茶と黒のランダムな発現が起こるのだ。
 これは発生初期に決定されるため、小さな細胞の塊である一部の被毛は黒、一部は茶になる。

 また余談だが、メスはXXと同じ遺伝子を2個持つので、どちらかが破損した場合、破損していない方を鋳型に修復が効く。
 それに対しY染色体は1本しかないので、破損した場合修復が効かない。だから有史以来、Y染色体は劣化の一途でそのうち無くなるかも、という極端な説もある。
 最近、使えねー男ばっかだな、と職場で嘆くオネエ様方。男が劣化の一途なのは、遺伝子的な事情なのです。広い心で許してあげましょう。

 オス三毛が現れるのは、性染色体がXXYというイレギュラーな構成をもつ場合や、キメラ、モザイクといった体細胞の構成異常の場合、Y染色体に発色遺伝子がのった場合などが考えられる。

発現しなきゃ意味がない

「さすがに名家の遺伝子を受け継ぐだけのことはある」という言い方がされるように、遺伝子を持つか持たないか、が重要視されるようだ。
 しかし、実際は遺伝子をもっていても、それが発現(働く)しなければ意味がない。
 優れたスポーツ選手の子どもであっても、練習という努力によって遺伝子を発現させねば、才能は発揮されない。

 多色の遺伝子をもっていても、精妙な発現の仕組みが壊れると白黒猫になる。閉鎖環境に置かれた猫が白黒に収斂するので、白黒猫は生命力が強い、と誤解されたりする。

 あるバラエティ番組で、「肥満遺伝子」とされる一群の遺伝子をもっているかどうか調べる企画があった。
 そこで『肥満遺伝子あり』と診断された女子が「きゃー、今からダイエットしなきゃ!」と言っていた。
 そこで扱われた肥満遺伝子は、饑餓の状態が続いたとき、通常は栄養にできない食物成分まで身につくようにする酵素の遺伝子である。
 ダイエットで人工的に饑餓状態を作れば、その時点で活性化されていない遺伝子が目覚めて、ダイエット後にはリバウンドに向かうだろう。気の毒に。

 猫の毛色を決める「遺伝子」とは機能を指す言葉であって、DNAのどの部分がどのような制御を受けて働き、三毛猫の毛色ができるのかはまだ解明されていない。
 冒頭に述べたプロジェクトの成果に期待したい。

 先に述べたクラウドファンディングですが、九州大の正規ポストを退職された教授が立ち上げたものです。
 画面からも猫好きが伝わってくる方で、猫に負担をかけないよう、獣医師さんたちが診察の過程で得た、血液などのサンプルを使って実験するとのこと。
 研究の進展を、草場の影から応援させて頂きたいと思います。

#猫 #猫好きさん #三毛猫 #サビ猫 #遺伝子 #遺伝子制御 #クラウドファンディング


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