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簿記の本質

簿記の本質は、「記録すること」にあるのだと思います。

簿記は、帳簿に記録すると書きます。
英語だと、Book Keeping です。
記録し続ける、ということが、本質にあります。

簿記を勉強していると、やれ仕訳がどうだとか、新しい論点だとか、特殊商品販売だとかの、各個別論点での勘定科目や、その流れについて意識が向くと思います。
本質的には、それらはどうでもいいのです。
複式簿記の仕組みに従って、取引を記録し続けるということが、何よりも重要なことだと思います。

昨今の様々な技術の進歩によって、簿記は古びた分野として扱われ始めているような気がします。
簿記の仕組みをしらなくても、会計ソフトが自動的に仕訳をしてくれる世の中になってきています。
システムの作り方も、簿記の仕組みに基づいて開発するのではなく、簿記とは直接関係のない様々なデータを1つのレコード(テーブル)に持ちながら、どのように簿記的な表示をさせるのか、という方向に変化していると思います。
簿記なんて知らなくたっていいんだよ、という時代がやってきています。

それでも、簿記を知らなくていいということにはならないと個人的には思っています。
簿記というシステムは、すごいシステムだと思うのです。
取引を仕訳に起こして、総勘定元帳に転記し、試算表に落としていく。
貸借の不一致により、誤りを発見できる。
すべての取引記録を追いかけていけるので、誤魔化しが効かない仕組みになっている。
簿記という一連の記録の中で、損益計算書と貸借対照表という、フローとストックの両方の財務諸表が同時に作成される。
そして、出来上がった損益計算書や貸借対照表を基に、キャッシュフロー計算書も作成できるし、財務分析もできる。
売掛管理などの様々な管理を行うこともできる。
客観的な評価という側面が加わることで、信用取引が生まれる。
将来の目標や見込みなども、同じ言語で作ることで、計画と実際との予実対比を簡単に行うことができる。

「取引を1つの仕訳で記録する」という単純なことの積み重ねで、様々な信頼性のあるアウトプットを生むことができるのです。
言い換えれば、取引を記録し続けられるかどうかで、社会的な信用を得られるのか得られないのかが、変わってくるのです。
簿記を知ることは、それらの成り立ちの仕組みを知っているということです。
物事の原理原則がわかっているということですので、これは大きな強みになります。

会計や経理業務は、近々、AIなどで仕事がなくなるといわれています。
単純作業はなくなっていきますので、その意味での仕事はなくなるでしょう。
個人的には良いことだと思います。
簿記がわかっている人にとっては、作業はAIやロボットにやってもらった方が良いわけです。
しかし、簿記がわからなくていい、ということにはなりません。
簿記がわからないと、アウトプットされたものの意味を理解できないからです。
自分でコントロールできないので、誰かにコントロールされてしまいます。

1つの取引を記録し続ける。その記録を積み上げていくことで、信用を生み出す。
これは、既に、ブロックチェーンの考え方です。
記録が改ざんされたものなのかどうかは、記録の連鎖の形態を照合するとすぐにわかるのです。
税務調査などでは、他の関連企業との取引の整合性が保たれているかという視点でも当然見てきます。
同じ取引のはずなのに、お互いに金額が違うのであれば、それはおかしいということになります。
ブロックチェーンは、会計の分野を超えたところにも、この情報記録の連鎖を取り入れましょうということが本質にあると思います。
簿記とブロックチェーンは同じ性質の中にいるのです。

これから先、情報がより重要になってきます。
情報をより精密に分析するために、AIなどの技術が入ってくるのです。
しかし、AIを活かすためには、元となる情報、すなわち、記録がなければなりません。
定量的な記録であれば、センサーを取り付けたり、基幹システムと連携をしたりすることで、ある程度は可能になるでしょう。
しかし、定性的な情報は、自分で記録することを意識しなければ、記録されることはありません。
そういったことも記録し続けられるかどうかが、これから非常に重要になってくるのだと個人的には思います。

簿記を知り、会計を職業としている人は、記録をし続ける重要性を知っている人です。
また、記録し続けることの難しさ、大変さを知っている人です。
これからの時代の大きな変化の中で、何が起ころうとも、この「記録し続ける」ということは大きな武器になるはずです。
そういった意味では、この「note」も記録するメディアですからとても重要ですね。

「記録し続けることを習慣化する」
このシンプルなことが、これからの時代、より重要になってくるのだと思います。
そこから、様々なアウトプットが生まれ、成果が生まれます。
情報を共有し合うことで、新たなものが次々に生み出されるでしょう。
AIやロボットがさらにそれらの効率化に向けてサポートします。
と同時に、情報の取り扱いやセキュリティー、がさらに重要になってきます。
一元管理させない仕組み、情報を分散管理するセキュリティーが必須です。

記録、記録の連鎖、AIによる分析。
ここまでは、黙っていても世の中が進んでいきます。
その流れにおいて、簿記を知る人は、とても重要な役割を本来果たせるはずだと思っています。
問題は、その先。その情報を誰が入手し、誰が活用していくかです。
コントロールされないより良い社会を目指すためには、物事の成り立ちの原理を知っておく必要があるんだろうな、と個人的には思っている訳です。



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