美容院攻略問題

突然だけど、美容院が攻略できない。

美容院、みんな行くよね?
いや理容院かもしれないしセルフカットだわガハハハハ、って人もいるかもしれないけど、でも結構みんな、行くよね?美容院。

不思議でしょうがない。みんなどうやってるの、美容院。どうやってるっていうか、どうしたらそこに心地よく居られるの。

美容院を楽しむためには、超えなければいけないハードルが多すぎる。楽しまなくても良い。せっかくなら心地よく居たい。せめてリラックスしたい。

そもそも美容院のこと、なんて呼ぶのが正解なのか。ああ、この時点でスタートラインにも立ってない。美容院?美容室?はたまたヘアサロン?

ヘアサロンと言って良い人は限られている。ような気がしてしまう。なんつうか、パリピ?いや、なんつうか…イケてる人…(語彙力)。完全に自意識過剰。
美容室。美容院。うん。美容院だ。なんだかお母さん感は漂ってしまうけれど、もうそろそろ受け入れる歳だ。つうか私もうお母さんなんだった。しっくりくるはずだ。

美容院をめぐる冒険、もとい美容院をめぐる問題はまず、「どこに行くか」から始まる。行きつけの美容院がある?そうですか。ない人ー?ない人いますよね。

ていうか行きつけの美容院があっても、自意識問題は無関係だと安易に言えない。
私は以前、長らく知り合いの美容師さんのところへ個人的に連絡を取って予約をして切りに行っていたのだけれど、それでも毎回、店を出た後はずおおおおん、と疲労感があった。
美容師さんの腕が悪いわけでも、店の居心地が悪いわけでも、ましてや仕上がりに文句があるわけでもない。
端から見たら、笑顔で和気あいあい、会話も盛り上がってるように見えることだろう。私はただただ、いろんなことを「気にしすぎ」て疲れてしまうのだ。
それは相手が通い慣れた店の顔見知りの美容師さんであっても、初めましての店の美容師さんでも、さほど変わらない。「気にしすぎ」の中身は変わるけど、結局疲れるのは同じだ。

具体的に何を「気にしすぎ」てしまうのか。

まず雑誌。これ美容院あるあるだと思うんだけど。目の前に数冊、雑誌を置かれる。そのラインナップから、ああなるほど、私はこういうジャンルとして見られてるんだな、とか思う。
いや気にしすぎだろ。向こうだってなんとなく年齢とか服装なんかから近い雰囲気のものを置いてるだけだろうし、違うのが良ければ変えてもらえばいいし、ていうかそのときくらいそれ読めや、と自分ツッコミ繰り返しつつ、その中の一冊を手に取る。
でも実のところ、私は読みたかった文庫本を、そのときケープの中の膝の上にスタンバイさせていたりする。
それを出したい。出すときもある。でも出せないときもある。タイミングによる。美容師さんに話しかけられたり、話しかけられたら今度はこちらが話題振らなきゃとか、シャンプーのタイミングだったり、いろいろ上手くいかずに出せないと、もうそのあと今更感が気になってしまい、出せない。いや出せや。

じゃあ出した場合ね。出した場合はあれ、怖いのは「何読んでるんですか」。
何読んでるって、すげえパーソナルなことですし、イマココさっき、ついさっき会ったあなたに、それを、カットしながらの片手間に、パーマ液をつける短時間に、うまく話せる気がしないんですけど。話してみると、いろんな雑音でうまく伝わらなかったり、向こうの言ってることが聞こえなかったり。いや、無理よ。ちゃんとした会話、無理。

本以外でも例えば映画とか。それも何が好きとか話したあと「今どう思われたんだ私…」と無駄に気にしてしまうのだ。
あれ観たんですよ、えっ私も観ました、めっちゃ良かったですよね、なんて盛り上がることもある。気が合うこともある。

例えば私、十代の頃に都会のイケイケ美容院(ここはものすごく「ヘアサロン」という呼称が似合うオシャレ美容院だった)に通う機会があり、はじめはそれは当然、ものすごく緊張していた。
担当の美容師さんはジャズが好きで休みの日はDJなんかもしてて、ヒエエエエおしゃれすぎてこえええええって内心思いながらお話ししてたのだけど、途中で入ってきた店長さんがとても面白い人で、驚くべきことに「グループ魂が好き」という共通点を発見した。盛り上がった。そしてお店がすでに閉店していたため、店内にガンガンにグループ魂の曲をかけ続けてくれた。

そんな風に楽しく過ごせる場合もある。これまでもたくさんあった。でも、だ。たとえどんなに盛り上がっても、店を出た後にはひどく疲れている。「あんなに饒舌に、噛みながらも前のめりで喋ってしまった。ああ恥ずかしい」などと頭を抱えてしまうのだ。落ち着いた、余裕のある受け答えがしたい。次はもう決して同じ過ちは繰り返さないぞ、と。

話を戻すと雑誌。雑誌の話だ。
最近電子書籍化してるお店も多いですよね。あれならお店側も「何を置けばいいかな」と考える必要もないし手間が省けるし、こっちも余計なこと色々感じ取らずに済む。しかしながら、だ。

私は先日初めて美容院で、雑誌はタブレットでご自由にどうぞ、というシチュエーションに出くわした。実はこのとき読みたい本を持参していたが、会話の流れから、まあせっかくだし、とタブレットを手に取った。しばらくペラペラとめくり、何の雑誌の何のページを開いているのか見られたら恥ずかしいな、とまたしても自意識過剰を発揮しつつ、シャンプーになったのでタブレットを置いて席を立った。戻ってきてそのタブレットを目にして、やってしまった、と激しく後悔した。

前髪を切ったあとに指先で顔についた毛をはらったため、指にファンデーションがついていた。その手でベタベタと、タブレットを触っていたのだ。
見れば見るほど画面が汚い。ベタベタベタ。ああ、恥ずかしい、拭きたい!でもハンカチはカバンの中だし、ケープしてるから服の裾でササッと拭くとかも出来ないし、ああもう、どうしたら、と、しばし悶々とした。(結局そのまま)

雑誌問題の次に、鏡の自分を直視する時間が長すぎる問題がある。
これは歳も関係するし、自分にコンプレックスがあるか否かもあるのだけれど、私の場合は年齢的にも、普段自分の容姿を鏡で見る時間が圧倒的に減ったせい、というのが考えられる。
美容院のきれいで明るい店内、大きな鏡を前に、二時間近く自分の顔を直視していると、そこには見て見ぬ振りをしていた現実が見えてくる。
あ、皺が…。あ、シミが…。私こんな顔だったっけ…。なんか…老けた…。エトセトラエトセトラ。
「こんな髪型がいいです~」ってキャピキャピしてた自分が恥ずかしくなる。ヘアカタログのモデルと同じ髪型を指定した自分を呪う。
綺麗になりに来ているはずなのに、自信をなくすってなんなん。どんだけ生きにくくしてるん。と、また落ち込む。

けれども、そんな自意識の焼け野原にも、オアシスはある。シャンプーの時間だ。
自意識過剰陣営にとって、まずあのぺらりとしたガーゼのようなもので視界が塞がれるというのが絶対的な安心感。ああ顔が隠れる。今なら半目になってても大丈夫。しかもそれを自らの意志で選んでいないというところが大事だ。ガーゼなしでシャンプーはどうだ。怖い。圧倒的に怖い。目を閉じるかどうか自分で選ばなければならない。閉じたら途端に「目を閉じていることを選んだ自分」を見られている、と気になってしまう。(ああ、目を閉じたときってどんな顔をしてればいいのか。真顔?微笑?いや、ニヤけてるこの人、って思われる…などなど)
かといって目を開けたままシャンプーを終われるだろうか(いや、終われない)。そんな強靱なハートは持ち合わせていない。

だからあのぺらりとしたガーゼのようなものは救世主なんだ。あれのおかげで何も気にしなくていい束の間のリラックスタイムが訪れる。しかも物理的にも気持ちいい。軽く頭皮マッサージしてくれたときなんか最高。ホットタオル?至福。ああ、シャンプーが永遠に続けばいいのに。

でも幸せって長くは続かないの。(いい女風)

シャンプーを終えて、ハタと気が付く。この素晴らしい気持ちを、担当してくれた美容師さんに、伝えるか否か、だ。
特にアシスタントの美容師さん。きっと激務だし疲労もすごいだろうし、もしかしたら「この仕事のやりがいとは…」とか悩んでる時期かもしれないし(誰目線)、あなたのシャンプーのおかげでこんなに素晴らしいひとときを過ごせましたよ…!という気持ちを伝えたい。疲れ果てて仕事やめようかと考えているアシスタントくんの明日の糧になるかもしれない…!などと使命感に駆られたりする(悩んでるとは限らない)。

でもほぼ、言えない。言える?みんな言うの?
実際、言ったこともある。ありがとうございます、めっちゃ気持ち良かったです、眠くなっちゃいましたw なんて。言われた美容師さんはちょっとビックリしてるような照れてるような。うまく伝えられるかわからないけど、恥ずかしいけど、伝えた方が良い!と強く思ったときは勇気を出す。
でもほとんどの場合で、なんて言おう、どう切り出そう、どのタイミングで?ていうか変な人って思われない?などと思っているうちに、「お席ご案内します」と言われて終了だ。負けだ。連敗だ。
ああ、今日も言えなかった。こんなに気持ちの良い時間を提供してもらったのに、そのお礼も言えないなんて。ああ、スマートにシャンプーのお礼が言いたい…!

いい大人が。すみません…

私お店の常連とかにもなれなくて。
ありがとうございます、とか、ごちそうさまでした、とかは言えても、それ以上の話をどうやってしたらいいのかわからない。それに似ているような気がする。

延々と美容院という場所に負け続ける話をしてきたけれど、嫌いじゃないんです、美容院。むしろ好き。

だから攻略したい。最大限楽しみたいの。

誰か教えて、美容院攻略法。

#エッセイ #コラム #熟成下書き

子供の就寝後にリビングで書くことの多い私ですが、本当はカフェなんかに籠って美味しいコーヒーを飲みながら執筆したいのです。いただいたサポートは、そんなときのカフェ代にさせていただきます。粛々と書く…!