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つめたいスープはつめたい火でつくる

昔、家庭教師をしていたとき、生徒さんの妹が「犬のキャット」という犬を描いて壁にはっていた。

「キャット」超えする斬新な犬の名前は、いまだに出会ったことがない。

いつからおとなになったかなんて覚えてないけれど、気づいたときにはおとなになってたし、常識なんてものも身についていた。

子どもは常識の外で生きている。

世界は変幻自在、想像力は宇宙まで広がっている。

先日、4歳の甥がままごとで作ってくれた「つめたい火でつくったつめたいスープ」も幼な子ならではのメニューだった。

「つめたい火やから、さわってもだいじょおぶよ」

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お菓子の空き缶がお鍋、ビーズが具材。

彼は、家にあるものでなんでも作れる優秀なコックだ。

あの日、優秀なコックはわたしのために手料理を振る舞ってくれていた。

「こかちゃん、つめたいスープをつくるね」

今日は冷製スープか。

なかなか洒落たメニューだ。

「おなべにいれて…」

具材であるビーズがジャラジャラと空き缶に入れられていく。

カラフルなビーズがひしめく姿は、まるで宝石箱のよう。

彼はそれを大事そうに眺め、軽く振る。

「きょうはつめたいスープやから…

よいしょっ。

おなべをおいて」

具材でいっぱいになったお鍋がコンロに置かれた。

コンロはお菓子の空き缶のフタだ。

「火をつけます」

彼は少し首を傾け、コンロを慎重に操作する。

「カチッ。ぼぉぉぉぉぉーーーーー」

あ、火がついた。

上手に火がつけられたね。

「こかちゃん、火、さわってみて」

え?火触るの?熱いよ。

「だいじょおぶ。

この火はつめたい火やから、さわってもだいじょおぶよ」

冷たい火?冷たい火なんてあるの?

笑顔のまま彼はコンロを触る。

コンロに触れると、いつも「あちっ」と言うのに、今日は言わない。

「つめたい火やから、さわれるねん。

こかちゃんもさわってみて」

ホントに大丈夫なん?

わたしは恐る恐るコンロに触れる。

あ!ホンマや。この火、冷たいね。

触っても熱くないわ。

「つめたいスープはつめたい火でつくるねん」

彼はそう言う。

そっか。

冷たいスープを作るなら、冷たい火を使えばいいんだ。

温めたスープを冷ますんじゃなくて、冷たい火を使えば冷たいスープができるんだ。

想像力では子どもには敵わない

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昔は、わたしも冷たい火を使っていたのかもしれない。

しかし、いつの頃からか、わたしは冷たい火を使えなくなった。

おとなになるにつれて、「火=熱いもの」という単純な方程式に支配されるようになり、それが唯一となった。

おとなは、想像力では子どもには敵わない。

かつて持っていたのに、いつの間にか失ってしまったものを持つ子どもたちを羨ましく感じる。

彼のつめたい火は、まだまだ消えませんように。

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