コーチは教えてはいけない?

コーチは教えてはいけない?

コーチングを学んでいる方の中には、アドバイスしてはいけないと教えられた方もいるかもしれません。
セッション中に「こうすればいいのに」「そうじゃないんだよな」のような教えたい気持ちを抱いた経験があるコーチも少なくないでしょう。
私自身の経験や周りのコーチのお話に照らし合わせてみても、やはりコーチングあるあるな気がします。
特に自分が精通している話題であればあるほど、この気持ちは強くなるかもしれません。

結論からお伝えすると「場合による」が今の私の考えです。
私がこの話題で考える主なポイントは以下の3つです。
  ・クライアントの主体性を阻害しないか
  ・コーチ自身のために教えようとしていないか
  ・クライアントが本当に必要なものを理解できているか

クライアントの主体性


コーチングの定義や手法は様々ですが、共通して言える部分に「クライアントの主体性」を重視する点があると思います。
主体性を生むものは、責任です。
そして自らの行為に責任をもつためには、自らの意志で選択することが不可欠です。
しかし教えるという行為は、クライアントの自ら選択するという行為を阻害してしまう恐れがあります。
さらに言えば教える行為以外にも、コーチがクライアントの主体性を阻害してしまう可能性は十分にあるのです。(例えばコーチが特定の答えに誘導しようとする質問など)
したがって「教えてもいいか」という問いは、「クライアントの主体性を阻害しないか」という問いに置き換える必要があると考えます。

コーチ自身のために教えようとしていないか


これはコーチ自身が無意識のうちに、自分のために教えようとしている場合です。
例えば教える目的が、自身の承認欲求を満たすや自身の価値観の正当性を強めるためになっている時です。
テーマがコーチ自身が関心のあるものだったり、逆に自身が人生で避けているものである時には、特に気をつける必要があると思います。
このことに気がつくためには、普段からコーチ自身がよく自分自身と向き合っておく必要があります。
コーチ自身がコーチングやカウンセリングを利用するのも1つのいい方法でしょう。

クライアントが本当に必要なものを理解できているか


その情報が本当に必要なのか、そしてそれを決めるのは誰なのかという視点は常に持っておく必要があります。
コーチがクライアントが必要としていない情報を提供することは、コーチとクライアント間の信頼やクライアントの主体性に悪影響を与えるでしょう。
逆にクライアントが主体的にコーチに対して必要な情報の提供を求める場合は、コーチの経験がクライアントを前進させるための強力なリソースになることもあります。
(この時クライアントの中に「正解が欲しい」「決断することからの逃避」などの気持ちが、どれくらい存在するかを注意深く感じとることが必要です。)

そもそもなぜ悩むのか


もしかすると見直すべきは、コーチとクライアントの関係なのかもしれません。
セッション中の教えたくなる自分との葛藤は、コーチとして目の前のクライアントに集中できていない時間でもあります。
場合によってはコーチが教えたくなっている自分をクライアントに自己開示することが、そのセッションをあるべき方向に向かわせることもあるでしょう。


コーチングはもちろん万能ではありません。
あえてコーチングを使わないタイミングを考えておくことも、効果的なコーチングをするためには必要なことでしょう。
その上で教えたくなるタイミングというのは、コーチとしてクライアントの主体性を阻害してしまうピンチであると同時に、コーチとして「教えるか」「教えないか」の対立を超えたそのコーチならではのコーチングを見つけられるチャンスでもあるのではないでしょうか。