2017-18 NHL得点分析 (1) 無料回

序文

野球やフットボールに遅れること約10年、アイスホッケー界でも2010年代から「アドバンスドスタッツ」と呼ばれる、様々な形でのビッグデータの活用が始まりました。ちなみに私が筑波大学体育研究科で学んでいた1990年代後半にはイングランドでサッカーのデータ解析、日本でバレーボールのデータ解析が研究されており、スポーツにおける情報活用が講義されてました。やはり大学の研究は先進的ですね。

というわけで、近年のホッケー界のデータ分析に刺激を受けて、私も、2017-18年のシーズンに、NHL全得点の詳細を記録、分析するプロジェクトを開始しました。とは言っても、データ分析専門の会社のように、AI等を駆使して自動でデータを集積する技術力があるわけではないので、全得点シーンを映像で見直して手動でプレーの位置と詳細を記録するという気の遠くなる作業でした。一日2-6時間をパソコンの前で費やし、マウスのクリックし過ぎで腱鞘炎になったり、マウスそのものを二回も壊したりしながら、一人での全得点記録には限界があることを悟り、結局全得点の約半分に当たる3,854点を記録しました。

チーム、個人のデータとしてはサンプル数にバラツキがあるため、参考にしかなりませんが、全体的な得点パターンの傾向を分析するには十分なデータを得ることが出来ました。

記録されたもの

このプロジェクトで最も重視したのは、従来から行われていた得点された瞬間のパックの位置や、パックがゴールの枠を通過した位置という基本的な情報だけでなく、得点に至る経緯を記録することでした。そこで、

得点に至る
三段階前のプレショット3(Pre-Shot 3)
二段階前のプレショット2(Pre-Shot 2)
一段階前のプレショット1(Pre-Shot 1)

それぞれのプレーを行った選手と位置とプレーの属性(パス、キャリー、フォアチェック、ルースパック奪取、等)を記録しました。

そして、

得点を生み出したショット(Shot)を放った選手とショットの属性(リストショット、ワンタッチショット、ディッキング等)と位置、パックがゴールの枠を通過した位置、ゴーリーの身体の周りのどこの隙間を通過したかという情報を記録。更に得点の際に、ゴーリーの視界を遮るスクリーンになった味方と敵の選手を記録しました。

対戦チーム、得点時間、得点、アシスト等の基本情報も、もちろん記録しています。下記の動画でデータ入力の様子をイメージしていただけます。

プレショット3-2-1

集積されたプレショット3-2-1、そしてシュートの位置がどのようにリンクに分布しているか図示すると、以下の通りになります。薄緑色から赤色に近づくほど、パックが集中しているエリアです。

プレショット3(X3 & Y3)
シュートの三段階前、パックは主にブルーライン周辺と、エンドゾーンのボード際、コーナーとゴール裏に集中しています。

画像1

プレショット2(X2 & Y2)
シュートの二段階前、パックはエンドゾーン全体に広がり始めます。

画像2

プレショット1(X1 & Y1)
シュートの一段階前、パックはブルーライン内側の「ポイント」付近と、スロット周辺の(野球のホームベース状の)ホームプレートエリアとゴール裏に広がり始めます。

画像3

ショット(ShotX & ShotY)
得点されたショットの放たれた位置は、見事にホームプレートエリアの内側、特にネットフロント(ネット前の両ハッシュマーク付近からゴールラインにかけての長方形のエリア)に集中しています。

画像4

ボード際の攻防の重要性
プレショット3から得点までの一連の流れで重要なのは、スロットにパックが集中する前のプレショット3から1の段階で、実に全得点の53.78%がハーフボード(ポイントより下のボード際)、コーナーとゴール裏を経てシュートされているということです。

半数以上の得点は、リンクの中央を通過してくるのではなく、ボード際での攻防から生まれている、ということは、即ち、得点力を上げるためには、練習ドリルにもそのような状況が反映されているべきなのです。

しかし、下の図のように、洋の東西を問わず行われている、いわゆるフロードリルと呼ばれる、リンク全面を使い、ニュートラルゾーンでパスをレシーブして1対0でブルーラインを突破してシュートするような得点は、全得点のわずか7%しか記録されていません。ウォームアップ、パスやタイミングの練習、ニュートラルゾーンのシステム等、限定的な目的で行われているなら少しは理解できますが、スコアリングを主目的とするドリルであるならば、あまりにも現実の得点状況からかけ離れていると言わざるを得ません。

画像5

次回からは、スコアリングの基本データ、スクリーンショットによる得点等、様々な得点の状況を分析します。

それでは。

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