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はい、一周忌。

いつからだろう。花立の花が、生花から造花になった。高坏に、わざわざの品が載らなくなった。義母のために新調した仏壇の手入れも、疎かになっている。まぁ、一年経てばこんなもんか。今日は生花を買った。御供机に果物も並べた。お掃除もちゃんとした。公園の桜も咲き始めた。いい天気だ。

住職さんが言う。「回し焼香がないね」。あぁ、仏壇の下台にしまったままだ。出さなければ。座っていた住職さんにちょっと避けてもらい、経机と御供机を左にずらして下台を開く。焼香盆、香炉、香灰はあったけれど、お香が見当たらない。住職さんに借りることにする。
「三回忌には、回し焼香を出しておく」。これ、忘れないでおこう。

経机と御供机をもとに戻して座布団に座り直すと、今度は「ロウソクが短いね。火を灯して30分くらいは持つ、長いロウソクはないですか?」と住職さん。長いロウソクか。買ってないや。住職さんはやさしく笑いながら、「それなら短いままで結構です。ロウソクがなくなる手前で、私が新しいのと交換しながら進めましょう」と言ってくれた。お経を上げている最中に、何度もお尻を浮かしてロウソクの様子を確認してくれる住職さん。それを後ろから見ていると、不謹慎にもモグラたたきゲームのモグラみたいに思えてきた。
「三回忌には、長いロウソクを用意する」。これ、忘れないでおこう。

住職さんの声は、お尻を宙に浮かせても全然ぶれなかった。声量があって、よく響く。ときおりビブラートもかかる。本当にいい声だ。カラオケとか上手そう。いや、それはまた別か。お経の途中で知っているフレーズが出てきたので、大きな口を開けて口パクで参加してみた。住職さん独特の節回しもマスターしている。今日も完コピできたことが嬉しくてニンマリしていると、隣に座る主人が私を見て笑っていた。

義父と、夫と、私と。たった三人だけの義母の一周忌法要。静かで、これもよかろう。住職さんが帰ったあと、三人で脚を投げ出して義母の文句大会を開催する。わがままだったとか、贅沢だったとか、あんまり料理をしなかったとか、都合が悪くなると聞こえないフリをするとか。そんな中、夫がふと呟く。「おかんの好きな御座候、買うの忘れたな」。御座候は関西では馴染みのある和菓子で、回転焼きとか今川焼きとか大判焼きの類い。この御座候の赤あんが、義母の好物だった。
「三回忌には、御座候を買っておく」。これ、忘れないでおこう。いや三回忌じゃなくてもいいか。この週末に買って御供えしよう。お母ちゃん、忘れててごめんやで。

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