見出し画像

【第3回 後編】自己を理解し、仕事を通して自己実現・表現する キャリアオーナーシップ探索ダイアローグ

総合人材サービスのパーソルキャリア株式会社と特定非営利活動法人ミラツクは、多様化が進む「はたらく」を自分ごとにできる人が増えるように、「キャリアオーナーシップ」を考える試みを行なっています。誰もが自らの意思で「はたらく」を選択できるようになると、未来はどう変化していくのでしょうか。有識者や実践者の知見を聞くリビングラボも第3回目。

こちらの後編では、株式会社ヒトカラメディア代表の高井淳一郎さん、TimeLeap inc.代表の仁禮(にれい)彩香さんのお話を中心にお届けします。

前編はこちら

グラレコ_ダイアログ第3回

オフィスを取り巻く環境を幅広く提案

高井さん 弊社「ヒトカラメディア」の考え方や取り組みなどからお伝えさせてください。まずわたし自身は建築デザイン学科出身なのですが、途中から、建築そのもののハードだけではなく、ソフトに注目してきました。ソフトからイシューをもって生きる人、チーム、街などを増やしていくお手伝いがしたいと思ったんです。

あ

「場」の可能性を信じていることもあって、場づくりのプロセスや、場に集まる一種のエネルギーをうまく紐付けていきたいと考えて、「ヒトカラメディア」という会社を立ち上げました。現在40人ぐらいの規模でやっております。事業は多岐に渡るのですが、会社のテーマとして「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする、と掲げていて、結局は世の中の在り方や価値観を広げたいんです。その実現のために、持続可能な状態に戻す手段や方法を問うことが大切だと考えてやっています。

社内ではよく「熱源を増やす」という言い方をしているんですが、企業における「はたらく」の価値観も同様で、アップデートしていかないといけない。そうしたビジョンも自分たちに対して設定していますね。

会社の拠点は東京・下北沢の本社と、あと軽井沢、島根・雲南市、徳島の美波町(みなみちょう)にサテライトオフィスがあります。事業はオフィス移転のプロデュース等々が主力です。ソリューションとして、オフィスの仲介、空間設計、実現のためのプロジェクトマネジメント、内装施工の会社もグループでつくっていますし、自社でも施設運営、ビルオーナーのための事業開発・アセットの企画、チームビルディングの支援なんかもしています。

い

ではなぜオフィス移転を主力にしてるかというと、「はたらく場」と「はたらき方」を自分たちで考えることは、未来の在り方を考えるきっかけだと思っているからです。そうしたことの価値を最大化して、熱を帯びていく組織や街づくりが広く伝播できると思うんですね。
クライアントはベンチャーやスタートアップが8割ぐらいですが、当然ながら企業によって大切にしている文脈が違うので、何をどう形にしていくか、結構おせっかいをしながらお話を聞いてご提案させてもらうことが多いかもしれません。人、チーム、企業としてのチャレンジを応援する気持ちで場をプロデュースしています。

施設の取り組みとしては、昨年の秋から雲南市で、まちのワーキングスペース「オトナリ」を立ち上げました。コロナ禍で少し進行に変更が出てきていますが、これは街の持続的な賑わいづくりの創出をテーマにして、「たすき株式会社」と地域の方々と立ち上げたものです。コワーキングスペース、イベントスペース、キッチンスペースの提供ができ、ここをきっかけに新しいことを始める人を増やす予定です。

う

第2期工事では、2階にゲストハウスを併設させようとか、隣の建物もチャレンジキッチンみたいな感じにしようとか、色々な計画も進んでいます。また、奥にキッチン付きのスペースがあるのですが、すでに週に何回か、地域の方が映画上映会をしたり、スナックをしたり、コーヒーを淹れて売っていたり、と活用されています。聞けば、少しやってみたかったけどきっかけがなかった、という方々がけっこういて、そうした人の手助けになれた。しかも、うちの社員がすでに移住しまして、ここで皆さんのお世話係りのように活躍しています。

空き家問題の解決は、こうして地域の方々が自分たちごとにしていくような連鎖がなければ、根本的な解決につながらないとも思ってるんですね。だから決して僕らが主役になる必要はなく、もっと主役になる人を増やしていくためのおせっかい、それが「オトナリ」でやっていることです。

こうしたオフィス以外のことも幅広くやっています。工場の休憩棟を建て替えたり、廃校活用をしたり、僕らは「自分ごと」と捉える領域が少し広いんだろうと思います。クライアント社からお金をいただいて活動するにしても、例えば、ある企業が地域に根差すための場づくりとなれば、その企業があることで街にも企業も良い関係性が起きるような形やシステムをデザインして提案する。企業と地域のつながりを、僕らも自分ごととしてちゃんと関わりたいなと思うんです。そうしたことを実現できるためにも、複数事業の展開や掛け合わせをして、できることをたくさん抱えています。

これは僕自身が、「自らの意思で自分の人生を生きる人を増やしたい」と強く思ってることも関係していますね。そもそも自分自身にめちゃくちゃコンプレックスが強かったんですよ、昔。何をしても1位にはなれない、そこそこできるけど、何者にもなれない、という自己評価をしていました。

ただ、いろんな体験や出会いを通して、それでも結局は自分の意思次第で受け取り方は変わると気づけて、そしたらいろんなところが進み出したんです。そうした経験から、誰かの気持ちや活動も後押しすることが、結局は世の中に良いことをする人が増えるんだと考えるようになりました。とはいえ、他者である自分が関われることというのは、良質なきっかけづくり、そこまでだと認識して線を引いてもいます。

え

僕が語るまでもなく、これからの世の中はもう適切な投資モデルで適切な成長ができるような構図ではなくなり、課題やニーズが複雑化するでしょう。それは行政も企業も一致した見方だと思います。

つまりはこれからは、自社だけではどうにもできないことが起こるんですよね。もっと各セクターを越境して、課題認識を共にして、共通のビジョンや目的をもって共創していくことが重要になる。そのために、コミュニティやエコシステムが求められていくだろうな、と思っています。

最後に今日のお題だった「自己を理解し、仕事を通して自己実現・表現する」という問いについてもお伝えすると、先ほど使った「越境」というのが良いキーワードだと思っています。「越境」って簡単ではないですが、自己の役割を超える、それも結構、熱量がないとそう簡単に超えられないことでもあります。手間も掛かるので実践するための覚悟や大義ももたなくては、誰かを巻き込むことも難しくなるので。

そのためにもまずは自己理解、そして、きっかけづくりとチャレンジ支援。そうした連鎖ができる人たちが、世の中にとって重要だなと。僕やヒトカラにできることは結局、そうしたクオリティを上げて、機会を増やすことだと思っています。

起業家的経験から見えてくる、自分の在り方

仁禮さん 現在「TimeLeap」では、小中高生のためのオンライン教育プログラムをメインとした事業をしています。私たちが定義している課題からお話したいと思います。

お

そもそも日本の教育システムは、教科書の中にある答えを探していくことが重要視されていて、私自身、そこに違和感をもっていました。本質的じゃないんじゃないかと感じていたんです。小中高生に向けたプログラムは「TimeLeap Academy」という起業家教育プログラムなのですが、別に起業家を育成することだけが目的なのではなく、起業家が通るような事業をつくる経験を通じて、生き方を自分で考えて決められる人になってほしいんですね。起業家が行う事業のつくりかたは、社会との接点や、アイディアを形にするプロセスを学べるんです。

わたし自身、14歳の時に起業した経験から、プログラムに参加する子どもたちに対しても質問でコミュニケーションを取ることを大切にしていて、「そもそもなんでこれをやりたいと思ったの?」とか「これをすることによって生まれる弊害ってなんだろう」とか、答えのない質問を彼らにしていくことで、自分の中にある思いを言語化してもらうように努めています。社会が求めている幸せとか、会社が求めている成果ではなく、「自分の人生の喜びはなんなのか」というベクトルで生きれるようになってほしいからです。

か

それは現行の教育の中で補いたいと思っていることでもあります。「自分を知ること」と「社会とつながること」、その上で才能を発揮したり、自己表現ができる機会をつくる必要があると思うんです。

「自分を知る」とは、自分が何かを体感する中で、好きなことや苦手なこと、あるいは何をした時に喜びを感じるか、または自分が当たり前だと思っていたことが人に褒めるなど、実際に取り組んだことで体感でき、本来の自分を知ることができます。

例えば、教科書を読んでいくら知識が入っても、それが自分にとって喜びなのか必要なものなのかは、実践しなければわからないものです。視野を広げていく意味でも、社会の中で人と関わる実践を通してフィードバックを得たり、誰かの笑顔をつくれたり、お金として返ってきたり、そういうことを経験する機会が必要だと思うんですね。

その結果として、才能が発揮することもあると思うんです。結局、自分の才能は何なのか、という問いも、やってみなければわからないことが多いわけです。何かプロダクトをつくるとして、もしも会社にいれば、製造のプロセスやどんな役割りが必要かがわかり補い合えますが、子どもたちはすべての過程を学びながら知っていきます。

例えば、ある小学生がつくっている「アトリエミノ」というブランドのブレスレットは、パッケージを決めるために、自分でいろんな会社のパッケージを探してきて、値段設定などすべて収支計算の表をつくって決める。その彼女が、ひとつずつ小さな決断を重ねる過程がありました。そうした細々した学びを、彼女は「結構得意だな」と感じた。しかし、どうやって世の中の人に届けたらいいかというマーケティングの観点は不足してると思った。そこを高校生に相談したりするんです。

自分はどういうところに興味・関心や適性があり、他にどういうところで人の助けを借りたらいいのか、それが実践を通して、才能のベクトルとして発揮されていくんですね。こうしたループを回す起業家教育では、経験を積み重ねていけます。

わたしたちは教育をアップデートするために、もっと個性とか才能に合わせた教育機会を増やしたいんですね。ただこれは選抜制でいいと思っていて、別に全員にやってほしいとは思っていません。

例えば、スポーツとか芸能だと、若い世代の才能が出てきた時、ユースのクラブチームがあって、プロフェッショナルの人たちから学びの機会があったり、育成システムがあったりすると思うんですけど、お金に関する話は学校教育でされないですよね。それはおそらく、企業家的なスキルを多角的にするモデルケースが普及してないからで。「TimeLeap Academy」では、そうしたケースをつくろうと思っています。

き

参加はすべてオンラインで、8ヵ月間、いろんな分野のメンターをつけて、実際にビジネスを経験したり資金調達とかも自分たちでしたりします。心理的安全性が確保されている中で伸び伸びとチャレンジしてもらいたいので、メンタルのサポートも大事にしています。

内容は様々ですが、例えば「誰かひとりを幸せにしてきてください」みたいなお題を出して、こどもたちがご家族に料理をつくり、その内容をプレゼンするとか、お友達に勉強を教えてあげて、その結果どういう風に幸せを感じてくれたか定量データに取ってみんなに発表するとか。最初はそういうことから始めて、段々メンターの話を聞いてるうちに、仕事の仕方みたいなことと重ねて学びを深めていきます。

あと、みんなに勉強会みたいなものを受けてもらい、そこから、自分ならどんなものをつくりたいのか、考える時間を取るようなこともしていますね。いずれの場合も大事にしているのは、自分がする理由を見つけてもらうことです。事業をつくる理由もいろんな理由があるので、自分できちんと認識できていることが鍵だと思うんです。

「見たことない新しいものをつくりたい」から事業をするのか、「困ってる人を助けたい」から場づくりなのか、「絵の才能を発揮して誰かが喜んでくれたらうれしい」といった才能ベースなのか、など一人ひとりがどこに熱量をもっているのかをちゃんと見つけていくことが、このプログラムの中ですごく大事にしているところです。

事業アイデアも本当にいろんなものがあって、最終的には自分たちで資金調達をするんですけど、今もちょうどクラウドファンディングを始めるところですし、例えば、先ほどお話ししたアクセサリーブランドの子は、自分でECサイトをつくって販売したりしています。環境保全をテーマにして、海洋ゴミからアクセサリーをつくって販売し、環境保全団体に寄付するというビジネスモデルを経てから、さらに先のステップとして、より環境保全をファッションに絡めたサイクルに発展させたい、と彼女の熱がプランに活かされています。

カードゲームをつくってる子とか、「和焚(なごたき)」という都心近郊で焚き火ができるスペースをビジネスにしている子もいます。アイデアベースまでの子もいるし、すでに実践に入っている子もいます。あと、イベント運営をして収益を出したレポートを公開している子とか、会社を立ち上げてる子もいますし、一人ひとりが全然違うベクトルで動きながらもコミュニティ化することで、みんなの学びが仲間同士で広がるようになりました。年齢は関係なく、個人の価値を発揮できることを目指しています。

く

若い世代にフォーカスしている理由は、自分の人生を切り拓く力を育んでほしいからなのですが、彼らの才能が発揮される場所は、本来なら教育機関なんですよね。しかし現状ではどうしても潰されてしまう才能があるように思えてしまいます。年齢に関係なく、誰でも価値を生み出せることが、生きる喜びを感じられる社会につながると思っています。

「自己を理解し、仕事を通して自己実現、表現する」についても、自分の物差しで何かを測れるようになることだと思います。社会が決めた何かや、会社が決めた何かではなく、自分はハッピーなのかどうかを考えることが、生きやすさをつくると思うんです。

ハッピーのきっかけとして、関心や自分の感情、「これが好き!」みたいな熱量などを見出せると、あとはもう行動して、振り返って、気付きを得て、また行動という循環を続けていけるようになります。この力は一旦循環に入ると、あとは自走してどんどん育んでいくと思います。

自分がしたいことを突き詰める喜びと、自分のしていることが他者の役に立つ満足感、この両方のバランスを取りながらはたらく

西村さん ありがとうございます。皆さんにそれぞれお話いただいたので、ここからは質問や感想など、少しディスカッションできればと思います。

秋田さん 仁禮さん、ありがとうございました。今、小中高生の子たちを対象に自己実現させることを事業にされていますが、仁禮さん自身のやりたいことは、それとイコールなんですか?

仁禮さん そうですね、私がやりたいこと、というよりも「TimeLeap」がやりたいことになりますが、まさに自分の人生を切り拓く人を育み続けることがやりたいんですね。

教育を事業のテーマにしたのは、教育に対する違和感みたいな、わたし自身の原体験です。わたしが小学生の時に受けた教育は、今「TimeLeap」でやっているような、一人ひとりの考えをみんなで聞き、本人が自己理解を深めた上で、学びたいことを学んでいくような学校に行ってたんですね。

でも日本の教育の中ではどうしても、ひとつの答えに絞られた状態で、テストや受験といったゴール設定がされていて、明確に定義されているところに向かっていくシステムで、それがわたしには合いませんでした。その学び方で得られることももちろんあるし、それが向いている子もいると思うんですが、一方で、自分が見つけた課題や感じた喜びを活かしたアウトプットをつくりたい子たちは、日本の学校の中にもいっぱいいると思うんです。

そういう子たちが、機会がないまま大学生になって、ずっとひとつの答えだけを正解とされ続けたのに、でも就職活動では「あなたはどんな人で、どんな価値を世の中に提供したいですか? どんなことを弊社でしてくれますか?」と初めて聞かれる。きっと悩むでしょうし、結局そこから自分探しが始まるかもしれません。

わたし自身も中学の時に、通っている学校だけではできなかったから会社の立ち上げにつながっていて、事業をつくっていく上で自分について色々知ることができたんです。ただわたしは、その時がむしゃらに、サポートなしでやってしまって結構大変だったので(笑)、そんなにいらない苦労をせずに相談できる人たちがいて、自己認識もシステム化できる状態で、子どもたちが起業家的な経験を踏めたらいいな、と。それがわたしと「TimeLeap」のしたいことにつながります。

秋田さん すごいですね。実は僕も、中学校2年生で環境を軸にもったんですが、果たして自分が選んだ軸なのか、もしくは何かに選ばされた軸なのか、と一時期悩んだんですよね。

仁禮さん わたしもそれを悩んだことは何度もあります。わたしはそういう時、一旦その軸を横に置き、するのを止めてみました。止めてみて、他の事業をやろうとしたんですけど、でもそれでは自分の喜びは感じられませんでした。アプリの会社もやってみたし、ファッション事業とか、別の方向性を考えたりしたこともあったんですけど、結局「今やりたいものはこれだ」と戻ってこれました。

もしも戻らなければ、多分別のフェーズに行っていたかもしれません。原体験は大切だけど、固執することなく違う体験をする、みたいなことは大事だと思いますね。今の軸は自分で選んだのか、選ばされたのかはわかってないですが、でも実践しているとは思ってます。

坂倉さん 面白いですね。わたしは結構人生が成り行きなんですよね。自分でこの道だと決断した感じはなくて、中学生の時に今のような人生は想像していないし、大学生の頃も40代の想像はきっと全く当たってなかったと思うんです。でも過去の自分の想像を超えたような人生になっている実感はあって、そういう意味ではわたしの場合、自分の軸は後からできた感じです。

自分と、自分が生きている世界との関わりの中で、独自に軸が生まれたような。自分で選んだのか選ばされたのかというより、もうちょっと中道的です。自分で決断したら良いということでもなく、自ずとそうなる真実みたいなものもすごく大事なんじゃないかと思います。

僕自身、元々は美術史学だったのが建築都市計画にいき、今はまたもうちょっと社会学的な方法論に変わっています。研究者とは、ある分野をちゃんと突き詰めて先導していくアプローチだという意見が一般的ですが、それでも中には、社会課題に取り組むためにいろんな自分を組み合わせて研究内容や手法を変える研究者もいるんですよね。

秋田さん 公務員の世界にも、「この仕事はしたくないけど、転職もできない」みたいな人は結構いるんですよ。僕は大学で公務員を題材にしたキャリア事業をすることがあるんですけど、最後にアンケートを取ると、「僕は公務員を目指してます。だけど公務員の仕事は面白くないと思っていました」という答えが多かったりします。「なんで面白くないと思うところを目指すんだ?」と聞くと、親に安定と言われた、と。つまり自分では決めず、親に言われて、公務員を目指している人はかなり多い。肌感覚では半分ぐらいがそうなんじゃないかな。

唯一それを上回る理由があるとしたら「まだよくわかんないけど人の役に立ちたい」みたいな理由で公務員を選んでることもあるので、それは希望だと思っています。だからあえて、現役の公務員に対しても「就職した時には、誰かの役に立ちたいと思ってたんじゃないですか」と投げかけたりしますね。

高井さん ひとつ皆さんに聞いてみたいことがあるんですけど、自己認識が大事なことは僕自身もそう思っているんですが、ステップ的には先に、自分の感情を受け入れることから始まりますよね。その強さがないと向き合えない。そうすると結局、自分自身に自信がある人とか。成功体験があって、自分の哲学をもっている人が一歩踏み出しやすいと思うんですよね。それをどう培うかが未だにわからないと思うことがあるんです。

仁禮さん わたしたちが参加者の対象年齢を小学5年生〜高校3年生にしているのも、まだ育みやすい年齢で、まだ熱量が残っているという見方をしているからなんです。年齢を重ねてインプットや社会知識が増えて、常識というものが増えた後に育み直すとしたら、その手法はわたしたちにはないんですね。

坂倉さん そうした自己概念も大事ですし、一方で、自己経験も大切ですよね。自己概念はやはり思考からできるものだから、「私はこういう人間である」という認識も本当は違う可能性があるわけですよ。「私はこういう人間でありたい」とか「こういう人間であるはずだ」という思いと、本当に起きた体験は違うことが多い。

自己経験をしっかり耕せれば、概念がそんなにずれることもないと思うんですが、もしも概念がずれているとしたら、そういう人は結構不幸だと思うんですよ。「私はこうあらねばならない」みたいなものを、外から植え付けられたのか、自分でつくり出しちゃったのか、何れにせよ捉われてしまいやすいですから。自己経験をしっかりとできる期間はやっぱり必要でしょうね。

仁禮さん 教育の事業をしていると、子どもたちに人生を楽しんでほしいという、本当にシンプルな願いをもつんですね。だから彼らに決断の機会を与えたり、偶然の出会いが事業になるようなこともしているんですけど。そうした「はたらく喜び」みたいな気持ちをみなさんはどんな風にお考えですか。

秋田さん 僕は、自分が本当にやりたいことをやれている喜びではないんです。それよりも、社会の役に立っているかどうか、みたいな安心感ですね。あまり言っていないことですが、実は子どもの頃はしょっちゅう入退院を繰り返すくらい体が弱くて、当時の予定では40歳くらいで死ぬと思っていたんです。その原体験から「やっぱり誰かの役に立ってから死にたい」みたいな気持ちになります。自分がやりたいことをして楽しいというよりは、自分が軸に沿ってしていることで役に立てているという安心感が大きいです。

坂倉さん 私も近いですね。やりたいことができている喜びというよりは、自分が好きなことや他の人よりもちょっと得意に思えることを通じて役に立てていることが、すごく安定をもたらしてくれる。社会の歯車ってあまりいい意味で使われない言葉ですけど、でも歯車って良いですよ。自分が回りながら誰とも噛み合ってると感じられなかったら、辛いと思う。から回りしかできなかったら、例え自分がやりたいことや選択した結果だとしても辛いんじゃないかな。

高井さん 僕は岡本太郎が好きなので、誰かの役に立つのは大事だと思いつつ、あくまでも「自分がどこまで世の中に影響を与えられているか」を追い続けて死にたいと思っているタイプなんです。結果的に、自分の何かを許せないエネルギーが強いというか、本質的じゃないところはすごい嫌で、自分の納得のためにやっていることもありますよね。他者の評価というより、自分が納得して生きられるかどうかの方が100倍大事みたいなところがあります。

仁禮さん 面白いですね、わたしもどっちかと言うと納得したいタイプだと思っています。これって本質的なのか、且つインパクトを出せるのか、みたいな軸で考えていることが多いです。今ここでタイプが2つに分かれたのも含めて、こうして自分のことを言語化できると、生きやすくなるだろうなと思いました。自分が何に満たされると良いのか、言語化までいかなくても体感として理解し始めると生きやすくなりますよね。

秋田さん 今日のような場はいいですね、僕は好きだなあと思いながら聞けました。普段の職場だと、そこにいたくないと思いながら働いている人に囲まれていることが多くて、こういう外部の人たちと前向きな話ができたり、自分で選んだ道を進む人と話ができることは、僕にとっても大きな意味が再認識できました。「キャリアオーナーシップ」の成果が出れば、ぜひ公務員に実装してほしいです。

(本編はここまで)

4名のお話は、自分がしたいことを突き詰める喜びと、自分のしていることが他者の役に立つ満足感、この両方のバランスを取りながらはたらくことを前向きに捉えた議論に展開しました。引き続き、明確な意思をもってはたらき方を選ぶ人が増えるよう、さまざまな可能性を考えていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?