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異質との出会いこそが人を育てる。 さあ、「当たり前」の世界から飛び出そう。

一般財団法人地域教育魅力化プラットフォームは3年を迎え、地域みらい留学生も800人を超えるまでになりました。そして、これからの10年を思い描いたときに、ビジョンを共有し、新しい発想とアイディアで力強く一緒に未来を築いていくために、日本を代表するリーダーの方々に「ビジョン・パートナー」となっていただきました。今回から始まるこのシリーズでは、ビジョン・パートナーの皆さんが思い描かれている未来についてお聞きしていきます。

ビジョンパートナー 竹原啓二 様
プロフィール
(株)フューチャー・デザイン・ラボ 代表取締役会長
香川県坂出市出身。岡山大学法文学部卒業後、(株)日本リクルートセンター(現・リクルート)入社。HR事業部・住宅事業部・情報通信事業部・総務部・法務部・学び事業部・地域活性事業部・ホットペッパー事業部・アントレ事業部などを経て、1995年に同社取締役、2000年に常務執行役員に就任。1997年からはNPO法人21世紀教育研究所の理事を務め、不登校児童の支援にあたる。2004年にリクルートを退社し、国立大学東京大学副理事に就任。2007年に(株)フューチャー・デザイン・ラボを設立。経営コンサルティングや留学生キャリア支援プログラムの開発・運営などの事業を手がける。

インタビューアー 水谷 智之
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 理事・会長
1988年慶応義塾大学卒。(株)リクルート入社後、一貫して人材ビジネス領域に携わり、「リクナビNEXT」などを立ち上げる。グループ各社の代表取締役、取締役を歴任し、2012年には(株)リクルートキャリア初代代表取締役社長に就任。2016年に退任後は、社会人大学院大学「至善館」理事兼特任教授、経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」委員、「『未来の教室』とEdTech研究会」委員、内閣官房「教育再生実行会議」委員などを務める。2017年より現職で地域みらい留学を推進。

水谷:長年、リクルートで人材育成事業や教育事業に携わってこられた竹原さんが、東大に行かれて、現在は留学生向けのキャリア支援プログラムの運営や外国人に特化した就職サポートをされている。どのような経緯や思いがあって、今の事業に取り組まれているのですか?

竹原:東大で副理事を務めていたときに、当時の総長が「異質との出会いこそが人を育てる」と常々おっしゃっていたんです。海外からの留学生の就業支援を行うキャリアサポート室を作るというのが私の初仕事で、その後も留学生をサポートする仕事に携わりました。留学生と東大生が混じり合う機会も多かったのですが、留学生にとってだけでなく東大生にも大きな刺激になり、いい摩擦熱が出て、新しい発想が生まれて、これがすごく良かったんです。異質のもの同士がインテグレートしていくなかで新しくより強いものができるという実感があり、まさに「異質との出会いこそが人を育てる」を肌で感じました。それ以来、これが私の中でテーマというか、信念になっています。
 そして、東大に来ている留学生だけでなく、日本に来ている留学生みんなにこの輪を広げたいと考え、フューチャー・デザイン・ラボを立ち上げました。せっかく日本の大学に留学しても、留学生のコミュニティができてしまって日本人学生のコミュニティや地域のコミュニティとはなじまずに帰国してしまう…というケースが少なくありません。異質同士が出会い混じり合う機会を作り、この状況を変えていきたいと思ったんです。

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水谷:「異質との出会いこそが人を育てる」。まさにその通りですね。日本の社会や学校というのは同質性が高いので、意識的に異質の世界に飛び込む、つまり、「越境」することはとても大事だと思っています。

竹原:そうなんですよね。水谷さんから「地域みらい留学」の話を初めて聞いたときに、これも「異質との出会い」だなと思ったんです。東京や大阪といった都会で生まれ育った高校生は、その環境を当たり前だ、普通だと思っているわけです。そんな彼らがまったく異なる環境で、全国から集まった同世代の生徒たちと混じり合い、地域の大人と一緒になって活動する。これって、その子の人生にとってすごく貴重な3年間になるだろうな、という確信がありました。

水谷:「地域みらい留学」の学校はどこも少人数なので、留学生同士が固まることなくごちゃごちゃとつながるんですよね。地域に子どもが少ないから、地域の人みんなが生徒の名前を知っていて、ときにはお節介をやいたりして。異質との出会いは、確実に都会の学校よりも多いと思います。

竹原:距離の近さ、親密さによる鬱陶しさもまた、都会では経験できないものですからね。一方、規模の大きな学校だと、生徒同士がお互いの名前も知らない。それが良いか悪いかではなく、自分にとって「当たり前」の世界を飛び出すことに、大きな意義があると思います。
 もう一つ、「地域みらい留学」で面白いなと思ったのが、地域社会に高校生を巻き込んでいくという在り方です。これまでは、高校生と社会人が一緒になって地域で活動するという発想も機会もなかった。その背景には、社会を動かすのは大人だ、高校生はまだ子どもだという先入観があって、無意識に線引きをしていたのだと思います。でも、よく考えたら、高校生が混じって一緒に議論したっていいし、大人たちが見て見ぬ振りをしてきた問題や形骸化した常識に対して高校生が意見するということもあるだろうし、いいじゃないかと。むしろ、高校生のパワーを使わない手はないですよね。このコペルニクス的転回がすごくいい。これは、日本の教育において、大きなチャレンジだと思います。
 カナダでは近年、企業で働きながら大学で学ぶ「CO-opプロジェクト」を導入する大学が増えているそうです。いわゆるインターンシップとは違い、有給で長期間、実地で経験を積み、大学での学びと往還するのだそうです。実際の社会課題をどう解決するかを軸に据えた学びは、「地域みらい留学」の学びと同根だと感じます。まさに今、教育の在り方そのものが、変わりつつあるのでしょうね。

水谷:高校時代に実際の社会課題や地域課題に取り組む意義は、どこにあるとお考えですか?

竹原:私は出身地である香川県のUターン支援プロジェクトを手伝っていて、地元の働き先や地方ならではの働き方を紹介するなどいろんなアピールをしているのですが、都会の若者にはなかなか響かないんです。それはなぜか。社会に出るまで、「働く」ということや「地域社会」について考えたことがなく、地元で働くとか、みんなで課題解決をするとかいうことが、全然イメージできないんだと思います。高校生の頃に、地域社会や地域の抱える課題に少しでも触れる機会があれば、「地元で就職する」「地元に戻る」という発想も選択肢として出てくるのではないかと思うんです。高校時代に地域社会と関わり、抱える課題を目の当たりにし、それに取り組むという経験は、いわば「種まき」のようなもの。そのときすぐに芽が出るものではなく、後からジワジワと効いてくるのではないかと思います。

水谷:なるほど。高校時代に心の種まきができているかどうかが大きいというのは、自分を振り返っても周囲を見ても、とても共感できます。では、もう少し広い意味合いで、高校時代にはどんな経験をしたりどんなことを身につけたりしてほしいとお考えですか?

竹原:高校時代には、何でもいいので、何かにとことんハマる体験が重要なんじゃないかと思っています。ビジネスパーソンも大学の先生や研究者といったアカデミックの人も、能力の高い人は共通して、高校生から二十歳くらいまでの間に何か一つのことにものすごくハマる体験をしているんです。グーっと一つのことにハマり込むことで、一見、視野が狭くなるように思えるのですが、深く深くハマっていくうちに地下水に突き当たって、そこからドーンと世界が広がって、「あ、世界ってこうなっていたんだ」と気づく。そういう体験をすると、ものを見る視点が変わるというか、視座が高くなるんです。ちなみに私は、中高大とずっと卓球一筋でした。のめり込んでいたあの感覚や卓球を通して得たものは、やはり今の自分の糧になっていると感じます。

水谷:「何かにハマる体験」ですか、面白いですね。では、大学時代はどうでしょう?

竹原:大学時代は、仲間や人との触れ合いのなかで揉まれる経験をしたらいいのではないかと思います。うまくいくこともあれば、失敗することも挫折することもある。仲間とケンカしたり議論したりしながら試行錯誤する。社会に出る前に、そういう経験をたくさんしておくことは、とても大事だと思います。とはいえ、人と本気で本音をぶつけ合える場は今の時代は自然発生的には生まれにくいので、場づくりが重要になります。仕事柄、これまで多くの大学を見てきましたが、こうした場が生まれるような仕掛けやきっかけを提供している大学というのは、ものすごく価値があると思っています。

水谷:大学時代にしっかり揉まれておくこと、自分とは意見の合わない人とも合意形成をしていく経験というのは、とても大事だと思います。では、社会人になってから、若いうちに経験しておくと良いことはありますか?

竹原現実を直視することですね。若い頃というのは、現実を直視するのが難しいんです。私自身、若い頃はまったく冴えない営業マンで、会社を辞めようと考えたことも何度もありました。うまくいかないときは、商品が悪い、上司が悪い、会社が悪いと、つい何かのせいにしてしまい、「自分ができていない」という現実から目を背けてしまいます。他責にしたくなるのは、自分に自信がないからです。「自分は悪くない」から「自分がよくなかったかもしれない」「じゃあ、どうしたらうまくいくだろうか」へと、自分自身を変える方向に意識を転換できるかどうか。どんどん成長するかそこで伸びが止まってしまうかは、ここで決まります。ですから、若いうちに現実を直視する力を身につけることは、とても大事だと思っています。

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水谷:昨今は「主体性」とか「当事者意識」という抽象度の高い言葉がよく使われますが、「現実を直視する力」と言われると、自分はできているだろうかと、思わずドキッとしますね。では最後に、中学生のお子さんをお持ちの保護者に向けて、メッセージをお願いします。

竹原:東京や大阪といった都心部にある高校の立地って、基本的には無理があると思うんです。山もない川もない海もない場所でコンクリートに囲まれた生活で本当に良かったんだっけ…と疑問を感じる人は少なからずいると思いますが、大半の人は「しょうがない」「ここしか選択肢がない」と思っている。どちらかというと、消極的な理由で都会の高校を選んでいると思うんです。でも、今は越境ができる。進学する高校を全国から選べる。まずは、その事実を知っていただき、どこで高校3年間を送るのが我が子にとって望ましいことなのか、改めて考えてみてもいいのではないかと思います。
都会も田舎も両方とも日本の姿です。越境して若いうちにどちらも体験しておくというのは、日本の現状を知るという意味でも、とても有意義なことだと思います。そして、これまで守られてきた親のもとを離れ、見知らぬ土地で自分で生活をするというのは、それ自体がとても価値のあることだと思います。「地域みらい留学」というプラットフォームができたことで、越境のハードルは格段に下がっています。高校生で越境ができるって、すごく贅沢なこと。異質との出会いの機会を、ぜひお子さんにも作ってあげてほしいと思います。

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※本記事は、2020年7月25日・26日の『地域みらい留学フェスタ2020オンライン』の事前対談です。昨年まで、東京・名古屋・大阪・福岡で開催していた地域みらい留学フェスタが、オンライン開催で帰ってきました!高校3年間地域で学ぶ「地域みらい留学」と高校2年生の1年間地域で学ぶ 「地域みらい留学365」。オンラインだからこそ気軽に参加していただけるように多くのイベントをご用意しています。ご関心がある方は是非、以下をクリックし、ご覧ください。

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【カメラマン:荒川潤、ライター:笹原風花】

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