【85】 カメラの電源が再びONに…自分で自分を監視させる彼に涙
このお話はセフレだった男女が
結婚するまでの1000日間を
赤裸々に綴った超絶ドロゲス
ノンフィクションエッセイです
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前回までのあらすじ
アラサーにしてセフレの"イケチン"に沼った私は、どうにかこうにか交際まで漕ぎ着けるも、度重なる彼の不誠実な言動に嫌気が差し、自ら別れを選ぶ。その後、条件最高で性格のいいハイスペくんと出会うも、彼のあまりにも残念なセックスに告白を断り、未練を感じていたイケチンと復縁する。その後、数多くの喧嘩やトラブルを乗り越え、婚約関係に至るのだった。
新しい仕事を選び、働き方を変え、収入を9倍に増やして生活リズムや交友関係まで変え始めたイケチンと対面した私は、その顔つきが明らかに変わっているのを目の当たりにする。
しかし、それでも過去のトラブルが頭から離れず、信用することができない自分に、「監視カメラなんて意味がない」ということにようやく気付く。
結局、浮気をされてようが、されていなかろうが、自分自身の認識がすべてなんだ。
その認識を覆せないのなら、どれだけ厳しく監視をしたって意味がない。
私たちの信頼関係は、もう取り戻せないんだ。
そのことに気付いた私は、監視カメラの電源プラグを抜き、「もう要らないよ」と伝えて彼の家を後にした。
実家に帰る電車にひとりで乗っていると、車窓に流れていく街の景色に彼との想い出が走馬灯のように重なって見えた。
あぁ、あのビルで一緒にパスタを食べたよな。
あの路地でめちゃくちゃ言い争いした。
あのスーパーで毎晩食材を選んだし、
あのコンビニの前で何度も待ち合わせした。
この街には彼との思い出が詰まりすぎてて、正直もう住み続けるのは辛いかもしれない。
ふと「スマホに入れてる監視カメラのアプリも消さないとな…」と思い出す。
登録情報を削除するため、アプリのアイコンをタップして起動する。
するとなぜか、さっき電源プラグを抜いたはずの監視カメラが、リアルタイムでイケチンの部屋の映像を映し続けていた。
彼はカメラの前のデスクに大人しく座り、パソコン画面まで丸見えの状態で、静かに仕事に取り組んでいる。
それを見た瞬間、私はボロボロと涙が溢れた。
私はこの人になんてことをしてしまったんだろう。
彼は自分で自分を監視させている。
私が抜いた電源プラグをわざわざコンセントに繋ぎ直して、私に信用されようと不器用なりに頑張っている。
私は自分が傷付けられたからと言って、不信感を振りかざして、彼の尊厳とか自由とか、大切なものをずっと奪ってしまっていたんだ。
半年間も私に監視され続けたことで、彼はカメラで見られるストレスに慣れてしまったのか、もう感覚が麻痺しているのかもしれない。
私は彼の行動に、胸が押しつぶされる思いだった。
電車の中で顔を覆って泣きながら、私はメッセージを送った。
もう彼を解放してあげることだけが、私にできる最後の思いやりだと思った。
しかしイケチンはなかなか折れず、文字通り必死で縋ってくる。
こんな、自分の尊厳や自由を奪い、趣味や交友関係まで制限してくる、美人でもなんでもない私のような女のために。
こう言って必死で私を引き留める彼の座右の銘は、「来るもの拒まず、去るもの追わず」だった。
出会った頃から、よくこんなセリフを言っていた。
彼はいつも飄々としていて、掴みどころがなく、どんな女性に対しても余裕の態度で接する男だった。
モテてきたからだろう、女に対して下手(したて)に出るところなんか見たことがない。
元カノに対しても、数々のセフレに対しても、追われることはあっても追っている瞬間は1度もなくて、普段の言動はもちろん他の女性とのLINEの文面まで度々チェックしていた私は「本当に去るもの追わず…それどころか自分から去るタイプだよなぁ」なんて思っていた。
そんな彼が今、かつて付き合ったことがないほど年上のアラサー女の私に対して、「お願いします」と必死に縋っている。
そこまでゾッコンにさせていたことにビックリしつつ、私は彼に最後の質問を投げかけた。
明言して欲しかった。
私の本心が選びたがってる選択に、自信を持たせて欲しかった。
彼は数秒で即答した。
今にして思えば、これが2度目のプロポーズだったんだと思う。
このとき、彼はどさくさに紛れて「〇〇(私の地元の関西の田舎町)にも行く」と伝えてきた。
関東育ちのイケチンが、縁もゆかりもない西の田舎町(駅は基本無人駅、自動改札すら存在しない)に移住するなんて、何もそこまでしなくていい。
まだ20代なのに、そんなすべてを犠牲にして、何もかも捨てて私と一緒になるなんて、そんなの現実的じゃないと思った。
何度もそう伝えたけれど、彼は「環境を変えないと意味がないから」の一点張りで、誘惑の多い都会での生活から抜け出す意思を崩さなかった。
彼は何度もこう言った。
そんな恋愛脳全開の女子みたいなことを言う人じゃなかったのに…本当に人が変わったみたいだった。
だけど確かに彼の言う通り、そのまま都会で暮らしていたら、友人たちからの誘いは絶えない。
私たちが結婚してうまくやっていくには、もうこの道しか無いということに、彼は私より先に気付いていたんだと思う。
この日、監視カメラを自ら設置する彼の誠意と、「俺が絶対幸せにするから」「こしきちゃんの地元に住む」という2つ発言が決め手となって、私はイケチンとの未来を選ぶ覚悟を決めた。
とはいえすぐに彼にそう伝えることはできなかった。
私には、散々心配をかけてしまった家族に先に説明する必要がある。
私は「しばらく考えるね」と伝えて彼への返事を保留にしたまま、地元の家族に会いに行くのだった。
次回、家族の説得編
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-【86】へつづく -
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