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とんでもないモンスターを生み出してしまった話

高校生のとき、同じクラスのすごく無口な男と付き合った。
顔はカッコ良くないが、180近い高身長のスポーツマン。しかし無口ゆえに、カーストはクラス最下位レベル。
毎日自分の席で、1人で弁当を食べていた。

当時金髪ギャルだった私とは正反対の人種だったが、色黒高身長の体と擦れてない童貞感に惹かれて付き合った。

そしてこの童貞は、私と付き合い、公衆トイレやネットカフェでセックスし、童貞を卒業した途端、体育祭で副団長をやるほどの高カースト男子に進化した。

1. ダンスホール

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クラスで1番イケてる男が団長になった。
セカオワの深瀬のような顔をしていて、クラスで1番美人な子と付き合っていた。

副団長は2人。
まず、クラスで1番明るい女子が立候補した。即採用。
もう1枠…となったとき、セカオワ深瀬がこう言った。

「おまえやれよ」

当時私と付き合っていた彼を指差していた。
同じ教室にいた全員が驚いた。もちろん、私も。

確かに彼は私との交際が噂になってから、「ちょっと話聞かせろよ」などと言ってイケイケ男子たちに絡まれるようになっていた。
1人で食べていた弁当を彼らと一緒に食べるようになり、声は暗く小さいものの、なんとか対等に話していた。

その様子を見守りながら、私は入学時から仲のいい女子たちと一緒に弁当を食べていた。深瀬やその他のイケイケメンバーの彼女たちだ。副団長になった明るい女もいる。
男女って付き合うと、こうして自然と同じカーストになっていくのかなぁ…と、たぶんクラス中の誰もが思っていた。

しかし声の小さい彼が、応援団で声を張り上げられるとは思わなかった。
「おまえやれよ」というセカオワ深瀬に、教室が少しざわついた。
しかし、彼はすぐに「やるよ」と言った。

帰り道、彼に訊ねた。

「副団なったね」
『うん』
「大きい声出るの?」
『たぶんでる…プッペップップッペッ』
「なにそれ」
『最近ボイパの練習してる』
「え?あぁそう…」
『プッペップップッペッ、プッペップップッペッ…』

この頃から、彼は徐々に自分に自信を持ち始めていたんだと思う。
意味不明な音を聴かされながら、田舎道を歩いた。


2. 下剋上

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応援団の練習が始まった。

3年生はクラスの大半が思い出づくりとして参加するのが恒例だったので、私も入団した。

毎日厳しい練習が続いた。
「金髪だと演舞が減点される」と周りが言うので、髪を黒く染め直した。
振りが下手だとダメ出しされて2回くらい泣いた。

彼はというと、意外にもスポーツができる人だったので、演舞を完璧にこなした。
体が大きいためか声も思ったより大きく、みんなを驚かせた。
団員への演舞指導は団長よりも副団長が行うことが多く、あんなに大人しかった彼が腕を組んでみんなの演舞をチェックしている姿に、私は終始ドキドキした。

カースト下位でぼっち飯が日常だった彼が、気付けばクラスの中心にいた。
この頃からクラスの女子たちも、彼を名字ではなく私が作った下のアダ名で呼ぶようになっていた。


3. ACUTE

体育祭が終わって、2週間が経った。

私たちのクラスは優勝こそできなかったものの、これが青春だと誰もが言えるような時間を創っていた。
彼のカーストは体育祭が終わっても下がることはなく、高校生活3年目にして盛大に花開いていた。

そんな折、彼からこんなメッセージが送られてきた。

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『俺、最近ナナミちゃんのことが気になる』

ナナミは、私が入学時から毎日一緒にいる仲のいいクラスメイトの1人だ。
本人はお世辞にも美女ではないが、イケイケ深瀬の側近のイケメン(女子人気クラスNo.1)と付き合っている。
つまり、ナナミはめちゃくちゃ性格がいい。

『俺、さいきんナナミちゃんのことが気になる』
こう言われた私はすぐに、彼に電話をかけた。

「どういうこと?私たち付き合って3ヶ月だよね」
『…おれ最近ナナミちゃんと話す機会が多くて…練習のとき同じ班だったし、教室で席も近いから…』
「だから好きになっちゃったの?結城くんと付き合ってるナナミを?」
『うん、この前雨降ったとき制服の下のブラ透けてて…そこからめっちゃ意識してる』

こいつ、やっぱりまだ童貞だ…

心の底からそう思った。
電話を切った直後、隣にいるナナミにすぐさま相談。

私「彼がこんなこと言ってるんだけど」
ナナミ『キモ』
私「私別れるわ」
ナナミ『うん、てか前から思ってたけどあの男ブスだよ』

というわけでスピード破局。
別れた噂はすぐに広まったものの、彼のために周囲に理由は話さなかった。


4. 暴走

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しかし翌月、同じクラスでそこそこ仲のいいマミちゃんとバスに乗っていると、「ちょっと相談したいんだけど」と言って携帯を見せられた。

そこには彼からのメッセージで、『タカノリくんはいいなぁ、マミちゃんに毎日フェラとかして貰えるんだよね笑』と書かれていた。
タカノリくんはマミの彼氏で、生徒会長で、隣のクラスのイケイケ男子だ。

マミ『これが送られてきたとき、気持ち悪くて…元カレなのにごめんね』
私「いやいいよ、むしろ私こそごめん」
マミ『タカノリに見せたらめっちゃキレてて、コイツと会って話し合うって言うからいま必死で止めてる』
私「いやぜひともシメて貰いたいんだけど…」

マミはクラスでもかなり頭が良く、最近は事あるごとに彼から『勉強を教えて』と誘われていたらしい。

私は自分がとんでもないモンスターを放流してしまったのだと気付いた。

それと同時に私のせいで、クラスの女子やその彼氏たちに迷惑を掛けていることを申し訳なく思った。
地味で大人しい童貞だった彼に自信だけを与え、花開かせてしまったのは私なのだ。

小学生ばりに好きな人がコロコロ変わる童貞的気質と、ギャル彼女→イケイケグループ→副団長という経験で身に付けた過度な自信によって、彼は女にとって最も迷惑な「俺イケてる系ブサメンモンスター」に進化してしまっていた。

もうあの頃の、私が好きだった彼はどこにもいなかった。


5. 消失

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あっという間に噂が広まった。

ナナミやマミ、そして隣のクラスの生徒会長でもあるマミの彼氏の怒りを買ったのだから当然だ。
きっとナナミも彼氏に話したのだろう。
深瀬たちのイケイケグループは、もう彼を昼食に誘わなくなった。

彼はシンプルに「裏で女子に手を回すキモい奴」として嫌われ、半年前と同じく独りで弁当を食べる姿を見かけるようになった。

自信をなくした彼はもう、クラスの女子を狙うことはなくなった。
彼が応援団で副団長をやったことなど、もう誰も覚えていない。
この教室で生まれた1匹のモンスターは静かにその存在を消し、クラスに平穏な日常が戻ったのだった。


以上、私がとんでもないモンスターを生み出してしまった話でした。


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