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2019年12月の記事一覧

中川雅之(2015)『ニッポンの貧困:必要なのは「慈善」より「投資」』日経BP社



こうした主題の本の重要な役割は、ただ貧困という現実を社会のオトナたちに突き付けることにあると思う。注目すべきは著者・企画者である日経記者の刊行時の年齢、33歳であること。今この国で貧困を語るのは若者ばかりではないかとすら思われてくる。

社会はあまりにも広すぎて、遠く離れた物事はほとんど目に見えない。他人がただひたすらに遠い、遠くて温度の感じられない存在でしかない。富のある人は何をすればいいか

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宇山佳佑(2018)『この恋は世界でいちばん美しい雨』集英社



人は変わりやすい、良くも悪くも。環境が変わるたび、心の中に新しい感情がふつふつと湧いてきて、これまで絶対だと思っていた気持ちも色合いを変えてしまう。それでも、失ってはいけない気持ちが、僕たちにはあるのだろうか。

バイクの免許欲しいなと思っていましたが、やっぱり怖いなと思っちゃいました。冗談です。生きるなら、誰かを傷つけないように生きたい。人間が、そこまで生きたいと願う生き物であるのなら。

落合陽一(2019)『日本進化論』SB新書



数年前から流行っている聞きなれない肩書の学者が、何を語っているのかを知らなければと思い手にした一冊。非常に網羅的に簡潔にこの社会の課題がまとめられていた。とりあえず、社会の全員がこの現状認識を持つところからスタートすればいいと思う。

デジタルネイチャー?、等の固有の考え方についてはまた別の著作を読んだ方がいいのかもしれないが、社会課題の公約数を最大にここまで近づけて記述しているのであれば、氏

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高山一実(2018)『トラペジウム』KADOKAWA



本作に一番の賛辞を贈るとすれば、ただどこまでも等身大である、ということになろう。夢と努力と、その結末と、本作で描かれる全てが等身大の思いから生まれる身近な物語である。

時を超えて、往時を共に歩んだ仲間たちが再び再開する場面。それまでの軌跡を簡単に振り返る記述と、その後のやり取りから滲む想いは、とても美しい文章で、感動しました。

天童荒太(2019)『ムーンナイト・ダイバー』文春文庫



真っ暗で、冷たく、死の匂いのする海に潜るのは、かつてあった生の記憶を探し出すため。大震災が人々の心に残していった、希望という感情の一つの形を描く。光は道しるべとなるが、時に恐怖ともなる。

決定的ライフイベントとして多くの人に共通の記憶を植え付けたことで、その後の結びつきを作るのにあたってある程度プラスに働いたのは事実だろう。願はくは犠牲を払わず心の紐帯を結べればいいのだが、そんなに素直じゃな

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