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全スタートアップに届け。SaaSの勝ち筋を解き明かす “投資家 × 投資家” 対談を全公開。

先日プレスリリースでお知らせしたとおり、CloudbaseはシリーズAラウンドの一環としてFlight Deck Capitalに出資いただきました。シードラウンドのArena Holdingsに続き、海外投資家による出資は2社目となります。

Flight Deck Capital、そしてマネージング・パートナーのJay Kahn氏といえば、SaaS企業に対する深い知見で世界的に知られる投資家の一人です。その目に、国内市場へのサービス展開を進めるCloudbaseはどのように映っているのか。なぜ私たちへの出資を決めたのか。そもそもそれ以前に、日本のSaaSスタートアップをどう評価しているのか。

より客観的な視点にせまるべく、今回はシード期から私たちを支援してくださっているDNX Ventures(以下DNX)から新田修平さんをお招きし、Jayさんへのインタビューをお願いしました。

このnoteでも他のインタビュー記事でも、私たち自身の言葉でお話しすることがほとんどです。そのなかにあって、今回は数少ない“第三者”の声。しかもSaaS投資のスペシャリスト同士の対談です。Cloudbaseやクラウドセキュリティ市場の話題がメインではありますが、多くのSaaSスタートアップにとっても示唆に富んだ言葉が並んでいると思います。

私たちCloudbaseに興味をもってくださった方はもちろん、より幅広く、スタートアップに関わる方やスタートアップで働くことをお考えの方にも、ぜひご覧いただけたらと思っています。

プロフィール

新田さん:
今日はなかなか得られないインタビューの機会ということで、とても楽しみにしていました。まずは、Jayさんと晃也さん(代表の岩佐晃也)の出会いを振り返るところから始めましょうか。
 
きっかけは、DNXが開催したSaaSスタートアップ経営者向けのイベント「SaaShip」だったと記憶しています。沖縄開催のとき、たしか地元の居酒屋でお話しされたのが初めてだったんじゃないかな。覚えていますか(笑)?

Jayさん:
そうだ、SaaShipが初めてでしたね。晃也が、ロゴTシャツを着ていたのを覚えています。

そして彼に、米国のスタートアップカンファレンスで若い起業家に出会ったときと同じ印象をうけたんです。そう、「Y Combinator」や「TechCrunch Disrupt」といった大規模なイベントのなかでも、特に野心的で、技術的才能にあふれる起業家と同じような。

理由はすぐにわかりました。Cloudbaseからは多くの起業家のなかでも埋没することのない、突出した「熱量」を感じました。

新田さん:
そのシーンは私も印象に残っています。彼はあらゆる相手にものすごい熱量で、自分たちの事業を語っていましたよね。言葉だけじゃなく、表情や身振り手振り、それこそ全身全霊で伝えようとしていました。

Jayさん:
その姿に惹かれて、私のほうから彼に声をかけました。それまでCloudbaseがセキュリティ領域のサービスであるとは知らなかったのですが、実際に話をしてみると、非常にクラウド的というか、アーキテクチャの面でも運用面でも“クラウドファースト”を貫いている数少ない企業の一つだと感じたんです。

カタコトの日本語でしたが、私のほうからもっと頻繁に、継続的にコミュニケーションをとっていこうと伝えました。

新田さん:
そういえば、JayさんがSaaShipにお越しくださった理由を伺っていませんでしたね。 ゲストスピーカーとしてお招きしたのですが、なぜオファーを受けてくださったのでしょう。

Jayさん:
実は、DNXの倉林さん(倉林陽 氏 / DNX Managing Partner / Head of Japan)とはかなり頻繁に会っているんです。東京に足を運んだときは必ず、というくらい。日本のマーケットに魅力を感じている私と、国内のスタートアップを幅広く支援する倉林さん、お互いに同じ視点で話すことのできるすばらしい関係です。

私が初めて東京にきたのは、2010年。中国やアメリカ、その他の先進国をはるかにしのぐブロードバンド・インフラが整備されていることに驚きました。そして信じられないほど多くのエンジニアが働いていたんです。

ハードウェアに関して、日本はとても優れているし、海外においてもそのイメージが根づいています。私が育った環境も “Made in Japan ”に囲まれていました。テレビも車も電話もそう。ソニー、パナソニック、トヨタ……そうそう、キヤノンのプリンタもありましたね。

しかし、2010年から2020年にかけてインターネットの進化が加速し、SaaSの時代へと移り変わるなかで、日本は先進国トップ5はおろか、トップ10にも遅れをとってしまいました。2024年の今も、日本のITコストにおいてクラウドサービスが占める割合はわずか5%にすぎません。アメリカではすでに15%です。

この差は何を意味しているか? 日本の伝統的な商習慣、“紙の書類”と“自筆のサイン”と“印鑑”が今なお重要視されているということです。見てください、これ、なんだと思います? ある日本企業からいただいた私のハンコです(笑)。

この文化がそう簡単になくならないことは、私も痛いほど理解しているつもりです。しかし今後、急速に変化していくだろうとも考えています。なぜなら、日本には少子高齢化による深刻な労働者不足という問題があるからです。少なく見積もっても、今後30年はこの問題と向き合わざるを得ないでしょう。商慣習を変えてでも、日本企業はソフトウェアの活用を推進し、Cloudbaseのソリューションを採用することになるはずです。

SaaSスタートアップにとって、これからの日本が非常に魅力的なマーケットになることは間違いありません。日本の若者が世界に名だたるハードウェアメーカーで働くことに夢をみた時代はすでに過去のもので、いまここを生きる晃也たちの世代は、起業家として自らの手で新たなソリューションを生み出すことに価値を見出しています。今後10年〜20年の間に、日本から10億ドル規模のソフトウェア企業が生まれる可能性は大きい。今がまさに絶好のタイミングだと言っていいでしょう。

SaaShipへの打診に “Yes” と即答したのはそのためです。日本のSaaS投資に情熱を注いできた私にとって、それこそ10年以上、待ち望んでいた機会でした。そして実際にすばらしい2日間でした。

新田さん:
その言葉を聞けてよかった。ありがとうございます。

—— 新田さんの問いかけから、投資家としてのJayさんの視点が少しずつ明らかになってきました。話題は徐々に、日本のマーケット、日本のSaaSスタートアップへと深まっていきます。

新田さん:
SaaShipには多くのSaaSスタートアップが参加してくれました。そのなかで、なぜCloudbaseだったのか……実はちょっと意外だったんです。Jayさんが出資する企業は、少なくとも日本のマーケットでは、よりレイターなスタートアップが中心だと思っていました。

Jayさん:
おっしゃる通り通常はレイトフェーズの企業に投資することが多いんですが、Cloudbaseの場合は、むしろ私たちにとってよりアーリーな企業を支援するまたとない新たなチャンスでした。

先行する米国での流れを見ていれば、多くの企業が複数のクラウドサービスを活用するなかで、その脆弱性やリスクを検出することのできるCloudbaseのセキュリティサービスが必要になることは明らかです。

冗長性の観点からも企業が複数のクラウドにデータを分散するのは間違いなく、それらをまとめて監視できるツールが必要になる。そのツールがCloudbaseです。

米国ではすでに同様のサービスを手がける企業がいくつか存在します。彼らが日本市場に進出することも絶対にないとはいえません。しかし多くの日本企業が、海外のサーバを経由しかねない米国や中国のセキュリティソリューションではなく、国内のソリューションを選択するだろう——Cloudbaseはその可能性にベットしていると言えます。

実際に日本の大手上場企業のトップに話を聞くと、彼らはデータを扱う上で、プライバシーやセキュリティのリスクを最も懸念しています。また日本政府もデータセキュリティを重要視する傾向にあります。その課題の解決に全てをかけて挑んでいるのが、晃也たちCloudbaseのチームである、そう思っています。

新田さん:
加えて、日本には「言葉の壁」という無視できないハードルもありますよね。多くの日本企業は日本語での丁寧なカスタマーサポートを求めることが多く、日本ローカルでの充実したカスタマーサクセスの有無が非常に大きな判断基準になります。

また日本企業の多くが、ソフトウェアエンジニアリングを外部のベンダーに依存しています。また、自社にクラウドセキュリティを専門とするセキュリティエンジニアを置いているケースはほとんどありません。それゆえ、総じてITリテラシーが低い日本企業にとって、グローバルなクラウドセキュリティソリューションはあまりに複雑すぎます。

Jayさん:
重要な視点ですね。他にも、通貨や支払いサイクルなどさまざまな違いがあります。そういう意味では、中国のマーケットに近いところがありますね。もちろん中国の場合はグレート・ファイアウォールのおかげでよりローカルですが。

日本はあくまで、米国と同じくオープンインターネットの世界です。しかし私の見立てでは、米国のプレイヤーが日本市場で勝つことは難しく、そもそも市場参入さえありえないと考えています。「言葉の壁」は想像以上に大きいものです。

今でこそ海外投資家である我々がキャップテーブルにつくことにポジティブな反応を示してくれますが、2012年〜2013年当時、私が日本企業のトップにコンタクトをとろうとしても懐疑的な声が返ってくるばかりでした。「私は英語が使えない。どうやってコミュニケーションをとればいいのか」「日本の文化やビジネスの慣習を理解してもらえるとは思えない」と。

新田さん:
容易に想像できますね……。しかもその反応は、海外企業のセールスに対しても同様だと思います。

Jayさん:
まさしくその通りです。日本の営業プロセスは特殊で固有のものであり、本格的にマーケット進出するには日本人によるセールス組織が不可欠です。米国企業には、そのために多大なコストをかけるべき理由がないのです。なぜなら、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ……世界には他に英語圏の大きなマーケットがあり、アメリカ人のセールスチームを配するだけで大きな利益が見込めるわけですから。

新田さん:
「日本語の壁」の存在、さらに大手企業のオンプレミス志向やサードパーティベンダーへの依存度の高さという日本の歴史的背景から生まれる日米ギャップは、Cloudbaseのようなローカルスタートアップにとって大きな後押しになりますね。

・・・

新田さん:
Cloudbaseもそのひとつですが、Jayさんは日本のスタートアップにも幅広く目を向けていますよね?  ポートフォリオには、日本でも指折りのHorizontal SaaS企業が並んでいます。海外投資家としてのJayさんの目に、日本のスタートアップはどう映っているのでしょう。

Jayさん:
まず前提として、ソフトウェアスタートアップの価値は、問題解決の大きさで決まります。そして日本には、少子高齢化による労働力不足という圧倒的な課題が存在します。この問題を解消すること、つまりビジネスの効率性を高め、より少ない労力でより多くの仕事をなすためのプロダクトが勝ち筋なのは間違いないでしょう。

開発に関しては、Cloudbaseがそうであるように多くのスタートアップが優秀なエンジニア・優秀な人材によって優れたソリューションを生み出すことができると思います。むしろ多くのスタートアップにとって最大のハードルとなるのはセールスです。より率直に言えば、そのソリューションの導入を判断できる「意思決定者」を特定できるかどうかです。

なぜなら、日本の大手企業の多くは、CIO、CTO、CFO、CEOでさえ過去にとらわれている可能性が高いのです。彼らに対して自分たちのソフトウェアが生み出すソリューションの価値を理解し、納得してもらうのは、決して容易なことではないと思います。実際に日本のスタートアップの販売サイクルは長く、 Magic Number は低い。NRRもそうですね。

一つアドバイスするとしたら、NRR、純収益保持率を長期的に高いレベルで維持し続けるために、優れたコアプロダクトにアドオンするプロダクトを開発することです。SaaS企業の成功は、自らの力で成長の余地を生み出していくことに他なりません。

アーリーステージの急激な成長はあくまでその瞬間のものです。その後も同じように続いていくことはありえません。注目すべきは、米国では多くの上場SaaS企業が数億ドル〜数十億ドルの収益を上げているにもかかわらず、依然として20%〜30%の成長を続けていることです。それは彼らがコアプロダクトの導入をきっかけに、さらに複数のアドオンプロダクトを提供することで、NRRの継続的な成長を実現しているからに他なりません。

—— 話題は再び、クラウドセキュリティやCloudbaseの可能性へ。しかしその言葉の節々に、マーケット選択の勘所、企業価値の本質、起業家のあり方など、スタートアップ全般に通じるポイントが詰まっています。

新田さん:
クラウドセキュリティ領域全般については、どう捉えていますか? 例えば、米国ではクラウドセキュリティのスタートアップ「Wiz」が18ヶ月でARR(年間経常収益)1億ドルに達し、過去に例をみない急成長を果たしています。直近の報道によると、Googleが230億ドルのバリュエーションで買収を試みたと。米国市場において、クラウドセキュリティ領域は今後数年でどのように発展していくのでしょう?

Jayさん:
セキュリティ領域に対して、日本の投資家の関心はおそらく大規模な時価総額にあるのではないでしょうか。世界のクラウドセキュリティ企業の企業価値の総計は、おそらく2,000億ドルを超えます。一方、日本ではクラウドセキュリティを含むあらゆるSaaS企業の価値をあわせて200億ドル未満です。上場しているSaaS企業は片手で数えられるほどしかありません。もし今後、日本市場でも2,000億ドルの企業が生まれるとしたら……投資家にとってこれほどすばらしい未来はありませんよね(笑)?

しかし、米国では懐疑的な声もあがっているんです。電子商取引は数兆ドル、フィンテックなど他のテクノロジー分野でも数兆ドルの規模であり、クラウドセキュリティへの投資額が際立っているわけではないのだと。

とはいえ、2,000億ドルです。無視できない規模ですよね。米国市場ではクラウドソリューションがすでに浸透しきっており、今後さらなる成長を見込むことは難しいと言われています。とはいえ米国でもレガシーなソリューションにとどまっている企業はまだまだ多く、そのなかで各プレイヤーの競合が続き、数社が勝者として生き残るでしょう。私たちも勝者となりうるいくつかの企業に出資しています。

一方で、Wizのようなスタートアップが生まれ、急成長を遂げているのも事実です。クラウドセキュリティ市場には、私たちが想定する以上の伸びしろがあるとも思っています。

新田さん:
セキュリティ領域だけにとどまらない、示唆に富んだお話ですね……。
最後にもう一度、Cloudbaseについてお聞きします。 彼らに最も期待することは?

Jayさん:
10億ドル企業になってほしいと思っています。といってもバリュエーションに言及したいのではありません。Cloudbaseが多くの日本企業に喜ばれ、定着し、不可欠なものになれば、自ずとそれだけの企業になるということです。

今、日本には多くのSaaSスタートアップが存在しています。そのなかで、大きなイノベーションの可能性は、時間の経過とともに特定の領域へと絞られていきます。セキュリティ領域は、間違いなくその一つです。Cloudbaseには大きなチャンスがあります。

しかし、まだ始まったばかりです。繰り返しますが、まだ初期段階にすぎないのです。期待はあれど、確実なことは誰にも言えません。だからこそ、私が見るのは創業者です。多くの先例が明確に示しているのは、優れたCEOとは、多くの困難や逆境を乗り越えてきた創業者であるのがほとんどだということです。

新田さん:
あえて、ダイレクトに伺います。Jayさんの目に、晃也さんという一人の起業家はどう映っていますか?

Jayさん:
晃也には、プロダクトを作り、壊し、また作ることのできる力があります。それは、彼がこれまでに何度もピボットを経験してきたことからも明らかです。

新田さん:
ピボットはたしか6回だったと思います。細かな試行錯誤も含めると10回以上はあると話していましたね。

Jayさん:
それができる、経験しているということが、晃也の素晴らしさです。私がキャピタリストとして見てきた最高の創業者、最高の企業は、どれも2〜3回のピボットの末に生まれたものばかりです。

Uber を例に挙げましょう。2010 年にサンフランシスコのダウンタウンでカクテルを飲みながら Uber の売り込みを受けたとき、それは現在とまったく異なるものでした。配車サービスでもカーシェアリングサービスでもなく、ブラックカー(ハイヤー)に特化した配車サービスです。しかしそれこそが、現在の Uber を実現するための重要な足がかりとなりました。

現在のこのフェーズで、世界のSaaSスタートアップをカバーしている私たちと、SaaS投資において日本国内トップレベルのDNXが、Cloudbaseへの出資を決めているという事実をどう捉えるか。つまり、そういうことだと考えてもらっていいと思います。

晃也たちには成長の余地がまだまだありますよ。勝つか負けるかは彼ら次第だと思っています。

新田さん:
すばらしいメッセージです。最後に、晃也さんからJayさんに伝えておきたいことはあるか尋ねてきたので、彼の言葉をお伝えしてこのインタビュ-を締めたいと思います。

晃也さんからは一言、「僕たちは100億ドル以上のスタートアップ企業になります」とのことです。

Jay:
楽しみにしています。これが始まりに過ぎないことを願っています。私たちが Cloudbase を長期的にサポートする意図で投資したことを彼に伝えてください。

いかがでしたでしょうか?
私たちとしても、身が引き締まる言葉の連続でした。日本企業が、世界を変える時代をつくる。—— このミッションを実現するために、私たちCloudbaseチームはここからさらにギアを上げていきます。

私たちと同じように、この記事が日本の多くのスタートアップにとっても有益なものとなってくれたら嬉しいです。

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