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〔70〕白頭狸の時務随想

〔70〕白頭狸の時務随想 5/10
 連休直前のことです。帰省した孫がハンバーグかトンカツを食べたいと言い出し、肉の手配を忘れていた白頭狸は、あわてて近所の個人商店に買い物に行きました。
 連休前日なので、本日の営業は午後三時迄との張り紙がありますが時刻はすでに午後三時半で、冷凍ケースの中はほとんど片付けられていました。
 狸よりも年上の店主は「油も肉もさっき仕舞うたから、カツも挽肉も無理やで」と言いながら、「これで間に合うかいなあ?」と、店の奥から牛肉を出してきてくれました。
 個人商店だから融通を利かせてくれたのです。その後、狸が足を延ばして八百屋へ行き、前回に手持金が足りず借りていた金額を払いますと、「いつでもエエのに」と言われました。

 大型店では店員がマニュアルに縛られて融通を利かすことができず、時間過ぎの販売や後日払いは認められないので、冷たく断られて終わりです。
 和歌山市の中心にある住宅地では近来個人商店の閉鎖が続き、買い物は大型店舗に行かねばならず、たいそう不便になりましたが、まだこんな店があるのが嬉しいと思います。
 個人商店は商売の基本を顧客との間の信頼に置いていますが、大型店の経営の基本は顧客への一般的不信です。性善説に立つ前者と性悪説に立つ後者では営業哲学が完全に反対方向を向いています。
 大型店又はチェーン店が使役するのは日給のパート従業員ですが、パート労働を規制する唯一の経営技術がマニュアルです。
 日給のパート労働者の雇用は原則日替わりで、仕事はマニュアルに従ってなすべきものとされ、マニュアル未満はもちろん、マニュアルを超える仕事も許されていません。

 つまり創意工夫など人間性の発揮を許されておらず、一種の奴隷労働ですが、古代の奴隷とは転職を許される点だけが異なります。転職奴隷には原則として職階がなく、むろん昇級もなく、早く抜け出さねば一生を同じ階層で送ることになります。
 独得の技術にマニュアルと転職制奴隷と大衆宣伝を組み併せたのが現代の大型店舗経営ですから、顧客と店員との間に信頼が生まれる訳もないのですが、これに資本を投じたオーナーは莫大な利益を得ます。
 これに対して従来の個人商店は、徒弟的性格の店員を永続的に雇い経営術を仕込みながら働かせますので、店主との間は信頼で結ばれ、顧客の信頼も得ることができるのですが、このことは、かつての家電小売業を想起すれば容易に理解することができます。
 勢の赴くままに個人商店を圧倒してきた大型店にも強力なライバルが現れました。無店舗で宅配とインターネット販売を武器とする通信販売業者が社会の情報化の進展に応じて出現したのです。
 通販業においては、主要業務が倉庫と宅配に偏り、対面接客が通信応対に代ることで雇用が減少し、転職奴隷が機械にとって代わられます。
 すべて時勢の赴くところ、と言ってしまえばそれまでですが、その深奥にグローバリズムの進展が潜むと白頭狸は考えます。グローバリズムは伝統的な地域政治が覇権通貨の出現によるグローバル経済に負けたことを意味しますから、その進展を止めるには「国家意識の覚醒が必須」と白頭狸は考えます。米ドル一極の通貨覇権体制の矛盾が露呈したのは半世紀前で、その時は「金本位制から石油本位制に移行」することで当面を糊塗しましたが、ここへきて、ついに破綻しました。
 ドル覇権の本山アメリカが政治的に分裂したのも、これが原因です。グローバリズムの維持とさらなる進展のために、ロシアを崩壊させてフロンテイアの拡大を図る現大統領と、喪われたアメリカの国家意識を回復せんとする元大統領の対決は今から始まります。
 その闘争は外形的には法的闘争として行われますが、実質は赤裸々な暴力的権力闘争ですから観るもおぞましく、これを見かねて奮い立っ人民の非法律的な行動によって終焉がもたらされるでしょう。

 

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