成年後見(せいねんこうけん)という 「福祉」のお手伝い(支援) sono3 成年後見制度における課題

▢ 成年後見の「6つの原則」
 
1 生活の主役は本人(成年被後見人)である
2 支援において、本人の生活上の全ての情報の所有権は本人自身にある
3 支援において、本人の生活上の全ての判断・選択・実行など、意思表示をはじめとする行為・行動は、許される限り本人の価値観に基づく
4 本人が抱えている病気や障がいによって本人の本来の価値観が損なわれていることが明らかであり、後見人が、何らかの方法で「本人の価値観」を想定し、本人に必要な行為・行動を代理する場合でも、できるかぎり本人から「本人の価値観」を得る努力を尽くすと同時に、同僚や関係する専門家に意見を求めるなどして、単独で一連の行為・行動を完結させないこと
5 後見人の行為・行動の基準は「本人の利益」である
6 本人の財産は、本人の利益になるように活用される
       
 ※私見
 
 
▢ 成年後見制度における課題
 
 1 法人後見の活用
  
  最近の後見制度の利用は漸増状態が続く。開始期と比べれば格段に増え 
 てはいるが増加のスピードはかなり落ちている。
 
  最高裁判所事務総局家庭局では「成年後見関係事件の概況」を毎年度発
 表している。
  昨年度発表された「概況」によれば、「成年後見制度を利用するに至っ 
 た理由」
について、認知症が半数以上を占め精神障がいが続いている。こ
 れらで、全体のほぼ80%になる。

  このような原因で後見制度を利用する人々の20%くらいが家族や親せ   
 きなどの親族が後見人
となり、残りの80%くらいが親族以外が後見人を    
 受任している。

  「親族以外」の内86%くらいが専門職(一部法人を含む)で、法人と  しての社会福祉協議会が18%くらい、市民後見人が1%その他の法人が    
 0.3%などと続く。
   制度開始当初は親族による後見が80%をうわまっていたことを考える
 と、現在はすっかり逆転して後見の中身は、相当変わってきている様子で
 ある。

 ※「市民後見人」は、法的仕組みとして確立したものではない。従って導 
 入に取り組んでいる地域毎に、市民後見人となるための要件や後見の仕事
 を行っていく上での後見人に対する支援の仕組みなども異なっている。

  私自身は、専門職後見人(社会福祉士)として単独後見(一人の本人に 
 対して一人の後見人が対応する)を23件、弁護士との複数後見(必要に応 
 じて一人の本人に対して複数の後見人が対応すること。別の職種の専門職
 がチームになることもある)を1件、受任(支援を担当すること)してき
 た。

  2019年、私が心臓の手術を受け、辞任する時点では9人の方の後見を受 
 任していて、内訳は「補助」(精神障がい者)1件、「保佐」(精神障が
 い者と認知症者)
2件、「後見」(精神障がい者、認知症者)6件だった。

   支援を進めていく中で、「補助」の方や「保佐」の方動きが活発で、
 それぞれ「保佐」「後見」に改めてもらうことも考えた。
  本人と相談し、一緒に「申立書」を作成したこともあった。

  しかし、「申立」は、中止。

  変更によって、本人の行動に制限が増え、本人の意欲を削いでしまう
 とが心配された。
  それによって現在の「いきいきした生活」を維持できなくなると考えら
 れ、本人にとっては、むしろ「不利益」になると判断されたことが理由で
 ある。

  単独後見では、このような「検討」「判断」などを、自分で行わなけれ
 ばならず、自分の「判断」が適切か否か、常に不安に付きまとわれてい
 た。
  また、私の場合、健康上の理由から辞任せざるを得ない状況となってし
 まったが、このように突発的な不慮の事態がいつ起こらぬとも限らない。

  このような事態は、複数後見を行うことで解決されると思われるが、
 見報酬
(後見人には、ひとりひとり報酬を得ることが認められている)が
 増える(多くの場合、本人の財産から支払われる)ことになり、必ずしも
 「利用者(本人)の利益」とならないとも考えられる。
  私は、複数の目で「本人の利益」を考え、「本人の意思」を「確認する
 手段」を模索し、「仕事の経過」を「検討」し「確認」することができる「法人後見」が、後見受任者にとっても、利用者(本人)にとっても利益に
 つながるのではないかと考えている。

 ※成年後見では、自然人だけでなく「法人」が後見人を受任することもで
  きる

  以前は「責任の所在」が「あやふや」にならないかと疑問視する意見が
 聞かれたこともあった。しかし、今では、「後見センター」など家庭裁判 
 所の支援体制も整ってきている。

  法人内に「専門の担当部署を設置」し、「複数の専任職員を配置」する
 ことを条件にすれば(残念ながら、現在、要件等は定められておらず、可
 否は裁判所の判断に委ねられている)、単独後見に比べて信頼性も高く、
 担当者の誰かに不慮の事態が起きても遅滞なく後見の仕事が進められて安
 全性も確保できると考える。

  先ほどの最高裁判所総務局家庭局の「成年後見関係事件の概況」によれ
 ば、社会福祉協議会による法人後見が、「親族以外の後見人」の内の4%
 程度に達してきている他、弁護士や司法書士などの専門職後見人の一部も
 法人による後見が増加している
旨報告されている。

  本人・家族・親族などからの信頼があり、関係ができている個人(専門
 職)への後見依頼がある
ことも見逃せないが、これからは、さらに法人後
 見が見直され、増えていくことを期待したい。

  それにつけても、法人後見が法的にも整備され、法人内の体制や担当部
 署・担当専任職員の資格要件と員数、後見報告の様式整備、
(支援)記録
 の設備とその様式、職員に対する養成研修やスーパーバイズ責任所在の
 明確化
等々、明文化されることが喫緊の課題であると思われる。

   2 市(区)町村長申立の活用
  「成年後見」を申し込むことができる人は、法律によって決められてい
 る。本人・配偶者・四親等以内の親族・未成年後見人・未成年後見監督
 人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・又は検察官
(ここまで民
 法)と、この他に「市(区)町村長」(老人福祉法及び障がい者関連各法
 による)である。とりあえず、「本人・配偶者・四親等以内の親族・市町
 村長」と覚えておけば大丈夫。

 ※裁判所への「申し込み」を「申立」と言う。申し込みする人のことを 
  「申立人」と言う

   「申立」には、「必要な費用」「決められた書式に決められた内容の
 記載」
「決められた書類(診断書や戸籍謄本(抄本)その他)を、病院
 や決められた役所などから入手する」
などが求められる。適切な医師を選
 んで
料金を用意し診察を受けて「診断書」を入手したり、裁判所に収め
 る必要な経費を準備
したり、申し立て書類への適切な記載など、本人や家
 族等の事情によっては、対応が困難なことも少なくない。

   ケアマネジャーや地域包括支援センター・障害者地域生活支援センター 
 など支援してくれるサービス機関もあるが、やはり個々の事情によって対
 応がまちまちである。

  さらに、身寄りのない高齢者や障がい者も増加している。

  このようなときに、「市(区)町村長申立」の仕組みがある。民法に定
 められた「申立人」に事情があって対応が困難な場合、市(区)町村長が
 代わって申し立てを行うことができることになっている。

  これは、本人やその家族にとって、大きな救いとなっており、大いに活
 用されるべき仕組みだと感じている。
  しかし、市(区)町村にも事情があり、予算や人員が必要になることか
 ら、対応していない市区町村や、対応していても「門戸が狭い」ところが
 少なくなかった。昨今、成年後見制度の重要性が広く認められようになる
 とともに、「申立人の困難の事情」に対する理解も進んできて、より多く
 の市区町村が対応するようになると同時に、対象とする基準も緩和されて
 きて利用者が増加している。

  それにしても、未だに多数の市(区)町村が厳しい条件をつけて対象を
 絞り込んでいる状況である。
  必要な人々の多くが、まだ申立できないでいる状況を考えれば、これか
 らさらに柔軟な対応が求められる。   加えて、市区町村の対応に任せきり
 にするのではなく、県や国としても支援の仕組みを拡充し、法テラス以外
 の窓口を整備したり、自治体との連携や支援の手段を改変するなど対応を
 求めたい。

   3 医療同意・身元引受・保証人の問題  
  後見人の仕事の中身は、前回述べているが、後見人に「できないこ
 と」・「しごとではないこと」
が定められている。

 ※  事実行為について(「しごと」(義務)ではないこと)は前回述べた
  通り。

  「医療同意」は「後見人の仕事ではない」とされており、福祉施設など
 の福祉サービスを利用する際に求められる「身元引受人」・「保証人」な
 ども「できないこと」に入っている


  これは「後見人」と「本人(被後見人など)」との間に「利害関係」
 
(この場合は、利益が対立する関係)が産まれてしまうことを避けるとい
 う理由であるといわれている。
  たとえば、福祉施設(高齢者・障がい者)を利用しようとすると、施設
 や運営する法人から、利用者本人に対する「身元引受人」「(連帯)保証
 人」の設定や、やむを得ない場合の身体拘束などへの「同意書」などが求
 められる。

  これらは、後見人がよく直面する問題である。 施設や法人の担当者に、
 成年後見制度の仕組みや後見人の仕事の進め方などについて説明し、理解
 してもらえることもあるが、あくまで「必須事項」と突っぱねられること
 も少なくない。

    受任している「被後見人等」が高齢者であれば、やがて「福祉施設」
 (や福祉サービス)を利用せざるを得ない状態になることは必定
である。
 にもかかわらず、その都度、事業者と「身元引受」「保証人」の是非につ
 て議論を強いられ、大きな労力を強いられる。議論を尽くしても、事業
 所・法人によっては「身元引受」や「保証人」に対応せざるを得ないこと
 も起こっている。

     これは「介護保険法」に明記されるべき問題であると考える。すなわ
 ち、この問題は制度設計上の問題であり、「成年後見人等」が受任してい
 れば、施設側が問題とする事態について、ほぼ対応できるものと考える。
 死後の事務処理などは、一部調整が必要と考えられるが、担当の居住地の
 役所や家庭裁判所との調整ですむ問題と考える。

 ※一部は「民法」などとのすり合わせも必要になるかもしれない
 ※また、本人の急逝により、収支の改善が間に合わず、施設利用料やサー
  ビス利用料が未納になってしまうケースもまれには出現する
 ※いずれの問題も、法律や制度運用の整理・改善によって、大きな障害に
  はならないと考える

  さて「医療同意」も、大きな問題である。
  成年後見制度の根幹を定める「民法」は、「本人の身体に直接かかわ
 る」問題は「後見人といえども、判断を代理することはできない」
として
 いると考えられている。

  厳密にいうと「予防接種」でも「注射」一本でも「医療行為」であり、
 病院では「医療同意」が求められる

  (病院では)「「医療同意」が無ければ実施できない」と言われる。さ
 らに事故や病気で手術が必要となった際も「医療同意」が必須とされる。
 本人に「家族」や「親族」がいれば、同意を依頼できるが、身寄りを持た
 ない場合は深刻である

  ここでも病院や医師と、大きな議論を戦わせることになる。本人の状態
 がそれを許さない場合は、どちらかが折れるしかないのが現状である。

  結果として、後見人が「医療同意」に応じてしまうこともありえる。も
 ちろん「ペナルティ」を覚悟しなければならない。もちろん、医師(病
 院)の側がおれてくれることもある。この場合は当然医師や病院がリスク
 を負うことになる。

  これらの問題は、制度創設当時から「課題」とされていたにもかかわら
 ず、解決されていない。

  いずれの問題も「関係各法」間の調整を行いつつ改変が必要である。
 後見人の「医療同意」に変わって「保証」や「責任」を引き受ける仕組
 み
やそれを運用する法人・団体・機関などを創設することも一つの方法で
 あると思われる。

  「人の命」左右し、「人生を生ききる舞台を決める」重要な問題である
 早急な対応が求められていると感じている。

  身元引受人・保証人・医療同意などへの対応について、それを引き受け
 るべき「法人」「団体」「機関」などを設立してはどうかとの提案も、以
 前から出されているが、何故かその後の議論が進んでいる様子はない。  

  これらの仕組みが、「何を」保証し、「誰を」助けるものなのか、何か
 の事態が生じたときにそれを保証するのは「お金」か、他に考えられるも
 のはあるか
…、つまり「責任とは何か」が問われているといえる。  

  いずれにせよ、現状のままでは本人を含め、周辺の当事者(?)が、そ
 の都度疲弊を深めていることに対して何らかの対応が急務であると考え
 る。

     4 本人が抱える病気や障がいに対する理解の問題
  本人が抱える「病気や障がいの症状」を理解することはとても大切であ
 る。
  一般的に「病気や障がい」については、医師や心理学者、あるいは教師
 などが専門家であると考えられている。

  しかし、ここでは、後見人として「本人の意思の確認」や「本人の価値
 観の確認」のための「病気・障がいの理解」
であるので、医療における 
 「異常としての病気」「異常としての心理・症状」を理解しようとするわ
 けではない

  基本的傾向を知る上で、医療者の知見を得ることは大切である。しか 
 し、それにもまし て「病気・障がい」が(あるいはそれらによる「症状」 
 が)、「○○さん」という「本人 の在り方」に、どのように影響している
 か
本人の価値観を理解する上で、それらによる 「どのような影響」に
 「どのような配慮」が必要か
を理解しておくことが肝要なのである。

  そのためには、「とにかく本人と話す」「本人の話を聴く」「評価せず
 に聴ききる」
ことを繰り返し、「本人とのコミュニケーション」を深め
 理解の精度を高めていくしかないのである。

     5 後見人による本人財産の侵害事件が絶えない問題
  制度の利用において、残念ながら「後見人の不正事件」が、時々ニュー
 ズになる。
  多くは、被後見人(本人)の財産の侵害事件である。
  件の裁判所の集計によれば、近年、対策が強化されるなどしたことから
 数はは減少傾向にはあるが、あいかわらず無くなっていない。 

  専門職の後見人による不正も、専門職以外の後見人による不正の件数・
 被害総額も割合こそ異なれ(専門職による不正はかなり少ない)、後見人
 全般に不正が存在しており、減少しているとはいえ、無くなっていない
 とが問題である。

  支援を必要としている人の数は、今後まだまだ増加していくと見込まれ
 る中、必要な人に、必要な支援を確実に届けるために、制度の利用を広げ
 ていくことが今後ますます求められている。

  この時、安心して制度を利用してもらうためにも、さらなる対策が求め
 られている。
 
  また、財産侵害のように問題にされてはいないが、権利侵害も見落とし
 てはいけない。

  特に後見類型(以前に成年後見制度には3つの種類がありそれぞれ「補
 助類型」「保佐類型」「後見類型」と呼ばれる説明をしましたね)では、
 後見人が本人の代理で様々な手続きや契約などを進める権限が与えられて
 いるため、本人の意思を確認しないまま「選択」「決定」「契約」を行っ
 てしまう
ことが良く起こっている。

  たとえ、「後見類型」であっても、「本人の意思」を確認する努力を尽
 くす
ことが肝要である。本人が重い知的障がいや精神障がいを抱えてい
 て、会話ができないとしても、名前を呼ばれて反応することさえできない
 としても、これまでの生活歴におけるエピソードや表情から想定したり、
 専門家に意見を求めるなどし、本人の意思を理解するための努力を尽くす
 ことが必要であり、この努力を省くことは「権利侵害」とみなされてしか
 るべきである。
 
 
 さて、課題も多いこの制度ではあるが、介護保険制度を利用する認知症高齢者や利用支援事業を利用する障がいをもつ人々などの生活を継続していくために、なくてはならないものである。
 
 ここでは、とりあげなかったが、認知症で高齢の成年被後見人が「商店の品物が商品であり、それを手にするためには代金を支払う必要がある」ことを理解できなくなり、陳列棚から大好物の卵焼きをポケットに入れてしまい「万引き」として事件になってしまったりする。
 
 現在では地域の理解も進んでいるが、以前は商店や警察官に「認知症」のことを何度も何度も説明する必要があった。「かごに入れている品物があるのに、卵焼きだけをポケットに入れたのは、理解しているのに盗ろうとしたことは明確だ」と何度も言われた。認知症の人の頭の中で何が起きているのか、「理解する」とはどのようなことなのか、知り合いの医師に頼んで教えてもらい、時には当事者に直接説明してもらうこともあった。
 
 また、身寄りのない高齢者がアパートや借家に入るのは、今でも簡単ではない。社会的に問題と捉えられて、役所や民間団体・ボランティアグループなど地域社会が動き出してはいるが、まだまだ、理解と協力が必要である。
 
 成年後見制度は、今後もより「使いやすい制度」として、育てていかねばならない。育てるのはみなさん方一人ひとりである。
 
 是非、関心を持って 一緒に考えていただきたいと願っている。


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