モンシェリcoco(1970年代の少女漫画)
大和先生が天才だってこと、少女読者はとっくのとうに気づいておりましてよ。自分なら『モンシェリCoCo』の頃かな。物語の終盤で、ヒロインのココが叶わぬ恋を枢機卿の衣の色からインスパイアされた緋色のウェディングドレスで昇華させるとか、最高に滾らせてくださいましてよ。
『モンシェリCoCo』
DATA:大和和紀先生による少女漫画。1971年に週刊少女フレンド(少フレ)に掲載された。コミックスは全3巻。レーベルは講談社フレンドシリーズ。
クライマックス、ファッションショーのフィナーレであそこまで盛り上げながらエンディングでさらりと日常にもどってゆく、思い出すだにあの終わらせ方にすごくセンスを感じたものです。
少年漫画ですけど『野球狂の詩』水原勇気のエピソードのラストが、やはりそんなふうに無駄に力こぶの入らないとても自然にそれまで没入していた物語から抜け出させ、それでいて心地よい余韻を胸の奥に残す、最良の終わらせ方読後感と思いました。(野球狂の方が後ですが、プロットはどこも何ひとつ似ていない)
他に何に似ているだろう?……最高のコンサートから帰ってきて、自宅で家族に迎えられて自分は変わっていないけれど少しだけ何か違って見えるようになっている、何か(押し付けがましくないギフト)を貰ったそのような気分に似ているのかもしれません。
モンシェリcocoの何がストライクだったか……あの時代に"男女逆転のドラマツルギー"さえ完成させていたのかもしれません。初恋の彼はココから逃れるように去ってしまいます。追いかけていたのはココのほう、その彼女の愛から身をふりほどき"神の国"に永遠に籠城を決め込むという幼馴染のダニエル……。
そうなのコミックスの1巻2巻はまだ従来の少女漫画的、夢とライバル正攻法の成長ストーリーなのに関わらず、ラスト3巻にくるとなんだかずいぶん雰囲気が変わると言うか、ラブコメ(なんだけどミステリアスなヒロイン)という規定路線からはみ出してゆくのですわ。
さすが痛怪ファンタジー「ラブパック」で、源氏物語(の六条御息所エピソード)やら宇治拾遺物語やらとりかへばや物語にも言及(漫画描写及?)されただけはあります。
デザインコンテストで最終最大の才能として、ココの前に立ち塞がるライバルが実は薬物濫用から立ち直ろうと足掻いていたとか……。ええっ?!これが70年代初期の少女漫画なのか、というか小学5、6年でこれ読んでたのねアタクシ。だからポーもトーマも風木もわりと余裕で受け止められたのね?とは、現在に至っての考察ではありますけれど。いやあ凄い展開だった、とは思います。
ちなみに同時期の少年ジャンプでは「ハレンチ学園」でしたからね。(十兵衛は大好きでしたが)
横に逸れて恐縮ですけど、モンシェリcocoは"男の子"にはあまり深く理解されなかったと思う所以ですわ。アニメは前半だけだし(1972年からTBS系で放映、全13話)演出によって違うオハナシに変わった印象。それから原作がそうだから仕方ないけどココに日本人の血がながれてる設定ははいらなかったんじゃないのかと思いますわ。タカラのリカちゃんの家族設定を思い重ねてしまいました。
こざかしいリアリティより、因襲より、少女漫画の王道はラブストーリーという一大前提という宿命にもまさって、アタクシを惹きつけてやまなかったのは、女の子が夢に向かって進んでゆくときに発散されるエナジーのきらめき、宝石より力づよい光輝!そこにありましてよ。誰かの夢のサポート役なんかではありませんわ。ヒロインこそが太陽なんだ!という高らかな主張が中心にはめこまれ燦々と輝き放っている。何ひとつ臆することも、恥ずかしがることもないと、そこに惹かれたのではないかとこれだけ時を隔てても確信の色は褪せておりませんわ。
平塚らいてう先生じゃありませんけど「原始女性は太陽であった」と。
ほんのり割をくってしまったのが相手役(陰のヒロイン)のカメラマン・ジェロームかしらね?最初からココに振り回され、振り回されるばかりでなかなかココという娘の実体に接近できぬまま、もっと強烈な脇キャラの精彩によって影を薄くしてしまうというね(笑)
何せ、アタクシの評価する物語中最高にして正統なヒロインとはモデルの"アンジェリカ"なのですもの。和紀先生おん自ら「モデルはシュープリームス時代のダイアナ・ロス」と言い切ってらっしゃる。なんて魅惑的な妖精だったことでしょう。
さあ!これで読みたくなりましたね『モンシェリcoco』。
今なら電子やレンタルで読めますわよ。なぜここでプロモーションしているか謎ですがこれが流れというものかしらね。アタクシが出版社の回し者だからじゃありません。だいいち当時の贔屓は講談社ではなく集英社、その後沼にハマったのは小学館から〜の白泉社でございましてよ本当なのよ。
ジェロームは清廉潔白なキャラだったがゆえの悲劇だったのかも。本篇でキスシーンもなかったんじゃないかしら?ココに奪われたのだっけファースト……
蛇足かもしれませんが作品が描かれた背景をすこし書き足しますね。なんでも当時(1970年代初頭)小学三年から中学三年迄の女の子の憧れの職業はファションデザイナーである、という講談社の調査結果があったのだそうです。ちなみにそれ以前はスチュワーデスだったとか。
真面目な話、ロールモデルとして、いにしえはココ・シャネル、マリー・クワント(ワを小文字にせよと?本年4月お亡くなりになりました合掌)、ミニスカートの女王”ツイッギー、ヘプバーンは『ティファニーで朝食』からか『愛しのサブリナ』か?デザイナーはジバンシィだけど、アニエスベーも波瀾万丈の女丈夫だけどちょっと違うかしら?などなどが思い浮かびます。
彼女らのリアルに凄まじい魅惑というタレントは、極東の女の子たちをも魅了してのけました。その魔力を分解して漫画に取りこんで、立体的に…いやいっそ異次元世界に再構築してのけた少女漫画家たちの才能!!いえ才能とひとつにくくってしまうのさえ気がさすくらい多様で柔軟なアイディアと豊かな教養と当時から先鋭的だったオタクの指向性(嗜好性?)を今さら自分ごときがシタリ顔で言いたてるのも烏滸がましい、とっくの昔に激論をかさねにかさね評価され、記憶の本棚に恭しくおさめられていると思います。心より尊いと思います。
BGM:あいみょん おいしいパスタがあると聞いて