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お気に入りカフェ、インスタグラマーに占拠される。

趣味でカフェ巡りをしている。
徒歩一時間圏内の有名なお店は大体巡ってしまっため、まだGoogleマップにも乗っていない穴場のカフェを見つけるとテンションが上がる。

先日も新たなカフェを探しがてら街を歩いていると、みたことのないお店を発見した。

最近できたばかりらしい、二階建てのカフェだった。

メニューを見る限り、スイーツへのこだわりが強いお店のようだ。しかし紅茶やコーヒーなどのドリンクメニューもかなり充実している。

これは良い!と思い、早速中に入ってみた。

店員さんに案内されるがままに、二階にあるカフェスペースへと足を踏み入れる。
二階はまるで、ホテルのラウンジかのようなおしゃれで洗練された空間だった。
私が行った午前中はほかの利用者がおらず、快適な空間を独り占めしつつ、コーヒーとスイーツを楽しめたのだった。

まさに穴場だった。
しかも、職場から徒歩数分というアクセスのよさ。

ここは通うしかない。全メニュー制覇するしかない。と心に決め、何度かお店に通っていた。

今日も仕事前にそのカフェへと向かったところ、開店直後だというのにやけに店内が騒がしかった。

ここもついに見つかってしまったか…と少し残念に思いながらも、二階につながる階段を上がると、
そこには、大きなテーブルの周りでカメラや撮影機材を並べる、四十代くらいの男女二人組の姿があった。

彼らはおそらく夫婦だった。
そしておそらく二人とも、インスタグラマーだった。

二人はメニューを眺めては商品を吟味し、これが良さそうじゃない?と話し合いを重ね、運ばれてきた見た目の美しいパフェの写真をそれぞれ大量に撮影していたのだ。

私は彼らとは少し離れた席に座り、カフェラテと、季節限定のパフェを食べていた。

その間もインスタグラマー夫婦は立派なカメラを抱え、真剣な表情でパフェの角度を調整し、黙々と撮影をしていた。

もうアイス溶けてるやん。と思いながらも彼らから目を逸らした直後、階段の方から何やら話し声が聞こえた。

「わー!素敵じゃない?」
「階段急なのでお足元気をつけてくださいね〜」
「あ、注文ってQRですか〜?」

嫌な予感がした。
そんな予感はすぐさま的中することになる。

階段を登る足音が増え、話し声が大きくなったかと思えば。
がらんとしていた二階席に、立派な撮影機材を持ったインスタグラマー五名ほどがぞろぞろと姿を現したのだった。
静かだった店内は一転騒がしくなり、インスタグラマー夫婦らもさすがに撮影を中断し、新たな刺客(?)たちへと目を向けた。

その中にいたインスタグラマーの一人が、インスタグラマー夫婦と知り合いだったらしい。

お互いの目が合うなり「えっ、○○さん!?」と挨拶がはじまり、お久しぶりです〜!と同窓会かよと言いたくなるほどのはしゃぎっぷりを見せ、店の盛り上がりに拍車をかけていた。

インスタグラマー同士の交流がはじまってすぐに、このカフェのオーナーらしき男性も挨拶にやってきた。

「今日はよろしくお願いします〜」と低姿勢ながらもはつらつとしたドでかボイスでインスタグラマーたちに声をかけ、ついにはオーナー同伴のパフェ撮影会がはじまったのだ。

え、今日ってそういう日?
インスタグラマー限定撮影イベントの日だったりする?
とSNSを確認するもそんな記載はなく。オーナー以外の店員さんは普通に「お水おつぎします〜」と私の席にもやってくる。

私が黙々とパフェを食べているかたわらで、インスタグラマーたちは「ほら、オーナー真ん中で!」と言いながらみんなで肩を組んで記念撮影と洒落込んでいる。

正直、とりあえず静かにしてくんないかなと思ったが、これくらいお客さんで賑わってるほうがお店としては良いのだろうな…けどこのインスタグラマーたち、絶対みんな招待客やん…金払ってる客私だけちゃう…とか色々考え、複雑な思いを抱えていた。

とはいえパフェもカフェラテもまだ残っていたため、帰ることもできずに撮影会の様子をたまにチラ見していた。

撮影会開始から一時間ほどで、インスタグラマーの群れは去っていった。

残ったのはお店のオーナーらしき男性と、いつのまにか来ていた店舗関係者らしき男性、そして私。相変わらずのアウェイである。

しかもオーナーに至っては、他にも席は空いてるのに、なぜか私の斜め前の席にどっかりと座り、パソコンを広げ始めたのだ。

店舗関係者の男性は、オーナーになにやら挨拶した直後、電話が入ったようでトイレの方へと消えていった。
そして、何やら電話口の相手と揉めているよ うだった。

さすがに声はひそめている様子だが、人の少ない店内だ。声もやりとりもよく聞こえる。
内容まではわからないが、棘のある声色とまくしたてるような言い方で電話口の相手とやりあっている。

まだいける。
まだ大丈夫。

そう自分に言い聞かせていたそのとき。
私の斜め前にいたオーナーのもとに、パティシエらしき女性がデセール(でかい皿にのった果物とスイーツの盛り合わせみたいなやつ)を持ってやってきた。

「次のシーズナル商品です」

そうパティシエさんが言うと、オーナーは「ん」とそっけなく返し、もらったデセールを凄まじい速さで食べ勧めていた。

どうやら次は、新商品の試食会がはじまったらしい。
私も前働いていた店でやったことがあるため、この時はただ懐かしいな〜と思っていた。

パティシエらしき女性が、オーナーに告げる。

「これを○○円で出そうと思ってます」
「へー。あのパフェと同じか。あのパフェは原価いくらだっけ?」
「△△円です」
「なるほどね」

オーナーは頷きながらも「まぁそんくらいか」などと話している。

まぁそんくらいか〜じゃないのよ。
それ私が食ってるやつ。
"あのパフェ"はお前の斜め前で私が食ってるパフェや。

客の目の前で原価の話するって、どない?
と一周回って面白くなりながらも、さすがにもう無理やと思い、ギブアップすることにした。

足早に階段を降り、会計をお願いする。
私にパフェを運んでくれた店員さんは満点の笑顔で「ありがとうございました!またお待ちしております!」と出口まで見送ってくれた。
こちらこそありがとうございます。おかげで仕事頑張れそうです。
しかしもうここには行かんわな〜。

一番驚いたのはオーナーの言動である。
インスタグラマーに対する対応はずいぶんしっかりしているようだが、一般客である私の目の前で原価の話するってアンタ、さすがにどうよ。

カフェに入ると変な体験をしがちな私も、さすがにドン引きである。
店員さんは優しいし、アクセスも良いし、商品もおいしかっただけに残念すぎる。

たしかにお店の広報のため、インスタグラマーの方々に協力してもらうのは大事なことだと思う。
私も前働いていたお店で経験がある。
インスタグラマーの方々を店に無料招待し、写真とレビューを投稿してもらったおかげで新規のお客様が爆増したことが。
彼らを招くことで得られる集客効果は、やはり大きいのだろう。

けどさ、インスタグラマーを大事にするのと同じくらい、一般の客も大事にしてくれよ。
あの場所で唯一お金払ってカフェ利用した者だからね私。

後ほど件のカフェのインスタを見てみると、例のインスタグラマーたちの投稿も発見できた。

アカウントには数万人のフォロワー、そしてスマホじゃ絶対に撮れないであろう高画質ハイクオリティなパフェの写真たちが並んでいた。

やっぱインスタグラマーの方って写真撮るの上手なんだな〜と思っていたら、アイコンの下の肩書きが『デジタルクリエイター』になっていた。インスタグラマーじゃないんかい。

お店の方々。インスタグラマー改めデジタルクリエイターを大事にするのと同じくらい、一般のお客も大事にしてくれると嬉しいです。
しかし何者なんだデジタルクリエイターって。

おわり

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