
Ten to Ten to 10 〜sumika浜スタ伝説の夜〜
「浜スタに語り継がれるような伝説のライブにします。」と片岡さんが言った通り、sumika 10周年記念ライブ『Ten to Ten to10』は、次の日の朝のニュースで約4時間に渡ったと報じられた。全40曲、約4時間の伝説のライブの記憶の記録。
2月24日。予想もできない悲報が突然、知らされてから止まった時間。もう一生会えないかと思った。もう立ち上がれないかと思った。『Ten to Ten to10』が中止になる想像だって何回もした。8年前、片岡さんが声が出なくなって活動休止した期間を私は1度経験した。あの時、生きた心地がしなかった。何をしててもsumikaは今どうしているのか心配になった。今回はその比じゃなかった。本当に最悪の結末までも想像せざるを得なかった。
でも、sumikaは予定通り『Ten to Ten to10』を開催すると言ってくれた。嬉しかったし、とても楽しみだったけど、でもその反面怖さもあった。3人のsumikaを見るのが。もう会えない。もう、あんな笑顔でギターを掻き鳴らすじゅんちゃんの姿を見ることができないことを受け入れなきゃいけない。それはとても覚悟のいることだし、どんな顔で他のメンバーが出てくるのか行きの新幹線の中で想像して緊張と不安でちょっと泣きそうになった。
5月14日。午後4時20分。定刻を20分すぎて、雨が少しだけ弱まったタイミングでライブは遂にスタートした。壮大な音楽と共にスクリーンに映し出されるsumikaの10年間の軌跡のムービー。片岡さん、荒井さん、黒田さん、小川さん1人ひとりの顔。すでに涙腺が緩む。だめだこれとなる。ステージに置かれたじゅんちゃんのギター。ステージに入ってくるなり深々と頭を下げるsumikaの3人。ああ、sumikaちゃんと10周年ライブ始まった。と少し安心した。
「1、2!」と天高く叫んだ片岡さんの一声で1曲目の『雨天決行』が始まった。予想通り。悲しいことがあって雨天どころか荒天の中にいたsumikaが10周年のライブを始めるなら、この曲しかないだろうと予想していた。普段は最後にやることが多いこの『雨天決行』。最初に持ってきたのは、今日が雨だって分かってからなのか、それとも最初から決まっていたのか。どっちかはわからないけど、間違いなく雨が降る中、1番にやって良かった。雨が1番似合う曲だと思った。4分割されたスクリーンにおがりん、荒井さん、片岡さん、黒田さんのギターが映し出される。泣かずにはいられなかった。音は鳴っているのにそこにいない。いないんだということを少し受け入れた。
続いて、『Lovers』。照明が一気にカラフルになり、あのライト全部L E Dなんだということに気づく。「10th anniversary Live sumika Ten to Ten to 10」という文字がカラフルに光り、ポップなsumikaの世界観が一気にテンションを上げた。コールアンドレスポンスもみんな完璧。『Lovers』 が発表されてから早8年。幾度となくこの曲をライブで聴いてきたが、「離れぬように」のレスポンスがあんなに大きかったのは今回が初めてだった。「みんな歌上手いねえ」と片岡さん。本当に声出し解禁になって良かったなと思った。
「飛ばしていくよっ」の一声の後は決まって『フィクション』。栞挟んで涙の跡のふりも完璧にこなす。ストリングスが生演奏だったから2番のAメロがいつもより壮大に聴こえた。
そしていきなり『ふっかつのじゅもん』。え、もうふっかつしちゃうの?と思ったのも束の間、ステージ袖から出た炎にあつっとなる。Bブロックの3列目にいた私ですら熱さを感じたのだから、最前にいた人はどうなっていたのだろうか。やけどしそうだったのでは。去年のジャイガのとりでふっかつをやった時に、この炎の演出がされていて、すごくカッコよかったのでぜひワンマンでもやってほしいと思っていたから、また見れて嬉しかった。リズムに合わせて拳を上げると一緒に炎が出て、会場のボルテージが一気に上がったように感じた。そして、『ふっかつのじゅもん』最大の見せ場のギターソロ。片岡さんが自分のギターを一度置き、向かった先はじゅんちゃんのギター。担ぎ上げてストラップをつけると、短い。じゅんちゃんが持つとしっくりくるのに他の人が持つと違和感がすごい。ちょっとおかしくなってしまった。そのまま片岡さんが『ふっかつのじゅもん』のギソロを弾き切った。会場内からは大きな拍手が湧く。また泣いちゃう。
そんなかっこいい演奏の後の「あれ…今何時…あ、待って…(ゴニョゴニョ)……おはこんばんにちはー!sumikaでーす!」の挨拶。一瞬こけるかと思った。最初の挨拶くらいバシッと決めてくれい。まあ、そこがsumikaらしくていいんやけど。「ただいまーー!!」「おかえりーー!」とsumikaもお客さんもお互いに大きな声で挨拶し合う。さらに会場のみんなのご機嫌を伺い、「東横インの人に怒られちゃうなあ」とご満悦。そのあと片岡さんが、「隼之介の代わりなんてやるつもりはないし、埋めようとも思わない。だってこんなに難しいんだもん。」「今日はたくさんのゲストメンバーに来てもらってるし、俺も弾くし、スタッフチームに協力してもらって隼之介の音も流してもらうからさ、“悲しい空白”より“ポジティブなクエスチョン”を探そうかなって」と。今日を不安に思ってしまっていた自分は、何も心配することなんてなかったと少し後悔した。
そんな勢いのまま『1.2.3..4.5.6』。ライブ定番盛り上がりソング。ちゃんとみんな123456できててすごい。予習完璧やんと思っていた。「サムライブシ!」からのお決まり「その10倍!」「その100倍!」のコールがいつもより大きくて楽しい。最後の「よお〜〜パシっ」も完璧に決まった。気持ちいい。そういえばこの時雨が一瞬止んだ。
そして問題の『ソーダ』。「なれるわけもないのに〜〜〜」のところで荒井さんのドラム爆発。そのあと落ちサビの「ソーダ 僕の思いは」のところを片岡さん入りそびれる。「え、ちょっともう一回やっていい?ドラムすごすぎて入れなかった」と苦し紛れの言い訳。目を合わせて笑う荒井さんと片岡さん。息を合わせて落ちサビから再スタート。そんなミス見たことないけど、こういうのもライブの面白いところ。sumikaだって人間。
ここでようやく最近のアルバムから『Porter』。Ten to Tenでもやっていたが、野外で聴くこの曲はまたいい。アウトドア感ある。イントロから「ジャンプ!ジャンプ!」って言われたから全力でジャンプしたけど、次の日の足の筋肉痛の大きな原因になるとはこの時は考えてもみなかった。
少しアンニュイな『惰性のマーチ』。ちょいエロ片岡マン炸裂。この手の曲実はsumikaの真骨頂なんだと思う。ホーン隊の音も厚みがあってかっこいい。からの片岡さんの「ねっ」でノックアウト。堕としに来ましたねあれは。
ここで各々の横浜の思い出を語ってくれた。横浜でよく弾き語りをしていたおがりん、浜スタに野球やライブを見にきた片岡さんと荒井さん。「10-FEETのライブでモッシュしてたよね」と片岡さん。「こう見えてモッシュとかするんだよ、俺」となぜか得意げ。そんな浜スタでライブしてるなんて…としばし感傷に浸るタイム。「いきなり浜スタは無理ですからね。信頼がないと」と片岡さん。
sumikaはいきなり浜スタでライブできるようなバンドになったんじゃない。それは私がよく知っている。話はちょっと逸れるが、初めてsumikaのライブを見たのはタワレコの特設イベントスペースだった。30人ほどのお客さんの前でアコースティックライブをやっていた。30人だったキャパが300人になって、3000人になって、30000人になってという過程をずっと見てきた。sumikaが1つずつ信頼を積み重ねて、10年かけてsumikaは浜スタでライブできるバンドだという信頼を得たのだ。まさしく『Ten to Ten to10』。点を1つずつ紡いだ10年の努力の賜物。
そして『イコール』へ。野球場で聴く野球アニメの主題歌は特別良い。浜スタで歌うことを予想して作っていたのかっていうくらいマッチしていた。夏の大空には程遠い曇天だったけど、また夏にフェスで聴けたらなと思った。
ここから小川ボーカル祭り。まずは小川さん初ボーカル作品『enn』。親子の愛を歌った曲だが、5月14日はちょうど母の日。奇跡か。「雨の日も 風の日でも」という言葉で始まるのも奇跡。浜スタのどこかにいた小川さん母にもきっと届いただろうし、最高の雨の母の日になったこと間違いない。
続けて『わすれもの』。この曲黒田さんのことがあってからちょっと聴くのが辛かった。「いつかが永遠に変わる」という言葉がより実感を持つようになったから。小川さんの伸びやかなCメロが会場に響き渡る。この曲が持つノスタルジックな雰囲気に心が少し軽くなった。
Ten to Tenの時と同じオープニングムービーが流れてカウントダウンが始まる。このムービーの後はTen to Tenの1曲目の『New World』。始まりの片岡さんのギターかっこいいよなあ。Ten to Tenの名古屋公演を思い出していた。日本ガイシホールがじゅんちゃん最後のライブになっちゃった。もっとちゃんと見ておけば。もっとちゃんと聴いておけばって何回も思った。
ドラムのスネアをブラシで叩く音とハットを踏むが聴こえた。これはまさか。と思ってたら始まった『Strawberry Fields』。周りがざわつく。ソロ回しの定番曲だけど、しばらく聴いていなかった。ソロ回しとメンバー紹介が始まる。美しく透き通った声での乃菜さんのソロ、ハイトーンボイスではなくギターで来た太郎さん、シンセの使い手ジョージさん、歪みベースソロのいじー、おがりんのおしゃれピアノソロ、いつかここでaikoの「milk」を熱唱したこともあったけど、今日は真面目に超絶テクでの荒井さんドラムソロ。みんなそれぞれすごくてカッコよかったけど、あ、やっぱ1人足りない。。と感じてしまった。
さらに会場をざわつかせたのが『NO.5』。やってくれるとは思ってなかった。独特の浮遊感とアンニュイな雰囲気を持つ『NO.5』の妖艶さに酔いしれた。
アレンジを加えたセッションの続きから聴き覚えのある『秘密』のイントロが流れてきた。これも相当お久しぶり。これをきくと『君の膵臓を食べたい』を思い出す。この曲聴くと花火の光景が浮かぶのは私だけだろうか。もう一度見直したいなあ。
そしてこの10周年のメインテーマ『透明』。Ten to Tenのツアーを経てこの曲はとっても大きくなった。一緒に成長して完成された『透明』の「愛している」は、とても深く嘘偽りないものだと感じた。
ここでステージを転換。アリーナ中央のセンターステージにアコースティック形態sumika [camp session]のセットが組まれた。もうそろそろセッティングできそうというタイミングで突然、「ちょっとトイレ行ってきていい?先に行っておけばよかった」とそそくさとステージを去る片岡さん。その間にセッティングが終わり、他メンバーとゲストメンバーは真ん中のステージへ。すると小川さんが「ボーカルは今、尿道を絞り切っています!!」と。さすが、小川貴之。爆笑。その後申し訳なさそうに戻ってくる片岡さん。どこからか湧いてくる拍手。「トイレ行ってきただけなのにすいません」と。
「3、2、1」というカウントダウンに合わせて、センターステージで向かい合ったメンバーの中心のファイヤー台に火が灯った。パラパラと降る雨にも負けず、大きな炎がメラメラと燃える。
「まずはこの曲から」と始まったのは『知らない誰か』。この曲は、camp sessionでも初めに作られた曲で、”ライブハウスを出る頃には知らない誰かが知らない誰かじゃなくなっていればいいな”という願いが込められている。今までのcamp sessionのライブでも必ずと言っていいほどやってきた曲だが、この規模のライブで聴くととても感慨深い。初めて見たsumikaのライブでは、”知らない誰か”は30人ほどだったが、この日浜スタに集まったのは3万3000人。3万3000人の”知らない誰か”とsumikaのライブを共有できたことに感動した。
続いてはS S P Gから『ユートピア』。この曲はアコースティック形態がとても似合うからずっと聴きたかった。「旅行行くならインドがいいよね 金ピカよりも?」の問いかけの後に「銀ピカなのがいいよね!」とみんなで歌った。これ初めて『ユートピア』を聴いた時からやりたかったやつだった。
ここから雨足が強くなった。でもここできた『Travering』は雨でさらに妖艶さを増した。片岡さんはハンドマイクで炎の周りを回りながら楽しそうに歌った。じゅんちゃん用の椅子にも座ってたかな。「おかえり」の声がいつもより色っぽかったのはきっと雨のおかげだろう。雨も滴るいい男だった。
さらに雨足は強まり一旦ライブは中断、屋根のあるメインステージにメンバーは避難した。「今からテント立てるから10分くらいかかるかな」と説明した後、「じっと待ってるだけじゃ辛いから1曲やるね」と急遽ギターを鳴らす片岡さん。「リハでもやってないしついて来れるメンバーはついてきて」とメンバーに語りかけると、まさかの予定してない曲『ここから見える景色』を歌い始めた。最初の1回しは弾き語りで、2回し目から他のメンバーも曲に参加し、さすがだなと驚いた。井嶋さんも弾けているのは愛でしかないし、絶対音感あるんだろうなと感心していた。いきなりやってソロも完璧、アウトロもアレンジしてきた小川さんは流石でしかない。おもわず「いいねえ」と言った片岡さんの顔が無邪気なこと。あまりにライブ感のある瞬間だった。終わってから井嶋さんが弾く振りだけしていたというオチまで完璧的。「全然(イヤモニに音)返って来ないと思ったー!」と笑う片岡さんにつられて爆笑した。
雨は一向に止まず、メインステージでcamp sessionが続行されることとなった。トランペットにゲストメンバーの村上基さんをお向かえして『IN THE FLYGHT』。MV撮影していたんだよねと左右のスクリーンにMVが映し出される。雑多な飲み屋さんでsumikaズが楽しそうに飲んでいる。ああ、なんて素敵な4人なんだと泣きそうになる。追い討ちをかけるようにじゅんちゃんがたのしそうに階段でギターを弾く場面。これが最期の4人でのMVなのかなと涙が溢れた。初めて聴く生トランペットソロの迫力と伸びやかな音色に感動した。
前半戦最後は、片岡さんと小川さんのみがステージに残り、荒井さんと他のゲストメンバーはステージを一旦去った。この2人でやる曲は『溶けた体温、蕩けた魔法』。Chimeやワンブリ等一時期のライブではこの2人でのこの曲は定番だったが、しばらく聴いていなかった。ライブハウス、ホールとはまた違った浜スタでの『溶けた体温、蕩けた魔法』。3万3000人が聴き入っていた。節目節目で大事にされてきたこの曲は個人的にとても好きな曲だったので、この曲を浜スタに選んでくれてとても嬉しかった。
この時点で時刻は19時に近づき、あたりは暗くなっていた。「後半戦、準備できてるかーー!」と叫ぶ片岡さんの一声で、花火が打ち上がり、『絶叫セレナーデ』のイントロが始まると後ろや横から巨大風船登場。お客さんの目線はステージどころでは無くなった。しばらくしてふと、メインステージを見ると荒井さんがいない。戻ってきてなかったのかと思ったけど、ドラムの音はする。どこいった?と思ってると、センターステージで1人ドラムを叩く荒井さんがいた。シンバルを叩く度に雨の飛沫が飛び、めちゃくちゃかっこいい演出になっていた。そうこうしていると向こうの方で巨大風船が破裂。中から小さなカラフルの風船がたくさん出てきた。いいな、風船私もほしい。と思ったのは幼い頃以来かもしれない。結局取れず仕舞いだったけど、巨大風船にはタッチできたので、楽しかった。
センターステージにいた荒井さんによる謎のバズーカ登場。スプラトゥーンでも始まるんかと思ったら、観客を煽り出して一番盛り上がっているところにバズーカを打ち込んだ。飛距離すごい。あの小型であんな飛ぶんかってくらい飛んでた。1個近いとこきたけど、全然取れなかった。
会場は疲れを知ることなく、大盛り上がり曲『Flower』に突入。待ってましたと言わんばかりの大声援。Cメロ前片岡さんの「久しぶりに歌える?」の問いかけにもちろん!と答えるように「いつかはいつだ〜」の大合唱。これ本当に久々だった。「フラッワー!」の掛け声も今までで一番大きかった。
片岡さんとおがりんがハンドマイクを持って始まったのが『マイリッチサマーブルース』。雨に濡れたタオルの重いこと。10周年のちょっとおっきいタオルを持っていたから、イントロで右腕死亡。普通のサイズのにすればよかったとこの日1番の後悔。タオル振り回すおがりんの代わりにジョージがおがりんのキーボードを弾いていた。ついに3分の2ボーカルになっちゃったよ。ボーカル、ボーカル、ドラムってどんなバンドだよと思っていた。重たいタオル振るのに必死であんまり周り見てなかったけど、あれステージ上から見たら相当綺麗なんだろうな。映像が楽しみ。
ここから怒涛のsumika美味しいとこメドレー。「ちょっとずついっぱいやってもいいですか!」の後に鳴り出した『The Flag Song』。イントロを1回しやっていきなりCメロ「評論家気取りのやつ〜」と歌い出す片岡さん。みんな多分ここで一回思考停止した。え?もうそこ?待って、もう言うん?がち?え、あ、ちょま「nかに出してー!」。なんたるスピード感。前戯ありきのそこやろ!!とツッコミたかった。これ言いたかったんだろ〜の顔する片岡さん。言うだけ言わせてはい、終了。ほぼやり逃げ。(嬉しかったよ)
そうこうしていたら「ヨーホー!」の掛け声で始まった『チェスターコパーポット』。いきなりキーもテンポもガラッと変わって、また追いつけなくなる。対応できる楽器陣すごいと思った。サビの合いの手ひっさしぶりにやった。
この流れで『KOKYU』はテンション上がりまくった。正直知ってる人あんまいないだろうから選曲されないと思っていた。サビの「吸う 吸う 吐く 吐く」の片岡さんの横向き手振り久しぶりに見た。あの謎の動き好きなんよな。去年のジャイガの時もやってたけど、フェスだったからアウェイ感あった。
続いて『ライラ』。小川さんと片岡さんのサビの掛け合い久しぶりに聴いた。「ライラ ライラ」の掛け声も久々にやってテンション上がった。
続いて『Jasmine』でガラッと雰囲気が変わる。1、2!も3、4、5!の手も完璧。「バイバイ昨日はほっぽって〜」でみんなの手がバイバイになる。「この街から始めよう」というワードはいつだって元気をくれる。
一呼吸おいてギターをジャーンと鳴らし、「濡れたエプロンとシチューのルーの端」とゆっくり高らかに歌う片岡さん。「暮れた日差しと」から他のメンバーも混ざり、テンポが戻る。Ten to Tenで聴けなくて一番聴きたかった曲なので嬉しかった。
メドレー最後は『Lamp』。アウトロの「う〜へいっ!」が楽しくてジャンプしちゃう。最後の一回は特に大きく高い一打が打てた。
メドレー明け『ファンファーレ』。ここにきての『ファンファーレ』は絶対しんどいやろうなと思っていた。テンポ早いし、手数多いし。でも疲れを感じさせない力強い演奏。この曲でsumika知った人たくさんいるんじゃないかなと思っていた。流石に歌い終わった後は少し息を乱しながら、「10年前はただ歌が歌いたくて、ただバンドがやりたくて、作った曲を聴いて欲しくて、軽音部の延長線上でバンドを始めました。」と語りはじめた。「俺はバンドメンバー、ボーカルでもあるんですけど、10年かけてどうやらsumikaというバンドのファンになってしまったようです。だからめちゃくちゃ辛いことがあった時に歌を歌い続けたいという気持ちよりは、俺はsumikaの歌を聴けなくなることが嫌だったんだよね」と語る片岡さん。相当の覚悟を持ってこの日を迎えたことがこの一言からひしひしと伝わってきた。「俺はともくんが作った曲を聴くし、おがりんが作った曲も聴くし、隼之介が作った曲も聴く。俺が作った曲も聴く。売れるか売れないかはさっぱりわからないけど、メンバーが命を燃やして作った曲だけは世の中に残していってほしい。3万3000人だろうが3人だろうが関係なく、目の前のあなたに向けて、1対1で命を燃やし尽くしてライブをやれるバンドであってほしい。人生が終わってしまう時にああ、sumikaというバンドのファンで良かったなと思って人生を終えたい。だから俺たちはまだまだsumikaを続けたい」と言った。
アコギを持った片岡さんが静かに『明日晴れるさ』を歌い始めた。こんな雨の日に歌う『明日晴れるさ』の特別感。「明日晴れるさ 傘は持ってないから 代わりにこの歌を 雨に濡れた君 そこから立つ気が虹をかけるんだ」と歌った片岡さんにつられて空を見た。相変わらず雨が降っていた。LEDライトが虹色なっていることに気がついた。粋な演出すぎる。
一気に明かりが灯って『Shake&Shake』が始まる。おがりんのピアノソロで片岡さんがおがりんに抱きつく。抱きついて腰をふるふる。何してんねんと思ったけど、顔色変えずに弾くおがりん。後ろで何されてるか知らないのかな。
「最後の曲です」と言うと会場内のライトが暖かいオレンジに照らされ、『オレンジ』が始まった。この曲で終わるライブいつ以来だろうと思っていた。「ただいま おかえりが響きあう」まさに今日のライブだと思った。この曲は「ただいま おかえり」が言える場所があるから安心して「いってきます」が言えると教えてくれている。sumikaがあるからまた行ける。いつでも帰って来れる場所なんだと再確認した。
鳴り止まない拍手と共に、メンバーがステージを後にした。すぐに始まるアンコールの拍手。人数が多すぎてなかなか揃わないのも面白いと思った。しばらくの沈黙の後、再びステージの明かりが灯って、メンバーが戻ってくる。「アンコールありがとうございます」とお礼をすると、「新曲やります!」と『Starting Over』が始まる。待ってたぞ〜!という気持ちをさらに高めるように花火が打ち上がる。この日のためにみんな何回も聴いて練習してきた「Oh~Oh~Oh~Oh~」の部分。曲がすすむにつれて、大きくなる声。片岡さんの「築々と」おがりんの「描く覚悟」。一間置いて花火が盛大にぶち上がる。この日一番の歓声が会場から湧き上がる。大サビの盛り上がりのまま「喜びや 悲しみや 苦しみも全部持って」と会場全体が大合唱。スクリーンに映し出された歌詞を頼りに私も精一杯歌った。
「アンコールありがとうございます」と感謝の言葉と共に、アンコール前のスマホライトのことにも優しい言葉で少し触れる。「次は俺たちが考えるから」と。片岡さんの言葉選びはいつだって柔らかくて丸い。
アンコールでは珍しくバラードの『願い』。ここでこの曲が来るとは思わなかった。sumikaの中でも多分難産だったこの曲。ドラマの主題歌だったこともあり、多くの人の特別な曲。スポットライトが4つ、ステージのsumikaを照らしていた。降る雨が全部雪に変わればいいのにと思った。
「おがりん言い残したことある?」という片岡さんの問いかけに最初は「うーん」と頭を悩ませたおがりん。ここから小川さんの熱量たっぷりのMCが始まった。今日を迎えられた感謝と共に、「まだまだ表現したいことがある。そして何よりも、僕がsumikaでいい音楽をもっと残していきたい。あなたの人生にsumikaの音楽を突き刺していきたい」と。そう語る小川さんの目からは大粒の涙が溢れていた。「悲しいから泣いているんじゃないんだ。未来が楽しみで泣いているんです。」笑いながら泣く小川さんの頬をつたう涙の綺麗なこと。おがりんがうるうるしてるのは何回か見たことあるけど、あそこまで感情をむき出しにして泣いているのは初めて見た。
おがりんからバトンを受け取り、急に始まるロックスター荒井MC。ドラムの位置を飛び出して「10周年という節目、本当に悲しい出来事があって、この10年全部悲しいことばっかりだったんじゃないかって。でも少しずつ時間が経って、やっぱりこの10年間は悲しいことばかりじゃなくて、すごい楽しいことあったし、幸せなことあったんだよ」と下手のサイドステージをジョブス並みにカッコつけて歩く。上手側に移動して「人生は長いから、今以上に辛いことも、眠る前に叫び出したくなるようなことも、朝起きたらこんな世界はおかしいって思うような時がきっとあると思う。そんな時は“ここ”に戻ってきてほしい。“ここ”っていうのは浜スタじゃねーぞ?横浜って意味でもないぞ?俺らの”住処”になー!」と叫ぶと会場からは大きな歓声が上がった。センターステージから花道に進むと、「この前のTen to Tenの大阪公演でこんなテンションのMCを初めてしたんだよ。楽屋戻ってきてじゅんちゃんが「あのMC最高でした!一生ついていきたくなりました!」ってすごい笑顔でいってくれて。」と話始めた。私はその公演を実際見ていた。1人お立ち台で無双する荒井さんを横でケラケラ笑いながら見てるじゅんちゃんの姿。昨日のことのように思い出せる。「でもその時ライブ終わってるから「ありがとね」って返しちゃった。」「今思うと、あの時じゅんちゃんに伝えるべき言葉違ったなと思って。最後に今日その言葉を伝えさせてくれ。これはメンバー、ゲストメンバー、スタッフ、関係者、もちろんお前らに対してもそう。そして「一生ついていきたくなった」なんていってくれたうちの愛すべきギタリスト黒田隼之介に対してもそう。全員にまとめて最後に言わせてくれ」といって大きく息を吸い、「お前らー!全員ついてこいやーーー!」と叫んだ。「うぉーーー!」と湧き上がる歓声。ごくせんのヤンクミ以降でこのセリフを言った人間はいただろうか。あまりに大きくてたくましい荒井さんの背中はまさにキャプテンそのものだった。
荒井さんの叫び声の半分くらいの声量で「えーあ、いいメンバーだろ?」と片岡さんはつぶやいた。「横浜スタジアムに一生語り継がれるようなどでかい音を響かせてほしいんですけど、準備いいですかー?」というと、満を持しての『「伝言歌」』。この歌がないとsumikaのライブは終われない。「伝えたーーーい」の声の大きいこと。片岡さんの「どでかい音、空まで届くと思うからさ!」という叫びにもう涙腺は崩壊。こんなにも明確に伝えたい相手がいる『「伝言歌」』は初めてだった。3万3000人の「伝えたい」は空まで届いただろうか。最後のワンフレーズ「あなたに最期に今投げかける伝言歌よ」と映し出される。あれ、さいごのごって“期”だっけと思う。違う、これも演出かと気づいた時には涙でいっぱいになっていた。
「見つけてくれてありがとう」と片岡さんが言うと、2度目の大きな拍手に包まれて、sumikaとサポートメンバーの皆さんはステージを去った。スクリーンにはエンドロールが流れる。メンバーはもちろん、このライブに関わった音響さん、照明さん、スタッフチーム、カメラマン、ひとりひとりの名前。そしてYouの文字。sumikaはこうして関わった人たち全員のことを大事にしてるから愛される。
再び照明がつくと、センターステージで片岡さんが一人、アコギを持っていた。「虹をくぐって 光を抱いて」と歌い出す。え、まさかの第二楽章?!と思わず言ってしまった。これは『For.』の初回盤に収録されている『雨天決行』の第二楽章。サブスクにはない幻のシークレットトラックだから知らない人も多かったかもしれない。最初は1人で歌いだし、その輪に加わるように小川さんと荒井さんも演奏を始めた。「Too late? tonight」の後に「この声が君に届くように」とみんなで続いた。この“君”はじゅんちゃんのことを思っていた。「Too late? tonight」「この声が君に届くように」繰り返し歌っていると荒井さんが両手で天を指差す。ダメだ、涙が溢れ出す。「Too late? tonight」「届くまで決してやめぬように」「Too late? tonight」「あなたの暗闇照らすように」「Too late? tonight」「掴んで二度と離さぬよに」「Too late? tonight」「あなたの世界を変えるように」「Too late? tonight」「明日の世界を変えるように」とコールアンドレスポンスを続け、最後に「今日も始まりの合図を」と締めた。スクリーンは3分割になり、片岡さんとおがりんと荒井さんだけを映した。それは、まるでじゅんちゃんにこれから3人でやっていくから安心して見ててねって言ってるように思えた。『雨天決行』で始まり、『雨天決行』で終わる。こんな雨の日に鳴らす始まりの合図はとってもかっこよく、これからの未来のsumikaがより一層たのしみになるものだった。
今日という日を一緒に作ってくれたゲストメンバーの紹介があり、みんなで写真を撮った。ゲストメンバーを先に見送ると、sumikaの3人は肩を組み、マイクなしで叫んだ。おそらく「ありがとうー!」的なことを三者三様の言葉で。仲良くお尻が濡れて服の色が変わっているのもお漏らししたみたいで可愛かったなあ。深々とお辞儀をするとステージ袖にはけていった。
こうしておよそ4時間に及ぶTen to Ten to10が幕を閉じた。ここまで書いておいてなんだが、私は何を聴いていたんだろうと思った。いつもライブに行くと原曲とは違うアレンジを探すのが好きだ。『ファンファーレ』のコード進行がアレンジされていたり『Summer Vacation』のアウトロのドラムのリズムパターンが変わっていたり、『アネモネ』のコーラスが1音違っててもすぐ気づける。でも、今回のライブは全然そこに気がいってなかった。もちろんストリングスやホーン隊が入って雰囲気は原曲とは違う点が多かったが、それ以上にただ純粋に音楽を楽しむことに夢中になっていた。演出やスクリーンの映像など視覚的に楽しませてくれる要素も多く、これは浜スタでしかできないライブだった。原曲との違いは映像が出たらたっぷり楽しもうと思う。
“雨が降っても槍が降っても止まない覚悟を”と『雨天決行』の前によく片岡さんが言う。今回のことがあってもう止めてしまうんじゃないか。止めてしまってもしょうがないと思った。でも、sumikaは止めなかった。というか、止めれなかった。このTen to Ten to 10を通じてsumikaのその覚悟を目の当たりにした。おがりんの「どんなことがあっても、ちょっと立ち止まっちゃうかもしれないけど」という言葉。この先また何かあったら立ち止まってもいい、止めないでいてくれたらと思った。きっとじゅんちゃんも見ててくれる。大丈夫、一生ついてくよ。“雨が降っても槍が降っても止まない覚悟を”と雨に誓ったTen to Ten to 10だった。