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絵本レビュー&こどものこと

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すがすがしすぎる力技と不誠実――『アナと雪の女王』

2014年6月3日  先日、ディズニー映画最新作『アナと雪の女王』を娘といっしょに見た。日本では『ポニョ』以来の動員数だそうで、確かに近所の子どもたちも幼稚園の同級生もみんな見ててみんなあの歌歌ってて、娘もすでに2度目の観賞。とにかくものすごい話題になってて『ドラゴンボール』見逃すと木曜の朝仲間ハズ レ、 ワールドカップ盛り上がらないと非国民、みたいな雰囲気。  さて、実際見てどうだったかというと、やはり ”歌” だった、歌がすごい。あと雪。  話題の「Let It G

『うんこかん字ドリル』をめぐって

 学校で話題になったらしく、娘から『うんこかん字ドリル』を買ってほしいとせがまれた。『うんこかん字ドリル』とは、数カ月前に発売されるや爆発的に売れた「全例文に『うんこ』を使った、まったく新しい漢字ドリル」で、「子どもが夢中になって勉強する!新学習指導要領対応」とのこと。  買わないぞ! だって、あれがうんこのたのしさのすべてだと思い込んでしまったら、子どもがかわいそうじゃないか。最初から「うんこ」と書かれたドリルの、どこにどんな魅力があるというのか。あらかじめ落書きが印刷さ

彼らはついに再び冒険の旅に出た――『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』

 ドラえもん映画を見てワクワクしたのは、いったい何作ぶりだろう。新体制になってからの作品をぜんぶみたわけではないけれど、思い出せるかぎり2006年以降一度たりともこんなことはなかった。もちろん『大魔境』とか『鉄人兵団』とか『日本誕生』とかリメイクものはおもしろいし、かつての名作が現代に生まれ変わるのは嬉しい。でも、なにしろ元が超いいんだからちゃんとつくってりゃそりゃおもしろくなるよ、とつい思ってしまう。せっかく新体制で技術的にもいろいろ向上してる今、オリジナルの物語ですごいや

髪の毛の匂いを嗅ぎ合う歌について娘と話し合ったりした大晦日

 昨年の大晦日はものすごく久しぶりに「紅白」をまともに見た、3分の2くらいまでだけど。なぜか見たかというと、娘(8歳)が星野源が大好きで「星野源が出るまでずっと見る」と言い張ったからで、なぜ3分の2くらいまでかというと、ちょうどその頃に星野源が歌い終わって舞台を去ったから。以下はその際に娘と交わした会話。 娘「いやー2016年の終わりに星野源が見られて本当よかったー」 私「そんなにいいかなあ」 娘「え、何いってんの好きじゃないの?信じられない」 私「いや、君が2歳くらいのと

あれからずっと、デニス・ネドリーの復活を待ち望んでいる

 前回のブログ「全力の『ジュラシックパーク』ごっこ」であげた全4作の名場面のなかで、私の息子がもっとも気に入っているのが1作目『ジュラシックパーク』中盤の「デブのネドリーがディロフォサウルスの毒をくらう場面」。私自身が子どもの頃好きだったシーンでもある。というか私はこのデニス・ネドリーそのものが好きだ。『ジュラシックパーク』について語り始めたからには、彼に触れないわけにはいかないだろう。 ▲ ウェイン・ナイト演じるデニス・ネドリー ◆ 映画を動かすために一番がんばった男

全力の『ジュラシックパーク』ごっこ

◆ 巨匠への愛と敬意と感謝を込めて  さいきん、幼い息子が頻繁に恐竜ごっこ、というか『ジュラシックパーク』シリーズごっこに興じ、周囲を巻き込みたがる。残念ながら彼の母と姉は恐竜に興味がなく、ティラノサウルスの腕の小ささをあざ嗤い「パラサウロロフス」も「コンプソグナトゥス」も覚えられない体たらくなので、どうしても父がごっこ遊びに参加することになってしまう。 ▲ パラサウロロフス(左)とコンプソグナトゥス(右)  思えば私がはじめて自分の意思でレンタルビデオ屋へ行って借りた

こいつのデザインというのは誰が考えたんだ――中島らもと上野動物園

 子どもを連れて動物園に行くのが長年の夢だった。「生まれて初めてゾウを目撃する人間」の表情をじっくり観察するのを楽しみにしていたのだ。  たぶん中島らものエッセイだったと思う。子どもにゾウの存在を教えなかったらどうなるか、みたいな話があった。赤ん坊が生まれたら、とにかくゾウについての情報を遮断する。ゾウのぬいぐるみもゾウのガラガラも禁止、ゾウが出てくる絵本やテレビ番組は見せない、図鑑のゾウの頁を切り抜く、ゾウの歌が聞こえてきたら喚いて音をかき消す、など親が日常的に努力するの

「まずは粉を練るんだ!」とジャムおじさんは言った。

2015年2月  子どもと楽しさを共有できるたくさんの作品のなかで、『アンパンマン』ほどシンプルかつ本気で誠実なものを私はあまり知らない。  頭部が交換可能なアンパンでできたヒーロー、アンパンマン誕生の背景にやなせたかしの従軍経験があるのは有名な話だ。戦場で「正義」という言葉のキナ臭さ と飢え苦しむ人々の実態を思い知った彼は、強い力で敵を倒すだけのヒーローに、そしてそれが「正義」として描かれることに違和感を覚えた。その後 “ 売れない作家 ” として長らく不遇の時代を送る

「君の様子がおかしかったから、後をつけたんだ」とドラえもんは言った。

2015年1月  このところ、子どもといっしょにドラえもん映画をたくさん見ているのだが、新劇場版にはやっぱりいまだに馴染めない。どうしたって1980年代作品がすばらしすぎていちいち比べてしまって、あれらのおかげで世界の不思議に目覚めた少年時代を思い出す。VHSの磁気テープが擦り切れるほど「ドラえもん」を見まくったあの頃。  思い入れが深いだけに、2005年の全面リニューアルにはかなりの衝撃を受けたものだった。ハイビジョン制作への移行、声優陣と製作陣の一新、キャラクターデザ

世界中がいそぎすぎたらどうなるか――『チキチキチキチキ いそいでいそいで』(絵/荒川良二、文/角野栄子)

2015年1月  私が絵本というものにいちばん期待しているのは、「ページをめくった瞬間の爆発的な感動」です。たのしくても悲しくてもやさしくても怖くてもほほえ ましくても悪趣味でも狂ってても静かでも、その感動の種類はなんでもよいのですが、とにかくこのページからあのページへと移動した瞬間にびっくり仰天した い。それは映画とか小説とか漫画とかでびっくり仰天するのとはまた違った、絵本ならではの素敵な体験です。  前回紹介した長新太さんや今回の荒井良二さんの作品はその点、いつもかな

ブレーメンには永遠に辿り着けない――『ブレーメンのおんがくたい』(グリム童話)

2015年1月  グリム童話、『ブレーメンのおんがくたい』。いくつかの版で絵本になっていますが、今回入荷したのは福音館書店刊行、スイス人デザイナーであるハンス・フィッシャー作のものです。 ■ 「物語」との出逢い  私の娘が生まれて初めて出逢った「物語」は、この『ブレーメンのおんがくたい』でした。ほんの4年ほど前、彼 女が2歳の時のこと。子どもたちのためのぬいぐるみミュージカルの舞台を、妻と娘が2人で観に行ったその日、私が仕事から帰ると、娘は極度の興奮状態で歌 い踊

都心の人混みで木浴―― 「東京おもちゃ美術館2014」

2014年10月  先日、東京都四谷の東京おもちゃ美術館で開催された「東京おもちゃまつり2014」に行ってきました。せっかくなのでレポートします。  2008年、東京都・四谷三丁目にオープンした東京おもちゃ美術館。旧四谷第四小学校の校舎を利用した館内は、まるごとぜんぶおもちゃの世界です。 展示品を眺めるだけではなく、実際に触って遊べる美術館として、特に「木育」に力を入れています。世界中のボードゲームが揃った「ゲームの部屋」や、同館 を運営するNPO法人「日本グッド・トイ委

気のとおくなる話――『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン)

2014年9月 ■ 子どもの「なぜ」にどう答えるか  うちの娘の話ですが、「人間はむかしサルだった」ということについて異様に興味を抱いた時期がありました。テレビで見たか誰かに聞いたかしたのでしょう。  何度も「なぜ」「どうして」「なんなの」と迫られ、なんとかうまい説明をと思いがんばったものの、娘は首を傾げるばかり。「おとうちゃんも子どもの 時はおさるだったの?」と顔をしかめられたり、テレビに映るサルを指さして「あのおさるは、つぎは誰になるの?」と真顔で聞かれたりするに至

たのしすぎるレゴ――LEGO

2013年11月  今朝、これらを思いっきり踏んづけました。  レゴです。  踏んづけついでに観察。  無数の部品によって組み上げられた作品を眺めることはあっても、そのなかの一個をじっくり眺める機会はなかなかありません。 ブロック上部の突起を、ほかのブロック下部に配された円筒形の空洞に嵌めることで、複数のブロックを連結する。実にシンプル。かつ無限の可能性を感じさせ る機能。しかも説明不要のわかりやすさ。そしてカラフルでたのしい。  そんなたのしいレゴの発端は、20世