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更新される流行。香椎モイミさん「my crush」

2020年のボカロはR&Bがキてるって本当ですか?!?!(挨拶)


お久しぶりですcanna(なんか)です。
元邦楽リスナー的にかなりビビッとくるボカロ曲が現れたので、3ヶ月ぶりにvocanoteをしたためております。
そのボカロ曲とは、サムネですでにピンときてる方も多いと思いますが(というかまんまタイトル出てますが)


香椎モイミさんの「my crush」です。


もう初めて聴いた瞬間思わず立ち上がりそうになったよね…!モロ'00年代に怒涛の如く流行したコンテンポラリーR&Bなんですもん…
'00年代当時、自称熱心な邦楽フリークだった当方、R&B自体がそこまで好きというわけではなかったんですが時代は'90年代後半のMISIAや宇多田ヒカルあたりの登場に端を発する空前のR&Bブーム。巷で流行の邦楽を聴いていた者なら、誰もが否が応でもR&Bを耳にしていたといっても過言ではないはず。
や、それほどではなかったっていうか、ぶっちゃけ当時は飽き飽きしてたくらいですけど…めちゃくちゃ流行ってましたから…
それでもかつて没頭していたものから遠ざかってしばらくの時が経つと、当時多少なり飽和してたものであっても一周回ってまたそれらを求めたくなってしまうものなんですね…というより、時間を置いて聴いてみると良いものだったんだなという再評価ができるというか…


脱線しました。著者の懐古談ばっかしててはしょうがありません。
感覚的には2020年に入った辺りから、R&Bベースのボカロ曲を度々目にするようになり、身近なリスナーさん回りでもR&Bというワードをちょくちょく見かけるようになった感があります。
そんな中、同時に見るようになったのが「R&Bって何?」という疑問。
字面通りの意味ではもちろんありません。「R&Bというジャンルの定義って何?」という意味です。

言われてみればR&Bってなんなんでしょう?()こんだけR&Bブームがどうとか知ったようなこと言ってる自分も明確な定義を訊かれたら答えられません。
まして、本作品がそんな定義の曖昧なジャンルのブーム全盛期を彷彿とさせる、などと根拠もなしに言われても「?」となる方が大半だと思います。
生半可な見聞で記事を書くなと言われたら閉口するしかないんですけども、当時邦楽を、流行りのR&Bを聴いていた人ならきっと同じような共感が、当時を知らない人でもそれはそれで最近のトレンドには見られない新鮮な感動があるはず!という思いから、今回はこちらの楽曲をフォーカスさせていただいた次第です。


で、結局どういうところが"それっぽい"のよ?という点について、個人的に感じたポイントをいくつか。
※筆者の主観によるものです。異議・異論謹んで申し受けます

①抑揚の少ないメロディライン

歌い出しの「白く光ってるiphone」の音程にご注目ください。

しろくひかって(E)る(D)i(E)phone(F#)

何より特筆すべきと思う点はこちら。この曲、メロディラインのほとんどがこの3音の往復で事足りてしまいます。なんという省エネ展開か…。
当時のR&Bって、こういうメロ多かった気がするんだよな~~~
一般に抑揚が激しくて、性急であるのが売りとされることの多いボカロにおいては、真逆を行く進行ですよね。
そりゃカラオケでも歌われて、A○AYANでもオーディション出場者が続出するわけですよ…(身も蓋もない)
さらに、

②随所に見られる韻踏みと、早口になる歌詞

「白く光ってるiphone」「夜の終わりを告げてて葛藤
「You're my sweet darling.」「ふざけてcalling」「笑い合うweekend night」

に代表される韻踏み。スタイリッシュさをつきつめるなら、韻踏みって必ずしもなくてよいものなんじゃないかなと思うんですが、それでも入れてしまう臆面のなさ。これこそがザ・ジャパニーズR&Bって感じします。
…すみませんこれは蛇足と言いたいんじゃないですよ。この辺の言葉遊びも当時のR&Bを喚起させるもの。ここいらは、ちょうど同時期に流行していたヒップホップとの関連性も少なからずあるような気がします。
それから絶対に見逃せないのが、Bメロの「いつまで経ってもbeating」のフレーズ。
急に早口になりますよね。この詰め込みリリック、まさしくR&Bの伝統芸。明確に寄せてきてるなという、作者のしたたかな意図を感じます。

③半音で上がり下がりする旋律

「愛 愛 愛を語って を徘 徘 徘徊してい

ここの太字部分にあたる半音の上がり下がり、大事です。
サビ終わりの「Baby, baby, I have a crush on you」の部分も同様。いわゆる「こぶし」ってやつですかね!その後に続く「Oh, yeah」まで込みで、"R&Bらしさ"がグッと凝縮されたナイスフレーズです。

④手数が多く、不規則に刻まれるキック音
明らかに回数が多く、常時トコトコ言ってるキック音もいかにも"らしい"。
比較的ゆったりめであることの多い曲調に対して、アクセント的に用いられる奏法という印象です。

⑤男女の恋愛観を歌った歌詞
これ、一見取り沙汰するまでもないように見えて、意外と重要要素だと思ってます。
なにせ'00年代当時の邦楽、ラブソングがほとんどでしたから。
反面、ことボカロにおいてこういう歌詞観、あんまりなくないですか?いやもちろん、ないなんてことはありませんけども。恋愛というより、男女関係って言った方がいいのか?ボカロでよくある恋愛曲って、なんかもうちょっと対象年齢低めというか…過度にドロついた倦怠感まで踏み込んでしまったら、それは"ボカロ曲"という価値とは少し逸れたところにいってしまうというか…(?)「バーチャルアイドルに歌わせる」という固有のフィルターが、どこか作用しているというか…
なので、こんな風に赤裸々に恋愛をテーマにした曲って、一回りして新鮮に聴こえるような。


とまぁ、ここまでとりとめもない主観を垂れ流しましたがその信憑性はどうあれ、一世を風靡したR&Bの特徴をバシッと抑えた幕の内的な1曲だというのは断言しておきたいところ。
ただし過去のトレンドに寄せるばかりでなく、例えば動画内の歌詞表示がLINEのトーク風だったり、歌わせ方に最近流行りの(?)「つぁ行」読み(「た→つぁ」と発音)を導入していたりと、今のトレンドもしっかり反映させているので古臭いということはありません。
ボカロにR&Bブームが訪れてきたなどとにわかに囁かれつつある昨今にひとつ、ひときわ異彩を放つ印象的な作品でございました。



※サムネイルは紹介曲「my crush / 香椎モイミ feat. 初音ミク」より拝借しました。問題あればご指摘ください。

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