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『コンテンポラリージュエリー』ジュエリー表現のマーケットについて ♯1

今回は現在のコンテンポラリージュエリー(以下CJ)分野のマーケットについて紹介します。まだまだ駆け出しの身ですが、CJのマーケット内で活動し始めるようになった個人の経験とリサーチ、また現在の問題点なども含めた内容になっています。


どうやってジュエリーアーティスト達は生計を立てているのか

私たちアーティストは基本的にCJ専門のギャラリーに作品を取扱ってもらうことで展示発表、流通、収入を得ています。専門のギャラリーは60年代頃から南ドイツ、オランダで誕生し、その後、主にヨーロッパ各国を中心に、アメリカ、オーストラリア、アジアなど世界中に広がっていきました。以下が現在CJ作品を取り扱っているジュエリー専門、もしくは応用美術専門のギャラリーです。※これが全てではありません。

イタリア:GALLERIA ANTONELLA VILLANOVA、Ohmyblue
オーストリア:Galerie Slavik
オランダ:GALERIE ROB KOUDIJS、GALERIE MARZEE、GALERIE DOOR
スイス:Friends of Carlotta、galerie viceversa、GALLERY S O
スウェーデン:PLATINA、FOUR
スペイン:Hannah Gallery
ドイツ:GALERIE BIRÓ、GALERIE SPEKTRUM、Galerie Rosemarie Jäger、OONA Galerie
ベルギー:GALERIE BEYOND
ポーランド:Gallery of Art in Legnica
ポルトガル:GALERIA TEREZA SEABRA、GALERIA REVERSO。
アメリカ:ORNAMENTUM GALLERY、GALLERY LOUPE、JEWELERS’WERK GALERIE、SIENNA PATTI
カナダ:GALERIE NOEL GUYOMARC'H
ブラジル:Alice Floriano Gallery
オーストラリア:GALLERY FUNAKI、TempContemp、Bilk Gallery
ニュージーランド:The National
タイ:ATTA Gallery
中国:FROOTS & Nogart。
日本:gallery deux poissons、GALLERY C.A.J

何故ギャラリーと一緒に仕事をするのか

殆どのジュエリーアーティストは、自分のショップを持つような販売方法は取っておらず、主に現代アートのアーティストたちと同じように専門のギャラストと一緒に仕事をしています。お互いのリスペクトと信頼関係で成り立っており、言うなれば運命共同体です。ではアーティストにとってどのようなメリットがあるのか、いくつかの重要な理由を挙げてみたいと思います。

1:コレクターの育成とコネクション

CJ分野にもコレクターと呼ばれる人たちが存在します。彼/彼女たちは“着用目的”or“鑑賞目的”or“アーティスト支援”など購入動機は様々ですが、その多くの人たちがギャラリストからの紹介や説明をきっかけとしてCJ作品のコレクションを始めています。CJのみを収集したり、アートや家具などと合わせてコレクションしていたりと、多種多様なコレクターが海外にはたくさんいます(もちろん国内にも少人数ですがCJコレクターがいます)。このコレクターたちに対し、アーティスト個人がいきなり高額作品を販売したり、信頼関係を築くことはなかなか難しいと思いますが、ギャラリー/ギャラリストを通すことによってその問題は解決されます。また、コレクターも国や地域で特色が異なり、コンセプチュアルな作品が好まれる場所や着用性もしくは素材にこだわる地域など様々です。なので、その地域性や文化に詳しい現地のギャラリストに作品を委ねる必要性があるのではないでしょうか。ギャラリストは作品のみでは伝わらないアーティストの人間性や制作背景なども含めたプレゼンを顧客に向けて発信し、新しくアーティストのファンになってくれる人を見つけてくれるかもしれません。
他にも、ギャラリーでの取り扱いが作品評価の一定基準にもなっており、作品の価値(値段など)を決める一つの要素になっていることも事実です。どこで作品を見せるか、誰が作品を紹介するかによって同じ作品でも周りの見る目はあきらかに変わってきます。(作品を取り巻く付加価値の一部として)

2:アートフェアへの参加

現在の現代アートを中心としたアートマーケットにおいて、アートフェアの存在はとても重要です。アーティストが「どのギャラリーで見せるか」によって評価が変わるように、ギャラリーも「どのフェアに出展するか」によってギャラリーの格が変わってきます。特にプライマリー・マーケット(作品を販売する一次市場/ギャラリーでの販売)しかないCJ分野では、アートフェアが近年、最重要のマーケットとして機能していることは間違いありません。また、CJギャラリーに注視すると、普段ではギャラリーに足を運ばないアートコレクターに対し、新しくジュエリーアーティストが作る作品へ興味を持ってもらうための貴重な機会であることも事実です。
CJを取扱うギャラリーが参加できるフェアで特に有名なのは、世界トップクラスのアートフェアであるアートバーゼルと隣接開催されるデザインマイアミデザインマイアミバーゼルです。認知度や集客率、売上総額にしても、一番重要なフェアではないでしょうか。前文で紹介したギャラリーの中でも現在ここに参加できているのは、アメリカのORNAMENTUM GALLERYとイタリアのGALLERIA ANTONELLA VILLANOVAの2つしかありません(これらのギャラリーもコロナ禍で次回からの出展に対して影響があるかも)。また他にもオランダのGALERIE ROB KOUDIJS、オーストラリアのGALLERY FUNAKI、日本のgallery deux poissonsなどのいくつかのギャラリーでは自国で開催されるアートフェアなどに積極的に参加していますが、残念ながらアートフェアに出展しているCJのギャラリーは少数です。個人のアーティストがアートフェアに参加することは難しく、この点においてはギャラリーの力に頼るしかありません。現在はギャラリーをチェックする際に“アートフェアに参加しているかどうか”が重要な時代になったと思います。特に最近では、アートバーゼルと同じように世界的に影響力のあるTEFAF(The European Fine Art Fair)/TEFAF New Yorkへの参加を目指しているCJギャラリーが多数あり、個人的にはどのギャラリーが出展し始めるのか注目しています。

3:美術館とのコネクション

アーティストなら誰しもが「美術館に自分の作品を収蔵してもらいたい!」と思っているはず。アーティスト個人では直接的に美術館側(キュレーターなど)とコレクション目的で繋がるのはとても困難ですが、経験豊富な海外のギャラリストたちは美術館とのコネクションを持っています。著名な美術館のキュレーターたちはギャラリーで開催される展示に訪れることも普通で、その際に作品を購入/コレクションする可能性を得ています。実際にギャラリストとの信頼関係やプレゼンのお陰で、美術館収蔵に決まったと言う話をよく耳にしました。個人的にCJ分野が他のアート分野よりも魅力的だと考えている点の一つが、CJ作品は“美術館にコレクションされやすい分野”だと思っています。歴史が短く、文脈化するためにも現役で活動しているアーティストの作品を収集している、または予算内で作品が購入可能、という理由があるのかもしれません。特にアメリカ、オーストラリア、オランダ、ドイツなどの美術館では積極的にジュエリーアーティストの作品が毎年コレクションされており、20代30代の若手アーティストもその中に含まれています。美術館に収蔵されているアーティストの作品が手に入りやすいと知ったら、周囲の目も少し変わってくるかもしれません。

4:その他

ごく一部ですが現代アートをメインに取り扱うギャラリーなどでもジュエリーアーティストの作品を展示しています。上記で紹介したイタリアのGALLERIA ANTONELLA VILLANOVAも現代アートギャラリーとデザインショップを系列に持つ、幅広い展開をしているギャラリーの一つですが、私の住むドイツでは、Galerie Zink Waldkirchenという現代アートのギャラリーが二人のジュエリーアーティストを取扱っています。奈良美智さんがドイツ在住時に一緒に仕事をしていたという有名なアートギャラリーで、引っ越しを繰り返して現在はバイエルン地方の田舎町に拠点があります。ギャラリストはアーティストの表現活動として作品とアーティストを評価し、アートコレクターに対して“ジュエリーという機能を持ったアーティストが制作する作品”として紹介していました。これらは世界的に見ても珍しいケースかもしれませんが、影響力のあるアートギャラリーでもジュエリーアーティストたちがもっと紹介されるようになれば、CJ分野が注目、盛り上がっていくのではないでしょうか。


現状の問題点

CJ分野の問題点は“価格帯の停滞”にあると思っています。一般的な宝飾業界というメインカルチャーに対し、カウンターカルチャーとして従来の制作基準や素材価値の破壊を謳っておきながら、実際のところはゴールドやプラチナ、宝石の資産価値を超えることは出来ていません(当時CJが始まったムーブメントをカウンターカルチャーとして分類しているのは私個人の考えであって、大々的にCJがカウンターカルチャーとして認知されているわけではありません)。これは世界的な問題ですが、結局のところジュエリーの枠から抜け出せていないのです。現在のCJ分野で高額な作品といえば数百万円が限界ですが、これらには必ずと言っていいほどゴールドやダイヤモンドなどの高価な素材が使用されています。そうでなければリングやペンダントは数万〜十数万円、ブローチは数万〜二、三十万円、手の込んだ大振りなネックレスでも数十万〜百万円くらいです。このようなジュエリー機能としての“アイテム”が明確な作品は、大体の相場が出来上がっており、言うなれば一般的な絵画の“号数いくら”という価格決定の基準に近いと思います。そして、この価格帯に対して危機感や不満を持っているアーティストが少ないのではないかと私は危惧しています。著名なアーティストが作ったアート作品やサイズの大きい宝石ジュエリーなどは数億円以上で取引をされることがあり、(ここまで値段を上げろとは言いませんが)CJを作るアーティストも他分野と同じように長い時間を費やして熟考し、トライ&エラーを繰り返しながらベストな作品の完成を目指して活動しています。ですが残念ながらCJ分野ではそこまので価格はついていません。それは何故か。それは単純に“需要が少ない”ということです。
CJ作品の価格帯が上昇しない原因の一つに、“プライマリー・マーケットでしか流通していない”ということが挙げられると思います。現代アート作品の価格上昇を参考にすると、アーティストが制作する作品数よりも購入希望者の方が多ければ需要過多となり、「セカンダリー・マーケット(流通市場/作品の転売)」が生まれます。セカンダリー・マーケットでは専門のギャラリーやアートディーラー、オークション会社などで作品が取り扱われており、プライマリー・プライスよりも高額な値段で取引されることが多いです。よく聞く話では、プライマリーとセカンダリーの値段に大きな差が出てしまい、作品の値段が本来の評価価値(アーティストとギャラリーとの間)よりもかけ離れてしまうといった例もあるみたいですが、CJ作品はそこまで到達していません。まずはこの分野、作品、アーティストが面白い!と興味を持ってくれるように情報発信を継続し、セカンダリー・マーケットが成り立つような需要増加を目指すことが、今後の課題だと私は認識しています。値段の高いものが全て優れているというわけではありませんが、分野が注目される一つの評価基準として作品の値段は重要ではないでしょうか。


ジュエリーアーティスト紹介プロジェクト継続中https://www.instagram.com/c_jewellerysymposium_t/



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