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バイデン氏が米国大統領になった場合の市場へのインパクト(後編)

バイデン氏が大統領になった場合の市場へのインパクトであるが、その前にバイデン氏の政策を確認しておこう。
・法人税の28%への引き上げ
・富裕層への増税
・最低賃金の15㌦への引き上げ
・学生ローンの一部免除
・高齢者向け医療保険制度の受給資格年齢引き下げ
・労働者への投資
・マンハッタンとニュージーランドを結ぶハドソン川のトンネル改修計画
・移民政策緩和、銃規制強化
・クリーン・エネルギー革命(10年で1.7兆ドル)
・イラン核合意復帰
・パリ協定への即日復帰
・国際的な貿易ルールに基づく自由貿易促進
・同盟国との協調姿勢強化
・TPP参加再検討
・タックスヘイブンの優遇措置削減、化石燃料への補助金撤廃

ざっくり俯瞰すると、伝統的な民主党な路線に、少し左寄りの政策が加わったものだ。
しかし、これらは民主党予備選でサンダース氏の勢いが強い中で、バイデン氏も左寄りの政策を取り入れざるを得なかった経緯がある。どこまでバイデン氏が本気であるかは、副大統領候補に誰を指名するかである程度見えてくるはずだ。例えば、エリザベス・ウオーレン女史を指名するようなら、本気であるということだが、中道のカマラ・ハリス女史なら、政策を柔軟化する余地は十分あるということである。7月中には副大統領候補が指名されるだろう。カマラ・ハリス氏等の中道派が指名されると、いったん短期的に市場はリスクオンで反応するだろう。

さて、バイデン氏が大統領になった場合の市場インパクトであるが、結論から言えば、私は結果的には株式市場には相応の下押し圧力が増すことは避けられないと考える。
その理由は主に5点。一つはバイデン氏の政策は、企業にとってコスト増加に繋がることが多いことである。最低賃金の引き上げ、労働者待遇の改善、訓練や教育の強化、法人税の引き上げだけでなく、民主党のバイデン大統領の下では、様々な規制も増加すると予想され、何かと企業には負担になるだろう。コロナショックで企業収益が圧迫されるなか、こうした政策による企業収益へのネガティブな影響に、市場は神経質になると思われる。
2つ目は、インフラ投資は実現できないことだ。インフラ投資と環境破壊はトレードオフの関係性が高い。民主党においては、特に今の世界の環境への配慮のムードの中では、トンネル一つ作るにも、何年もの環境調査等を行い、結局は実現しないという結末になるだろう。
3つ目は対中関係がトランプ政権の時よりも激しくなる可能性がある点だ。トランプ大統領は理念ではなく実利の人間であり、ディールを重んじた。中国という巨大なマーケットを無視できず、中国に関税は課すがディカップリングさせるようなことはしなかった。しかし、バイデン大統領のもとでは、中国が妥協不可能な人権問題等の内政問題に介入するだろう。バイデン氏は同盟国と協調して中国に対抗するとしている。それは正しい戦略であると思うが、中国がここまで巨大になると、中国共産党政府に方針転換を迫ることは困難であり、その結果として中国を西側諸国と切り離すという戦略に向かってしまう可能性がトランプ政権よりも高まる。何しろ、議会が中国への強硬姿勢を転換する気配は全くない。理念の民主党政権が、暴走してしまう懸念があるのだ。そして、そのことは、アジアの国である日本にはかなり厳しい選択となる。踏み絵を迫られるということだ。
そして4点目は、バイデン氏の魅力は同盟国との協力関係を重視していくというものだが、米国がそれを望んでも現実問題として、各国と良い関係が構築できるかは疑問だということだ。何故なら世界的な潮流として、各国は帝国主義化、自国ファーストに流れているからだ。世界は、すっかり変化してしまっている。利害が一致しなければ、欧州各国でさえ、米国の言うことを聞かない可能性が高い。
5点目は、コロナショックの副作用である。FRBは引き続き強力な金融緩和で経済をサポートするだろう。しかし、政府の財政政策はいかに民主党政権であっても無制限に出せるわけではない。今年、これだけの財政政策を使用してしまった。次の政権は財政の制約を相応に受けるだろう。
最後に、バイデン氏が世界のタフな指導者と比べると、見劣りする点は不安材料として挙げておきたい。あのバイデン氏がプーチンや、習近平に対抗できるだろうか?トランプ大統領は、何をするか予測不能という怖さがあった。バイデン氏は初期の痴呆症が疑われるほど、失言が多い政治家だ。思慮深くないということだ。
米国大統領選挙まで残り4ヶ月、まだまだドラマがあるだろう。フェイクニュースやスキャンダルも飛び交うだろう。株式市場への影響なんて小さな話では済まない。今後の世界や社会の方向性に関わる重大イベントなのだ。様々な観点から注意深く見守っていくしかないだろう。

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