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来週の相場見通し(5/3~5/7)

 新型コロナウイルスの感染状況であるが、インドでは連日30万人超の感染となり、累計の感染者は1700万人を越え、死者も20万人を超えた。インドは今年の前半には、コロナを抑制していた。しかし、4月前半に12年に1度のヒンズー教の最大行事の一つである「クンブメーラ」の巡礼行事があり、これに数百万人が参加して一気に感染が拡大したと指摘されている。何とも皮肉と思われるのは、信仰者はこの巡礼においてガンジス河で沐浴すれば、コロナ感染からも守られると信じていたようだ。結果として、その行為が感染を爆発させてしまった。但し、死者数に関しては、やや注意が必要だ。静岡県立大学の塩崎教授によれば、インドは平時でも国内の死者数は把握できていないそうだ。そもそも人口も把握できていない。政府の人口把握率は84%程度とのことだが、インドの人口は13億5千万人を超えることから、把握できていない16%でも日本の総人口を超えてしまう。また、インド政府は通常時の死者数も分からないし、死者の内で死因が特定されているのは8%程度とのことだ。コロナになったから、とりあえず死者をカウントしているだけなので、本当にコロナによる死か、あるいはそれ以外の要因による死なのかは、実は分かっていないようだ。さて、インドの経済については、昨年の4-6月が▲24.4%、7-9月が▲7.3%、10-12月は+0.4%と順調に回復してきた。しかしながら、インドは輸出依存の低い内需主導の国なので、足元のコロナ感染拡大とロックダウン、更には医療崩壊という事態は、同国にとっては厳しいだろう。ちなみに、インドのワクチン接種率は8-10%程度だ。

 こうした中、日本では緊急事態宣言に伴う自粛要請が4/25から5/11という期間で始まっている。日本の1日当たりの感染者は5千人程度だ。世界から眺めると、なぜ、これほど感染が抑制された国で「非常事態宣言」が出されているのか驚くだろう。日本では感染は今のところ抑制されている。しかし、変異株も確認されるなかで、まだワクチン接種が全然進んでいないため、一気に状況が悪化する可能性がある。非常事態というよりは、「非常事態になるかも宣言」なのだ。ちなみに、米国は、今般ワクチンの接種が終わった人は、マスクの着用をしなくていいなどと緩和措置を打ち出したが、米国は今でもまだ1日5万人弱の人が感染している。また昨今、発表されたブルムバーグのコロナ安全国ランキング(コロナ耐性ランキング)では、日本は7位だった。トップ5は、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、イスラエル、台湾である。米国は17位、英国は18位だった。よく市況で「日本におけるコロナ感染拡大により、日経平均株価は下落」とか言われるが、あれは嘘だ。世界から見れば、日本は新型コロナの成功国のひとつである。日本政府のワクチン政策への失望感から、株価が下落なら否定は難しい。何故なら、「一事が万事」であり、こんなワクチン対応のお粗末さでは、今後の菅政権が進めたいデジタル庁を中心とする生産性改革も成功する雰囲気がしないからだ。

 さて、米国に目を向けよう。バイデン政権の100日の評価がされている。ABCニュースの調査結果が興味深い内容だったので、まずは紹介したい。バイデン大統領の100日を支持する人は52%で、不支持の42%を上回った。しかし、トルーマン大統領からバイデン大統領までの14人の大統領の最初の100日の平均支持は66%であり、バイデン大統領は大きく下回る結果だった。バイデン大統領より評価が低かった大統領は2人しかない。1人はフォード大統領で48%、もう一人はトランプ大統領で42%である。また、コロナ対応は7割弱が評価しているほか、法人税引上げ等も58%が支持している。最も評価が低い項目は、メキシコとの国境における移民問題であり、これが37%だった。ということは、次の大統領選挙でも移民問題は大きな議題となりそうだ。ちなみに、バイデン大統領は、この移民問題の対応にカマラ・ハリス副大統領を責任者に命じた。カマラ・ハリス氏にとっては、かなり重い問題を背負った。将来の米国大統領になるための、大きな試練だと思われる。100日の評価に戻ろう。共和党支持者によるバイデン支持は僅かに13%だった。トランプ大統領の最初の100日における民主党支持者内のトランプ支持も、偶然だが13%だった、すなわち、米国の分断はまるで改善されていないということだ。私のイメージとしては、米国民は意外とバイデン大統領に厳しいなーというものだ。バイデン政権は、巨額の追加景気対策を成立させ、国民に小切手を配った。ワクチンも最初の100日で2億回と約束を果たした。株価も史上最高値を更新している。それでも、意外に支持は伸びていないのだ。極端に会見が少なく、露出がないことが原因だろうか。

 バイデン大統領は4/28(現地時間)に、上下両院合同会議で初の施政方針演説を行った。昔の予算教書演説に該当するもので、議会に対して政権で実現したい政策をと方向性を示すものだ。米国では、議会に予算編成権があり、行政府には法案提出権がないため、議会が歳入、歳出に関する予算関連法案を独自に作成して審議する。したがって、通常予算教書は議会に対する大統領の提案にとどまり、何ら拘束性を有していないものの、議会は大統領の意向を尊重して予算を作成するため、この施政方針演説は注目されるのだ。私の演説の印象は以下のものである。

① 長時間の演説をバイデン大統領は、しっかりとやり遂げた。(痴呆症懸念や、高齢による弱弱しさはなかった)

② Jobs(職業)を40回以上も言及するなど、雇用重視を明確にした。また最低賃金15ドル以上の必要性も改めて強調。(左派は大喜び)

③ 中国を競争相手と位置付け、安全保障、先端技術分野面で勝利することを宣言した。特にDARPA(国防高等研究計画局)まで取り上げて、米国のハイテク技術を推し進めることを主張したのが印象的だった。また中国では、習近平国家主席の個人名に何度か言及、これも印象的。

④ 中間層重視を明確にした。「ウオール街にもいい奴らはいるが、この国を造ったのは中間層だ」と決めると、会場はスタンディングオベーション。

⑤ 米国の置かれている状況がこれまでと異なることをアピール。それゆえに、戦後最大のインフラ投資政策が必要であることを強調。そのための富裕層や企業への増税に理解を求めた。(左派は大喜び)

 バイデン大統領の演説への評価は様々だろうが、やはり米国の政治家は演説が上手だ。どの大統領でも、しっかりとスピーチができる。この能力は尊敬する。「伝える力」があるのだ。そして、この演説中に米国株の先物は終始上昇していたので、金融市場もバイデン大統領の施策と方向性をそれなりに評価したと言える。アメリカン・ファミリー・プランは、事前の報道通りで、サプライズはなく、次のようなものだ。

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 FOMCでは、パウエル議長はテーパリングの議論は時期尚早として一蹴し、ぶれない姿勢を示している。市場ではFRBがそう遠くない将来にテーパリング議論を開始するとの思惑が強い。私もそう思う。テーパリングの議論の開始は始まるだろう。但し、同時にテーパリングの開始時までには、十分に時間を取りながら、随時アナウンスして市場を驚かせないように配慮するだろう。そもそもテーパリングは、株式市場には怖くない。怖いのは、テーパリングについて、市場とのコミュニケーションを失敗する場合だ。それが2013年のバーナンキショックだ。これは、市場がまだ全くテーパリングを織り込んでいない無防備な状態のときに、バーナンキFRB議長が唐突にテーパリングに言及したことで、米長期金利が急上昇し、それを嫌気して株価が一時急落した。この経験をFRBは学習しているため、同じミスを犯すことはあり得ない。また、2014年のFRBのテーパリングを振り返るなら、2014年1月にテーパリングが開始されたときのFRBのバランスシートは4兆ドル程度だった。当時、月額850億ドル購入していた債券購入を毎月100億ドル減額し、2014年10月に完了した。しかし、FRBはそれまで購入した債券を売却するわけでもなく、償還分はしばらくは再投資をするため、FRBのバランスシートが4兆ドルを割り込んだのは、2019年1月であり、なんと5年の時間を要している。金融政策において、金利を「質」として、FRBのバランスシートを「量」とするなら、テーパリングが開始されても、質も量も何ら変化しない。すなわち超金融緩和状態が継続するということだ。そして、FRBが数年以内に実際に利上げを開始したとしても、その際には金利の「質」の部分は変化する。しかし、その時でさえもFRBのバランスシートは8兆ドルを超える巨額の状態で残っているだろう。すなわち「量」は変化しない。金融政策が本当に引き締め状態に向かうのは、「質」と「量」がどちらも変化していくときであろうが、それはかなり先のことである。それどころか、過去の教訓として、そうこうしているうちに、国際金融市場には次の何らかのショックが発生する。すると、FRBはまた金融緩和政策にシフトするため、結局FRBのバランスシートは右肩上がりで膨れる。こういう事態になっても私は驚かない。重要なポイントは、テーパリングは株式市場にとって脅威ではないし、そもそも「金融引き締めでさえない」ということだ。

 さて、日本では4/25に北海道の衆院補欠選挙、長野と広島で参院選挙が行われた。菅総理にとっての初の国政選挙で注目されたが、結果は自民党の全敗となった。もっとも北海道は不戦敗、長野は立憲民主党の羽田元国土交通相の急逝に伴う選挙であり、自民党が勝てる見込はなかったので、注目は広島だけだった。広島も河井安里のスキャンダルに伴うものであり、自民党は不利であったが、広島は自民王国であるほか、岸田元外務省が現地で精力的な選挙応援をしていたことから、その行方が注目された。広島での自公での基礎票は50万票とも指摘される中、自民党候補者は33万7千票しか取れなかった。勝利した宮口氏も37万票である。これだけ投票率が低いのに、自民党は勝てなかった。これは、かなり痛い結果だ。この自民党惨敗で、もっともダメージを受けたのは、岸田氏であろう。同氏の総理の芽は完全に消失したと言える。次にダメージを受けたのは、やはり菅総理だ。単にこの国政選挙だけなら傷は小さいが、菅総理は山形県や千葉の知事選挙などの地方選挙も負けており、今回と併せて「選挙に弱い」というイメージが確定した。安倍前総理が史上最長政権を築けたのは、なんだかんだ言って選挙に強かったからだ。選挙に弱い政治家は、力を持たない。また、今回は立憲民主党と共和党が共闘した選挙であった。結果が出たことから、衆院選挙でも共和党との共闘は基本路線となるだろう。マーケットの観点で、日本の政治を見るなら、菅総理が退陣しても、改革派で実行力があると期待される河野氏がいるため、特段の動揺はしないと思われる。しかし、選挙が行われるまでに、河野大臣が、ワクチン対策で失敗し、国民の怒りを買うような事態になれば、菅総理の後釜はいなくなる。こうなると改革路線の頓挫から、日本株は厳しい展開も予想される。一部では安倍前総理が再登板みたいな話もあるが、どうだろうか。ちなみに、バイデン政権の100日が話題であったが、菅総理も就任200日である。菅総理においては、かなり厳しい200日となっている。いずれにしても、衆院の任期が10/21、菅総理の自民党総裁任期が9/30までの中、菅総理が自分の任期中に解散総選挙をやると言っている以上、恐らくは9月末までには選挙は行われるのだろう。

 さて、ここまでの決算を確認しておこう。日米ともに、足元の業績の改善は織り込み済みのため、先行きのガイダンスが弱いと、決算後に株価が大きく下落する展開が目立っている。この流れは安川電機から始まった。その後も好業績が発表されても、株価が急落する展開が目立っている。但し、このところ決算発表後に急落するも、翌日には切り返して上昇するような銘柄も出始めている。ファナックも決算発表日には大きく下落したものの、翌日には下落分を全て取り戻して、更に上昇した。また、日本株の上値の重さは目立つものの、米国株がかなりしっかりしているため、大きくは下落しない。そして、下がらないと株価は「何らかの良い材料」を探して、上昇するものだあ。良い材料としては、やはり日本のゴールデンウイーク以降の決算ラッシュではないだろうか。5/10の週は、なんと一気に2,081社の決算が公表される。これだけ大量に出てくると、マーケットで底固めが行われているムードなら、「やはり業績はしっかりしているね。日本企業のガイダンスが慎重なのはいつものことだし、そのうち上方修正するでしょ」と良いとこどりになると思われる。また、銅価格が2011年以来となる1万ドル超えとなるなど、再び「リフレ・トレード再開」の雰囲気も出てきていることも株式市場をサポートする。来週はGWで6日と7日しか「場」がないので、株価予想は難しいが、基本的にはGW明け後からは、日本株の「出遅れ感取り戻し相場」が形成されていくと予想している。

 最後に5/6の英国での地方選挙は注目だ。この日は各地で議会選や首長選が行われるが、何と言ってもスコットランド自治議会選が最大の注目を集めている。何故なら国民党を率いるニコラ・スタージョン党首は、議会選に勝利したら、英国からの独立を問う住民投票を開催すると宣言しているからだ。このニコラ・スタージョン党首は、スコットランドでは強烈な人気がある。2014年に副党首から党首に昇格し、2015年に党首として初の総選挙で国民党は下院の59選挙区中、56選挙区を制した。それから紆余曲折はあるものの、19年の総選挙では48議席を獲得している。今回のコロナ蔓延でも、英国が相当に混乱したのとは対照的に、早めのロックダウンで被害を最小限に抑えこみ、その手腕は高く評価されている。英国はスコットランドの住民投票を認めない方針だが、その阻止は難しいだろう。英国はようやくBREXITのごたごたから抜け出たところだが、スコットランド独立となると、今度は「英国解体」というより難しい問題を抱えることになる。そういう意味でも、この5/6の選挙は重要なので、注目しておきたい。


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